【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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70. あと1日、メンバーの到着

 金曜日、ゲーム開始まであと1日。

 ルーカス所有の無人島に最も近い港街グールズベール。昔はそれなりに栄えていたが船舶が大型化するに従い寂れる一方で、収入が激減した船乗り達は別の街に移住したり別の仕事を探したり⋯⋯。

 今回の計画のために貸切にした街一番の高級宿に賭けのメンバーが続々と集まってきた。

 1番に乗り込んできた銀縁眼鏡のチャールズ・ソーンはソーン子爵家の次男でいまだに第二階級の裁判官。金に目がない⋯⋯いわゆる守銭奴で商会を手に入れる為に一番張り切っている。

 第二階級とは裁判官の職級の中で最も下のランクでソーンは上司による職務評価が低く昇進が見送られてばかりいた。

(このゲームでモートン商会を手に入れたら裁判官なんて辞めて上司に一泡吹かせてやる!)

 2番目に宿に着いた小太りのジャック・マートンはマートン男爵家の三男で事務弁護士。ベルトの上に乗った腹が邪魔で使用人に靴下を履かせてもらっている怠惰な男。

 人を見下した態度で依頼者を怒らせる事が多く、雑な仕事で弁護に支障をきたすと法廷弁護士から敬遠されている。

 最近また大口の顧客を怒らせてしまい退職勧告を受けた。

(毎日つまんねえ話ばかり聞かされて飽きてたんだよな~、ここで勝って賞品を手に入れたらその金で法廷弁護士にチェンジするのも悪くねえかもな)

 3番目に到着したのは猫背のピーター・ワッツ。受付で『メイルーンが到着したら教えろ』とだけ言ってすでに到着しているソーンやマートンは無視したままさっさと部屋に篭ってしまった。

 4番目は刺繍男のネイサン・グルーヴでグルーヴ伯爵家ニ男。自身は法律家よりも芸術家が向いていると信じている自信過剰男。

 ひとつの事務所を同業の法廷弁護士仲間と共用し事務員や運営費を分担し合っているが、極端に依頼が少なく忙しそうにイキイキと働く仲間に不満を抱いてばかりいた。

(無人島だなんて虫だの塵だの凄そうでコークって馬鹿じゃないのかなぁ。俺の新しいテール・コートがダメになったら責任を取ってもらわないとな⋯⋯モートン商会を手に入れたら事務所を開設⋯⋯仕事なんてきっぱり辞めて作曲とかしようかなあ⋯⋯)

 最後に現れたつもりのジョージ・メイルーン司祭は聖職者だと知られないためなのか濃紺のテール・コートと花模様を刺繍したベスト姿。スリムなトラウザーズに華やかなスカーフを結び艶やかなグレーのシルクハットと柄の部分に宝石が埋め込まれたステッキを持っていた。

(私の出迎えもしないとはなんとも偉そうな奴らだね。まあ、明日には神の元に旅立つ者達だし寛大な気持ちでいてやろう)

 ゲームの開催を提案したステファンは堂々と最後に現れ馬車の中で空けた前祝いのシャンパンのせいで赤い顔をしていた。



 天幕やテーブルなどの設置が終わった後メンバーの到着をこっそりと確認したメリッサは街の外れでひとりの男と密会していた。

「ご連絡をいただいて心から感謝しております! もうお会いできないんじゃないかとあの日の態度を後悔しておりました」

 満面の笑みでメリッサの両手を掴んだのは⋯⋯⋯⋯ ロジャー・マルティン枢機卿。

(子犬なら確実に尻尾を振っているよね)

「あまり時間がないので単刀直入に申し上げます。私はマルティン枢機卿を信じておりません。どなたの指示で動いておられるのか存じませんし知りたいとも関わりたいとも思っておりません」

 メリッサのキッパリとした拒絶にマルティン枢機卿がガックリと肩を落とした。

「⋯⋯やはり、そうですよね。全くご連絡がありませんでしたしこちらからの面会希望も断られてばかりでしたから、猜疑心やら見栄で初手を失敗したと反省しています」

「今後マルティン枢機卿に協力するつもりは一切ないとお伝えした上でお聞きしますが、ジョージ・メイルーン司教の悪事を暴けるとしたらどうされますか?」

「どうと言われますと?」

 落ち込んでいたマルティン枢機卿の頭の上に山盛りのクエスチョンマークが飛び交った。

「もし仮にメイルーンの悪事を公にできたとしてもサマネス枢機卿はメイルーンを切り捨てるだけでマルティン枢機卿の役には立たないかもしれませんが、それでも手伝いたいと思われるかどうかをお聞きしております。
因みに、聞いてから決めるとか手伝わないけれど知りたいと言うのはお断り致します」

「もちろん手伝います! いえ、手伝わせて下さいお願いします」

 メリッサはコロコロと変わるマルティン枢機卿の表情に絆されそうになる気持ちを引き締めた。

(この人と深く関わるのは危険だから言葉尻を捉えられることだけはしないように気をつけなくちゃ)

 マルティン枢機卿がどこで誰と繋がっているのか完全にわかっているわけではないが、ルーカスの調査で浮かんだ人物との関わりは絶対に回避したい。

 その人物⋯⋯フィンリー第二王子は政治には無関心な享楽主義者として有名で、外遊・外交と称しては他国にふらっと出かけてポロの試合に参加したりヨットレースで怪我をしたりと醜聞を撒き散らしている。

『奴は腹に一物ありってやつだな。遊び呆けてるようにしか見えねえし上手く誤魔化してるつもりだろうが、付き合う連中を並べたら面白い事が分かってきた』

 教会の傀儡になりきって顔色を窺ってばかりいる歴代の国王や議会と、優秀だが反発する勇気が持てない気の弱い第一王子の陰で反プレステア教を掲げる国の高位貴族達と交流を深めている第二王子。

(王家と教会の争いに巻き込まれるのはお断りだもんね)

「この件で出てくる問題のうちのどれかがマルティン枢機卿や指示・共闘しておられる方の利害に抵触したとしても意見を翻さないと確約することはお出来になられますか?
状況によっては⋯⋯意見を変えざるを得ないかも・これは流石に・忖度するせざるを得ない等々、ほんの僅かでも一部分でも傍観者や敵になられる可能性がおありなら協力をお願いすることはできません」

「⋯⋯約束します。この生命にかけて決して約束を違えない」

 真っ直ぐな目で見つめ返したマルティン枢機卿をメリッサは信じると決めた。

「分かりました。では、明日の朝2時に港へいらしてください。持ち物は身分を証明できる物と目立たず所持できる武器をお持ち下さい。同行者は従者のエリオット様とデクスター様のみで、他の方々はご遠慮下さい⋯⋯危険な状況になる可能性がありますからお二人をお連れになるなら身を守る術は必須だとお伝え下さいね。それからエリオット様達にもマルティン枢機卿と同じお約束をしていただけないなら同行はお断りしますからね」

「従者の⋯⋯エリオット達の事もご存知なんですか!?」

(エリオットとデクスターはマルティン枢機卿の影武者を務める2人で護衛役でもあるって聞いてるから多分大丈夫なはず)



「商人は情報と信頼が武器ですから」

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