【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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68.あと3日、セオドア捕獲チーム

 水曜日、ゲーム開始まであと3日。

 セオドア捕獲チームがワッツ公爵領の別荘の近くに到着した。

「ずいぶん辺鄙なとこですね」

「これだけ周りに人がいないなら何をやってもどれだけ騒いでもバレないよな」

 最後に通り過ぎた村は雨風で傷んだ家が肩を寄せ合うように固まって建ち疲れはてた村人が畑を耕していた。その村から約2時間走った整備されていない道には轍の跡はほとんどなく、セオドアを監禁している別荘がその道の突き当たりに建っているのが見えた。

「あれじゃあ近づくこともできませんね」

 屋敷の近くには身を隠せる場所もなく陽のあるうちに少しでも近づけば確実にバレてしまうだろう。偵察を諦めて夜になるのを待ち捕獲チームが動きはじめた。

「先生はここで待機していてください」

「分かった、気をつけて行くんだぞ」

 医師と護衛を残して黒装束に身を包んだメンバーが徒歩で屋敷に近付いていった。



 あちこちに雑な修理を施したように見えた背の高い柵は近くで見ると危険な鉄条網がびっしりと張り巡らされ忍び返しまで設置されていた。

 ゴロゴロと転がる小石と雑草しかない庭に囲まれた2階建ての屋敷はかなりの年代物らしく半分以上が蔦に覆われ、壁に入った亀裂が月明かりに照らされると屈強な捕獲チームの面々でさえ顔を強張らせるほど異様な雰囲気に包まれていた。

 全ての窓のカーテンがしまっており、灯りがついているのは2階の一室のみ。屋敷の裏は手を入れた気配のない雑木林が暗い影をゆらめかせていた。

 何年も人を監禁するのにこれほど適した場所はないだろうと思える佇まいに捕獲チームのメンバーは顔色をなくした。

(一体何の為に建てたんだよ!?)

「バサバサって蝙蝠が飛び出しても不思議じゃないですね」

「大広間に祭壇とかありそうじゃね?」

「入った途端大時計がゴーンゴーンとか鳴ったり?」

 緊張をほぐそうとして軽口を叩き合うメンバーが頬をゴシゴシと擦って気合いを入れた。

 柵に沿って歩き雑木林と接する辺りに鉄でできた両開きの裏門を見つけたが鍵穴一つついていない。

 比較的鉄条網が古くなっている箇所を選んでボルトカッターで慎重に切り開いていったが、人ひとりが通れるくらいになるまでにかなりの時間がかかり忍び込んたメンバーが屋敷を包囲するころには2階の灯りも消えていた。

 屋敷の入り口は正面玄関と使用人用の裏口のみでテラスはなく窓は金網で補強される徹底ぶり。



「さて、やりますか!」

 玄関と裏口にダイナマイトを設置しシリンダーを持つコルトリボルバーやミエニー銃を構えた者と大剣や巨大なハンマーを構えたメンバーが並んで合図を待った。

 甲高い鳥の鳴き声に似た指笛が響くと同時にダイナマイトに火がつけられ、大きな衝撃音と共にドアと周りの石壁が崩れ落ちた。

 口元を覆ったメンバーがもうもうと上がる砂煙の中に飛び込むと正面の階段の上から何発もの銃声が聞こえてきた。

 ハリーから聞いている使用人の数は4人、正面から入ってきた捕獲チームとの派手な銃撃戦に彼らの注意が集まっている隙を狙い裏口から入ったメンバーが使用人用の裏階段を駆け上がっていった。

 中途半端に開いたドアの前を走り抜け最後まで灯りがついていた部屋に向かったのは6人。ふたりがドアに張り付きもうふたりが見張りに立つと残ったふたりがドアにつけられている3ヶ所の鍵をめがけて交代でハンマーを振り下ろした。

 音に気付き銃を構えて駆け込んできた使用人の足元に銃弾を打ち込み怯んだ隙に剣で切り掛かった。

 ドアノブごと鍵が落ち斜めに傾いで開いたドアから中の様子を伺うと、部屋の真ん中にぼんやりと佇むパジャマ姿の青年が見えた。

「セオドアか?」

 ギシギシと音を立てるドアの陰から声をかけたが青年は返事をする様子も隠れる様子もなくただ立ち尽くしている。階下からは銃が乱射される音や怒鳴り声が聞こえているのに薄暗がりに立つ青年は特に気にした様子もない。

(手には何も持ってないが⋯⋯)

「ハリーの依頼で迎えにきた。セオドアなら返事をしてくれ!」

「ハリー?」

 無表情で立ち尽くす青年がぽそりと呟きながら一瞬だけ背中に回した右手にはダガーが握られていた。

(はあ~、マジかよぉ⋯⋯やっぱりそう簡単にはいかねえか)

「俺達は敵じゃない、ハリーとリリアナにセオドアを連れてきて欲しいと頼まれたんだ」

「ハリーとリリアナ⋯⋯俺の⋯⋯敵⋯⋯メイルーンの手先⋯⋯殺す⋯⋯」

 部屋の中の青年⋯⋯セオドアが腰を落としダガーを構えた。

「両親の仇⋯⋯ピーター様の敵を⋯⋯」



 1階の喧騒とは真逆の張り詰めた静けさの中に大剣を持ったリーダーが部屋に足を踏み入れた。

「投擲用のダガーなら他にも隠し持ってるって事だよな。ワッツの使用人に習ったみたいだがこの距離で投げても攻撃力はねえし、毒は効かねえからな」

 無言のセオドアが右足を一歩前に出すと同時に右手のダガーを振り抜きざま投げつけてきた。それと同時に部屋に駆け込んだリーダーが大剣を振り下ろしセオドアの左手に現れたレイピアを叩き折った。



「ハリーからの伝言だが『クラッカーを食べすぎるなよ』ってお前なら意味は分かるか?」

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