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88.ルーカス最強説
(女はルーカスの娘か? その他は全員金髪翠眼の⋯⋯はっ! 確か『ワッツ公爵家の悪魔』が選ぶ獲物の条件が!)
朝刊に大量の犯罪が暴露されるまでは、ピーター・ワッツが『ワッツ公爵家の悪魔』だと知らずにいたローガン司法長官だったが、『ワッツ公爵家の悪魔』の常軌を逸した残忍さは、高位貴族や政治に関わる者達で知らぬ者はいない。
(あの男達を目にしてピーター・ワッツが騒いでいたら⋯⋯マズいぞ、マズいマズい)
「何を証拠に言っておられるのか存じませんが、顔が見たかったのであればもうよろしいですか?
我らは長旅の後で疲れておりますしなあ、これ以上無駄な時間を使うのはお互いに何のメリットもなさそうです」
帰るぞと言いながら踵を返しかけたルーカスの腕を掴んだローガンが小声で囁いた。
「取引だ、貴様が商人ならそれ相応の対価と引き換えに話し合いができるはず」
「ほう、何をお望みで?」
「メイルーン司教とピーター・ワッツだ、あとは好きにして構わん」
「で、見返りは?」
「幾らでも⋯⋯爵位と王都の一等地に建つ屋敷⋯⋯足りねば⋯⋯5年間モートン商会は無税にしてやろう」
「なんと、本気ですか!?」
態とらしく驚いたルーカスの態度に気を良くしたローガンがニンマリと笑った。
「勿論だとも!」
メイルーンとワッツを確保できたと確信したローガン司法長官がホッと胸を撫で下ろした時、ルーカスが態とらしい大きな溜息をつき大声で話しはじめた。
「なんと! ブレイク・ローガン司法長官が金や爵位と引き換えに、重罪犯のメイルーン司教とピーター・ワッツ公爵令息を解放しろと仰るとは思いませんでしたなあ~!
第一騎士団団長もよく似た事を言っておられましたし、司法のトップや第一騎士団のお考えはまことに残念無念! これがこの国の司法の在り方ですか」
大声で叫んだルーカス達を第一騎士団が取り囲んだ。
「くそぉ! 殺せ! 此奴らこそ犯罪者だ、殺ってしまえ」
ポンフリー団長が大声で指示を叫び、切り込んできた第一騎士団は待機していた第二騎士団と乱闘になった。
(ルーカスさえいなければ第二騎士団など軍務違反で処分してしまえる。メイソンひとりならワシの権限でなんとでもなる。ルーカスだけは殺っておかんと、何時足元を掬われるか!)
「ルーカスだ! 奴だけは絶対に逃すな!!」
周りの目を気にする余裕のなくなったローガン司法長官が叫び声を上げ、メリッサを中心にしたルーカス達も応戦し関所前は大騒ぎになった。
騎士団員達が切り結び乱闘の中で次第に怪我人が増え、遠巻きにしていた商人達が荷物を抱えて逃げはじめ⋯⋯。
切りつけてきた騎士団員を蹴り飛ばしたロジャーがメリッサの腕を掴んだ。
「メリッサ、僕も協力したい! このままじゃ怪我人が増えるばっかりだ」
メリッサがルーカスやケニスと目を合わせてから小さく頷いた。
「んじゃ、派手に銃を撃ってくれ!」
メリッサとルーカスはリボルバーを空に向け弾のある限り撃ちまくった。
「鎮まれえぇぇぇ! 我が名はロジャー・マルティン、プレステア教会枢機卿ロジャー・マルティンだ! 剣を納め我の言葉に従え!!」
「⋯⋯マ、マルティン枢機卿?」
「ええっ?」
次第に静まりかえる中で団長のポンフリーを振り返る第一騎士団と、警戒を怠らず第一騎士団を睨みつける第二騎士団員。
その騒ぎの中から従者のエリオットとデクスターを従えたロジャーが歩き出した。
ポンフリーとローガンの前に立ったロジャーは居丈高な態度で話しはじめた。
「第一騎士団団長ポンフリーとローガン司法長官! 加害者であるメイルーンとワッツの釈放を強制した理由を述べよ!
