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64.親近感を持った理由
「その日は旦那様のお供で終日出掛けておりました。帰って早々に真っ青な顔のメイドが走って来て『ピーター様が呼んでおられる』と伝えて来ました。手紙を届けた直後に暴れはじめ怒鳴り声をあげ私を連れてこいと叫んでいたと聞き、今までの中で一番ヤバいと覚悟を決めました」
ドアが壊れて見えた部屋の中は荒れ放題で窓ガラスも家具も粉々に砕け、乱れた服装で部屋の真ん中に立ち尽くしていたピーターはハリーの顔を見た途端見たことがないほど楽しげに声を立てて笑った。
身体のあちこちに飛び散っているのはワッツ自身の血で右腕は力無く垂れ下がりどこから持ち出したのかもわからない大剣を左手に抱えていた。
『ようやく俺様の大切なおもちゃが巣に戻って来たか。ふらふらと他の奴に尻尾を振る時間は終わりだからこれからは俺様のためだけに生きられるよ』
『ゆっくりとゲームを楽しみたかったが邪魔が入ってしまってね、少し勢いをつけることにしたんだ』
『御者をひとり捕まえてきて欲しい、セオドアの為にもなるから優しいお兄ちゃんに頑張ってもらおうかなあ。失敗したら先ず手始めにリリアナに責任をとってもらってその次はセオドアだね。
しばらくの間お楽しみができなくなったから誰かに代わりをしてもらわなくちゃ。女は俺様の趣味じゃないけど何人か集めてショーでもやって貰えば少しは気分転換になるかもだろ?』
初めてミゲルの事件の事を知らされたハリーは1週間分の生活費と共に屋敷から叩き出された。
「セオドアが何も話をしなかった理由が初めて分かって呆然としました。それも初めてじゃなかった。同じような事をそれまでに何度もやっていて何人もの人が犠牲になっていたんです」
結果が分かっていながらメイルーンの指示に従い罠を仕掛けたり毒を仕込んだり⋯⋯その結果を聞いて『教会の敵は制裁を受けて当然』『メイルーン様の御為ならば』と悦にいっていたセオドアだが、目の前で大量の血を流す人を見たのは初めてだった。
絵空事のように思っていた人の死を目にして自分のしてきた事に初めて気付いたセオドアはメイルーンと教会と自分自身の罪から逃げ出した。
「捕まえていただいてホッとしています。無力で何もできずピーターの犯行を知りつつ口を噤んでいた私の罪は大きいと知っております。いかようにもご処罰下さい」
床に座りかえて頭を下げたハリーの背中には抱えてきた苦悩と諦めが滲んでみえた。
「ハリーさんにはもう一踏ん張りしてもらわないと困るの。リリアナさんの暴走を止められるのってハリーさんくらいしかいなさそうだもの。ね?」
メリッサがケニスに話を振ると大きく何度も頷いた。
「正直言って我が家はもう限界でして、使用人が逃げ出す前に助けて欲しいと思ってます。準備が出来次第セオドアも迎えにいくつもりですが、それについては準備とかタイミングとかが必要そうなんで明日直ぐとはいきませんがね」
「セオドアを助けてくださるのですか?!?」
ガバッと頭を上げたハリーがケニスに手を伸ばした。メリッサやケニスはセオドアが直接手を下して命を奪ったミゲルの関係者だと理解しているハリーはセオドアがこのまま見捨てられても仕方ないと思っていた。
(俺にはセオドアを助ける術は残っていない⋯⋯元から何もなかったんだ)
「助けませんよ? 法の裁きを受けてもらいます逃すつもりも赦すつもりもありませんから」
「勿論です。もっと早くそうするべきだった、私の決断が遅すぎたんです」
犯罪に手を貸しているらしいと分かった時点ですぐにセオドアを司法の手に委ねるべきだったとハリーは何度も後悔していた。
「それは無理だったんじゃないかな? この国って教会最強で次点が貴族ですから、平民の私達って足掻いてもどうにもならないくらいの差をつけられてますからね。セオドアを連れて騎士団の前に引っ張っていけてたとしても速攻で教会の横槍が入って終わってたと思いますもん」
「え? あの、平民って」
「ご挨拶が遅れました。モートン商会、商会長の娘でメリッサと言います。父も私も生粋の平民ですし変更の予定はありません。あ、それと今のところは男爵夫人(偽)もやってますね」
「偽⋯⋯ですか? えーっと、結婚詐欺みたいな感じとか役作りとかですか?」
聞いたことのない『夫人(偽)』に戸惑ったハリーが首を傾げた。
「いえいえ、結婚詐欺ならお金とか貰いますけど私は情報料として結構払ってますからね! あれ? ケニス、これって詐欺になるの? さっきは勢いで年齢詐称しちゃったし」
ハリーは日々の苦労のせいか年齢より老けて見えるがメリッサやケニスより2歳年下の24歳。
「書類の不備ってやつで結婚が認められてないだけって言ってたし、その後もおじさんが上手くやってると思うから詐欺にはならないと思うよ?」
「そうよね~、良かったあ。できれば私の経歴にステファンの名前は残したくないもの」
「ステファン⋯⋯まさかステファン・コークですか?」
「そう! ステファンはモートン商会のお金を目当てに近づいてきたんだけど、ミゲルの事件について知ってたから情報を引き出す為に結婚式をしたの。ステファンは結婚したつもりだから豪遊しようと頑張ってるけど、出した結婚届けはさっき言ったように不受理だからまだ(仮)か(偽)のどっちかね」
にんまりと笑ってサムズアップしたメリッサを見ながらケニスが溜息をついた。
「ほんとに、メリッサは昔から信じられないくらい無茶ばっかりするからなあ」
