【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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72.ゲーム当日、午前2時

 土曜日、ゲーム当日。

 午前2時、真っ暗な港の入り口ではランプの灯りに照らされた6人の男とメリッサが対峙していた。

「マジかよ~」

 笑いを堪えたルーカスが頭を掻きながら呟いた。

「だって、木は森に隠せって昔から言うでしょ?」

 呆然としているケニスと何が起こってるのかわからず全身を緊張させて身構えたハリーがメリッサの顔を見つめていた。

 嬉しそうに(目には見えない)尻尾をブンブンと振っているのはロジャー・マルティン枢機卿で、ハリーと同じくらい緊張しているのは従者のエリオットとデクスター。

「マルティン枢機卿達は参加させねえって決めたのによお」

 背後関係を調べた時点でルーカス達はマルティン枢機卿との共闘は危険だと判断した。

「マルティン枢機卿と従者のおふたりなら自分の身くらい守れるはずだし、他に適当な人が思いつかなかったから仕方なかったのよね~」

 メリッサが『急だったから』と言うとルーカスがお腹を抱えて笑い出した。

「す、枢機卿を⋯⋯急だったからとか仕方ないとか⋯⋯メリッサ、適当すぎんだろ!?」

「急な?⋯⋯ああ、そう言うことか。失礼すぎる気はするけど⋯⋯この場合俺はナイスチョイスだとかありがとうって言わないとマズいんだよね」

 ケニスを守るためにメリッサが敢えてマルティン枢機卿に連絡を取ったと気付いたケニスは申し訳なさそうな顔でマルティン枢機卿に向かって頭を下げた。

「恐らく急なご連絡を差し上げたのだと思いますが、ご協力に心から感謝致します」

「こちらこそ、失礼な態度をとった私に声をかけていただきとても嬉しく思っています。どうかケニス殿も皆さんもロジャーとお呼び下さい」

 ケニスに声をかけられてますます勢いよく(目には見えない)尻尾を振ったマルティン枢機卿⋯⋯ロジャーがケニスの両手を握りしめた。

「詳細というかこれから起きることとかはまだ何も話してないし、今回何があっても今後協力することはあり得ないって確約してもらってるからみんなそれを忘れないでね」

「ぶはっ! お前、よくそれで協力してもらえたよな」

「やっぱりメリッサだよ~」

「だってマルティン枢機卿⋯⋯いえ、ロジャーさんはケニスがいれば参加するって言いそうな気がしてたから、大丈夫かなぁって」

「「「⋯⋯」」」

「⋯⋯よくわからん理屈だがメリッサだからな。お、みんなが集まってきたみたいだぜ」

 何度か顔を合わせたことのある船長達がゾロゾロと港にやってくるのが見え、荷物の積み込みがはじまった。

 メリッサ以外の男性全員で2艘の船に荷物を積んでまだ暗い海に漕ぎ出した。月明かりに照らされた海は波が起きるたびにキラキラと輝き、ギシギシと軋む音が眠気を誘う。

 メリッサが船尾に立って滑るように海の上を進む船が港から離れていくのを眺めているとケニスがやって来て後ろから抱きしめてきた。

「人妻(偽)なんだけど⋯⋯今だけ特別サービスね、島に着いたらメインイベントがはじまるまで仮眠してくれないと何かあった時『助けて』って言えなさそうな顔してる」

「メリッサに会えてホッとしたよ。ひとりで長距離の移動をするなんて心配で生きた心地もしなかった」

「心配してくれてありがとう。この通り私の方はすっごく元気だからね」

 20分程の船旅で島の港に辿り着き荷物を下ろし整備されていない道をゆっくりと歩いて行った。



 昨日のうちに設置した天幕はマルキーと呼ばれるテントで4本の支柱などの枠組みを組み立て屋根をつけた物で『将校用のテント』とも言われている。砂浜の両サイドに離して設置したのはお貴族様用と使用人用だから。

 手前の天幕には高さのある長テーブルが置かれ端にスツールが積み上げられているだけのシンプルな物で、賭けのメンバーが連れてきた戦闘要員達の為のもの。

 奥に設置された天幕には2人掛けとひとり掛けのソファが4つずつ、広いローテーブルがふたつ。天幕の端には人の背丈くらいまで積み上げた木箱があり反対側に給仕用のサイドテーブルや細々とした備品が置かれていた。

「ソファの数が多すぎないか?」

「あの人達って仲が悪そうだな~って思ったのよね」

「あ~、納得」



 船長達が手を振ってルーカスと共に船に戻ると残ったメンバーはかなり早めの朝食の準備をはじめた。

「メリッサ様、そろそろ教えてもらうことはできませんか?」

 意外なほど器用に準備を手伝っているロジャーが手を動かしながら声をかけてきた。

「えーっと、どこから話したらいいのかわからないほど説明する事がたくさんありまして⋯⋯」

 前置きをしたメリッサがステファンとの出会いから今までの事を簡潔に説明しはじめた。

「⋯⋯っていう感じでですね。続きは食べながらにしましょう、早く食べちゃわないとこの後の計画を説明する時間がなくなっちゃいますからね」

 話の途中から呆然として手が止まっているロジャー達を席に座らせて話を続けながら食事をはじめたメリッサ達。

「ロジャー、彼らが来たらこき使われて水も口にできないと思うから早く食べて下さい。途中で倒れても助ける余裕ないですから」

 慌ててフォークを手にしたロジャー達が食事をはじめた。



「で、ロジャー達3人に声をかけたのは敵の目を逸らすための偽装工作要員とか欺瞞工作要員です。彼らの目に留まるところでチラチラしてもらえたら十分だと思っています」

「ゴホッ、ゲホッゲホッ! そ、それはどういう意図が?」

 重要な役目があるのかと身構えて話を聞いていたロジャー達が食べかけていた料理を喉に詰まらせた。

「箱に詰められたチョコレートをイメージして貰えば⋯⋯トリュフチョコレートやプレーン、アーモンド入りとか。色々あると選ぶのに迷う、アレを狙ってます」

 ますます意味がわからなくなったロジャー達がポカンと口を開けたまま首を傾げると、ケニスとハリーが苦笑いを浮かべた。

(この国で枢機卿をチョコ扱いできるのはメリッサくらいだよ)

 ケニスがメリッサの顔を覗き込んでウインクした。

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