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16.こちらサイドの賭けはとても常識的ですから
「俺は動かない方に⋯⋯そうだと助かるしね。賢明な奴なら真珠なんかで誘い出されたりせず、ステファンの機嫌だけ取れるように誤魔化すか適当な餌を与えて静観する」
「私は動く方に賭けるって言うか動いてもらわなくちゃ困る。大騒ぎする父親がウザいとか言動をいちいちチェックされてストレスが溜まってるとかになってて、気晴らしとか鬱憤を晴らすために動く」
「俺は不参加にしとくかな⋯⋯何を賭けるのかすっげえ楽しみなような、ものすご~くムカつくような気がするがな」
「父さんが不参加ならラズベリーの乗ったチーズケーキは?」
「おい、それは俺の好物だろうが! ったく、ひでぇ娘だぜ」
「いいじゃん、ケニスも大好きだしね」
ケニスがテーブルの上に置いたチョコレートの箱からもう一粒口に放り込んだメリッサはステファンの立てた賭けの内容を思い出し眉間に皺を寄せた。
(人でなしってああ言う人のことを言うのよね)
その頃、父親が出仕したコーク家では⋯⋯。
「ステファン、仕事に行かなくていいの?」
「あー、このまま辞めようかなぁって思ってさ。どうせすぐに転職するんだし」
「でも、それまでの生活費ってどうするの? うちは借金がまだ残ってるから助けてあげられないしねぇ⋯⋯」
ステファンが以前屋敷から持ってきた茶葉でお茶を入れたイライザが満足そうに頷いた。
(こんないいお茶を平民が使ってるなんて世の中間違ってるわ)
「あの屋敷の絵画を一枚か二枚売っ払えば余裕で暮らせそうだから大丈夫⋯⋯それにしても、生活費どころか小遣いもくれねえっておかしいと思うんだよな。これじゃあ平民なんかと結婚してやった意味ないだろ?」
メイドが預かっていた手紙には、渡した請求書の支払いが終わるまでツケ払いを禁止すると書かれていたのを思い出したステファンが苛立たし気にお茶を飲み干した。
(酒の方がよっぽど良いんだけどなぁ、うちには真面な酒なんてないし)
「本当に図々しい子よねぇ。結婚してあげたんだから借金を全部清算するかと思ったら違うし、生活費は折半でそれ以外は別会計だなんて聞いたこともないわ」
結婚が決まって初めて顔を合わせたコーク一家はルーカスからの感謝の言葉と多額の持参金を期待して胸を膨らませていた。
『持参金についてですか? いやあ、先ずは花嫁代の話が先でしょうなぁ。それに合わせた持参金を用意するつもりでおります』
花嫁代は払えないと言いきったステファンに、ルーカスはコーク家の多額の借金を一本化し低金利の金貸しを紹介しただけで返済には一切かかわらず持参金にもいくつかの条件をつけた。
『では、結婚が成立した後に不貞行為が発覚すれば即離婚と持参金の倍返し、結婚後もそれぞれの資産は別とさせていただきます。生活費は折半、その他ご自身やコーク家に関わる費用は別会計で。
屋敷や家具はこちらで準備いたしますが、結婚生活が円満であることが確認できるまで当面所有権は私に残します』
顔を真っ赤にして怒鳴り散らすコーク一家に向けてルーカスがキッパリと言い放った。
『こちらから無理にお願いをした婚姻ではありませんし、これ以上の譲歩を望まれるのであればこの話は無かったことに致しましょう』
結婚してからなし崩しにしてしまえばいいと思ったステファンは『平民のくせに!』と憤る両親を説得し正式な書類を作成した。
以前より支払額が減り生活はかなり楽になったものの、貴族との結婚に感謝して借金を精算してくれると信じていたコーク夫妻は当てが外れ渋い顔をしていた。
「平民あるあるなんだろ? 俺達貴族とは別の生き物だからなあ」
だらしなくソファに寝そべったステファンの前でイライザがソワソワしはじめた。
「ねえ、ちょっとだけアレを借りてもいいかしら?」
「⋯⋯ネックレスのこと?」
「結婚式の翌々日からご近所の方が感じ悪くてね、ちょっと見返してやりたいの」
「ふーん、いいんじゃない? どうせ平民なんかと結婚したとかって馬鹿にしてるんだろ? この間プレゼントしたドレスとあのネックレスを見せびらかしてくれば大人しくなるよ」
商会のツケでステファンが手に入れてきたドレスに盗んだネックレスをつけたイライザがいそいそと出かけていくと、大欠伸をしたステファンは二度寝する為に昔使っていた部屋のベッドに潜り込んだ。
(父上に会うとまたうるさく言われるし、一寝入りしてアマンダのとこにでも行くか)
家を出てゆっくりと歩くイライザは通り過ぎる人にいちいち声をかけて回った。少し胸を逸らした自慢げなイライザの胸元のネックレスに目を留めた夫人達は息を呑み目配せをしあっていた。
(ふふっ、皆さん驚いておられるわ。そうよねえ、これほどの真珠なんて見たこともないでしょうし?)
