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第八章 いざ、決戦!

02.後500年は生きる謎の生命体ですから

 扉が閉まるギリギリに、派手なピンクのデイドレスの女子と白シャツにグレーのコートとズボン姿の男子が駆け込んで来て、ミリーの隣に座った。

「もう! カミーユの準備が遅いからこんな後ろになったじゃないの」

「カサンドラのほうが遅かったのに、俺のせいにすんなよ」

「お姉ちゃんに逆らうなんて偉そうなんだから。その平民みたいな言葉遣いはやめなさいって言ったでしょ!」

「ほんの数分しか違わねえっての」

 どうやら双子らしい。



「静粛に! 本年の入学式を始めます。保護者の方々もご着席下さい」

 学園長の長ったらしい挨拶がはじまると、ミリーの目がうつろになりはじめた。

 来賓の紹介で国王夫妻がいるとかなんとか⋯⋯。子供達が騒めいたがミリーの頭はゆらゆらと揺れて夢心地。

 来賓のひとりである宰相の祝辞の時に気合を入れ直したが、臨時講師の紹介中は完全爆睡モードに突入していた。

 3年の主席で生徒会長のロベール・マクガイヤーが在校生の祝辞をしたのは気付いてもいない。

「新入生挨拶は主席入学、ギルバート・モラヴィアス第二王子殿下。王子殿下、演壇へお上が⋯⋯」

「うそうそうそぉ! マジで、ねえ聞いた? 聞いたよね!? 王子殿下が入学されるなんて聞いてないわ!」

「あ~、はいはい。天上界から降臨されたんだ、良かったね~」

 ガクッと首が落ちかけたミリーは『ヤバい』と背を伸ばして、また船を漕ぎはじめた。

(うぅ、眠い⋯⋯学校の式ってなんで眠くなるんだろ)

「暖かな日差しと良き⋯⋯」

 王子殿下とやらの挨拶の辺りで、ミリーは夢を見はじめた。


「次に、本年度の留学生を紹介します⋯⋯リンドブルム帝国テオドール・リンドブルム第三皇子殿下はこの学⋯⋯」

「ご紹介に預か⋯⋯」

「ねえ、どうしよう⋯⋯第二王子殿下と第三皇子殿下がいらっしゃるなんて! お母様にお願いして、ドレスを新調してもらわなくちゃ!」

「心配しなくても大丈夫。カサンドラが何を着てても誰も気付かねえから」

「そんな事ないわよ! モラヴィアスは真実の愛が生まれる国なんだって、お祖母様もお母様も仰っておられるじゃない。小説だって歌劇だって、たくさん読んだり見たりしたわ。王族と下位貴族が運命に導かれて出会い、真実の愛で全てを乗り越えるの」

「へいへい、法律じゃ認められてねえけどな」

「貴賤結⋯⋯ムニヤムニヤ⋯⋯妃教育で失⋯⋯ウトウト⋯⋯ざまぁさ⋯⋯スヤア⋯⋯」

「この度は留⋯⋯」

 俯いて舟を漕いでいたミリーの口元をピンクドレスの少女がそっと拭ってくれた。




 入学式が終わり、1年生がゾロゾロと会場を出ていくのを横目に見ながら、受付で渡されていた書類を取り出して地図を確認しはじめた。

「ふわぁ、変な寝方したからからかな、肩凝っちゃった。えーっとクラスやら教室やらが書いてある資料を渡されてたんだけど⋯⋯どれだ?⋯⋯えーっと、あ、あった。これだこれ。ん~と、Cクラスで教室の場所は北棟? どこだそれ⋯⋯地図地図、ち~ず。出てこいや~」

(式が始まる前に見とけば良かったよ。何事も前準備が大事なのに)


「北棟ですって!? お姉様が1年生はいつも東棟だって仰ってたのに、これ絶対におかしいわ。メイ、職員室で聞いてきて。わたくしはホールの外で待っているから急ぎなさいよ」

「はい、すぐに行って参ります」

 偉そうな女子は淡いブルーのデイドレスで、大きな青いリボンが胸元とウエストについている。ハーフアップにした髪と胸元のリボンには宝石がキラキラと輝き、パニエで膨らませたスカートとパフスリーブで横幅が倍になっていた。

 駆け出して行った女子は若草色のデイドレスで、胸元の白いリボンがワンポイントになっている。

(高位貴族と使用人かなぁ。同い年だったから運悪く一緒に入学させられたって感じ? 同じ北棟に行くんなら後をついてけば⋯⋯いやいや、あれって絶対『瑞稀系の地雷女』だよ。関わらないほうが良さそうじゃん。くわばらくわばら)



 ブルードレスの女子が出て行ったのを確認してから会場を出て、北棟を目指しつつ周りの様子を伺っていると、派手は派手なりにルールがあるような気がする。

 高位貴族っぽい女子生徒は派手さが凄い。大きく膨らんだパフスリーブとパニエで広がるスカート。アクセサリーについている宝石も大きく、それに合わせて態度もデカい。

 高位貴族っぽい男子生徒は長いコートやウエストコートの派手な刺繍が目立ち、宝石をつけたスカーフが目に痛い。男子生徒が女子の鞄を持っている。


 下位貴族っぽい女子生徒の集団はそれよりは少しばかりスカートなどのボリュームを抑えたデイドレスで、ドレスよりもアクセサリーが目立っている気がする。声のトーンは抑え気味だが、派手すぎるドレスを鼻で笑っている少女がいたので注意が必要。

 下位貴族っぽい男子生徒の集団は少し丈の短いコートと派手な刺繍のウエストコートで、小ぶりの宝石をつけたスカーフと編み上げ式のロングブーツ。

(会場の椅子の座面が大きかった理由が分かった気がする。平民だとどんな服装ルールだったんだろう。
学園のドレスコードには『あまり華美でない服装』とか『アクセサリーは控えめに』とか書いてあったけど⋯⋯教訓、曖昧な表現は役に立たないっと)



 ミリーは後見を受けた平民として入学したが、後見人のアーバスノット公爵とは面識がない。

 誰が後見人になるかで揉めたが最終的にアーバスノット公爵が勝利した⋯⋯方法は、籤引き。

 立候補したのは、アーバスノット公爵、ブランドール公爵、クラレンド侯爵。他国の貴族からも後見人希望の連絡がきていると聞いたミリーは絶句した。

(オーレリア様のパワー恐るべし)

 アーバスノット公爵家は政治に関与しない変わり者の高位貴族として有名で、王都に足を踏み入れる事は年に1度か2度。現当主がセオじいの息子だと知ったミリーは再び絶句。セオドア・アーバスノットが本当の名前だった。

『ほっほっほ、ミリーの驚く顔を見れるのは楽しいでのう。ちいとばかり寿命が伸びたかもしれんで』

 あと500年は生きそうな狸。

(セオじいは高位貴族のお貴族様。すっごいびっくりしたけど、やっぱり~って思ったりもしたんだよね。だって、ただの爺ちゃんにしては国内外の情報に詳しすぎたもん。ターニャ婆も元お貴族様なんだろうなぁ)



 ミリーがオーレリアにあったその日、ミッドランド侯爵領を訪れたのはモラヴィアス王国の隣のエスキニア王国から海を渡った先にあるイセンドラ王国の男爵と名乗った非常に怪しげな男だった。

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