その上で無抵抗の被害者を殺めようとした理由を聞かせていただこう」
「⋯⋯その⋯⋯先程マルティン枢機卿だと言うお声が聞こえたように思いますが。貴方様がマルティン枢機卿だと?」
常にマントを深く被り顔を隠して活動していたロジャー・マルティン枢機卿の顔は、敵対しているサマネス枢機卿でさえも知らない。
「私が枢機卿のロジャー・マルティンだが⋯⋯其方らは私が偽りを言っていると? まあ、貴様らの様な愚鈍で低脳な輩が知らぬのは当然とも言えるがな」
平然とディスるロジャーの横で、エリオットが広げて見せた任命書を見たローガンとポンフリーが青褪めた。
現在、教会を牛耳っているのは従来通りの教会運営に固執し『教会の教え』は全てにおいて優先されると公言、信者による粛正を肯定し続けるサマネス枢機卿派だが、数年前から『金で罪は贖えない』と言い、信者による粛正は教会の教えに反していると反発するマルティン枢機卿派が台頭しはじめている。
今はまだサマネス枢機卿に阿る輩が国の中枢に蔓延っているが、マルティン枢機卿は破竹の勢いで教会内の不正を暴き出している。
「本人だと確認は出来たようだな。では、改めて聞こう。メイルーン司教とピーター・ワッツの引き渡しを求め、拒否すると殺害命令を出した。それについて納得のいく説明を聞かせていただこう。
新聞報道を冤罪と断定した教会とは誰のことを言っている?」
「それはその⋯⋯」
ロジャー・マルティン枢機卿がサマネス枢機卿を蛇蝎の如く嫌っているのは誰もが知っている程の有名な話。
メイルーン司教を実子だと公言したサマネス枢機卿は『プレステア教会の聖職者の教義に反する者』としてマルティン枢機卿が破門を求めている事も知らぬ者はいない。
(マズい! ここでサマネス枢機卿からの指示だとは答えられんではないか⋯⋯答えれば自分の首を絞める質問が飛んでくるのは間違いないし。くそっ! まさかここにマルティン枢機卿がいるとは)
「そ、その前にですな⋯⋯何故マルティン枢機卿がこのような場におられるのかを、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「私の問いには答えもせず、平然と疑問を投げかけるとは⋯⋯この国の司法長官は随分と不調法者なのだね。もしかしてサマネス枢機卿の力があればどうとでもできると思っているのかな?
残念だが、彼には私の言動を制限する資格はない。彼以外だと⋯⋯ああ、国王の権力でもチラつかせてみるかい? その結果がどうなるかは明言しないがね」
無表情で温度を感じさせないロジャーの話し方は、初めて会った日のロジャーを思い出させた。
(あれって、腹が立つか恐怖を感じるかのどっちかだよね~)
チラリと目を合わせたケニスも同じ事を考えていたらしい。
(うん、態とやってるよな)
「まあいい、答えてあげよう。私は友人に会いに行ってたまたま事件に巻き込まれたのだよ。
さて、私は君の不躾な質問に対し誠意を持って答えた。私の問いへの答えを聞かせてもらおうか」
ロジャーが話すたびに周りの温度が下がっていく気がするが、ローガン司法長官は手もみをしながらも質問を繰り返した。
「ご、ご友人と申されますと⋯⋯その、まさかとは思いますが⋯⋯」
チラチラとルーカスを見るローガン司法長官とポンフリー団長だが、注目されているルーカスは呑気に大欠伸をしている。
(カーマイン⋯⋯いや、リチャード・メイソンが友人か? たかが裁判官風情にそんな伝手があったとは思えんが⋯⋯)
(マルティン枢機卿がルーカスと友人だとしたら詰んだかも⋯⋯厄介で手に負えないルーカスとマルティンが友人だとしたら⋯⋯これ以上なくヤバい状況じゃないか。
ああ! ルーカスの持つモートン商会は拝辞のドーソンが顧問弁護士なのに、これ以上力を持ったらどうなるんだ!)
