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85.何よりも恐ろしい『糸電話』
ずっと無言だったワッツがゲラゲラと笑い出した。
「結婚してねえってか? しかも、商会もなんも持ってねえ貧乏人? 昔から馬鹿だったがそれ以上に抜けてんじゃねえか。
は~、馬鹿馬鹿しい。なあ、グダグダ言ってねえでさっさと医者に連れてけよ。こんな茶番なんか、くだらねえ。どうせサマネスが全部もみ消して終わりだろ? だよな?」
太々しい態度で言い放ったワッツだったが、傷がかなり痛むのか顔を顰めて身じろぎした。
「それはどうかなぁ? 教会もそうだけど王家や議会も一枚板とは言えないし⋯⋯まあ、さっさと引き上げて結果を見てみるって言うのは僕も賛成だね。
ねえメイルーン、父親の愛がどこまで通用するのか知りたくない? 偉大なる父上は『僕ちゃんのオイタ』をどこまで許して助けてくれるかな?
確かこの間、パパンから頼まれた資金提供を断って『役立たず』って叱られたんじゃなかったっけ? 『お前の立場を買うための金なのに!』って言われたんだよね?
お前の為だから⋯⋯お金がないなら真珠を寄越せって言われて、大喧嘩になったんだよね~。んで、パパンは仕方なく商会から借金したんだよね~」
ロジャーが本物のマルティン枢機卿だと分かってからというもの、真っ青になっていたメイルーンがヒックヒックと子供のように泣き出した。
「そうだ、知ってる? もう直ぐサマネスには2人目の隠し子が産まれるんだよ。いや~、あの歳で頑張るなぁ。ってかさぁ、その子が男の子ならメイルーンの立場ってどうなるのかなぁ? 父親は女の子の方が可愛いとか言うし~? サマネスは手間もお金も掛かり続けてる息子を、これから先どの位フォローしてくれると思う?」
「⋯⋯⋯⋯や、やだ⋯⋯やだやだ。俺は、俺は⋯⋯父上の」
(ロジャー⋯⋯追い詰め方がエグい。あの高慢ちきなメイルーンが)
「ぶっ! ぶははは」
腕と足に大きな傷ができ真っ青な顔のワッツが突然笑い声を上げた。
「⋯⋯あ~あ、なっさけねえ。あ~んなに偉そうにしてたメイルーン司教様が泣き言かよ」
膝をついてゆらりと立ち上がったワッツがニヤリと笑って、一番近くにいたケニスに向けて走り出した。
ガツン! パンパンパン⋯⋯
何発もの銃声が鳴り響く中で、笑いながら倒れていくワッツはじっとハリーを見つめていた。
いつの間にか拘束を外していたワッツは、右手に手のひらサイズのナイフを持っている。
「まだ武器を隠してたとは⋯⋯信じらんねえ、呆れた奴だな」
騎士団に抑え込まれ全身を拘束されていくワッツを見ながら、メイソンが呆れ果てたように呟いた。
「くっそ情けねえなあ、ひとりくらい道連れにしてやりたかったのに⋯⋯まあ、断頭台よりはマシかぁ。ハリー、地獄で待っててやる。そこで続きをしようぜ」
「心配しなくても断頭台にあがれますから。だってほら、撃たれてませんし」
格好をつけたワッツに向かってハリーが冷ややかに口元を歪めた。
「⋯⋯は?」
「粋がってたとこ申し訳ないが、お前に当たったのはこれだ」
フレッドが砂の上から拾い上げたのはステファンが準備した宝箱。
「ゲームははじまらなかったが宝箱はステファンに渡しとくか? 『ワッツ家の悪魔』とかってイキってた阿保を倒したのが中身のない宝箱とか⋯⋯ぴったりのプレゼントだったよな」
フレッド団長が投げつけた宝箱が顳顬に当たった直後に鳴ったのは、騎士団員の撃った空砲の音。撃たれたと勘違いした間抜けなワッツが叫び声を上げた。
「くそぉぉぉ! 殺せぇぇぇ」
「ここまでお膳立てしたのに殺るわけねえじゃん、もったいねえ。よ~く覚えとけよ、商人は無駄な事はしねえんだよ。ここで飲み食いした分もそれまでにかかった経費も、全員の家宛てにちゃ~んと請求するからな。お貴族様の家ならそのくらいの蓄えはあるよな~。
あ、ステファンの家は借金しかねえから身体で払えよな」
泣いて暴れるステファン達を本土に送り、朝のうちに捕まえた戦闘要員達と一緒に護送車に乗せるのを確認したルーカスが、ロジャー達と共に馬車に乗り込んだ。
