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第二章 ミッドランド侯爵家に産まれて
13.5歳児にマウンティングする必要ある?
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家族からずっと放置プレイされていたミリーに、初めての変化が起きたのは5歳の時。キッカケはユーフェミアの気紛れだった。
当時8歳のユーフェミアは、母親と一緒に他家のお茶会に参加していた。
「本当にユーフェミア様ほど愛らしいご令嬢には会ったことがありませんわ」
「ありがとうございます。夫もユーフェミアを殊の外可愛がっておりますの」
「お妹様もさぞかしお可愛らしいのでしょうねえ」
お茶会の主催者であるマーベル夫人は大の噂好きで、誰も会った事がないミッドランド侯爵家の次女の情報を欲しがっていた。
(妹がわたくしのように可愛い?)
マーベル夫人どころかユーフェミアでさえ会ったことがない次女。
(わたくしと同じだなんて有り得ないわ)
「哀れなあの子の事はどうか⋯⋯。それよりも先日いただいた紅茶はどちらでお求めになられたのか、お聞きしてもよろしいかしら?」
母のマリアンがいつものように話題を変えてその場を凌いでいたが、ユーフェミアの頭の中は次女の事でいっぱいになってしまった。
(わたくしと同じくらい可愛いはずはないけど、わたくし以外の女の子が褒められるなんて許せない)
お茶会がお開きになり、帰りの馬車の中で⋯⋯。
「お母様、わたくし⋯⋯妹に会ってみたい」
「マーベル夫人の言葉など気にする必要はないわ。アレはユーフェミアと比べる価値もないの」
「お願い、お母様⋯⋯妹がどんな子なのか知りたいの。姉妹なのに何も知らないっておかしな話ですもの」
「ユーフェミアのお願いは聞いてあげたいけれど⋯⋯」
出来れば一生次女に会いたくないマリアンだが、何と言えばユーフェミアに諦めさせられるのか思いつけないでいた。
(あんな子がわたくしの娘だなんて信じたくもない。あの子のせいでわたくしがどれほど情けない思いをしているか知りもせずに、こんな我儘を言うなんて。そう言えばアレの名前って何だったかしら。旦那様がお決めになられたのだと思うけど)
「お父様に相談はしてみるけれど、こればかりは⋯⋯あまり期待しないでね」
「ええ、どうしても妹に会ってお話ししてみたいんだって仰ってね」
(今までわたくしのお願いが聞き届けられなかった事なんて一度もなかったんだから、この願いもきっと叶えられるわ。そう言えば名前はなんて言うのかしら)
ミリーはその日の夜、執事のクリフから『食堂へ行く時間』を知らされ、翌朝から家族と共に食事をする事になった。
『食事の時間をお伝えしておきますが、少しでも遅れれば来ないものとみなします。食事がしたいなら時間に遅れず、食堂に行くように。食堂の場所は⋯⋯』
翌朝、持っている中で一番新しいチュニックを着たミリーは、食堂のドアの前で立ち尽くしていた。
(緊張する~。陰険ジジイと話したのも昨日が初めてだったけど、家族の顔を見るのも初めてだもん。しっかし、さっさとドアを開けろや!)
