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第五章 良き出会いに乾杯
09.え〜、貴族のルールくらい覚えておこうよ〜
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「そう言えばビリーは?」
「ビリーは宿から出て来ないの~。国に帰っちゃうと手紙のやり取りになっちゃうじゃない? ミリーに教えてもらった情報を今のうちに精査して、少しでも早く事業を立ち上げたいんですって。後から僕に来て欲しいって言ってたから、すっごくドキドキするわ」
「そっか、そうだよね(シモンは貸しひとつよりオネエ言葉を選んだのか⋯⋯似合ってるぞ~)連絡手段が手紙だけだもんねぇ。あるのは特定の人しか使えない飛脚と、高額なのにちょびっと早く着く程度の早馬⋯⋯費用対効果を考えるとなんだかなぁだよね。ん? んん? 郵便かぁ⋯⋯」
郵便の歴史には『大学郵便・肉屋郵便・修道院や騎士団の郵便』などの特定の利用者のために開かれた飛脚があった。
その後、全国一律料金・重量制・前払い制の、誰でも利用出来る近代郵便制度に移行していく。世界初の切手は『ペニー・ブラック』と言う通称で呼ばれた⋯⋯閑話休題。
「そうだわ! ミリーが契約書に入れた文言が超絶役に立つってすっごく喜んでたわよ~」
「ん? なんだっけ」
「ほら、ラバント子爵家はビリーとビリーの所有地に関わるのを禁止って入れたじゃない。アレよアレ。これから先、雑木林で何を計画しても横槍を入れられないんだもの。ビリーが張り切るのも当然じゃない?」
「あぁ、やっぱりそのままの契約書にサインしたんだ。内容を読んでなかったりして?」
「まさにその通り! あの時は笑いを堪えるのが大変だったわ~。最後にまぁ、その⋯⋯ミリーがフードを被っておけって言ってた理由が分かって、モヤっとしたけどね」
「えぇ! 本当にアレをやったの!? うわ~、見たかった~」
鬱でくだらないだけの第一幕と母親と兄を言いくるめた第二幕の後、ジーニア劇場の三幕目があった。
「これで私はラバント子爵家とは袂を分かちますが、契約書通り母上と兄上は私や雑木林に今後一切関わらないでいただきたい。もし何かしらの行動を起こしたと分かれば法的手段に訴えることも辞さないと覚えておいて下さい」
「⋯⋯え? まさかわたくしを捨てると!? ここまで育ててもらった恩も忘れて、こんな田舎にわたくしを放置するなんて有り得ないわ。ビリーは王都で文官になってわたくしを社交界にエスコートする役目があるの! 平民になったビリーでもわたくしの美しさと地位があれば社交界に入れるように出来るはずだもの。出来る出来ないじゃなくてしなくてはならないのよ!」
「そのお役目は何年も前から兄上が担っておられたのでは?」
「それが上手くいかないからビリーにやらせてあげようと言っているのよ。わたくしのような美しい母をエスコート出来る名誉を投げ捨てるなんて信じられないわ! わたくし程美しいレディはこの国にはいないの。この国だけじゃない、どこの国を探してもいやしないんだから!」
日々のマッサージや高価な化粧品でも隠しきれない老いがジーニアの目尻や口元に現れているが、本人は『まだ大丈夫』『誰にも負けていない』と信じている。
「子爵家を出るのは認めてあげます。ただし、その前にわたくしを王都のパーティーでエスコートなさい。そして王宮の夜会にエスコートする事が出来れば、家を出て好きに生きる事を許します」
普通に考えれば、長年領地に籠り平民の身となったビリーが王宮のパーティーに参加する事などできるはずもない。
元の身分も下位貴族である子爵家令息。王宮で行われるパーティーの招待状が届くのは伯爵位までと決められているのだから、子爵令息では不可能だったのだが。
可能性があるとすれば、高位貴族の婚約者にエスコートされるかエスコートする場合のみ。
