【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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46.その距離って届くのかなあ?

「ハリーを見つけたんでヒューゴとサリナも纏めて捕縛しました」

 商会に来た時からにやけそうになっては顔を引き締めるのを繰り返していたケニスが少し誇らしげに胸を張った。

「お~! やったじゃねえか」

「3人纏めては凄いじゃない! 流石ケニスだね」

「ただ問題がひとつ⋯⋯リリアナの行動範囲がどんどん広がってて、うちの地下牢だと見つかって大騒ぎになりそうなんです。で、どっか監禁場所を紹介してもらえませんか?」

「使ってない倉庫にサーカスで使ってた猛獣用の檻を準備しておいたからいつでもこっちで引き取るぞ? 動物臭は凄えが空の木箱なんかで仕切りもしといたから、プライバシーもバッチリ守れる親切仕様だしな」

 いまだにケニスの屋敷で我が物顔に振る舞っているリリアナはマーサの真似をして家政に口を出したり仕立て屋を呼べと騒いだりしている。

「鍵をかけて部屋に閉じ込めてもどうやってるのか分かんないんですけど開錠して出てくるし、この間なんてベランダから降りてきたんで使用人が腰を抜かしましたし」

 以前読んだ本に載っていたと言ってシーツを割いてロープを作ったリリアナだが、降りている途中で手が滑り⋯⋯。

「手に擦り傷ができただけなのに、怪我をしたって言って大騒ぎしてました」

 手に負えるレベルを超えたと言ってケニスは溜息をついた。

「全員纏めた方が良いと思うんだよね。弟のセオドアはヤバイかもだけどハリーは真面なお兄ちゃんの可能性も残ってるでしょ? ケニスんとこの地下牢もだけど同じ場所で別々の牢に入れればどんな話をするかで何か分かるかもって期待してるんだ」

「猛獣の檻を準備したおじさんのモラルを疑うとか、リリアナを地下牢に入れていいならもっと早くに入れときゃ良かったとか相変わらずツッコミどころが満載なんだけど⋯⋯なんでメリッサがうちの地下牢の事に詳しいのかが一番気になる」

「マーサ様が教えてくださったもん。ケニスがしつこ過ぎたら入れる⋯⋯とかって仰ってた気がする。状況に応じて各種取り揃えたって仰ってたから何部屋もありそうだなって思ってたの」

「はあ、一時期母上が改装に盛り上がってたのって息子を監禁する準備だったって事? マジで信じらんないよ」

 頭を抱えたケニスがぶちぶちと呟き、隣に座っていたメリッサの肩にもたれかかるとルーカスから本が飛んできた。

「うわっ! おじさん、暴力反対!」

 ケニスがソファの後ろに飛んでいった本を拾いに行った。

「メリッサの半径5メートル以内に近寄るな! ったく油断も隙もあったもんじゃねえな。テメエもライオン臭え檻に入れてやろうか?」

「父さん、5メートルも離れたら打ち合わせできないからね~」

 のほほんとお茶を飲みながらメリッサが正論を口にするとルーカスがふんぞり返って腕を組んだ。

「そんときゃ糸電話作ってやるよ」



「リリアナは犯罪には関わってないけど地下牢でいいなら全員引き取れます。倉庫より声が外に響かないから安心ですしね」

 ソファに座り直したケニスはルーカスの手の届かないテーブルの隅に本を置いた。

「マーサ様への不敬罪で十分だろ? まあ、ケニスが手を出してんなら微妙だがな」

 嬉しそうに『あ~、その手があったか』と相槌を打ちかけたケニスがルーカスの一言で慌ててメリッサの肩を掴んだ。

「⋯⋯てか、出してませんから! 出すわけないじゃないですか。メリッサ、俺は無実だからな! おじさんがなんと言おうと何ひとつ疚しいとこはないから」

 ケニスが必死の形相で力説しはじめるとルーカスが『ププッ』と吹き出し慌てて口を押さえた。

「誰もそんなこと思ってないから大丈夫だよ⋯⋯ケニスはいつも通り父さんに揶揄われてるだけだって。父さん、ケニスはなんでもすぐ信じちゃうんだからほどほどにしないとだめだからね」

「昔みたいに『ぴえ~ん』って泣き出すか?」

「泣かねえから! 俺が何歳だと思ってんですか!?」

「そそ、そうか『え~ん』って泣いたら昔みてえに頭を撫でてやるからな。ブッ、ブハッ!」

 笑い過ぎて涙を拭きながらルーカスが嬉しそうに呟いた。

「泣き虫ケニスの嫁取りは当分先だな~」



 いまだに笑いの治まらないルーカスを無視したケニスがメリッサに話しかけた。

「ハリーを捕まえたからここからは時間との勝負になるだろ? 直ぐにセオドア確保に向かおうと思うんだ」

 リリアナを誘拐⋯⋯保護してから既にかなりの日数が経っているが、病院はワッツに責任を追及されるのを恐れているのか連絡を入れず内密にリリアナを探し回っている。

「ハリーと連絡が取れなくなったらワッツはリリアナとセオドアの存在確認をする可能性が出てくるよね」

「うん、そうなる前にセオドアを確保しないとな」

「リリアナの安全が確保されてるってわかればセオドアの捕縛に協力してくれるかもしれない⋯⋯ハリーと話してみたいなあ。ハリーが弟や妹を守る為にワッツの指示に従っていただけで、本当は真面な人だって感じなら話を聞く可能性が高いでしょ?」

「それはどうかな。リリアナはともかくセオドアはかなりの数の犯罪に加担してるし聖職者殺しもしてる。弟を逃がそうとする可能性の方が高いんじゃないか?」

「昔はメイルーンにどっぷりハマり込んでたセオドアが今は真面だって可能性も低いぜ?」

「ええっ! 親を目の前で殺されたのにいまだにメイルーンを信じてるってこと?」

「いや、別のターゲットを見つけてるってこと。犯罪に手を貸すほどメイルーンに心酔していたセオドアが何年も大人しくワッツの領地にいるのはどうも怪しいと思わねえか?」

「⋯⋯そうだとしたら話が繋がりますね」

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