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69. あと2日、焦るケニスと肖像画
木曜日、ゲーム開始まであと2日。
火曜日に王都を出発したメリッサが心配でたまらないケニスは見張りから連絡が来るのを今や遅しと待ち構えていた。
「少しは落ち着け、床がすり減って穴が開きそうだぜ」
賭けのメンバーが護衛や使用人達と一緒に出発するたびに商会に連絡が入り、最後のひとりが出発したのはお昼少し前。
「全員無事に出発したみたいですし俺達もそろそろ出発しましょう!」
最後のひとりが出発したと聞いた途端ケニスが鞄を手にした。
「慌てるなって、急ぎすぎて奴らを追い越したらマズイだろ」
メンバーの誰かが引き返しはじめた時の為に少し離れて後を追うと決めたルーカスとケニスだが火曜日から一睡もできていないケニスは血走った目を吊り上げて溜息をついた。
「この部屋の時計止まってません?」
のんびりと椅子に座って書類を読んでいるルーカスはこの1時間ずっと同じ書類を眺め、イライラと部屋を彷徨くケニスは溜息をついたり独り言を言ったりしてはルーカスに煩がられた。
「心配なんですよ! あ~、やっぱり先に行かせるんじゃなかった。一緒でも良かったですよね! メリッサが先に行くなら俺も行けば良かったんだ。しんがりはおじさんひとりでも十分でしたよね!」」
「ば~か、お前をメリッサと行かせたら別の心配をしなきゃならんだろうが!?」
「はあ?」
「ケニスみてえなクソ真面目な奴は『危険なゲームで何かあったら』とか『今日が最後かも』とか口実作りそうじゃねえか。うちの能天気なおバカメリッサは野獣のそばでもヘソ天で昼寝する奴だからな!」
「へ? あ⋯⋯あれはその」
昔の記憶を思い出したケニスが顔を赤くした。
メリッサとミゲルの婚約が決まる少し前⋯⋯当たって砕ける覚悟でメリッサの家に駆け込んだケニスは呑気に庭のベンチで眠っているメリッサを見つけた。ケニスが思わず手を触れようとした時異様な冷気が背後から⋯⋯。
『な~にやってるのかな~? 坊ちゃんよお、海に沈められてえか!?』
ケニスの不満が爆発しそうになった頃ようやくルーカスが腰を上げた。
「さ~て、奴らに見つからねえように移動しねえとな。途中で殺られたら今までの苦労が水の泡だぜ」
張り詰めた部屋の空気の中で微動だにしないで壁際に立ち尽くしていたハリーが真剣な顔で頷いた。髪を切り身だしなみを整えたハリーはケニスの古い服を着て目元が隠れるくらい深く帽子を被っている。
ハリーが小さな鞄を持ち上げるとルーカスが『よし!』と気合を入れて立ち上がり使い込んだ鞄を手に歩きはじめた。
部屋のドアに手をかけたルーカスがチラッと振り返り長年使っている部屋を眺めながら少し目を細めた。
(我が家のじゃじゃ馬姫に縄をつけて連れて帰るからな。それにしてもよお、アイツはお前そっくりに育ったと思わねえか?)
壁に飾られた夫婦と生まれたばかりの赤ん坊の肖像画に向かってルーカスが小さく頷いた。
島に運ぶ荷物の最終確認を終えたメリッサは港湾事務所に顔を出していた。
「明日は10時から積み込みをはじめて東の浜に天幕とソファやらテーブルやらを運び込むんですね」
所長の顔には『酔狂な奴らだ』とはっきり書かれている。
「貴族だの教会関係者だから⋯⋯」
「ああ、それなら仕方ないですねえ。しかしあんな無人島で何するんですか?」
「余暇の暇つぶしって感じじゃない? ほら、平民とは感覚が違うから」
メリッサが困ったように苦笑いを浮かべると思い当たることがあるらしい所長は大きく頷いた。
「ああいう雲の上のお方はワシらとは金銭感覚も時間の使い方も違っておられますからなあ」
「そうなの、準備不足だと何を言い出すか⋯⋯あ、今のは聞かなかったことにしてね」
「ええ、もちろんですとも。ワシの耳はちゃ~んと必要なことだけを聞き取るようにできとりますからな。で、荷物の設置もやるって事で合ってますか?」
「手伝いの人がまだ来れなくて⋯⋯別料金で支払うのでお願いできますか?」
「了解です、税金がまた上がりましたから荷運びで料金が上乗せになりゃ皆喜びますよ。
で、明後日なんですが⋯⋯船は全部で4艘、そのうちの2艘を使って夜明け前にメリッサさん達と食料品を運んだ後ルーカス様の指示で集まった貴族の方々を2艘で運びはじめるのが午前6時⋯⋯乗り切れない時はピストン輸送していいと。で、その方々が帰られる午後4時まで待機の予定でいいんでしたよね」