優越感に浸りながら通りを行き過ぎたイライザの後ろで夫人達がヒソヒソと噂話をはじめた。
「嫁いびりでこき使った次はあんな高価そうなネックレスを買わせたのかしら?」
「お相手がいくら平民だと言っても酷すぎますわねぇ」
「やっぱりお付き合いは今後も遠慮致しましょう」
「私は動く方に賭けるって言うか動いてもらわなくちゃ困る。大騒ぎする父親がウザいとか言動をいちいちチェックされてストレスが溜まってるとかになってて、気晴らしとか鬱憤を晴らすために動く」
「俺は不参加にしとくかな⋯⋯何を賭けるのかすっげえ楽しみなような、ものすご~くムカつくような気がするがな」
「父さんが不参加ならラズベリーの乗ったチーズケーキは?」
「おい、それは俺の好物だろうが! ったく、ひでぇ娘だぜ」
「いいじゃん、ケニスも大好きだしね」
ケニスがテーブルの上に置いたチョコレートの箱からもう一粒口に放り込んだメリッサはステファンの立てた賭けの内容を思い出し眉間に皺を寄せた。
(人でなしってああ言う人のことを言うのよね)
その頃、父親が出仕したコーク家では⋯⋯。
「ステファン、仕事に行かなくていいの?」
「あー、このまま辞めようかなぁって思ってさ。どうせすぐに転職するんだし」
「でも、それまでの生活費ってどうするの? うちは借金がまだ残ってるから助けてあげられないしねぇ⋯⋯」
ステファンが以前屋敷から持ってきた茶葉でお茶を入れたイライザが満足そうに頷いた。
(こんないいお茶を平民が使ってるなんて世の中間違ってるわ)
「あの屋敷の絵画を一枚か二枚売っ払えば余裕で暮らせそうだから大丈夫⋯⋯それにしても、生活費どころか小遣いもくれねえっておかしいと思うんだよな。これじゃあ平民なんかと結婚してやった意味ないだろ?」
メイドが預かっていた手紙には、渡した請求書の支払いが終わるまでツケ払いを禁止すると書かれていたのを思い出したステファンが苛立たし気にお茶を飲み干した。
(酒の方がよっぽど良いんだけどなぁ、うちには真面な酒なんてないし)
「本当に図々しい子よねぇ。結婚してあげたんだから借金を全部清算するかと思ったら違うし、生活費は折半でそれ以外は別会計だなんて聞いたこともないわ」
結婚が決まって初めて顔を合わせたコーク一家はルーカスからの感謝の言葉と多額の持参金を期待して胸を膨らませていた。
『持参金についてですか? いやあ、先ずは花嫁代の話が先でしょうなぁ。それに合わせた持参金を用意するつもりでおります』
花嫁代は払えないと言いきったステファンに、ルーカスはコーク家の多額の借金を一本化し低金利の金貸しを紹介しただけで返済には一切かかわらず持参金にもいくつかの条件をつけた。
『では、結婚が成立した後に不貞行為が発覚すれば即離婚と持参金の倍返し、結婚後もそれぞれの資産は別とさせていただきます。生活費は折半、その他ご自身やコーク家に関わる費用は別会計で。
屋敷や家具はこちらで準備いたしますが、結婚生活が円満であることが確認できるまで当面所有権は私に残します』
顔を真っ赤にして怒鳴り散らすコーク一家に向けてルーカスがキッパリと言い放った。
『こちらから無理にお願いをした婚姻ではありませんし、これ以上の譲歩を望まれるのであればこの話は無かったことに致しましょう』
結婚してからなし崩しにしてしまえばいいと思ったステファンは『平民のくせに!』と憤る両親を説得し正式な書類を作成した。
以前より支払額が減り生活はかなり楽になったものの、貴族との結婚に感謝して借金を精算してくれると信じていたコーク夫妻は当てが外れ渋い顔をしていた。
「平民あるあるなんだろ? 俺達貴族とは別の生き物だからなあ」
だらしなくソファに寝そべったステファンの前でイライザがソワソワしはじめた。
「ねえ、ちょっとだけアレを借りてもいいかしら?」
「⋯⋯ネックレスのこと?」
「結婚式の翌々日からご近所の方が感じ悪くてね、ちょっと見返してやりたいの」
「ふーん、いいんじゃない? どうせ平民なんかと結婚したとかって馬鹿にしてるんだろ? この間プレゼントしたドレスとあのネックレスを見せびらかしてくれば大人しくなるよ」
商会のツケでステファンが手に入れてきたドレスに盗んだネックレスをつけたイライザがいそいそと出かけていくと、大欠伸をしたステファンは二度寝する為に昔使っていた部屋のベッドに潜り込んだ。
(父上に会うとまたうるさく言われるし、一寝入りしてアマンダのとこにでも行くか)
家を出てゆっくりと歩くイライザは通り過ぎる人にいちいち声をかけて回った。少し胸を逸らした自慢げなイライザの胸元のネックレスに目を留めた夫人達は息を呑み目配せをしあっていた。
(ふふっ、皆さん驚いておられるわ。そうよねえ、これほどの真珠なんて見たこともないでしょうし?)
優越感に浸りながら通りを行き過ぎたイライザの後ろで夫人達がヒソヒソと噂話をはじめた。
「嫁いびりでこき使った次はあんな高価そうなネックレスを買わせたのかしら?」
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