【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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58.レベルダウンして推理した結果

 平民でもそれなりに有名な商会の長と後継ふたりがいっぺんに事故死したことが公になれば司法解剖や現場検証は行われるに違いない。不審の目はステファンに集まり自身の将来に影を落とす可能性もある。

「そうなる前にメイルーンが上手いことやってくれりゃいいが、時間を食ってる間にゲームの勝者から商会をよこせとゴリ押しされるかもしれん。でも、俺を殺って遺産の権利を全て持ってるメリッサが行方不明になったら時間稼ぎができるだろ?」

 ゲームの勝者には全ての権利を持つメリッサが見つからないと手続きができないと言える。公には相続の権利があるのは行方不明のメリッサで自分がルーカスを手にかけても得にはならないと言い逃れられる。

「周りが落ち着いたら⋯⋯メイルーンが全てのカタをつけたらこっそりこの書類を使って資産を全部自分の口座に移してしまえばいいって事ね」

 ゲームの勝者が文句を言えば『行方不明のメリッサが悪い』と言って逃げられる⋯⋯メリッサは都合の良いゴミの押し付けられ役。

「ああ、それから暫くしてからメリッサの遺体が出たら名前だけの商会を渡して終わりだな」

「そんな事がうまくいくの?」

「いくわけねえじゃん⋯⋯どこから見てもぜんっぜん成功の気配も見えねえな。頭に虫が湧いてる間抜けレベルにランクダウンして考えた推理ってやつだな」

 ものすごく嫌そうな顔で鼻に皺を寄せたルーカスが口を歪めた。

「ス、奴の知ってる情報だけで考えても上手くいかねえ。商会長がいないなら事務長が代行するって規約で決まってんだろ。
それにメイルーンの権力を過信しすぎてるな。今のメイルーンとサマネス枢機卿は『実子問題』で教会から突き上げを喰らってる最中だしマルティン枢機卿が鵜の目鷹の目で見張ってるから派手なことはできねえ。しかも借金まみれだしな」

 結婚は成立していないしメリッサが持っているはずの権利は全てルーカスに委任している。ステファンがどこに駆け込もうとも誰も相手にしない不備だらけの書類。

「それになあ、もし俺が殺られてもとっくに遺言状は書き直してあるしな~。この件が片付く前に俺にもしものことがありゃその人んとこにぜ~んぶいくことになってるんだよ。クズテファンなんかには床に落ちた埃ひとつやるわけねえ。奴が払ってねえ金の回収も含めて完璧にやり遂げてくれることになってるぜ」



 ルーカスの話を聞いて少しホッとしたメリッサはハリーとの話し合いのためにケニスの家に行くことにした。

「んじゃ、メリッサ行こうか。今日は遅くなると思うからうちに泊まると良いよ」

「いや、それはマズいって。帰れるから大丈夫」

「はっ! ラインフェルト伯爵家に泊まったりしたら貞操の危機だからな! 絶対に帰ってこい」

 ケニスの言葉で気合の入ったルーカスが慌てて横槍を入れた。

「う~ん、確かに種切れで打ち止めで干上がってるおじさんとは違いますからねえ⋯⋯でも、初めては結婚式の後って決めてるから大丈夫です! 俺、結構順番は守りたい方なんで先にお腹が大きくなるとかはちょっと」

「は! 童◯野郎の『決めてる』ほど当てにならんものはねえんだよ! エロいこと考える暇があんなら夜な夜な帳簿の確認でもしやがれ! メリッサは絶対帰ってこい、じゃなきゃ明日から糸電話だからな」



 叫び続けるルーカスにヒラヒラと手を振って店を出たメリッサとケニスは馬車に乗り込んだ。

「思ったより遅くなったから本当に泊まっていけばいいよ。母上がおられるから心配なんてないからね」

「さっきの様子だと父さんが怒鳴り込んできそうだからやめとく⋯⋯多分ね」

 ハリーの様子次第だと言ったメリッサは伯爵邸に着くまで窓の外を眺めていた。



「お帰りなさいませ。メリッサ、ようこそおいでくださいました」

「こんな時間にお伺いしたのにこの後少し時間がかかるかもしれないの。ごめんなさいね」

「朝まででも来年まででもその先まででもごゆっくりなさって下さいませ」

 執事のエマーソンの冗談に笑ったメリッサが『そうね、厨房以外の仕事ならなんとなるかも』と言ってケニスに肩を叩かれた。

「エマーソンが言ったのは就職の話じゃないからね。さあ、まだ正気を保ってると信じて急ごう」



 初めて足を踏み入れた時は余裕がなくて気付かなかったが伯爵家の地下牢は話に聞いていた通りにいくつもの部屋に分かれていた。

「まだ空き部屋がいっぱいね、地下牢ってこんなにたくさん部屋があるものなの?」

「ここが満室になったら泣けてきそうだけど、元々は父上の趣味の部屋だったんだ」

「あ~、納得」

 ケニスの父親は多趣味な上に骨董品の蒐集家だったのはこの辺りでは有名な話。喪が明けて一番にマーサがした事と言えば全ての『ガラクタ』を処分する事だった。

『目利きもできないくせに見栄を張って高値で買った偽物ばかりだから邪魔で仕方ないのよ』

 そんな部屋を改造して作った地下牢の為物語にあるような湿気やカビ臭い匂いもない快適(?)な空間だった。

(てっきりリリアナが騒いでるのかと思ったけどすごく静かね)

 ヒューゴとサリナはそれぞれのベッドに寝転んでいて足音がしても振り向きもしない。一番奥の牢の前に立つとガチャガチャと音がしてリリアナが柵にしがみついた。

「やっぱり迎えにきてくれたのね! 今日の事は許してあげるから早く鍵を開けてちょうだい」

「今のところ君と話す事は何もないから黙っててくれ⋯⋯ハリー、君に話があるんだが?」

「⋯⋯」

 ベッドに座って俯いたままピクリとも動かないハリーに向かって『ふんっ!』と鼻を鳴らしたリリアナがメリッサを睨みつけた。

「ま~たおばさんが邪魔しにきたのね! あ~、分かった。こんなとこにアタシを入れたのもそこの煩いおっさんもアンタの仕業ね。ケニス~、そんなおばさんなんてほっといてアタシと話しましょうよ~。
そこのおっさんったら朝からすっごく煩かったのよ~、あれこれ訳のわかんない事言い続けてさぁ。口を開くなって怒鳴ってや⋯⋯」

「リリアナさんこそ口を開くのをやめなさい! 真面にひとの言葉を理解できるようになるまで黙ってらっしゃい」

 メリッサの大きな声にサリナとヒューゴが飛び起きた。

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