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第五章 良き出会いに乾杯
10.ミリーに嵌められたシモンは弟になりたい
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「で、でもトールはいずれ王宮のパーティーにエスコートしてくれると⋯⋯」
「では兄上に頼めば良いのではありませんか? 長年、兄上のその言葉を信じておられたのですから、最後まで信じてあげれば良いと思います」
しつこく駄々をこねるジーニアに招待客達の我慢が限界に達してきた。
子爵家からようやく縁を切れたビリーに祝いの言葉をかけたい親戚達。ビリーが直ぐにでも子爵家を出られるように馬車や住居を準備させて欲しいと言い出したい商人達。
「お話中のところ失礼致します。えーっと、契約書へのサインも終わられたようですので⋯⋯今後についてビリー様とお話ししたいと主人が申しております。ビリー様、少しばかりお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「あ、えっと⋯⋯構いませんが、その⋯⋯大丈夫でしょうか」
ネイサンの主人と言えば、声だけ聞けば少女にしか思えないフードを被った少年の事。
(シモン様はこんな多くの人から注目されても大丈夫なのか? それに、あの姿を見た母上が何を言い出すか。機嫌が悪い母上の前に恥ずかしがり屋の少年を立たせるのは可哀想過ぎる)
「ここでは人が多過ぎるでしょうから、別室を用意させ⋯⋯」
「いえ、それには及びません⋯⋯それ程時間はかからない⋯⋯はずなので」
振り向いてメイドに合図をしかけたビリーの言葉をネイサンが遮った。
「わたくしの話に横槍を入れておきながら、挨拶もなく名前も名乗らないなんて、なんて無作法なのかしら。貴族の屋敷に足を踏み入れておきながら、礼儀も守れないなんて!」
ネイサンの見た目を気に入り久しぶりに楽しもうと狙っていたジーニアだが、自分のご機嫌を取りもせずビリーに声をかけたのが気に入らない。
(いくら顔が良くても無作法な輩は我慢ならないわ!)
「そこのお前もよ! パーティー会場でフードを被ったままなど、わたくしを侮辱するつもりかしら!? フードを脱いで謝罪なさい! 膝をついて頭を床につけるのよ!」
「母上! 口を慎んで下さい!!」
フードの主が隣国の侯爵家子息だと知っているのはビリーとネイサンだけだが、親戚達はネイサンの堂々とした様子や服装とビリーの発言から只事ではないと察知した。
「シモン様⋯⋯」
少し横にずれてからシモンの斜め後ろに立ったネイサンがシモンの背に手を当てた。
(え? 僕、何か言わなきゃいけないんだっけ。ネイサンから聞いてないんだけど⋯⋯)
「⋯⋯フウ⋯⋯シ、シモン様、いきますよ⋯⋯せ~の」
ネイサンの手がフードにかかり⋯⋯シモンの顔があらわになった。
部屋中に沈黙が広がり誰も微動だにしない。
(ど、ど、どうしよう⋯⋯ネイサン~、この後どうすんのぉぉ?)
不安から僅かに目を潤ませてビリーを見上げる様は消えてしまいそうな儚さで、周りの人々に息をするのも忘れさせてしまう。
次の台詞を知らないまま舞台に立たされたシモンの唇は震え、落ちかけたマントの胸元を抑えた右手の柔らかな動きに皆の目が釘付けになった。
「なんと⋯⋯美しい」
「天使様が降臨されたとか⋯⋯」
「な、なによ⋯⋯あ、あなたは⋯⋯」
絶対的な美しさの前に、流石のジーニアも言葉が続かない。
「シモン様、パーティーにご参加下さいました事心より感謝致しております。お疲れになられませんでしたでしょうか?」
ほんの少しだけ腰を屈めたビリーがシモンに問いかけた。
(シモン殿の頬に見える翳りは愚かな母上や兄上のせいだろうか。パーティーの間、もっと気を配るべきだった)
「は、はい?」
(うえ~ん、喋っていいの? ミリーはなんて書いてたの? ネイサ~ン!!)