「ケニス、手え出したら糸電話でも話をさせてやらんからな!」
「今日はそんなに時間がないんで、まだ大丈夫です」
島の片付けの手配をする為に後から出発することに決まったケニスは、メリッサの手を掴んで嬉しそうにヒラヒラと手を振った。
「ま、まだだと! 今日だけじゃねえからなぁぁぁ、明日も明後日もぉぉ⋯⋯」
「ケニスゥゥ! 待ってるからねぇぇぇ」
馬車の窓から顔を出して叫んでいたルーカスを押しのけて、顔を出したロジャーが声を張り上げた。
(プフッ、やっぱりロジャーはケニス一筋だね~)
メリッサの心の声に気付かないケニスが嬉しそうにメリッサの手を握り直した。
「ふふん、ロジャーがなんと言おうとメリッサはもう俺のもんだ!」
(ケニスってやっぱり⋯⋯肝心なとこでへっぽこ~。マーサおばさまへのいい土産話が出来たわ)
「護送されるのが26人で、父さん達を入れて30人⋯⋯メイソンさんや第二騎士団を入れると百人くらいいそうね」
「すっごい迫力で壮観って感じだな」
街を行く人達が『何事だ!?』と大騒ぎする中を進んで行く大行列の先頭には、第二騎士団の団旗がまるで英雄帰還さながらの迫力で翻っている。
「うん。あれだけ派手な行列なら目立つから、国も教会も隠すのは無理だな」
「⋯⋯ねえ、新聞はうまくいってるかな?」
今回の作戦の最大のポイントは、国で一番の販売数を誇るモーニング・グロー社の朝刊に記事を掲載させる事。
貴族から平民に至るまでが購買している新聞に掲載された大量の犯罪を、全て揉み消すのは不可能なはず。
「国中に配られた新聞の内容は、教会や国がいくら足掻いても隠蔽なんて不可能だし、ホッグスにはライルがついてる。失敗はあり得ないよ」
「そうよね、ケニスが手配したんだし。あ~、早く朝刊が見たい! ここの片付けを急がなくちゃね!」
「ええっ! 折角邪魔なおじさんがいなくなったんだから、少しは2人でゆっくりする時間を⋯⋯」
「糸電話作るの?」
「⋯⋯よし、大急ぎで輸送の手配をしよう! 片付けは指示する人を雇えばすぐだし、王都に凱旋した時の様子を見損ねたら大変だしな」
メリッサとケニスは先ずはじめに、当初の予定とは変わった動きに臨機応変に対応してくれた港湾事務所に顔を出した。
「助かりました。お陰で大きなトラブルもなく全員を捕縛できました。本当にありがとうございます」
「突然第二騎士団の方が現れた時は驚きましたがね、商会長に言われたら信用するしかないですよ」
無人島を買い取る前から何度も足繁く通い、徹夜で飲み明かす⋯⋯所謂『飲み友達』になった所長とルーカスは、数年前から領主を巻き込んで一大プロジェクトを計画中。
上手くいけばグールズベールが港湾都市として繁栄するのは間違いないと張り切っている。
「商会長のやる事に間違いはないってのが俺達の総意ですからね」
超特急で島に残った荷物の撤収と搬送の手配を済ませたメリッサとケニスは、たった3時間遅れで夕闇の迫る中を出発した。
行列が野宿していた広場に辿り着いたのは真夜中過ぎだったが、予想通り仁王立ちしたルーカスが紙コップと糸を持って待っていた。
「結婚してねえってか? しかも、商会もなんも持ってねえ貧乏人? 昔から馬鹿だったがそれ以上に抜けてんじゃねえか。
は~、馬鹿馬鹿しい。なあ、グダグダ言ってねえでさっさと医者に連れてけよ。こんな茶番なんか、くだらねえ。どうせサマネスが全部もみ消して終わりだろ? だよな?」
太々しい態度で言い放ったワッツだったが、傷がかなり痛むのか顔を顰めて身じろぎした。
「それはどうかなぁ? 教会もそうだけど王家や議会も一枚板とは言えないし⋯⋯まあ、さっさと引き上げて結果を見てみるって言うのは僕も賛成だね。
ねえメイルーン、父親の愛がどこまで通用するのか知りたくない? 偉大なる父上は『僕ちゃんのオイタ』をどこまで許して助けてくれるかな?
確かこの間、パパンから頼まれた資金提供を断って『役立たず』って叱られたんじゃなかったっけ? 『お前の立場を買うための金なのに!』って言われたんだよね?