高位貴族と平民の縁組は貴賤結婚と蔑まれ法的・社会的なペナルティが課せられる場合があるが、立入可能な場所に制限が設けられたり、貴族特権が剥奪された時は貴賤結婚した後でも叶わない可能性が高い。
産まれた子供には爵位や財産などの相続権が発生しない為、庶子と同じ扱いをされる。
「子爵家令息の時も平民の今も母上を王宮のパーティーにエスコートする事は出来ないんです」
そんなルールも知らないのかと呆れ返る親戚や商人達。トールと愉快な仲間達は『へぇ、そうなんだ~』と笑っていた。
「で、でもトールはいずれ王宮のパーティーにエスコートしてくれると⋯⋯」
「では兄上に頼めば良いのではありませんか? 長年、兄上のその言葉を信じておられたのですから、最後まで信じてあげれば良いと思います」
「あ⋯⋯悪魔からの手紙⋯⋯王宮のパーティーって書かれたのがあった。ヤバいなぁ、宿に置いてきちゃったよ。どうしよう、ミリーに怒られるかな?」
ネイサンの耳元でシモンが囁くと、溜め息を吐いたネイサンが右手をコートの中に入れて幾つかの手紙を取り出した。
「ミリーさんに言われてたんで持ってきました。嫌な予感がしたんで持ってきたくなかったんですけどね。えーっと、これですね。王宮のパーティーって書いてあります」
招待客の陰で手紙の封を切ったネイサンが『え?』と呟いてシモンの顔を覗き込んだ。
「封筒が二重になってて、開封はネイサンがする事って書いてあります。どうしますか?」
「開けるしかないよ。ミリーの指示に逆らったら、貸しひとつって言われるよ?」
「えぇ~、俺もですかぁ⋯⋯なんか怖いです」
手紙を開ける時シモンもこんな気持ちだったのだろうか。
「ん~」
「何が書いてあったの?」
「意味が分かんないです。分かんないけどこのままやれば良いって事なんですかねぇ。あ、シモン様は見ちゃダメって書いてありますから、俺の指示に従って下さいね」
「え~、うん。や、優しくしてね⋯⋯って言っていい?」
フードの陰から上目遣いで見つめるシモンは、いつもと同じ⋯⋯儚げで庇護欲と征服欲を刺激し、男の身体の一部に力を与える実に危ない表情をしていた。
「うっ、それは反則の顔と台詞!」
天然のぽやっと君が小さく首を傾げた。
「ビリーは宿から出て来ないの~。国に帰っちゃうと手紙のやり取りになっちゃうじゃない? ミリーに教えてもらった情報を今のうちに精査して、少しでも早く事業を立ち上げたいんですって。後から僕に来て欲しいって言ってたから、すっごくドキドキするわ」
「そっか、そうだよね(シモンは貸しひとつよりオネエ言葉を選んだのか⋯⋯似合ってるぞ~)連絡手段が手紙だけだもんねぇ。あるのは特定の人しか使えない飛脚と、高額なのにちょびっと早く着く程度の早馬⋯⋯費用対効果を考えるとなんだかなぁだよね。ん? んん? 郵便かぁ⋯⋯」
郵便の歴史には『大学郵便・肉屋郵便・修道院や騎士団の郵便』などの特定の利用者のために開かれた飛脚があった。
その後、全国一律料金・重量制・前払い制の、誰でも利用出来る近代郵便制度に移行していく。世界初の切手は『ペニー・ブラック』と言う通称で呼ばれた⋯⋯閑話休題。
「そうだわ! ミリーが契約書に入れた文言が超絶役に立つってすっごく喜んでたわよ~」
「ん? なんだっけ」
「ほら、ラバント子爵家はビリーとビリーの所有地に関わるのを禁止って入れたじゃない。アレよアレ。これから先、雑木林で何を計画しても横槍を入れられないんだもの。ビリーが張り切るのも当然じゃない?」
「あぁ、やっぱりそのままの契約書にサインしたんだ。内容を読んでなかったりして?」
「まさにその通り! あの時は笑いを堪えるのが大変だったわ~。最後にまぁ、その⋯⋯ミリーがフードを被っておけって言ってた理由が分かって、モヤっとしたけどね」
「えぇ! 本当にアレをやったの!? うわ~、見たかった~」
鬱でくだらないだけの第一幕と母親と兄を言いくるめた第二幕の後、ジーニア劇場の三幕目があった。