「我が主人はお忍びで参加致しており、これで失礼致したいと仰っておられます。シモン様⋯⋯参りましょう」
小さく頷いたシモンはビリーを見上げて、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
(ようやく⋯⋯ようやく帰れます。ビリーさん、またね~)
心を洗われるような慈愛に満ちた微笑みは、幼な子の愛らしさと少年のアンバランスさが混じり合い、子爵家のホールを神聖なる大聖堂の清らかさに変えて行った。
「はぅ⋯⋯なんて神々しい」
ネイサンを従えてホールから退出していくシモンの後ろでは、使用人達が膝をついて頭を下げ紳士と淑女達がボウ・アンド・スクレープとカーテシーで見送っていた。
無作法に立ち尽くしていたのはトールと愉快な仲間達。
眉間に皺を寄せ目を吊り上げたジーニアが持っている扇子を床に叩きつけた。
「ひゃあ! すっげえな! 本物の天使かと思ったぜ」
「マジもんの天使じゃねえの? アレを見たらトールの母上なんて塵みたいなもんじゃん」
「せめて上には上がいるって言ってやれよ~。見た目しか取り柄がないんだからよお」
「年食って皺が出たらおしまいだろ? いつまで気取ってんだか」
「超哀れじゃん。年には勝てねえけど、産まれ持ったもんも段違いだったぜ~」
「その後はジーニア様が部屋を飛び出してお開きになったそうです。正直言って仕方ないですよね。散々美人アピールしておられましたから、シモン様の登場で己を知ったと言いますか」
ネイサンが嬉しそうに説明している間中、シモンはソファの背もたれに顔を埋めていた。
「今後は、王都に行けば私の美貌にみんな平伏するとか言わなくなりそうで助かったと、ビリー様が仰っておられました」
「シモンの顔は便利だなぁ。こんな使い方があるとはなあ。気を付けろよ~、シモンの母上が大喜びで利用すんじゃね?」
「えぇぇぇ! 母上に利用されるのだけは絶対に嫌だからね! 貴族の集まりになんか行かないし、母上が何か言い出したら縁を切ってレオンの弟になる!」
「大丈夫だよ~、シモンママには会った事ないけどママにはシモンのお顔を有効活用なんて出来ないからね~」
「では兄上に頼めば良いのではありませんか? 長年、兄上のその言葉を信じておられたのですから、最後まで信じてあげれば良いと思います」
しつこく駄々をこねるジーニアに招待客達の我慢が限界に達してきた。
子爵家からようやく縁を切れたビリーに祝いの言葉をかけたい親戚達。ビリーが直ぐにでも子爵家を出られるように馬車や住居を準備させて欲しいと言い出したい商人達。
「お話中のところ失礼致します。えーっと、契約書へのサインも終わられたようですので⋯⋯今後についてビリー様とお話ししたいと主人が申しております。ビリー様、少しばかりお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「あ、えっと⋯⋯構いませんが、その⋯⋯大丈夫でしょうか」
ネイサンの主人と言えば、声だけ聞けば少女にしか思えないフードを被った少年の事。
(シモン様はこんな多くの人から注目されても大丈夫なのか? それに、あの姿を見た母上が何を言い出すか。機嫌が悪い母上の前に恥ずかしがり屋の少年を立たせるのは可哀想過ぎる)
「ここでは人が多過ぎるでしょうから、別室を用意させ⋯⋯」
「いえ、それには及びません⋯⋯それ程時間はかからない⋯⋯はずなので」
振り向いてメイドに合図をしかけたビリーの言葉をネイサンが遮った。
「わたくしの話に横槍を入れておきながら、挨拶もなく名前も名乗らないなんて、なんて無作法なのかしら。貴族の屋敷に足を踏み入れておきながら、礼儀も守れないなんて!」
ネイサンの見た目を気に入り久しぶりに楽しもうと狙っていたジーニアだが、自分のご機嫌を取りもせずビリーに声をかけたのが気に入らない。
(いくら顔が良くても無作法な輩は我慢ならないわ!)