お前の為だから⋯⋯お金がないなら真珠を寄越せって言われて、大喧嘩になったんだよね~。んで、パパンは仕方なく商会から借金したんだよね~」
ロジャーが本物のマルティン枢機卿だと分かってからというもの、真っ青になっていたメイルーンがヒックヒックと子供のように泣き出した。
「そうだ、知ってる? もう直ぐサマネスには2人目の隠し子が産まれるんだよ。いや~、あの歳で頑張るなぁ。ってかさぁ、その子が男の子ならメイルーンの立場ってどうなるのかなぁ? 父親は女の子の方が可愛いとか言うし~? サマネスは手間もお金も掛かり続けてる息子を、これから先どの位フォローしてくれると思う?」
「⋯⋯⋯⋯や、やだ⋯⋯やだやだ。俺は、俺は⋯⋯父上の」
(ロジャー⋯⋯追い詰め方がエグい。あの高慢ちきなメイルーンが)
「ぶっ! ぶははは」
腕と足に大きな傷ができ真っ青な顔のワッツが突然笑い声を上げた。
「⋯⋯あ~あ、なっさけねえ。あ~んなに偉そうにしてたメイルーン司教様が泣き言かよ」
膝をついてゆらりと立ち上がったワッツがニヤリと笑って、一番近くにいたケニスに向けて走り出した。
ガツン! パンパンパン⋯⋯
何発もの銃声が鳴り響く中で、笑いながら倒れていくワッツはじっとハリーを見つめていた。
いつの間にか拘束を外していたワッツは、右手に手のひらサイズのナイフを持っている。
「まだ武器を隠してたとは⋯⋯信じらんねえ、呆れた奴だな」
騎士団に抑え込まれ全身を拘束されていくワッツを見ながら、メイソンが呆れ果てたように呟いた。
「くっそ情けねえなあ、ひとりくらい道連れにしてやりたかったのに⋯⋯まあ、断頭台よりはマシかぁ。ハリー、地獄で待っててやる。そこで続きをしようぜ」
「心配しなくても断頭台にあがれますから。だってほら、撃たれてませんし」
格好をつけたワッツに向かってハリーが冷ややかに口元を歪めた。
「⋯⋯は?」
「粋がってたとこ申し訳ないが、お前に当たったのはこれだ」
フレッドが砂の上から拾い上げたのはステファンが準備した宝箱。
「ゲームははじまらなかったが宝箱はステファンに渡しとくか? 『ワッツ家の悪魔』とかってイキってた阿保を倒したのが中身のない宝箱とか⋯⋯ぴったりのプレゼントだったよな」
フレッド団長が投げつけた宝箱が顳顬に当たった直後に鳴ったのは、騎士団員の撃った空砲の音。撃たれたと勘違いした間抜けなワッツが叫び声を上げた。
「くそぉぉぉ! 殺せぇぇぇ」
「ここまでお膳立てしたのに殺るわけねえじゃん、もったいねえ。よ~く覚えとけよ、商人は無駄な事はしねえんだよ。ここで飲み食いした分もそれまでにかかった経費も、全員の家宛てにちゃ~んと請求するからな。お貴族様の家ならそのくらいの蓄えはあるよな~。
あ、ステファンの家は借金しかねえから身体で払えよな」
泣いて暴れるステファン達を本土に送り、朝のうちに捕まえた戦闘要員達と一緒に護送車に乗せるのを確認したルーカスが、ロジャー達と共に馬車に乗り込んだ。
「ケニス、手え出したら糸電話でも話をさせてやらんからな!」
「今日はそんなに時間がないんで、まだ大丈夫です」
島の片付けの手配をする為に後から出発することに決まったケニスは、メリッサの手を掴んで嬉しそうにヒラヒラと手を振った。
「ま、まだだと! 今日だけじゃねえからなぁぁぁ、明日も明後日もぉぉ⋯⋯」
「ケニスゥゥ! 待ってるからねぇぇぇ」
馬車の窓から顔を出して叫んでいたルーカスを押しのけて、顔を出したロジャーが声を張り上げた。
(プフッ、やっぱりロジャーはケニス一筋だね~)
メリッサの心の声に気付かないケニスが嬉しそうにメリッサの手を握り直した。
「ふふん、ロジャーがなんと言おうとメリッサはもう俺のもんだ!」
(ケニスってやっぱり⋯⋯肝心なとこでへっぽこ~。マーサおばさまへのいい土産話が出来たわ)
「護送されるのが26人で、父さん達を入れて30人⋯⋯メイソンさんや第二騎士団を入れると百人くらいいそうね」
「すっごい迫力で壮観って感じだな」
街を行く人達が『何事だ!?』と大騒ぎする中を進んで行く大行列の先頭には、第二騎士団の団旗がまるで英雄帰還さながらの迫力で翻っている。
「うん。あれだけ派手な行列なら目立つから、国も教会も隠すのは無理だな」
「⋯⋯ねえ、新聞はうまくいってるかな?」
今回の作戦の最大のポイントは、国で一番の販売数を誇るモーニング・グロー社の朝刊に記事を掲載させる事。
貴族から平民に至るまでが購買している新聞に掲載された大量の犯罪を、全て揉み消すのは不可能なはず。
「国中に配られた新聞の内容は、教会や国がいくら足掻いても隠蔽なんて不可能だし、ホッグスにはライルがついてる。失敗はあり得ないよ」
「そうよね、ケニスが手配したんだし。あ~、早く朝刊が見たい! ここの片付けを急がなくちゃね!」
「ええっ! 折角邪魔なおじさんがいなくなったんだから、少しは2人でゆっくりする時間を⋯⋯」
「糸電話作るの?」
「⋯⋯よし、大急ぎで輸送の手配をしよう! 片付けは指示する人を雇えばすぐだし、王都に凱旋した時の様子を見損ねたら大変だしな」
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無人島を買い取る前から何度も足繁く通い、徹夜で飲み明かす⋯⋯所謂『飲み友達』になった所長とルーカスは、数年前から領主を巻き込んで一大プロジェクトを計画中。
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「商会長のやる事に間違いはないってのが俺達の総意ですからね」
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