食堂の前に立っていたフットマンはミリーに下から睨みつけられると『ふっ』と鼻で笑ってから、慇懃無礼な仕草で頭を下げてからドアを開けた。
ミリーはしっかりと背筋を伸ばし、できる限り落ち着いた態度で食堂に足を踏み入れた。
金と緑をアクセントにした白い壁紙は型押しされた今流行りの物で、煌めくシャンデリアと朝日で輝く大理石の床は、ほんのわずかな曇りも見受けられない。
生けたばかりの花が飾られたテーブルクロスは丁寧にアイロンをかけた純白の物。テーブルの一角にきっちりと4人分のカトラリーが並べてあった。
「こちらへどうぞ」
ミリーが案内されたのは反対側の隅の席。近付くとスプーンが一本置いてあるのが見えた。
(ふーん、やっぱりかぁ。わざわざ食堂に来いって言うから何事かと思ったけど、ネグレクトから心理的虐待にチェンジしたんだ)
ミリーが席についてからどのくらい待っただろうか。まず初めに入って来たのはユーフェミアだった。
緩く巻いた金髪を淡いブルーのリボンでハーフアップにしたユーフェミアは、ふわりと裾が広がる白いシルクのドレスを纏っていた。繊細なレースが重ねられ、ウエストに青いリボンが結ばれたドレスは、より一層ユーフェミアを愛らしく見せている。
食堂に入ってすぐにチラリとミリーを見た後で軽やかに歩を進め、笑顔を浮かべたまま迷う事なくテーブルへ向かうユーフェミアの前後には、侍女らしき女性が付き従っていた。
(うおぉぉぉ! 天使降臨じゃん。しかも金髪碧眼だった。金色が輝いてる、おっきな目がお人形みたい。抜けるような白い肌って実物は初めて見た~。口紅なしだよね、なしでピンクって⋯⋯マジもんの天使じゃん)
ユーフェミアが席に着くと膝をついた侍女がスカートの裾を直し、もう一人の侍女がナプキンを膝の上に広げた。
(マジかぁ、これがお貴族様の作法⋯⋯リボンが結べないとかボタンが留められないって嘘じゃなさそう)
生貴族の生態を垣間見るのは初めてのミリーは、顔が綻びそうになるのを必死で我慢していた。
(女優じゃなくて本物⋯⋯優雅で愛らしくて、傲慢そう。想像してた貴族令嬢のイメージそのものじゃん。う~ん、私の場違い感が半端ないよ~)
濃い茶色のチュニックは膝より少し上のやや長めの物で、濃い緑のスカートを合わせて履いているミリーは、カポカポと音がする木靴の代わりに、以前マーサが縫ってくれたスリッパもどきを履いている。
据わっている椅子は大人用の物なので、ユーフェミアには顔くらいしか見えていないはず。
(アレがわたくしの妹だなんて! なんて見窄らしいのかしら。年寄りみたいな白髪はボサボサだし、あの顔色⋯⋯日焼けしてない? 使用人よりも酷くて馬車に寄ってくる物乞いみたい。
会う必要なんてないってお母様が言ってた理由が分かったわ)
ほっとしたユーフェミアのご機嫌が良くなったのは言うまでもない。
当時8歳のユーフェミアは、母親と一緒に他家のお茶会に参加していた。
「本当にユーフェミア様ほど愛らしいご令嬢には会ったことがありませんわ」
「ありがとうございます。夫もユーフェミアを殊の外可愛がっておりますの」
「お妹様もさぞかしお可愛らしいのでしょうねえ」
お茶会の主催者であるマーベル夫人は大の噂好きで、誰も会った事がないミッドランド侯爵家の次女の情報を欲しがっていた。
(妹がわたくしのように可愛い?)
マーベル夫人どころかユーフェミアでさえ会ったことがない次女。
(わたくしと同じだなんて有り得ないわ)
「哀れなあの子の事はどうか⋯⋯。それよりも先日いただいた紅茶はどちらでお求めになられたのか、お聞きしてもよろしいかしら?」
母のマリアンがいつものように話題を変えてその場を凌いでいたが、ユーフェミアの頭の中は次女の事でいっぱいになってしまった。
(わたくしと同じくらい可愛いはずはないけど、わたくし以外の女の子が褒められるなんて許せない)
お茶会がお開きになり、帰りの馬車の中で⋯⋯。
「お母様、わたくし⋯⋯妹に会ってみたい」
「マーベル夫人の言葉など気にする必要はないわ。アレはユーフェミアと比べる価値もないの」
「お願い、お母様⋯⋯妹がどんな子なのか知りたいの。姉妹なのに何も知らないっておかしな話ですもの」
「ユーフェミアのお願いは聞いてあげたいけれど⋯⋯」
出来れば一生次女に会いたくないマリアンだが、何と言えばユーフェミアに諦めさせられるのか思いつけないでいた。
(あんな子がわたくしの娘だなんて信じたくもない。あの子のせいでわたくしがどれほど情けない思いをしているか知りもせずに、こんな我儘を言うなんて。そう言えばアレの名前って何だったかしら。旦那様がお決めになられたのだと思うけど)
「お父様に相談はしてみるけれど、こればかりは⋯⋯あまり期待しないでね」
「ええ、どうしても妹に会ってお話ししてみたいんだって仰ってね」
(今までわたくしのお願いが聞き届けられなかった事なんて一度もなかったんだから、この願いもきっと叶えられるわ。そう言えば名前はなんて言うのかしら)
ミリーはその日の夜、執事のクリフから『食堂へ行く時間』を知らされ、翌朝から家族と共に食事をする事になった。
『食事の時間をお伝えしておきますが、少しでも遅れれば来ないものとみなします。食事がしたいなら時間に遅れず、食堂に行くように。食堂の場所は⋯⋯』
翌朝、持っている中で一番新しいチュニックを着たミリーは、食堂のドアの前で立ち尽くしていた。
(緊張する~。陰険ジジイと話したのも昨日が初めてだったけど、家族の顔を見るのも初めてだもん。しっかし、さっさとドアを開けろや!)
