【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

文字の大きさ
91 / 97

89.世界にはいろんなやり方がある

しおりを挟む
 ロジャーが眉間に皺を寄せ『チッ!』と舌打ちすると、ローガン司法長官とポンフリー団長から『ヒッ!』と悲鳴が上がった。

(うわ~、わかる! 綺麗に整い過ぎた顔って、怒ると怖いよね)

「はぁ、私は問いに答えたが君達は質問ばかりだな。メイソン、これ以上常識も知らぬ者と関わり合うのは時間の無駄にしかならん。すぐに出立したまえ」

 ローガン司法長官やポンフリー団長を無視して身を翻したロジャーは、エリオットとデクスターを連れてさっさと馬車に乗り込んだ。




 メリッサ達も馬車に乗り込み隊列が動きはじめると、道の端に避けて一列に並んだ第一騎士団員の姿が見えた。

(良かった。大きな怪我をしている人はいないみたい)

「ロジャーのお陰で怪我人が少なく済んだみたいね」

「誰が友達か明言せずにいてくれたのは助かった。ケニス、後でロジャーの頭でも撫でといてくれ」

「え? なんで俺が!?」

「もしあの場でロジャーが『僕の友達はメリッサだ』なんて言ってたら、メリッサの身が危険になってたんだぜ?」

 サマネス枢機卿達と対立し常に狂信者達に狙われているマルティン枢機卿が友人だと言えば、その時から狂信者のターゲットになるのは間違いない。

 ロジャーが『誰が友人か』を公言しなかったのはメリッサを危険に巻き込まない為だろう。

「そうか! 頭を撫でるくらいいくらでも」

(ロジャーの執着が益々酷くなったりして⋯⋯まあ、ケニスはそういうの鈍そうだからいっか)



「しっかし、チョコレートのラッピングが取れちまったなあ⋯⋯それを貸しにされたら⋯⋯あー、そんときゃケニスを生贄にすりゃいいか」

「流石に俺じゃその役は無⋯⋯」

「大変! 今後の活動に影響が出たらどうしよう」

 ロジャーが枢機卿として行動する時は顔バレしないように、常にローブを被っていた事を思い出したメリッサが大きな声で叫んだ。

「大丈夫、精々『アンタ枢機卿だったんだってね~! で、いつもの娘でいいのかい?』とか言われるくらいだろうぜ」

「おじさん、それ禁止だから! ロジャーが泣くから!」

 何時でもどこでも、通常運転のルーカスだった。



 関所前の騒ぎを聞きつけた市民が街道を埋め尽くし、王家のパレードか戦の凱旋かという騒ぎになった。

「凄えな、ここまでとは⋯⋯」

 馬車の窓からこっそり覗いているルーカスが妙に真面目な声で呟いたのは、この後が正念場だと気付いているからだろう。

「想像してなかった?」

「予想通り過ぎて驚いてるってやつだな。教会信者の横暴には皆うんざりしてたから、結果には関係なく大喜びするだろうと思ってはいたんだがよ」

 メリッサ達の中で『失敗出来ない』という思いが、今まで以上に強くなったのは仕方のないことだろう。

 王都に近付くにつれ無言になっていたハリーは街の喧騒も耳に入っていないようで、メリッサ達が話す横で膝に置いた手を強く握りしめていた。

「ハリー、セオドアの事なら心配いらねえって。失敗してたらとっくに連絡が来てるし、体調なんかは医者が同行してるんだ」

「はい、ありがとうございます。なんと言うか⋯⋯終わったんだなと思ったり、はじまったんだなと思ったりで複雑と言うか。ワッツを捕まえて下さってありがとうございました。弟や妹の事もご迷惑をおか⋯⋯」