「ええ、気紛れな人達ばかりだから帰りの時間は状況によって変わるかもしれないって伝えてくれるかしら。残りの船は父さん達が全員出発し終わるまでバレないように気をつけてね」
自分たちのお楽しみのついでに洞窟のチェックをする事がバレて『見に行きたい』などと駄々を捏ねられたら面倒になるから秘密だと伝えてある。貴族を波の荒い場所に連れて行って何かあったら⋯⋯船酔い程度の事でも⋯⋯どんな難癖をつけられるかわからないからとメリッサが言うと、所長も船長も大きく頷いた。
「了解です。後からの船に乗る方達の指揮を取られるのはメイソンさんでしたっけ?」
「ええ、その方が数人の部下を連れてくることになってるんだけど大丈夫かしら?」
船を停泊させる西の漁港はしばらく使っていないだけで何の問題もないがメイソンが船を停泊させるのは北の断崖で、波の荒い場所にかなりの時間停泊させる可能性がある。
「あの辺りはいい漁場なんでこの辺りに住んでる奴らなら皆慣れてるから何の心配もいらんですよ」
港湾事務所の所長は深い皺が刻まれ日に焼けた顔を綻ばせた。
北の断崖には地元の人だけが知っている小さな洞窟がある。上からは大木に塞がれて見えないが干潮の時間帯にだけ現れる穴場のような場所で、洞窟の前は入江になっているので波が結構高く腕のいい船乗りしか近付かない。
所長と後から参加する2艘の船長には内密に洞窟探索したいと伝えてあるが、それ以外の船の持ち主や船員には無人島に人や物を送り迎えする仕事だとしか伝えていない。
「じゃあ明日の10時前にここに顔を出すわ。何か問題があれば宿屋にいるから何時でも声をかけて下さいね」
ペコリと頭を下げたメリッサが事務所を出ようとすると所長が慌てて『宿に送る』と言い出した。
「もう遅いですからね、こんな時間の独り歩きは物騒だ。商会長にケツを蹴り上げられちまいますよ」
火曜日に王都を出発したメリッサが心配でたまらないケニスは見張りから連絡が来るのを今や遅しと待ち構えていた。
「少しは落ち着け、床がすり減って穴が開きそうだぜ」
賭けのメンバーが護衛や使用人達と一緒に出発するたびに商会に連絡が入り、最後のひとりが出発したのはお昼少し前。
「全員無事に出発したみたいですし俺達もそろそろ出発しましょう!」
最後のひとりが出発したと聞いた途端ケニスが鞄を手にした。
「慌てるなって、急ぎすぎて奴らを追い越したらマズイだろ」
メンバーの誰かが引き返しはじめた時の為に少し離れて後を追うと決めたルーカスとケニスだが火曜日から一睡もできていないケニスは血走った目を吊り上げて溜息をついた。
「この部屋の時計止まってません?」
のんびりと椅子に座って書類を読んでいるルーカスはこの1時間ずっと同じ書類を眺め、イライラと部屋を彷徨くケニスは溜息をついたり独り言を言ったりしてはルーカスに煩がられた。
「心配なんですよ! あ~、やっぱり先に行かせるんじゃなかった。一緒でも良かったですよね! メリッサが先に行くなら俺も行けば良かったんだ。しんがりはおじさんひとりでも十分でしたよね!」」
「ば~か、お前をメリッサと行かせたら別の心配をしなきゃならんだろうが!?」
「はあ?」
「ケニスみてえなクソ真面目な奴は『危険なゲームで何かあったら』とか『今日が最後かも』とか口実作りそうじゃねえか。うちの能天気なおバカメリッサは野獣のそばでもヘソ天で昼寝する奴だからな!」
「へ? あ⋯⋯あれはその」
昔の記憶を思い出したケニスが顔を赤くした。
メリッサとミゲルの婚約が決まる少し前⋯⋯当たって砕ける覚悟でメリッサの家に駆け込んだケニスは呑気に庭のベンチで眠っているメリッサを見つけた。ケニスが思わず手を触れようとした時異様な冷気が背後から⋯⋯。
『な~にやってるのかな~? 坊ちゃんよお、海に沈められてえか!?』
ケニスの不満が爆発しそうになった頃ようやくルーカスが腰を上げた。
「さ~て、奴らに見つからねえように移動しねえとな。途中で殺られたら今までの苦労が水の泡だぜ」
張り詰めた部屋の空気の中で微動だにしないで壁際に立ち尽くしていたハリーが真剣な顔で頷いた。髪を切り身だしなみを整えたハリーはケニスの古い服を着て目元が隠れるくらい深く帽子を被っている。
ハリーが小さな鞄を持ち上げるとルーカスが『よし!』と気合を入れて立ち上がり使い込んだ鞄を手に歩きはじめた。
部屋のドアに手をかけたルーカスがチラッと振り返り長年使っている部屋を眺めながら少し目を細めた。
(我が家のじゃじゃ馬姫に縄をつけて連れて帰るからな。それにしてもよお、アイツはお前そっくりに育ったと思わねえか?)