朝刊に大量の犯罪が暴露されるまでは、ピーター・ワッツが『ワッツ公爵家の悪魔』だと知らずにいたローガン司法長官だったが、『ワッツ公爵家の悪魔』の常軌を逸した残忍さは、高位貴族や政治に関わる者達で知らぬ者はいない。
(あの男達を目にしてピーター・ワッツが騒いでいたら⋯⋯マズいぞ、マズいマズい)
「何を証拠に言っておられるのか存じませんが、顔が見たかったのであればもうよろしいですか?
我らは長旅の後で疲れておりますしなあ、これ以上無駄な時間を使うのはお互いに何のメリットもなさそうです」
帰るぞと言いながら踵を返しかけたルーカスの腕を掴んだローガンが小声で囁いた。
「取引だ、貴様が商人ならそれ相応の対価と引き換えに話し合いができるはず」
「ほう、何をお望みで?」
「メイルーン司教とピーター・ワッツだ、あとは好きにして構わん」
「で、見返りは?」
「幾らでも⋯⋯爵位と王都の一等地に建つ屋敷⋯⋯足りねば⋯⋯5年間モートン商会は無税にしてやろう」
「なんと、本気ですか!?」
態とらしく驚いたルーカスの態度に気を良くしたローガンがニンマリと笑った。
「勿論だとも!」
メイルーンとワッツを確保できたと確信したローガン司法長官がホッと胸を撫で下ろした時、ルーカスが態とらしい大きな溜息をつき大声で話しはじめた。
「なんと! ブレイク・ローガン司法長官が金や爵位と引き換えに、重罪犯のメイルーン司教とピーター・ワッツ公爵令息を解放しろと仰るとは思いませんでしたなあ~!
第一騎士団団長もよく似た事を言っておられましたし、司法のトップや第一騎士団のお考えはまことに残念無念! これがこの国の司法の在り方ですか」
大声で叫んだルーカス達を第一騎士団が取り囲んだ。
「くそぉ! 殺せ! 此奴らこそ犯罪者だ、殺ってしまえ」
ポンフリー団長が大声で指示を叫び、切り込んできた第一騎士団は待機していた第二騎士団と乱闘になった。
(ルーカスさえいなければ第二騎士団など軍務違反で処分してしまえる。メイソンひとりならワシの権限でなんとでもなる。ルーカスだけは殺っておかんと、何時足元を掬われるか!)
「ルーカスだ! 奴だけは絶対に逃すな!!」
周りの目を気にする余裕のなくなったローガン司法長官が叫び声を上げ、メリッサを中心にしたルーカス達も応戦し関所前は大騒ぎになった。
騎士団員達が切り結び乱闘の中で次第に怪我人が増え、遠巻きにしていた商人達が荷物を抱えて逃げはじめ⋯⋯。
切りつけてきた騎士団員を蹴り飛ばしたロジャーがメリッサの腕を掴んだ。
「メリッサ、僕も協力したい! このままじゃ怪我人が増えるばっかりだ」
メリッサがルーカスやケニスと目を合わせてから小さく頷いた。
「んじゃ、派手に銃を撃ってくれ!」
メリッサとルーカスはリボルバーを空に向け弾のある限り撃ちまくった。
「鎮まれえぇぇぇ! 我が名はロジャー・マルティン、プレステア教会枢機卿ロジャー・マルティンだ! 剣を納め我の言葉に従え!!」
「⋯⋯マ、マルティン枢機卿?」
「ええっ?」
次第に静まりかえる中で団長のポンフリーを振り返る第一騎士団と、警戒を怠らず第一騎士団を睨みつける第二騎士団員。
その騒ぎの中から従者のエリオットとデクスターを従えたロジャーが歩き出した。
ポンフリーとローガンの前に立ったロジャーは居丈高な態度で話しはじめた。
「第一騎士団団長ポンフリーとローガン司法長官! 加害者であるメイルーンとワッツの釈放を強制した理由を述べよ!