「よせよせ、他人行儀な。全部カタをつけたら派手に祝杯をあげようぜ。飲めるんだろ?」





 街道を埋め尽くす人は増える一方で、隊列は王宮広場に入る前で停止せざるを得なくなった。

「ヤバいな~、やっぱこうなるか~」

 教会に恨みを持つ者が暴徒化し馬車に乗るメイルーン達に襲いかかるか、平民の服装で紛れ込んだ信者達が平民を利用してメイルーンを救い出すつもりか⋯⋯。

「これだけの人数が集まるとどんな騒ぎが起きてもおかしくないよね」

 隊列を取り囲む者達のギラついた目と握りしめた拳に不安がよぎる。



「よし! このままじゃマズい。んじゃいつものアレで決めるぜ! 恨みっこなしの一発勝負だからな」

 ルーカス・メリッサ・ケニスが気合を入れて右手を出した。

「カルタッ・フォルビチッ・サッソッ!」

「カルタッ」

「フォルビチッ」

「やった~!」「よっしゃ~!」

 異様な迫力で掛け声と共に握り拳や掌などを見せはじめた3人。

 ハリーには何をやっているのかは分からないが、3人が本気のバトルをやっている事だけは何となく理解できた。

 ハリーが顔を引き攣らせてのけぞると⋯⋯。

「よっしゃあ!」

「イエ~イ! ケニス、頑張ってね~」

 3人がやっていたのは他国で流行っている⋯⋯グーチョキパーで勝敗を決めるアレ。負けたケニスは本気で悔しがっている。

「こう言うの苦手なんだよなぁ、おじさんみたいに厚かましいタイプの方が絶対にうま⋯⋯」

「ケ~ニ~ス~、永遠に糸電話でよけりゃ代わってやるぜ?」

 聞こえないふりでケニスが手にしたのは、軍事訓練などで見かける『メガホン』の大型のもの。

 両頬を叩いて気合を入れたケニスが馬車の屋根を上げてよじ登り、一度深呼吸してから大きな声で話しはじめた。



「我々は現在、長年に渡り悪質な犯行を繰り返していた重犯罪者を護送している。彼らを無事に司法に引き渡し公正なる裁判にかける為、このまま王宮広場に向かわせて欲しい」

「ふざけんな! この国に公正な裁判なんかあり得ねえ!」

「引き摺り出して八つ裂きにしてしまえ!」

 そうだそうだと言う声があちこちから上がり、民衆の怒りがどんどん膨れ上がる。

「だからこそだ! この国の正しき法を取り戻す為に、今回の裁判が正常に行われるよう見守ってくれないか!? 奴等が犯罪を揉み消せないように、皆には冷静な目で最後まで見届けて欲しい」

 ケニスの言葉に耳を傾けた民衆が隣り合う者達と顔を見合わせ、戸惑うように首を傾げたり怒りの顔で首を横に振ったりしているのが見える。

「我々は数ヶ月かけて証拠と証人を集めここにきた。今までのように権力で揉み消すことなどさせない為に、一番大事なのは奴らに付け入る隙を見せない事だ。
どうか、理性を持って行動してくれる事を心から願っている」

「必ず成功するんだろうな!?」

「負けたらただじゃ置かないからね!」

「持てる力の全てを使って、最後まで戦い抜く。皆の信頼を裏切らない戦いを約束する! 今回の戦いで必ず勝つとは言えないが、勝つまで戦い続ける。絶対に諦めない!」



 顔を見合わせていた民衆が小さく頷き、馬車の前を開けはじめた。

「名前は! アンタの名前は!?」

「私の名前はケニス・ラインフェルト。隊を率いておられるのはリチャード・メイソン裁判官と第二騎士団フレッド・カーマイン団長。
馬車の中にはロジャー・マルティン枢機卿、モートン商会の商会長ルーカスとメリッサ、元ワッツ公爵家執事のハリー。
モーニング・グローに告発記事を書いたマシュー・ホッグス新聞記者とチャールズ・ドーソン顧問弁護士も我々と共に戦う同士だ。
この戦いに最も大切なのは、国中から向けられる冷静な民衆の目だと覚えておいて欲しい。彼らがどんなに策を弄しても決して成功はしない、最後に勝つのは我々だと知らしめようじゃないか!」

「ケニスの奴、なかなかやるじゃねえか。政治家に向いてんじゃね? しかもやたらめったら名前を連呼してやがる」

 ふうっと大きく息を吐いたケニスが席に座り、ハンカチで冷や汗を拭いながらニヤリと笑った。

「自分の名前をぼやかすには『樹は森に隠せ』が一番ですからね。これでも長年おじさんのズルいやり方を見てきましたから」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。 二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。 その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。 漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。 しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」 夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

処理中です...