食堂の前に立っていたフットマンはミリーに下から睨みつけられると『ふっ』と鼻で笑ってから、慇懃無礼な仕草で頭を下げてからドアを開けた。
ミリーはしっかりと背筋を伸ばし、できる限り落ち着いた態度で食堂に足を踏み入れた。
金と緑をアクセントにした白い壁紙は型押しされた今流行りの物で、煌めくシャンデリアと朝日で輝く大理石の床は、ほんのわずかな曇りも見受けられない。
生けたばかりの花が飾られたテーブルクロスは丁寧にアイロンをかけた純白の物。テーブルの一角にきっちりと4人分のカトラリーが並べてあった。
「こちらへどうぞ」
ミリーが案内されたのは反対側の隅の席。近付くとスプーンが一本置いてあるのが見えた。
(ふーん、やっぱりかぁ。わざわざ食堂に来いって言うから何事かと思ったけど、ネグレクトから心理的虐待にチェンジしたんだ)
ミリーが席についてからどのくらい待っただろうか。まず初めに入って来たのはユーフェミアだった。
緩く巻いた金髪を淡いブルーのリボンでハーフアップにしたユーフェミアは、ふわりと裾が広がる白いシルクのドレスを纏っていた。繊細なレースが重ねられ、ウエストに青いリボンが結ばれたドレスは、より一層ユーフェミアを愛らしく見せている。
食堂に入ってすぐにチラリとミリーを見た後で軽やかに歩を進め、笑顔を浮かべたまま迷う事なくテーブルへ向かうユーフェミアの前後には、侍女らしき女性が付き従っていた。
(うおぉぉぉ! 天使降臨じゃん。しかも金髪碧眼だった。金色が輝いてる、おっきな目がお人形みたい。抜けるような白い肌って実物は初めて見た~。口紅なしだよね、なしでピンクって⋯⋯マジもんの天使じゃん)
ユーフェミアが席に着くと膝をついた侍女がスカートの裾を直し、もう一人の侍女がナプキンを膝の上に広げた。
(マジかぁ、これがお貴族様の作法⋯⋯リボンが結べないとかボタンが留められないって嘘じゃなさそう)
生貴族の生態を垣間見るのは初めてのミリーは、顔が綻びそうになるのを必死で我慢していた。
(女優じゃなくて本物⋯⋯優雅で愛らしくて、傲慢そう。想像してた貴族令嬢のイメージそのものじゃん。う~ん、私の場違い感が半端ないよ~)
濃い茶色のチュニックは膝より少し上のやや長めの物で、濃い緑のスカートを合わせて履いているミリーは、カポカポと音がする木靴の代わりに、以前マーサが縫ってくれたスリッパもどきを履いている。
据わっている椅子は大人用の物なので、ユーフェミアには顔くらいしか見えていないはず。
(アレがわたくしの妹だなんて! なんて見窄らしいのかしら。年寄りみたいな白髪はボサボサだし、あの顔色⋯⋯日焼けしてない? 使用人よりも酷くて馬車に寄ってくる物乞いみたい。
会う必要なんてないってお母様が言ってた理由が分かったわ)
ほっとしたユーフェミアのご機嫌が良くなったのは言うまでもない。
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