その上で無抵抗の被害者を殺めようとした理由を聞かせていただこう」
「⋯⋯その⋯⋯先程マルティン枢機卿だと言うお声が聞こえたように思いますが。貴方様がマルティン枢機卿だと?」
常にマントを深く被り顔を隠して活動していたロジャー・マルティン枢機卿の顔は、敵対しているサマネス枢機卿でさえも知らない。
「私が枢機卿のロジャー・マルティンだが⋯⋯其方らは私が偽りを言っていると? まあ、貴様らの様な愚鈍で低脳な輩が知らぬのは当然とも言えるがな」
平然とディスるロジャーの横で、エリオットが広げて見せた任命書を見たローガンとポンフリーが青褪めた。
現在、教会を牛耳っているのは従来通りの教会運営に固執し『教会の教え』は全てにおいて優先されると公言、信者による粛正を肯定し続けるサマネス枢機卿派だが、数年前から『金で罪は贖えない』と言い、信者による粛正は教会の教えに反していると反発するマルティン枢機卿派が台頭しはじめている。
今はまだサマネス枢機卿に阿る輩が国の中枢に蔓延っているが、マルティン枢機卿は破竹の勢いで教会内の不正を暴き出している。
「本人だと確認は出来たようだな。では、改めて聞こう。メイルーン司教とピーター・ワッツの引き渡しを求め、拒否すると殺害命令を出した。それについて納得のいく説明を聞かせていただこう。
新聞報道を冤罪と断定した教会とは誰のことを言っている?」
「それはその⋯⋯」
ロジャー・マルティン枢機卿がサマネス枢機卿を蛇蝎の如く嫌っているのは誰もが知っている程の有名な話。
メイルーン司教を実子だと公言したサマネス枢機卿は『プレステア教会の聖職者の教義に反する者』としてマルティン枢機卿が破門を求めている事も知らぬ者はいない。
(マズい! ここでサマネス枢機卿からの指示だとは答えられんではないか⋯⋯答えれば自分の首を絞める質問が飛んでくるのは間違いないし。くそっ! まさかここにマルティン枢機卿がいるとは)
「そ、その前にですな⋯⋯何故マルティン枢機卿がこのような場におられるのかを、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「私の問いには答えもせず、平然と疑問を投げかけるとは⋯⋯この国の司法長官は随分と不調法者なのだね。もしかしてサマネス枢機卿の力があればどうとでもできると思っているのかな?
残念だが、彼には私の言動を制限する資格はない。彼以外だと⋯⋯ああ、国王の権力でもチラつかせてみるかい? その結果がどうなるかは明言しないがね」
無表情で温度を感じさせないロジャーの話し方は、初めて会った日のロジャーを思い出させた。
(あれって、腹が立つか恐怖を感じるかのどっちかだよね~)
チラリと目を合わせたケニスも同じ事を考えていたらしい。
(うん、態とやってるよな)
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さて、私は君の不躾な質問に対し誠意を持って答えた。私の問いへの答えを聞かせてもらおうか」
ロジャーが話すたびに周りの温度が下がっていく気がするが、ローガン司法長官は手もみをしながらも質問を繰り返した。
「ご、ご友人と申されますと⋯⋯その、まさかとは思いますが⋯⋯」
チラチラとルーカスを見るローガン司法長官とポンフリー団長だが、注目されているルーカスは呑気に大欠伸をしている。
(カーマイン⋯⋯いや、リチャード・メイソンが友人か? たかが裁判官風情にそんな伝手があったとは思えんが⋯⋯)
(マルティン枢機卿がルーカスと友人だとしたら詰んだかも⋯⋯厄介で手に負えないルーカスとマルティンが友人だとしたら⋯⋯これ以上なくヤバい状況じゃないか。
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