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第五章 良き出会いに乾杯

11.ミリーはとにかく忙しい

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「大丈夫だよ~、シモンママには会った事ないけどママにはシモンのお顔を有効活用なんて出来ないからね~」

「へ? うちの母上だってミリーみたいにすっごく強引なのよ? 言い出したら聞かないんだもの」

「ぽやっと君でチョロすけ君だけど、嫌だって思ったらシモンは無表情になるもん。ママに連れて行かれたお茶会でさぁ、興味もない令嬢に愛想笑いなんてしないと言うより出来ないでしょ?」

 ミリーと会うまでのシモンはオネエ言葉を連発するか凍りついたような無表情かの2択だった。自分の事は『私』か『俺』と言い、全ての事において興味があるか無関心かで中間はない⋯⋯白黒はっきりした性格だと世間には思われていた。

「一皮剥けば扱いやすい天然ちゃんだったけどね⋯⋯扱い方さえ分かれば楽勝って?」



 シモンの母親はお茶会やパーティーでさりげなく長男を貶めてはシモンの優秀さを口にし、前妻の産んだ長男を廃してシモンに爵位を継がせようとあちこちで策を弄し続けている。

「最近はシモンに婚約者を決めようとしてるみたいね。王族か公爵家限定ですって」

「うそぉぉ! そんなの聞いてないわ! 兄上だってまだ婚約しておられないのに⋯⋯。僕なんてまだ学生なのよ?」

 シモンの兄が婚約していないのはシモンママが全て阻止しているから。勝手に断るだけでなく長男の悪口を吹き込み、力も金もない子爵家や男爵家との縁談ばかり探してくる。

 それらの縁談はもちろんシモンパパに却下されて終わっているが⋯⋯。

「も~やだ。あの人なんとか出来ないのかしら」

「⋯⋯」

 イリスの目がほんの少し泳いだのに気付いたのはミリーとレオンだけ。

(どうやらネタをつかんでるみたい)

(どうやらネタを持ってやがるな)

「もう家で寝るのも怖いんだもの。大学に寮があったらなぁって。ねえ、ギルドって泊まれないのかしら?」

 シモンはかなり大変なようだが、貴族家の婚姻に他家が口出しする事はできない。同じ派閥であれば爵位が上の者が内密に口を挟む事はあるようだが、シモンの場合同じ派閥の上位の貴族家と言えばレオンの家になる。

(シモンママが姉のレオンママにライバル意識持ってるって言うんだから、下手に口を出せないんだろうなあ~)

「まあ、なんかありゃうちに来りゃ良いんじゃねえか? 俺に呼びつけられたとか。どうせギルドに入り浸ってるって知られてんだから、俺にこき使われてるって言やあ何も言わんだろ。文句があるなら公爵家に行ってこいって言ってやれ」

 従兄弟同士なのに『遊びに行ってくる』と言えないのは家族同士の関係性が影響しているのだろう。

「今回みたいに『ギルドの仕事が』って言えば数日は何とかなるんじゃないかしら?」

「ええ⋯⋯兄上を置いてくのが申し訳ないけど、その時はよろしくね」

「叔父上がいるんだから問題ねえって。それよかお前、大学の論文は提出したのかよ?」

「⋯⋯あぁぁぁ! 忘れてたぁぁ、ヤバい、マジで今回はヤバいんだ。レオン、なんかいい知恵貸してくんない? 法哲学、落としそうなんだ⋯⋯あるべき法やら正しい法やらを探求する学問ってなんだよって感じでさ」

「クラレンド侯爵子息のシモン様。ここ最近の当ギルド内に於いて『貸し』を作る行為が、非常に危険な状況を作り出す可能性があるのだが、それを承知の上での発言と認識してよろしいかな?」

「よ、よろしくあり⋯⋯ないわ。帰って自分で論文を仕上げるのが安全確実だわ。ネイサン、帰るわよ」

 脱兎の如く飛び出したシモン。



「あ、リボンつけたまま行っちゃった。お菓子の袋の口を結んでたやつなんだけど良いのかなぁ。
ま、まあね。ネイサンが気付いてくれるかもだよね。さ~てと、私も今日はこの辺でお暇致しますです。ではまた明日ね~」

 ビリーがいないのなら次の商談の準備に取り掛かりたい。

(ビリーとの関係が上手くいけば、ミリーの避難先に使えるはずよね)

 ビリーが手に入れたのはかなり広大な山を含む雑木林。欲深い家族の目を欺く為、広さは口にしなかった。何の文句も出なかったところを見ると、契約書に記載された内容に目を通さずサインしたと言うのは本当なのだろう。

(作業場や事務所の他に『ミリー』の別荘を建てておけば安心だよね。ビリーの商会が管理を受けてくれるなら土地の使用料と共に管理料もはらうし、『ミリー』が使わない時は使って構わないって言えばダメだとは言わないはず)

 書面で知ったビリーの性格だけでなく、直接話をした印象からも誠実な人物に思えた。

 事業に関する費用を全額負担し、利益分担もビリーに有利な条件を提示したのは、いざという時に『ミリー』が頼れる人がひとりでも多ければ⋯⋯と言う邪な思いがあったから。

(その為にもしっかり稼がなきゃ)






 ポクポクとのんびり歩く年老いた馬が荷馬車を曳いて、広大な畑の間の道を歩いている。御者台に座っているのは、苦笑いを浮かべたミリーと楽しそうに笑うセオじい。

「セオじいが行かなくても辻馬車で行けたのに⋯⋯この馬もとっくに引退したがってる気がするし」

「アーノルドが面白そうな事がある言うたからのう。ワシの寿命が伸びるかもしれん思うたんじゃ。なにしろミリーが秘密の話じゃ言うとると聞いたら、そりゃ聞かにゃいけん思うじゃろ?」

「聞いてもセオじいには役に立たないと思うけど」

「それを決めるのはワシじゃけん、気にせんでもええんで? まあ、暇じゃったゆうのも理由のひとつじゃし」

 黙々と働く農民達が遠くに見えた。王国の北にあるこの農場は山から流れる豊かな水と霧が味と香りの良い蕎麦を育ててくれる。青々と茂った蕎麦に白い花が咲き誇り、独特な香りを放っていた。

「この匂いが虫を呼び寄せるんだっけ」

「嫌う人もおるがのう。そのお陰で美味しい蕎麦が手に入るんでありがたい事よ」

 道の先に立つ屋敷の前にアーノルドが立っていた。

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