【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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9.待ち構えていた獲物を捕まえた

「結婚式の後一週間休んだのに、立て続けに休むのはダメだって言いやがるんだぜ? 給料も安くて生意気なガキ相手のクソ仕事なんかやってらんねえよ⋯⋯なあ、そろそろオヤジさんの顧問弁護士んとこで俺を雇うように話をつけてくれないか? 身内なら隠したい事とか話しやすいからさあ、少し慣らしてから商会の顧問を俺が引き継いだら今よりもっと上手くいくだろ?⋯⋯まあ、別のとこでも俺は構わねえし」

 賭けの日の前後に休みが取れなかったステファンは毎日のように愚痴をこぼしていた。

「面接の前に大学での成績を証明するものが必要だって、この間も話しましたよね」

「だーかーらー、身内特典? 家族なんだからそんなの必要ないだろ?」

「弁護士事務所は家族じゃないですから」

「⋯⋯なら、弁護士事務所ごと買っちまえよ。うん、それが良い。貴族の俺が代表になって仕切ってやるから直ぐに話してこいよ」

 勝手に話を打ち切って鼻歌混じりに夕食の席を立ったステファンに請求書を手渡すと『ふん』っと鼻で笑ってポケットに捩じ込んで今夜も颯爽と出かけて行った。

「単位も学位もお金で買った人に弁護士事務所を? ないわー、絶対有り得ない。お金で不正を揉み消して、裁判になったらボロ負けする未来しか見えないもん」



 その翌日、屋敷で仕事をしていたメリッサの元に待ちかねていた獲物がようやく飛び込んできた。

「メリッサ! あなた、何を考えてるの!?」

 玄関のドアが開いた途端飛び込んできたイライザがメリッサに扇子を突きつけた。

「平民のくせに偉そうに⋯⋯メイドだって一回しか寄越さないじゃない!」

「おはようございますお義母様。メイドに関しては無給で働くのは嫌だと誰も仕事を受けてくれませんの。それ以外は⋯⋯うーん、何かありました?」

「給金なんてあなたが払えば良いでしょう!?」

 イライザにこき使われた翌日やってきたメイドを一日中働かせた挙句、給金を払わず追い出したイライザの所にはその後誰も行かせていない。

「確かにあの日の日当は私がおきました。肩や足まで揉まされたとか、食事もなかったとかって言ってたので少し多めに払わなくちゃいけなくて⋯⋯協会から人を寄越してもらえなくなったら大変ですから、ホント慌てました」

 呑気にニヘラッと笑ったメリッサは青筋を立てているイライザの様子を気にも留めず後ろをチラチラと気にしながら溜息をついた。

「お相手して差し上げたいのは山々なんですけど今大事な仕事中で⋯⋯」

「私の相手より仕事が大切だなんて図々しい⋯⋯これだから平民は嫌なのよ! メイドの事もだけど今日はもっと大切な話があってきたの! ステファンの仕事の事よ、断ったってどう言う事?」

「断ったわけではなくてですね⋯⋯応接室に行きましょう。お茶でも飲みながらご説明しますね」

 メイドにお茶の準備を頼んでイライザを応接室に案内した後も、メリッサはチラチラと入口の方を気にしながら話をはじめた。

「えーっとですね、(チラ)弁護士事務所から成績の分かるものを提示するよう言われてるだけなんです。(チラ)ステファンがそれを拒んでて話が進まないと言うか(チラ)」

「一々ドアの方を見るのはやめなさい! イライラするわ」

 パシンと扇子でテーブルを叩いたイライザが目を吊り上げた。

「あ、申し訳ありません。お客様から大切なお品をお預かりしているものですから、つい気になってしまって⋯⋯金庫に鍵をかけたとは思うんですが⋯⋯一粒でもなくなって⋯⋯あ、何でもないです。ステファンの仕事はそう言う状況なのでお義母様からも成績に関するものを取り寄せ⋯⋯」

「ねえ、一粒って宝石なの?」

「え、は? あー、他言無用でお願いしますね。さる方から修理の依頼を受けてまして⋯⋯ただ、物が物なだけに今回はちょっと」

 ドアの方をチラチラと見ながら仕方なさそうに話すメリッサの方に身を乗り出してきたイライザが目をぎらつかせた。

「そんなに凄い宝石なの?」

(流石、腐っても女⋯⋯食いつくねぇ)



「真珠のネックレスなんですが、粒のサイズが半端なくて⋯⋯あ、公にはしておられないお品なんでここだけの話にしてくださいね」

「真珠ねぇ」

「行方がわからなくなった伝説の真珠ってあるじゃないですか? あれほどではないですけど、今バラバラの状態なんであんな大きさの真珠が一個でも無くなったら⋯⋯」

「そんなに凄いものなの?」

「そ、それはもう忘れていただけますか? 業者が来るまでの二日間、気が気じゃなくて⋯⋯。
そうだ、身分のしっかりした方の後見とか推薦状があれば何とかできるかもしれません⋯⋯でも、難しいですよねぇ。かなり大手の弁護士事務所で王族の方との繋がりもあるくらいだからなぁ⋯⋯(ぶつぶつ)」

「⋯⋯あの方ならステファンの後見になってくれるわ。真珠なら一粒でも食いついてくるかも⋯⋯」

 小声で呟いたつもりのイライザは意気揚々と立ち上がった。

「ステファンの後見人になってくれる方に心当たりがあるの。その方の推薦状ならこの国の誰も文句は言わないわ」



 イライザの呟きは聞こえないふりをしたメリッサはにっこりと微笑んだ。

「ではこれで、一歩前進ですね」

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