無茶ばかりする弟妹に苦労してきたハリーは溜息をつくケニスに少し親近感をもった。
(事件解決の為に結婚⋯⋯凄いパワーだけど、振り回される方は結構大変そうだ)
ドアが壊れて見えた部屋の中は荒れ放題で窓ガラスも家具も粉々に砕け、乱れた服装で部屋の真ん中に立ち尽くしていたピーターはハリーの顔を見た途端見たことがないほど楽しげに声を立てて笑った。
身体のあちこちに飛び散っているのはワッツ自身の血で右腕は力無く垂れ下がりどこから持ち出したのかもわからない大剣を左手に抱えていた。
『ようやく俺様の大切なおもちゃが巣に戻って来たか。ふらふらと他の奴に尻尾を振る時間は終わりだからこれからは俺様のためだけに生きられるよ』
『ゆっくりとゲームを楽しみたかったが邪魔が入ってしまってね、少し勢いをつけることにしたんだ』
『御者をひとり捕まえてきて欲しい、セオドアの為にもなるから優しいお兄ちゃんに頑張ってもらおうかなあ。失敗したら先ず手始めにリリアナに責任をとってもらってその次はセオドアだね。
しばらくの間お楽しみができなくなったから誰かに代わりをしてもらわなくちゃ。女は俺様の趣味じゃないけど何人か集めてショーでもやって貰えば少しは気分転換になるかもだろ?』
初めてミゲルの事件の事を知らされたハリーは1週間分の生活費と共に屋敷から叩き出された。
「セオドアが何も話をしなかった理由が初めて分かって呆然としました。それも初めてじゃなかった。同じような事をそれまでに何度もやっていて何人もの人が犠牲になっていたんです」
結果が分かっていながらメイルーンの指示に従い罠を仕掛けたり毒を仕込んだり⋯⋯その結果を聞いて『教会の敵は制裁を受けて当然』『メイルーン様の御為ならば』と悦にいっていたセオドアだが、目の前で大量の血を流す人を見たのは初めてだった。
絵空事のように思っていた人の死を目にして自分のしてきた事に初めて気付いたセオドアはメイルーンと教会と自分自身の罪から逃げ出した。
「捕まえていただいてホッとしています。無力で何もできずピーターの犯行を知りつつ口を噤んでいた私の罪は大きいと知っております。いかようにもご処罰下さい」
床に座りかえて頭を下げたハリーの背中には抱えてきた苦悩と諦めが滲んでみえた。
「ハリーさんにはもう一踏ん張りしてもらわないと困るの。リリアナさんの暴走を止められるのってハリーさんくらいしかいなさそうだもの。ね?」
メリッサがケニスに話を振ると大きく何度も頷いた。
「正直言って我が家はもう限界でして、使用人が逃げ出す前に助けて欲しいと思ってます。準備が出来次第セオドアも迎えにいくつもりですが、それについては準備とかタイミングとかが必要そうなんで明日直ぐとはいきませんがね」
「セオドアを助けてくださるのですか?!?」
ガバッと頭を上げたハリーがケニスに手を伸ばした。メリッサやケニスはセオドアが直接手を下して命を奪ったミゲルの関係者だと理解しているハリーはセオドアがこのまま見捨てられても仕方ないと思っていた。
(俺にはセオドアを助ける術は残っていない⋯⋯元から何もなかったんだ)
「助けませんよ? 法の裁きを受けてもらいます逃すつもりも赦すつもりもありませんから」
「勿論です。もっと早くそうするべきだった、私の決断が遅すぎたんです」
犯罪に手を貸しているらしいと分かった時点ですぐにセオドアを司法の手に委ねるべきだったとハリーは何度も後悔していた。
「それは無理だったんじゃないかな? この国って教会最強で次点が貴族ですから、平民の私達って足掻いてもどうにもならないくらいの差をつけられてますからね。セオドアを連れて騎士団の前に引っ張っていけてたとしても速攻で教会の横槍が入って終わってたと思いますもん」
「え? あの、平民って」
「ご挨拶が遅れました。モートン商会、商会長の娘でメリッサと言います。父も私も生粋の平民ですし変更の予定はありません。あ、それと今のところは男爵夫人(偽)もやってますね」
「偽⋯⋯ですか? えーっと、結婚詐欺みたいな感じとか役作りとかですか?」
聞いたことのない『夫人(偽)』に戸惑ったハリーが首を傾げた。
「いえいえ、結婚詐欺ならお金とか貰いますけど私は情報料として結構払ってますからね! あれ? ケニス、これって詐欺になるの? さっきは勢いで年齢詐称しちゃったし」
ハリーは日々の苦労のせいか年齢より老けて見えるがメリッサやケニスより2歳年下の24歳。
「書類の不備ってやつで結婚が認められてないだけって言ってたし、その後もおじさんが上手くやってると思うから詐欺にはならないと思うよ?」
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「ステファン⋯⋯まさかステファン・コークですか?」
「そう! ステファンはモートン商会のお金を目当てに近づいてきたんだけど、ミゲルの事件について知ってたから情報を引き出す為に結婚式をしたの。ステファンは結婚したつもりだから豪遊しようと頑張ってるけど、出した結婚届けはさっき言ったように不受理だからまだ(仮)か(偽)のどっちかね」
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「ほんとに、メリッサは昔から信じられないくらい無茶ばっかりするからなあ」
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