「これで私はラバント子爵家とは袂を分かちますが、契約書通り母上と兄上は私や雑木林に今後一切関わらないでいただきたい。もし何かしらの行動を起こしたと分かれば法的手段に訴えることも辞さないと覚えておいて下さい」
「⋯⋯え? まさかわたくしを捨てると!? ここまで育ててもらった恩も忘れて、こんな田舎にわたくしを放置するなんて有り得ないわ。ビリーは王都で文官になってわたくしを社交界にエスコートする役目があるの! 平民になったビリーでもわたくしの美しさと地位があれば社交界に入れるように出来るはずだもの。出来る出来ないじゃなくてしなくてはならないのよ!」
「そのお役目は何年も前から兄上が担っておられたのでは?」
「それが上手くいかないからビリーにやらせてあげようと言っているのよ。わたくしのような美しい母をエスコート出来る名誉を投げ捨てるなんて信じられないわ! わたくし程美しいレディはこの国にはいないの。この国だけじゃない、どこの国を探してもいやしないんだから!」
日々のマッサージや高価な化粧品でも隠しきれない老いがジーニアの目尻や口元に現れているが、本人は『まだ大丈夫』『誰にも負けていない』と信じている。
「子爵家を出るのは認めてあげます。ただし、その前にわたくしを王都のパーティーでエスコートなさい。そして王宮の夜会にエスコートする事が出来れば、家を出て好きに生きる事を許します」
普通に考えれば、長年領地に籠り平民の身となったビリーが王宮のパーティーに参加する事などできるはずもない。
元の身分も下位貴族である子爵家令息。王宮で行われるパーティーの招待状が届くのは伯爵位までと決められているのだから、子爵令息では不可能だったのだが。
可能性があるとすれば、高位貴族の婚約者にエスコートされるかエスコートする場合のみ。
高位貴族と平民の縁組は貴賤結婚と蔑まれ法的・社会的なペナルティが課せられる場合があるが、立入可能な場所に制限が設けられたり、貴族特権が剥奪された時は貴賤結婚した後でも叶わない可能性が高い。
産まれた子供には爵位や財産などの相続権が発生しない為、庶子と同じ扱いをされる。
「子爵家令息の時も平民の今も母上を王宮のパーティーにエスコートする事は出来ないんです」
そんなルールも知らないのかと呆れ返る親戚や商人達。トールと愉快な仲間達は『へぇ、そうなんだ~』と笑っていた。
「で、でもトールはいずれ王宮のパーティーにエスコートしてくれると⋯⋯」
「では兄上に頼めば良いのではありませんか? 長年、兄上のその言葉を信じておられたのですから、最後まで信じてあげれば良いと思います」
「あ⋯⋯悪魔からの手紙⋯⋯王宮のパーティーって書かれたのがあった。ヤバいなぁ、宿に置いてきちゃったよ。どうしよう、ミリーに怒られるかな?」
ネイサンの耳元でシモンが囁くと、溜め息を吐いたネイサンが右手をコートの中に入れて幾つかの手紙を取り出した。
「ミリーさんに言われてたんで持ってきました。嫌な予感がしたんで持ってきたくなかったんですけどね。えーっと、これですね。王宮のパーティーって書いてあります」
招待客の陰で手紙の封を切ったネイサンが『え?』と呟いてシモンの顔を覗き込んだ。
「封筒が二重になってて、開封はネイサンがする事って書いてあります。どうしますか?」
「開けるしかないよ。ミリーの指示に逆らったら、貸しひとつって言われるよ?」
「えぇ~、俺もですかぁ⋯⋯なんか怖いです」
手紙を開ける時シモンもこんな気持ちだったのだろうか。
「ん~」
「何が書いてあったの?」
「意味が分かんないです。分かんないけどこのままやれば良いって事なんですかねぇ。あ、シモン様は見ちゃダメって書いてありますから、俺の指示に従って下さいね」
「え~、うん。や、優しくしてね⋯⋯って言っていい?」
フードの陰から上目遣いで見つめるシモンは、いつもと同じ⋯⋯儚げで庇護欲と征服欲を刺激し、男の身体の一部に力を与える実に危ない表情をしていた。
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