「そこのお前もよ! パーティー会場でフードを被ったままなど、わたくしを侮辱するつもりかしら!? フードを脱いで謝罪なさい! 膝をついて頭を床につけるのよ!」
「母上! 口を慎んで下さい!!」
フードの主が隣国の侯爵家子息だと知っているのはビリーとネイサンだけだが、親戚達はネイサンの堂々とした様子や服装とビリーの発言から只事ではないと察知した。
「シモン様⋯⋯」
少し横にずれてからシモンの斜め後ろに立ったネイサンがシモンの背に手を当てた。
(え? 僕、何か言わなきゃいけないんだっけ。ネイサンから聞いてないんだけど⋯⋯)
「⋯⋯フウ⋯⋯シ、シモン様、いきますよ⋯⋯せ~の」
ネイサンの手がフードにかかり⋯⋯シモンの顔があらわになった。
部屋中に沈黙が広がり誰も微動だにしない。
(ど、ど、どうしよう⋯⋯ネイサン~、この後どうすんのぉぉ?)
不安から僅かに目を潤ませてビリーを見上げる様は消えてしまいそうな儚さで、周りの人々に息をするのも忘れさせてしまう。
次の台詞を知らないまま舞台に立たされたシモンの唇は震え、落ちかけたマントの胸元を抑えた右手の柔らかな動きに皆の目が釘付けになった。
「なんと⋯⋯美しい」
「天使様が降臨されたとか⋯⋯」
「な、なによ⋯⋯あ、あなたは⋯⋯」
絶対的な美しさの前に、流石のジーニアも言葉が続かない。
「シモン様、パーティーにご参加下さいました事心より感謝致しております。お疲れになられませんでしたでしょうか?」
ほんの少しだけ腰を屈めたビリーがシモンに問いかけた。
(シモン殿の頬に見える翳りは愚かな母上や兄上のせいだろうか。パーティーの間、もっと気を配るべきだった)
「は、はい?」
(うえ~ん、喋っていいの? ミリーはなんて書いてたの? ネイサ~ン!!)
「我が主人はお忍びで参加致しており、これで失礼致したいと仰っておられます。シモン様⋯⋯参りましょう」
小さく頷いたシモンはビリーを見上げて、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
(ようやく⋯⋯ようやく帰れます。ビリーさん、またね~)
心を洗われるような慈愛に満ちた微笑みは、幼な子の愛らしさと少年のアンバランスさが混じり合い、子爵家のホールを神聖なる大聖堂の清らかさに変えて行った。
「はぅ⋯⋯なんて神々しい」
ネイサンを従えてホールから退出していくシモンの後ろでは、使用人達が膝をついて頭を下げ紳士と淑女達がボウ・アンド・スクレープとカーテシーで見送っていた。
無作法に立ち尽くしていたのはトールと愉快な仲間達。
眉間に皺を寄せ目を吊り上げたジーニアが持っている扇子を床に叩きつけた。
「ひゃあ! すっげえな! 本物の天使かと思ったぜ」
「マジもんの天使じゃねえの? アレを見たらトールの母上なんて塵みたいなもんじゃん」
「せめて上には上がいるって言ってやれよ~。見た目しか取り柄がないんだからよお」
「年食って皺が出たらおしまいだろ? いつまで気取ってんだか」
「超哀れじゃん。年には勝てねえけど、産まれ持ったもんも段違いだったぜ~」
「その後はジーニア様が部屋を飛び出してお開きになったそうです。正直言って仕方ないですよね。散々美人アピールしておられましたから、シモン様の登場で己を知ったと言いますか」
ネイサンが嬉しそうに説明している間中、シモンはソファの背もたれに顔を埋めていた。
「今後は、王都に行けば私の美貌にみんな平伏するとか言わなくなりそうで助かったと、ビリー様が仰っておられました」
「シモンの顔は便利だなぁ。こんな使い方があるとはなあ。気を付けろよ~、シモンの母上が大喜びで利用すんじゃね?」
「えぇぇぇ! 母上に利用されるのだけは絶対に嫌だからね! 貴族の集まりになんか行かないし、母上が何か言い出したら縁を切ってレオンの弟になる!」
「大丈夫だよ~、シモンママには会った事ないけどママにはシモンのお顔を有効活用なんて出来ないからね~」
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