壁に飾られた夫婦と生まれたばかりの赤ん坊の肖像画に向かってルーカスが小さく頷いた。
島に運ぶ荷物の最終確認を終えたメリッサは港湾事務所に顔を出していた。
「明日は10時から積み込みをはじめて東の浜に天幕とソファやらテーブルやらを運び込むんですね」
所長の顔には『酔狂な奴らだ』とはっきり書かれている。
「貴族だの教会関係者だから⋯⋯」
「ああ、それなら仕方ないですねえ。しかしあんな無人島で何するんですか?」
「余暇の暇つぶしって感じじゃない? ほら、平民とは感覚が違うから」
メリッサが困ったように苦笑いを浮かべると思い当たることがあるらしい所長は大きく頷いた。
「ああいう雲の上のお方はワシらとは金銭感覚も時間の使い方も違っておられますからなあ」
「そうなの、準備不足だと何を言い出すか⋯⋯あ、今のは聞かなかったことにしてね」
「ええ、もちろんですとも。ワシの耳はちゃ~んと必要なことだけを聞き取るようにできとりますからな。で、荷物の設置もやるって事で合ってますか?」
「手伝いの人がまだ来れなくて⋯⋯別料金で支払うのでお願いできますか?」
「了解です、税金がまた上がりましたから荷運びで料金が上乗せになりゃ皆喜びますよ。
で、明後日なんですが⋯⋯船は全部で4艘、そのうちの2艘を使って夜明け前にメリッサさん達と食料品を運んだ後ルーカス様の指示で集まった貴族の方々を2艘で運びはじめるのが午前6時⋯⋯乗り切れない時はピストン輸送していいと。で、その方々が帰られる午後4時まで待機の予定でいいんでしたよね」
「ええ、気紛れな人達ばかりだから帰りの時間は状況によって変わるかもしれないって伝えてくれるかしら。残りの船は父さん達が全員出発し終わるまでバレないように気をつけてね」
自分たちのお楽しみのついでに洞窟のチェックをする事がバレて『見に行きたい』などと駄々を捏ねられたら面倒になるから秘密だと伝えてある。貴族を波の荒い場所に連れて行って何かあったら⋯⋯船酔い程度の事でも⋯⋯どんな難癖をつけられるかわからないからとメリッサが言うと、所長も船長も大きく頷いた。
「了解です。後からの船に乗る方達の指揮を取られるのはメイソンさんでしたっけ?」
「ええ、その方が数人の部下を連れてくることになってるんだけど大丈夫かしら?」
船を停泊させる西の漁港はしばらく使っていないだけで何の問題もないがメイソンが船を停泊させるのは北の断崖で、波の荒い場所にかなりの時間停泊させる可能性がある。
「あの辺りはいい漁場なんでこの辺りに住んでる奴らなら皆慣れてるから何の心配もいらんですよ」
港湾事務所の所長は深い皺が刻まれ日に焼けた顔を綻ばせた。
北の断崖には地元の人だけが知っている小さな洞窟がある。上からは大木に塞がれて見えないが干潮の時間帯にだけ現れる穴場のような場所で、洞窟の前は入江になっているので波が結構高く腕のいい船乗りしか近付かない。
所長と後から参加する2艘の船長には内密に洞窟探索したいと伝えてあるが、それ以外の船の持ち主や船員には無人島に人や物を送り迎えする仕事だとしか伝えていない。
「じゃあ明日の10時前にここに顔を出すわ。何か問題があれば宿屋にいるから何時でも声をかけて下さいね」
ペコリと頭を下げたメリッサが事務所を出ようとすると所長が慌てて『宿に送る』と言い出した。
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