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90.見習うべき相手?
太陽の光で金色に輝く王城は年代を感じさせる威風堂々としたゴシック様式。深い堀に守られ、街中の喧騒など知らぬふりで静かに佇んでいる。
昼過ぎの今は馬車がすれ違えるほど広い吊り橋が下がっているのが遠目にもよくわかった。
左方向に見えるのは王城より新しく建てらかえられたルネッサンス様式の教会。メリッサ達が辿り着いた王宮広場からは見えないが、真っ白な石灰の壁と鮮やかなステンドグラスのコントラストが美しく、この国で一番の観光名所とも言われている贅を尽くした建物。
右方向に見える横に広い建物は、裁判所や議員会館として使われている。2階建てで特徴のない無骨な作りは予算不足のせいらしいが、景観を損ねていると巷では評判になっている。
メリッサ達の隊列、6台の馬車と50名近い第二騎士団がモザイクタイル張りの王宮広場に整列したが、王城と王宮広場の間には芝と計算された幾何学模様の樹木の広大な前庭がある。
平民や旅行者の出入りが許されるのは王宮広場までと決められており、前庭の中央には登城を許されている者達が悠々と馬車を走らせる広い道が王城まで続いている。
「さーて、ここからが勝負どころだよな~。早めに奴が出てくると助かるんだけどよお」
フレッド・カーマイン団長は第二騎士団の団員に指示を出し、馬車の周りを取り囲んでいる者と、周囲の索敵に走り出す者がいるが馬車の中からは誰も出ない。
王宮広場の後方にはメリッサ達の行動を応援しようとした民衆がゾロゾロとついて来て、神妙な顔で佇んでいる。
「あの⋯⋯このまま裁判所に行くのではないのですか?」
緊張し過ぎたのか顔色の悪いハリーが身を乗り出してルーカスに尋ねた。
「裁判所なんて行っても話にならんだろ? 一般人は立ち入り禁止だし、司法長官がアレだからな。教会にゃ頭のおかしい信者がゴロゴロいるから、危なくて近寄れねえしな」
「で、では、この後どうするのですか?」
「待つ。奴があんまり長く待たせるとは思えんが⋯⋯退屈になったら王城に乗り込むのも手だよな。メリッサ、吊り橋が下りてるのは何時までだっけ?」
「17時丁度の鐘と同時に上りはじめるはず。父さんの狙い通りに出てくると良いんだけどね」
何の心配もなさそうに足元のバスケットからメリッサが飲み物やお菓子を出していると『酒、酒をよろ~』と言い出したルーカスがケニスに蹴りを入れられた。
「おじさん、気を緩め過ぎ! この後の作戦が変更になったなんて、俺は全然聞いてないんですけど!?」
コンコンと馬車のドアが叩かれてメイソン裁判官が勢いよく乗り込んできた。
「お前、さっき酒とか言ってたろ? この土壇場に来ても呑気だよなぁ。ワインなら俺にも寄越せ」
「てかなんで来るんだよ、定員オーバーって知ってるか?」
呆れたように溜息を吐いたルーカスの横に無理やり座り込んだメイソンが、メリッサから果実水の入ったコップを受け取ってガックリと肩を落とした。
「ルーカス、マジで来るんだろうな」
「う~ん、どうかなあ。五分五分よりゃ確率が高いと思うんだが」
メイソンの疑り深そうな質問から目を逸らしたルーカスが、メリッサに背を向けながら上着の内ポケットからスキットルを取り出した。
「あ! 父さん、駄目だってば。騎士団の人達は働いてるのに」
「ふふん、生命の水で景気付けって⋯⋯あ、テメエ!」
メイソンにスキットルを奪われたルーカスが騒ぎ立てた。
「うん、美味い! はあ~、生き返ったあ。で、向こうに話はしてあるんだよな」
「は? してるわけねえじゃん。いいか? 俺はただの平民で、王城だの教会の奥だの行けねえの。んでもこんだけの騒ぎになりゃ出てこないわけにはいかねえって。
メリッサが運良く餌を準備してるしな」
「は? 私、なんにもしてないけど? メイルーン達を裁判所に連行する予定を変えたのって父さんだよね」
当初の予定では裁判所に乗り込みメイルーン達を牢に入れ、マシュー・ホッグス新聞記者とチャールズ・ドーソン顧問弁護士と合流。メイソンの権限で一気に裁判を開く予定だった。
それをルーカスが突然変更すると言い出しのは今朝のこと。
「理由も言わないでやり方を変更するのは父さんの十八番だけど、勝算はあるんだよね」
