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39.笑い話にしかならない方向転換
リリアナとの強烈なバトルの翌日、商会の裏口に停まった馬車の前でケニスがわざわざ中腰になってメリッサの顔を覗き込んだ。
「メリッサ、一つ聞くけど⋯⋯この間の一緒に行く約束は『賭け』に行く時の話だからね」
「ケニス、しつこい男は嫌われるよ? では出発しましょう!」
エスコートする間もなくそそくさと馬車に乗り込んだメリッサの後からケニスが慌てて乗り込んだ。
「ケニス、メリッサを頼んだぞ」
「はい、俺の命に代えても」
大袈裟な二人のやり取りに苦笑いを浮かべたメリッサが御者に合図をした。ガタゴトと走りはじめた馬車はプレステア教の総本山とも言える中央教会ではなく、枢機卿本部の置かれているベルクマーレ教会近くの民家に向かっている。
もうあまり時間が残っていないメリッサとケニスは馬を交換しながら目的地まで走り続ける予定で出発したが、馬車が出発した途端ケニスが今までに見たことがないほど緊張しはじめた。
「ロジャー・マルティン枢機卿は表舞台にはあまり出ないでガンガン書類を送りつけるらしい」
背筋を伸ばして腰掛けたケニスは話をしている間も窓の外ばかり見ている。
「だから偏屈な変わり者だって言われてるのかなぁ」
「人前に出る時は常にフードを被っていて、滅多に口を開かず筆談をする方が好きだって揶揄されてる」
「紙をいっぱい持ってきた方が良かったかも」
「そうならない事を祈ろう」
「考えてみたら初めてなのよね」
「へ?」
「こうして二人で遠出するのって⋯⋯だからそんなに緊張してるの?」
メリッサが無理矢理顔を覗き込むとケニスはのけぞるようにして顔を背けた。
「近い⋯⋯メリッサ、この旅が終わるまであまり近づかないでもらえると助かる」
「いいけど、なんで?」
「分からなくていいから」
(ここ最近パーソナルスペースにガンガン入ってきてたのはケニスの方なのに⋯⋯は、もしかして私って臭うとか!)
メリッサがすごすごと座席の隅により小さくなってコッソリと自分の匂いを嗅いでいるとケニスが苦笑いを浮かべた。
「そうじゃないから⋯⋯メリッサの考えは検討はずれ。俺がちょっと意識しすぎ⋯⋯緊張してただけ」
「リリアナさんから暫く逃げられてホッとしてるくせに~」
痛い腹を探られたケニスが片目を細くして腕を組んだ。
「あれは別種の生き物だと思う事にしたんだ。だから、言葉が通じなくても仕方ないしコミュニケーションが取れないのも当然だって」
「途中で心配になったんだけどあの復活の速さがあればこの先大丈夫な気がした」
「母上も同じ事を仰っておられた。それにメリッサのお陰で少し状況が変わったから時間稼ぎできそうなんだ」
自信満々の態度で颯爽と部屋に戻ったリリアナだったがケニスが部屋に行くはずもなく、部屋に届けられた昼食を一人ポツンと食べながら色々と策を練ったらしく⋯⋯。
夕食でマーサと顔を合わせた時は今までに見た事がないほどしおらしい態度で話しかけてきた。
『ケニスは出かけたんですか?』
『ええ、暫くは仕事で帰って来れないみたいね』
『お仕事なら仕方ないですよね~、帰って来るまでに色々覚えて驚かせなくちゃ。わあ、美味しそう、いつもありがとうね』
『貴族のマナーとか伯爵家の事色々教えて下さいね。明日から気合いを入れて頑張らなくちゃ!』
『考えてみたら覚えなきゃいけない事だらけだし⋯⋯字が読めないのと計算ができないのは諦めてもらうとしてですね、歩き方とか扇子の使い方とか⋯⋯そう言うのを勉強しようと思うんです』
『療養所に貴族の令嬢が一人いた事があるから結構詳しいんで、直ぐに覚えられると思うから⋯⋯』
「真夜中に帰った時渡された母上からの手紙に、妄想は未だに爆裂中だけど『良き妻と認められる為の努力』に方向転換したらしいと書かれていたんだ」
ケニスが拳を額に当てて苦笑いを浮かべた。使用人にも礼儀正しく優しい令嬢を演じようと努力しているらしいが、リリアナの知ってる貴族令嬢がかなり変わった人物だったらしく笑いを堪える事が多い。
『食事の後はナイフの先で歯の掃除をするんですよね。それとアタシ専用のナイフを準備してもらわなくちゃ』
『そう言えば、この家のフォークは二股じゃないんですね~。こんなにたくさん並べなくても、手掴みで平気ですよ』
『貴族令嬢って2時間毎に着替えるんですよね、ドレスを作ってもらわないと足りなくて』
『お風呂に入ると死んじゃうって忘れてた! これからは亜麻布を使うから準備しておいてね』
「いつの時代の話かと思うようなものが多いけど、周りに被害が及ばない限り放置する事に決めたそうだよ」
(俺が忍び込んできた時のためにベッドにかける香水を要求してきたのと、寝化粧すると言い出した事は秘密にしておこう⋯⋯揶揄われるのがオチだから)
馬の交換の時にトイレや買い物を済ませて昼夜走り続けたおかげで二日後の午前中にベルクマーレ教会が見えてきた。
