【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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66. あと5日、暴走しはじめたワッツ

 月曜日、ゲーム開始まであと5日。

「ピーター・ワッツが怪我をして仕事を休んだが、ありゃ間違いなくわざとだな」

 土曜の夜の定期連絡にハリーが来なかったせいで朝までまんじりともせず起きていたワッツは、日曜の夜に足を滑らせて階段から落ちて頭を打った。

 医師の診断でしばらく安静が必要だと言われ仕事を休んで部屋で大人しくしているというが、リリアナとセオドアの所在確認の為の偽装工作だと踏んでいる。

「動くとしても病院しかいけないよね?」

「ああ、病院は近えが領地は遠すぎるからな」

 土曜日の午前6時に港で集合し船で離島に渡る予定なのでゲームに参加するなら、木曜日に王都を出発し前泊して港に向かうか、金曜日に王都を出発して土曜日の朝直接港に行かなければ間に合わない。

 ワッツの屋敷からリリアナが入院していた病院までは半日だが、片道3日かかる領地に向かうとステファン主催のゲームに間に合わなくなる。

 もっと早くに御者達を捕まえた時はハリーを説得して定期の連絡だけに行かせ、捕まえられなかった時は手持ちの犯罪の証拠だけで追い詰めるつもりだったが⋯⋯ケニス達がハリー達を最高のタイミングで捕まえた。

「メイルーンが来るのが確定してるゲームを外すわけにはいかんワッツとの勝負は今んとこ俺達に追い風が吹いてるが、凶暴性は確実に増してるから用心しねえとな」



 何も知らないピーター・ワッツは不安な気持ちを押し隠して予想通り月曜日の午後屋敷を出発しリリアナの病院を訪ねた。

 リリアナを連れ出すなら暗くなってからの方がいいだろうと考えていたワッツは院長の話の途中で怒鳴りはじめた。

『いないだと!? いつからだ、なぜ連絡してこなかった!』

 しどろもどろの言い訳をする院長の首を絞め床に投げ捨てたワッツは驚愕して立ち竦む職員を端から手にかけた後馬車に戻り頭を抱え込んだ。

『このタイミングで! くそっ、ハリーめ⋯⋯俺様に楯突いてタダで済むと思うな。こんな事ならもっと早い時間に来るべきだった。ハリーごときが俺様の裏をかくなど絶対に許すものか!』



 ハリーの話にあった8ヶ月くらい前にワッツに届いた手紙はおそらくメイルーンからのものだと予想している。

「ちょうどその頃メイルーンの持ってるランクル子爵領で大きな崩落事故が起きてるから大金が必要になったメイルーンがワッツを脅したんだろうな」

 サマネス枢機卿から聞いたらしい『ワッツ公爵家の悪魔とランクル子爵家の繋がり』を仄めかされて一度は大金を強請られたピーター・ワッツだが、ゲーム当日に金をもってこいと言われたのを『金の工面ができない』と言って断っている。

「ハリーに御者を捕まえさせたらイーブンにできると狙って断ったんだろうがなぁ」

 一度甘い汁を吸って調子に乗っていたメイルーンがワッツに頼みを断られて腹を立てていないわけがない。自分のいないところでメイルーンが何を言い出すかわからないワッツはこの状況でもゲームに参加しなければならない。



「早馬で領地に手紙を出すくらいしかできないって事なら⋯⋯飛脚便だと何日くらいで着くのかな?」

「あそこら辺の道は結構荒れてるから朝出しても2日はかかるだろうな。まあ、手紙より先に捕獲チームが仕事を終わらせるはずだから心配するこたぁねえよ」



「これからマシュー・ホッグスに会いに行ってきます」

 マシュー・ホッグスはハリー達の通り魔事件を記事にして干されたモーニング・グローの新聞記者。

 協力を求めた時かなり尻込みしていたホッグスは独占取材の契約と引き換えに協力する事になった。

「ホッグスは一番のキーマンだから絶対にヘマすんなよ」

 乱した髪とヨレヨレの平民服を着ていても貴族臭が抜けないケニスに不安を覚えたルーカスが声をかけた。

「はい、十分に注意して行ってきます」



 出かけて行くケニスを見送った後メリッサはルーカスに書類の束を渡しながら溜息をついた。

「一番心配なのはセオドアの捕獲チームだよね」

「大丈夫だと信じるしかねえだろうな。あれだけの人数を向かわせたんだ、ワッツの手紙が届くより先に行動できりゃこっちの勝ちだ」

 メイルーンや教会のためなら何でもやっていた過去と薬物を使用されている疑いがあるセオドアがどんな行動に出るか全く予測がつかない。

 使用人達がかなり屈強な者達だったと聞いたケニスは捕獲チームに『少しくらい手荒な真似をしてもいい』と言って送り出したと言う。

(あのワッツだからただ薬漬けにしてセオドアを放置していたとは思えん。洗脳くらいしてそうだとは思うが⋯⋯どんな風にそれをやってるのかが問題だよなぁ)

 少し前に現地調査に向かった者が『屋敷に全く近付けない』と報告してきたほど完全に孤立した屋敷は、外部との接触もなく唯一分かったのは週に一度近くの村の前を通り過ぎる荷馬車がいることだけ。

 捕獲チームには医師を同行させると共に腕力に自信のある者ばかりを選んだ。

「セオドアの頭ん中がどうなってるかわかんねえからな、善悪の判断ができなくされてて反撃してきたらある程度の怪我は覚悟しとかねえとな」

 誰ひとり傷つく事なく終わらせたいと願っているメリッサの気持ちを知っているルーカスがさりげない風を装いながら釘を刺した。

 領地の外れにある別荘にいる使用人や間取りなどの情報をハリーから聞き出し、全方向から包囲できるだけの人数を動員したがゲーム当日以外で唯一怪我人が出る可能性があるのがこのセオドア捕獲。

「使用人は結構腕の立つ奴らだったと言うしセオドアが素直に捕獲されるとも思えんから少しくらいの怪我は仕方ねえだろう」

 メイルーンの元で様々な悪事を働いていたセオドアには元から理性や常識が通用しない可能性が高い。

「できる限りの準備はしたけど⋯⋯怪我とかしないことを祈るしかないってことかぁ」

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