「商人は騎士と違って負け戦なんてしねえんだよ」
騎士ならくだらないプライドや面子で負け戦に向かうこともあるが、商人は勝てない勝負はしないと言うのがルーカスの自論。
「しっかし、無意識って怖えよな~。メリッサは大物を釣り上げるし、ケニスが政治家みてえに民衆を煽動するし。予想外のことばっかで超ウケる。
お! ほら見てみろよ、なんか仰々しいのが吊り橋を渡ってるぜ」
ルーカスの声で王城の方を見ると確かに、騎馬の騎士を大量に従えた馬車がこちらへ向かっている。
後ろからは民衆を押し除けてロジャー司法長官や第一騎士団がわらわらと集まりはじめている。
「あれって王家の馬車ですけど⋯⋯陛下⋯⋯なわけないですよね」
「腐れきって脳がふやけた国王は、朝刊抱えて王座にしがみついて泣いてんじゃね? もし勇気を振り絞って出て来たんなら、吊り橋から一思いに叩き落としてやる」
「堀の水は超汚いって聞くけど、国王のお腹の中よりは綺麗そうだしね」
この国は代々教会に頭を抑えつけられてきたが、現国王は歴代の国王を上回る教会の傀儡だと言われている。
他国から『教会第一主義者』とまで言われている国王に似て気が弱く、日和見主義の王太子もここ数年は教会⋯⋯サマネス枢機卿の顔色を見るようになってきた。
第二王子は政治には全く興味のない享楽主義者で、他国に出かけてはパーティー三昧だと言う。王家に残るのは第一王女だがまだ8歳で成人には程遠い。
議員の多く⋯⋯特に上位貴族は国王と同様に教会の意向に右へ倣えする者ばかりで、サマネス枢機卿が力をつけてからは『形ばかりの議会と式典用の王家』と揶揄されている。
「おま、お前ら⋯⋯不敬罪でとっ捕まるぞ!」
「「望むところよ(だぜ)」」
「はぁ、そのくらい言える奴じゃなきゃ今回みたいな教会絡みの件に手を出さんって事だけどな⋯⋯ケニスはこんな親子とよく付き合っていけるな、感心するよ」
「メイソン裁判官はルーカスさんと『幼馴染』だと聞いてますし、俺はメリッサの『幼馴染』兼『結婚確定の恋人』ですから」
「どさくさに紛れて既成事実作ろうとすんじゃねえ! 父ちゃんはまだ許してません!」
赤い顔で胸を張って宣言したケニスの足をルーカスがゲシゲシと蹴り、メイソンに羽交い締めにされた。
「ったく、さっさと子離れしろって。あ、もうそこまで来てるじゃん! ほら、そろそろ馬車から降りるぞ」
メイソンに首根っこを掴まれたルーカスが馬車を降り、メリッサ達もその後から続いた。
昼過ぎの今は馬車がすれ違えるほど広い吊り橋が下がっているのが遠目にもよくわかった。
左方向に見えるのは王城より新しく建てらかえられたルネッサンス様式の教会。メリッサ達が辿り着いた王宮広場からは見えないが、真っ白な石灰の壁と鮮やかなステンドグラスのコントラストが美しく、この国で一番の観光名所とも言われている贅を尽くした建物。
右方向に見える横に広い建物は、裁判所や議員会館として使われている。2階建てで特徴のない無骨な作りは予算不足のせいらしいが、景観を損ねていると巷では評判になっている。
メリッサ達の隊列、6台の馬車と50名近い第二騎士団がモザイクタイル張りの王宮広場に整列したが、王城と王宮広場の間には芝と計算された幾何学模様の樹木の広大な前庭がある。
平民や旅行者の出入りが許されるのは王宮広場までと決められており、前庭の中央には登城を許されている者達が悠々と馬車を走らせる広い道が王城まで続いている。
「さーて、ここからが勝負どころだよな~。早めに奴が出てくると助かるんだけどよお」
フレッド・カーマイン団長は第二騎士団の団員に指示を出し、馬車の周りを取り囲んでいる者と、周囲の索敵に走り出す者がいるが馬車の中からは誰も出ない。
王宮広場の後方にはメリッサ達の行動を応援しようとした民衆がゾロゾロとついて来て、神妙な顔で佇んでいる。
「あの⋯⋯このまま裁判所に行くのではないのですか?」
緊張し過ぎたのか顔色の悪いハリーが身を乗り出してルーカスに尋ねた。
「裁判所なんて行っても話にならんだろ? 一般人は立ち入り禁止だし、司法長官がアレだからな。教会にゃ頭のおかしい信者がゴロゴロいるから、危なくて近寄れねえしな」
「で、では、この後どうするのですか?」
「待つ。奴があんまり長く待たせるとは思えんが⋯⋯退屈になったら王城に乗り込むのも手だよな。メリッサ、吊り橋が下りてるのは何時までだっけ?」