「間に合って良かった。これなら人に会う準備ができそう」
「メリッサ、一つ聞くけど⋯⋯この間の一緒に行く約束は『賭け』に行く時の話だからね」
「ケニス、しつこい男は嫌われるよ? では出発しましょう!」
エスコートする間もなくそそくさと馬車に乗り込んだメリッサの後からケニスが慌てて乗り込んだ。
「ケニス、メリッサを頼んだぞ」
「はい、俺の命に代えても」
大袈裟な二人のやり取りに苦笑いを浮かべたメリッサが御者に合図をした。ガタゴトと走りはじめた馬車はプレステア教の総本山とも言える中央教会ではなく、枢機卿本部の置かれているベルクマーレ教会近くの民家に向かっている。
もうあまり時間が残っていないメリッサとケニスは馬を交換しながら目的地まで走り続ける予定で出発したが、馬車が出発した途端ケニスが今までに見たことがないほど緊張しはじめた。
「ロジャー・マルティン枢機卿は表舞台にはあまり出ないでガンガン書類を送りつけるらしい」
背筋を伸ばして腰掛けたケニスは話をしている間も窓の外ばかり見ている。
「だから偏屈な変わり者だって言われてるのかなぁ」
「人前に出る時は常にフードを被っていて、滅多に口を開かず筆談をする方が好きだって揶揄されてる」
「紙をいっぱい持ってきた方が良かったかも」
「そうならない事を祈ろう」
「考えてみたら初めてなのよね」
「へ?」
「こうして二人で遠出するのって⋯⋯だからそんなに緊張してるの?」
メリッサが無理矢理顔を覗き込むとケニスはのけぞるようにして顔を背けた。
「近い⋯⋯メリッサ、この旅が終わるまであまり近づかないでもらえると助かる」
「いいけど、なんで?」
「分からなくていいから」
(ここ最近パーソナルスペースにガンガン入ってきてたのはケニスの方なのに⋯⋯は、もしかして私って臭うとか!)
メリッサがすごすごと座席の隅により小さくなってコッソリと自分の匂いを嗅いでいるとケニスが苦笑いを浮かべた。
「そうじゃないから⋯⋯メリッサの考えは検討はずれ。俺がちょっと意識しすぎ⋯⋯緊張してただけ」
「リリアナさんから暫く逃げられてホッとしてるくせに~」
痛い腹を探られたケニスが片目を細くして腕を組んだ。
「あれは別種の生き物だと思う事にしたんだ。だから、言葉が通じなくても仕方ないしコミュニケーションが取れないのも当然だって」
「途中で心配になったんだけどあの復活の速さがあればこの先大丈夫な気がした」
「母上も同じ事を仰っておられた。それにメリッサのお陰で少し状況が変わったから時間稼ぎできそうなんだ」
自信満々の態度で颯爽と部屋に戻ったリリアナだったがケニスが部屋に行くはずもなく、部屋に届けられた昼食を一人ポツンと食べながら色々と策を練ったらしく⋯⋯。
夕食でマーサと顔を合わせた時は今までに見た事がないほどしおらしい態度で話しかけてきた。
『ケニスは出かけたんですか?』
『ええ、暫くは仕事で帰って来れないみたいね』
『お仕事なら仕方ないですよね~、帰って来るまでに色々覚えて驚かせなくちゃ。わあ、美味しそう、いつもありがとうね』
『貴族のマナーとか伯爵家の事色々教えて下さいね。明日から気合いを入れて頑張らなくちゃ!』
『考えてみたら覚えなきゃいけない事だらけだし⋯⋯字が読めないのと計算ができないのは諦めてもらうとしてですね、歩き方とか扇子の使い方とか⋯⋯そう言うのを勉強しようと思うんです』
『療養所に貴族の令嬢が一人いた事があるから結構詳しいんで、直ぐに覚えられると思うから⋯⋯』
「真夜中に帰った時渡された母上からの手紙に、妄想は未だに爆裂中だけど『良き妻と認められる為の努力』に方向転換したらしいと書かれていたんだ」
ケニスが拳を額に当てて苦笑いを浮かべた。使用人にも礼儀正しく優しい令嬢を演じようと努力しているらしいが、リリアナの知ってる貴族令嬢がかなり変わった人物だったらしく笑いを堪える事が多い。
『食事の後はナイフの先で歯の掃除をするんですよね。それとアタシ専用のナイフを準備してもらわなくちゃ』
『そう言えば、この家のフォークは二股じゃないんですね~。こんなにたくさん並べなくても、手掴みで平気ですよ』
『貴族令嬢って2時間毎に着替えるんですよね、ドレスを作ってもらわないと足りなくて』
『お風呂に入ると死んじゃうって忘れてた! これからは亜麻布を使うから準備しておいてね』
「いつの時代の話かと思うようなものが多いけど、周りに被害が及ばない限り放置する事に決めたそうだよ」
(俺が忍び込んできた時のためにベッドにかける香水を要求してきたのと、寝化粧すると言い出した事は秘密にしておこう⋯⋯揶揄われるのがオチだから)
馬の交換の時にトイレや買い物を済ませて昼夜走り続けたおかげで二日後の午前中にベルクマーレ教会が見えてきた。
「間に合って良かった。これなら人に会う準備ができそう」
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