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第六章 夢か現か幻か

06.広くて深〜くなるまで捏ねて捏ねて捏ねまくる

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「さてと、バレた時点でどうなるのかくらいは分かっていただろうから、惨めったらしい言い訳を聞くつもりはないからな。表向きは自主退職にしてやるが、損害賠償の対象になる可能性があるし、覚悟しといたほうがいいぞ」

 ここが密室だからだろう。朝礼の際と上司がいる時しか真面な言葉遣いが出来ない樋下は、初手から普段通りの口調で話し、椅子の背もたれをギシギシ言わせながら弛んだ身体を揺らしている。

(おおー! 予想以上に飛ばしてきたじゃん。じゃあ、けちょんけちょんのボッコボコにしても良いって事だよね? できるはず、多分だけど)

「明確な理由があるのであれば退職勧告を受け入れます。ですが理由もなく退職を求めるのは、労働基準法に違反しているのではありませんか?」

(準備はしてきた。それだけで何とかなるかは分かんないけど、戦わずに逃げ出すつもりはないからね! 根暗の実里は返上して、ミリーの時みたいに超爆発しちゃる)

 この会社や仕事に未練があるわけではないが、不当に退職を強制されるのは納得できない。



 実里がキッパリと言い切ると支店長ズが『ブハッ』と吹き出した。

「労働基準法~? ちょーっと聞き齧った情報を振り回すとか、頭の悪い奴の典型だな」

「公になって恥ずかしい思いをしたいのかもですよ。最近はそういう輩が増えてるそうで」

「あー、娘に聞いたことがあります。炎上商法とかってやつでしょ。自分の恥を晒して喜ぶ」

「退職を勧告された理由を明確にして欲しいと言ったのはそんなに馬鹿げた話でしょうか?」

 既にでっかい墓穴を掘った支店長ズだが、実里としてはもっと深い、再起出来ないくらい深い深~い穴を希望している。

「お前なぁ。知られてないと高を括ってるんだろうが、ドライブレコーダーに記録が残ってるんだぞ?」

「惨めに縋り付いて懲戒解雇にされる方がいいんならそうしてやるが?」

「高野に助けを求めても無理だぞ~。社員の行動としては間違ってたが、高野はセクハラの被害者だからなあ」

(ほっほう、今回は被害者様におなりあそばされましたか。それとも前回も被害者様に擬態なさったのかしらん)



「国立のT大出身で専務のご子息の高野君が色男だからって、無理矢理はいかんぞ~、無理強いは」

「色男だなんて古いですね~、最近はイケメンって言うらしいですよ」

「性行為の強制は犯罪って知ってるだろうが、最近は女でも逮捕されるって覚えとけよ。高望みはやめてブスはブスなりに生きていかんとなあ」

 その後ゲラゲラと笑った支店長ズが、高野に『いや~、最悪だったな』『犬に蹴られたと思って忘れろ』『訴えるなら俺達が証人になるぞ』などと言いはじめた。

 その上、実里の処遇を懲戒解雇ではなく退職勧告にしたのは、高野の評判を守る為だと口を滑らした。

(いや~、クソ雑魚過ぎて笑える~。どんだけやらかす気なのか楽しみになってきたかも)



 支店長ズがいもしない専務に対してあからさまなゴマを擦り、ありもしない高野の功績を讃え、食事会や飲み会の計画を立てはじめたのは、目の前に実里が居るのを忘れたという事かもしれない。

 はじめは青褪めていた高野だったが支店長ズに煽てられ慰められているうちに、少しずつ笑顔を浮かべるようになり⋯⋯椅子の背にもたれて次の休みにゴルフへ行こうと誘いはじめる始末。

(へえ、パパが会員になってるゴルフクラブにクソボケ支店長ズを招待ねえ。私を性犯罪者にしといて? ほう、帰りはママの知り合いが経営してるレストランねえ)

「つかぬことを聞きますが、高野さんは先程の支店長達の意見をどう思われていますか?」

「え? ど、どうって⋯⋯話はその、終わったと思⋯⋯ったから。ち、違い⋯⋯ました?」

(お前、まだいたの? みたいな顔してんじゃねえよ。いるに決まってます~。まだボコボコにしてないんで~)

「では、高野さんも私が、宵待実里が上司である高野さんに性交渉を強制し、その記録がドライブレコーダーに記録されていると証言されているのですか?」

「え、えーっと、その」

「そうだと言ってんだろうが!?」

 言い淀む高野のナイト気取りなのか、勢いよく立ち上がった支店長の1人が大きな音を立てて机を叩いた。

「どうぞお座りください。私は高野さんにお聞きしています。高野さんの言葉でお聞きすれば、納得できるしれませんから」

 目力の強い支店長ズに見つめられた高野は、途端にオロオロと目を泳がせはじめた。

「⋯⋯えーっと、女性の名誉を、その」

「こんな役立たずのブスを守る必要なんてないでしょうが!」

「ハッキリと言ってやれば良いんですよ。仕事もできないくせに色目ばっかり使いやがってって」

「⋯⋯いや、でも」

「ドライブレコーダーに記録された出来事と言うのはいつの話でしょうか? そのくらいなら言えますよね?」

 肩を丸めて震える高野は目線で支店長ズに助けを求めたが、無神経&鈍感を極めた支店長ズは『言ってやれ』と圧をかけている。

「きょ、今日のお昼頃。午前の⋯⋯配、配達が終わった後に⋯⋯待ち合わせた」

「つまり、××年の3月24日の今日、お昼休憩を挟んだ数時間で高野さんは宵待実里と待ち合わせをした。宵待実里が退職勧告されるという事は、その時に社用車を使用していて、会社に何らかの被害を与えたのでしょうか?
その時にあった出来事は、宵待実里による高野リーダーに対する性行為の強要だった。これで合っていますか?」

 俯いたまま無言で貧乏ゆすりをしていた高野は何かに気付いたらしく、パッと顔を上げて馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「そうだ。ああ、そうだとも!! 僕はお前にホテルに行くのを強要されたんだ! 違うって言いたいんだろうが、証拠なんてないだろ!? 僕の方にはちゃんと証拠があるからな」

「待ち合わせの約束ですけど、いつ決まったんですか? 口頭? LINEとかメールとか?」

「口頭でだから証拠なんてない」

「何故強要なんてされたんですか? 単なる上司と部下ですし、理由もなく強要なんて出来ませんから。何をネタに脅されたんですか?」

「へ?」

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