「17時丁度の鐘と同時に上りはじめるはず。父さんの狙い通りに出てくると良いんだけどね」
何の心配もなさそうに足元のバスケットからメリッサが飲み物やお菓子を出していると『酒、酒をよろ~』と言い出したルーカスがケニスに蹴りを入れられた。
「おじさん、気を緩め過ぎ! この後の作戦が変更になったなんて、俺は全然聞いてないんですけど!?」
コンコンと馬車のドアが叩かれてメイソン裁判官が勢いよく乗り込んできた。
「お前、さっき酒とか言ってたろ? この土壇場に来ても呑気だよなぁ。ワインなら俺にも寄越せ」
「てかなんで来るんだよ、定員オーバーって知ってるか?」
呆れたように溜息を吐いたルーカスの横に無理やり座り込んだメイソンが、メリッサから果実水の入ったコップを受け取ってガックリと肩を落とした。
「ルーカス、マジで来るんだろうな」
「う~ん、どうかなあ。五分五分よりゃ確率が高いと思うんだが」
メイソンの疑り深そうな質問から目を逸らしたルーカスが、メリッサに背を向けながら上着の内ポケットからスキットルを取り出した。
「あ! 父さん、駄目だってば。騎士団の人達は働いてるのに」
「ふふん、生命の水で景気付けって⋯⋯あ、テメエ!」
メイソンにスキットルを奪われたルーカスが騒ぎ立てた。
「うん、美味い! はあ~、生き返ったあ。で、向こうに話はしてあるんだよな」
「は? してるわけねえじゃん。いいか? 俺はただの平民で、王城だの教会の奥だの行けねえの。んでもこんだけの騒ぎになりゃ出てこないわけにはいかねえって。
メリッサが運良く餌を準備してるしな」
「は? 私、なんにもしてないけど? メイルーン達を裁判所に連行する予定を変えたのって父さんだよね」
当初の予定では裁判所に乗り込みメイルーン達を牢に入れ、マシュー・ホッグス新聞記者とチャールズ・ドーソン顧問弁護士と合流。メイソンの権限で一気に裁判を開く予定だった。
それをルーカスが突然変更すると言い出しのは今朝のこと。
「理由も言わないでやり方を変更するのは父さんの十八番だけど、勝算はあるんだよね」
「商人は騎士と違って負け戦なんてしねえんだよ」
騎士ならくだらないプライドや面子で負け戦に向かうこともあるが、商人は勝てない勝負はしないと言うのがルーカスの自論。
「しっかし、無意識って怖えよな~。メリッサは大物を釣り上げるし、ケニスが政治家みてえに民衆を煽動するし。予想外のことばっかで超ウケる。
お! ほら見てみろよ、なんか仰々しいのが吊り橋を渡ってるぜ」
ルーカスの声で王城の方を見ると確かに、騎馬の騎士を大量に従えた馬車がこちらへ向かっている。
後ろからは民衆を押し除けてロジャー司法長官や第一騎士団がわらわらと集まりはじめている。
「あれって王家の馬車ですけど⋯⋯陛下⋯⋯なわけないですよね」
「腐れきって脳がふやけた国王は、朝刊抱えて王座にしがみついて泣いてんじゃね? もし勇気を振り絞って出て来たんなら、吊り橋から一思いに叩き落としてやる」
「堀の水は超汚いって聞くけど、国王のお腹の中よりは綺麗そうだしね」
この国は代々教会に頭を抑えつけられてきたが、現国王は歴代の国王を上回る教会の傀儡だと言われている。
他国から『教会第一主義者』とまで言われている国王に似て気が弱く、日和見主義の王太子もここ数年は教会⋯⋯サマネス枢機卿の顔色を見るようになってきた。
第二王子は政治には全く興味のない享楽主義者で、他国に出かけてはパーティー三昧だと言う。王家に残るのは第一王女だがまだ8歳で成人には程遠い。
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「はぁ、そのくらい言える奴じゃなきゃ今回みたいな教会絡みの件に手を出さんって事だけどな⋯⋯ケニスはこんな親子とよく付き合っていけるな、感心するよ」
「メイソン裁判官はルーカスさんと『幼馴染』だと聞いてますし、俺はメリッサの『幼馴染』兼『結婚確定の恋人』ですから」
「どさくさに紛れて既成事実作ろうとすんじゃねえ! 父ちゃんはまだ許してません!」
赤い顔で胸を張って宣言したケニスの足をルーカスがゲシゲシと蹴り、メイソンに羽交い締めにされた。
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