【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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00.ワッツ公爵家の闇、ピーター・ワッツ

 ワッツ公爵家と分家筋には何人かに一人という高確率で、己の欲望だけに忠実な少年が産まれてきた。穏やかそうな見た目に隠れた残虐な性質は血と悲鳴を求め続けて平然と悪事を行い、その度に公爵家を何度も窮地に陥れてきたが教会に多額の献金を行って秘密裏に処理をしてきた歴史があった。

 子供が産まれるたびに選別され危険な芽を早めに摘むのがごく当たり前になっていたワッツ家で、無事に育ち次期ワッツ公爵になるべく英才教育を施されていたのがピーター・ワッツだった。

 ピーターの異常性に気付いた者がいたのかどうか分からないが、もしいたなら早い段階で適切な治療を受けていれば違っていたのかもしれない。



 ルディ・サマネス枢機卿に連れられてジョージ・メイルーンが初めてワッツ家を訪れたのは二人が12歳の時だった。

『同い年なら長く友達でいてあげられるね』

 上から目線のメイルーンの言葉に深々と頭を下げたピーターがニンマリと笑ったのに気付いた者はいなかった。

(これでもしもの時の保険は出来たから、後はできる限りメイルーンを利用して長く楽しまなくちゃ)

 元々善悪の区別もなく我儘放題に育てられていた傲慢なメイルーンを唆して悪事を行わせるのは赤子の手を捻るようなものだった。

 メイルーンがワッツ家に奉公しているハリーを欲しがった時セオドアを紹介したのもピーターだった。

『ハリーは頑固者なんで結構手がかかると思いますが、弟のセオドアはメイルーン様の事を尊敬してますから手懐けやすいと思いますよ。顔つきはハリーにかなり似てますしね』

 端正な顔立ちのハリーによく似たセオドアは子犬のような笑顔の純粋な少年だが、異常なほど思い込みが激しいところがある。

(ハリーはいずれ俺様の獲物にするつもりだし、メイルーン如きにはハリーの紛い物を与えておけば十分⋯⋯弟がメイルーンの悪事に手を貸してればハリーを落とすのが簡単になるしな)

 メイルーンの従者となったセオドアがどんな悪事でも怯まず命令に従うようになるのにそれほど時間はかからなかった。



(無能なメイルーンにはほんの少しずつヒントを与え続けてやればそれが自分の策だと思い込む⋯⋯俺は今まで闇に葬られた奴等とは違う。ワッツ公爵家も教会の権力も手に入れてやる)

 自分の欲望を陰に隠れて満たしながらメイルーン主導に見せかけた悪事を計画し、さも自分の発案のように自慢げに実行するメイルーンを嘲笑って楽しんでいた。

(俺様の保険だから少しはいい気分にさせてやるよ。その代わりいざという時はしっかり役に立ってもらうけど)

 それが崩れたのがあの辻馬車の事件。念の為だと言ってブレーキにまで細工させていたとピーターが知った時は既に手遅れになっており、手伝わせた御者とセオドアが逃げ出した後だった。

(車軸が半分折れてりゃ坂を下った衝撃で確実に事故ってたんだ、俺の計算を台無しにしやがって!!)

 ピーターの計算では坂を下る勢いで車軸が折れて横転するまでにはかなりスピードが落ちているはずだったが、事故が起きると知っていた御者はスピードが出はじめた坂の途中でブレーキをかけてしまった。勢いがつきはじめた馬車は勢いに負けて車軸が折れ、坂の中程からノンストップで転がり落ちた。

 ブレーキが効かないと気付いた御者は馬と馬車を繋ぐハーネスを外して飛び降り、転がり落ちた馬車が大破する音を聞きながらそのまま逃げ出した。

 メイルーンに報告するために近くで見ていたセオドアも予想以上に派手な事故に驚いて、結果を見る前にその場から逃げ出した。

(御者の野郎⋯⋯セオドアが細工する時なんで気づかないんだよ!? ちょっと注意してりゃ大成功だったのに⋯⋯駒は逃げ出すし『賭け』は不成立。はあ、つまんねえ。
このモヤモヤの責任は⋯⋯御者とセオドアに取って貰わないとなあ)

 御者とセオドアをこっそりと捕獲して自分の楽しみに使うと決めたピーターだったが、探しているうちに生かしておけばメイルーンへの保険になると気付いた。

(二人はじわりじわりと楽しんで生かさず殺さず⋯⋯で、いざという時の為に飼っておくか。
セオドアを捕獲してそれをネタにハリーで遊ぶのは楽しそうだなぁ。あー、親と妹はどうするかなぁ。置いとくと面倒になるならサッサと片付けてもいいし、ハリーの妹なら高く売れるかもな)



 逃げ出したセオドアにお仕置きしたらどうかと提案するとメイルーンは簡単に乗ってきた。セオドアの居場所をメイルーンに教え教会の狂信者を送り込ませ両親を殺させたところまではピーターの計画通りだったが、狂信者達はピーターが熟成するのを待って大切に手元に置いておいた大切なおもちゃ⋯⋯ハリーに怪我をさせてしまった。

(ハリーに傷をつけるのは俺様だけの特権だったのに! 俺様より先に傷をつけるなんて⋯⋯許さん! 絶対に許してなんかやらないからな⋯⋯傷をつけたメイルーンも勝手に傷ついたハリーも、俺様をバカにしやがって!)



 セオドアを捕まえて薬を与えて少しずつ心に毒を流し込んだ。

『両親を殺し兄妹を傷つけたのはメイルーン』

『メイルーンは君達家族の敵』

「メイルーンは枢機卿の実子⋯⋯教会が許していない聖職者の実子⋯⋯神はメイルーンを許しておられない』

『俺こそが神の声をお前に伝えてあげられる唯一の人間』

『時を待て⋯⋯神の御心に従うのがお前の使命』

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