【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

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3.新学期がはじまる

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 2年生になったが教室の場所が変わっただけで、クラスメイトの顔ぶれは殆ど変わっていなかった。

 唯一寂しかったのは全校集会で新生徒会役員の紹介をするハーヴィーの姿が見られなかった事。

(本当なら旧生徒会長が挨拶をして新役員の紹介をするはずなのにね⋯⋯)


 ハーヴィーの代わりに紹介役に立った旧副会長に不満があるわけではないが、本当にハーヴィーはもういないんだと言われているようで壇上から逃げ出したくなってしまった。



 集会が終わり教室へ向かう大勢の生徒に逆行してノアがやって来た。

「ライラ様、大丈夫ですか?」

 生徒会役員だけが雛壇近くに残っておりライラと仲の良い友達は既に移動していた。いつもと変わらない態度をとっているつもりだったがノアにはバレていたようで珍しくノアが慌てている。

「大丈夫よ、心配しすぎ」

「教室までお供いたします」

「大丈夫よ、先に教室に行っておいて。わたくしももう直ぐ行くから」


 進学期開始の今日、新1年生は学園内の案内があるが2年生と3年生は新しい教室での顔合わせの後は解散になる。

「入り口のところでお待ちしております」


 2歳年上のノアはライラの入学に合わせて入学し、去年も今年も隣のクラスになった。

 この学園は入学試験で合格すれば多少年齢が上下しても問題ない。ノアのように高額な学費を負担してもらう代わりに雇い主と同じ学年に通う者も多いし飛び級する者もいる。

 クラス決めは成績優秀者で尚且つ高位貴族がAクラスとなり、Bクラス以降は成績順に決まる。そのお陰で去年に引き続きビクトールやリリアとは別クラスになった。



 生徒会役員達と打ち合わせを終わらせて教室に着くと見慣れた顔ぶれが並んでいた。比較的仲がいい人は心配そうな顔で、興味本位な顔をしているのはビクトールとの婚約を知っている生徒だろう。
 感じの悪いニヤニヤ笑いを浮かべているのはビクトールの恋愛事情に詳しそうな噂好きとライラと仲の悪い人達。


「ライラ、大丈夫?」

 後ろの席の一番奥に向かうとにミリセント・シェルバーン伯爵令嬢が小声で話しかけてきた。

 ミリセントはクラスの中で一番の仲良しだがハーヴィーの件があってからは手紙のやりとりしかしておらず顔を合わせるのは久しぶりだった。

「ありがとう、手紙をいただいたのがとても心強かったわ」

「今日この後お茶でもどうかしら? 愚痴でも泣き言でもなんでも聞くわよ。もしライラを拉致できたら2人で帰るってジェラルドには話してあるの」

 ミリセントの婚約者はジェラルド・メイヨー公爵令息でライラ達は4人でしょっちゅう出かけたりお茶をしたりしていた。ミリセント達も政略で決まった婚約だがライラ達と同じくらい仲がいい。

 ジェラルドは先程ハーヴィーの代わりに壇上で挨拶を役員紹介をした旧副会長。ハーヴィーが生徒会の仕事をする為に学園に来ていた時の事故なので責任を感じていて、今朝顔を合わせた時も目の下にクマができていた。


「元気いっぱいとは言えないけど、元気なライラが良いっていつも言ってくれてたのを思い出したらメソメソしてられないなって」

「良かったわ、手紙だけじゃ心配で⋯⋯本当に心配してたんだから」

 気落ちしているフリをしていたライラは毎日のようにビクトールに会いにいくように言ってくる両親の手前友人と会う事が出来なかった。


 ライラとミリセントがお茶会の約束をしていると今年の担任が教室に入って来た。ライラ達の話に聞き耳を立てていた生徒達が慌てて席に着き、担任の自己紹介がはじまった。

「今年は生徒の入れ替わりが少なかったが、念の為自己紹介をしておくか」

 Bクラスからライラ達がいるAクラスにきたのは3人で、Bクラス落ちした生徒が2人いたので16人になった。


 クラス落ちしないようしっかりと勉強するようにと言う怖い言葉を最後に担任が出て行った。

 バタバタと帰る準備をしてほとんどの生徒が席を立ったが、ターンブリー侯爵家やライラの今後に興味津々のようで部屋を出る生徒はいない。

 生徒達の様子など気づいていないふりで帰る準備を済ませ、ノアが迎えに来るのを待つ間ライラとミリセントは顔を近づけて雑談をはじめた。

「2年生からは幾つか選択科目があるのよね、もうどれを専攻するか決めた?」

「まだなの、ジェラルドが専攻していた科目ならノートもあるし試験前には教えてもらえるって思ってたんだけど叱られちゃったから考え直してるとこなの」

 へにょりと眉を下げたミリセントはポヤポヤとした見た目によらず学年でも常に上位の成績を取り続けている。


 学園で習う基礎教科の七自由科は初歩的で言論に関した『文法・修辞学・弁証法』の三学と、より高度で事物に関する教科の『算術・幾何・天文学・音楽』の四科からなる。

 文法はラテン文学の注釈で修辞学は教会の文書・法令の作成や歴史を、弁証法は対話や弁論の技術を学ぶ。
 算術はその名の通りだが幾何は初歩の地理学で天文学は占星術を含み、音楽には数理的研究なども含まれていた。

「女性は中世大学へ行けないから修辞学は不要だし、ラテン語の本を読む気にはなれないって考えはじめると決めきれなくて困ってるの。ジェラルドと結婚した後にはどれも不要なものばかりなんだもの」

 この頃の大学は神学・法学・医学の3種でそれらを目指す者にとっては必要な学問ばかりだが、一部の医学校以外は女性に門戸を開いていない上に、ミリセントのように学園卒業後は結婚し家政を取りまとめるのがメインとなる貴族令嬢には必要がないものばかり。


「私は弁証法・数学・幾何は取りたいと思ってるんだけど文法も捨てがたいし天文学も気になってるの」

「弁証法はともかく幾何? 流石主席をキープしてきたライラは考え⋯⋯」

「ライラ様はビクトール様との結婚のご準備が忙しいのではなくて?」

 ライラとミリセントの話に無理やり割り込んできたのはアビゲイル・チャーター伯爵令嬢。

「ライラ様は余程ターンブリー侯爵家への輿入れに執着していらっしゃるようですもの、お勉強よりもビクトール様のお心を掴むよう努力されませんとねえ」

 貿易会社に参入したいチャーター伯爵家は以前からライラを蹴落としてハーヴィーを手に入れようと画策してきた。

 設立当初ならプリンストン侯爵家の資産が有用だっただろうが、ここまで会社が大きくなり莫大な収益を上げるようになったならターンブリー侯爵家の人脈だけで十分だとほとんどの貴族が考えている。
 チャーター伯爵家もハーヴィーとの縁をもぎ取り貿易会社からプリンストン侯爵家を追い出しその後釜に座ろうと狙っていた。

(ハーヴィーがダメならビクトールにしようとして失敗したんだったわよね。アビゲイル様もビクトールの一ヶ月限定の恋人で終わったもの)

「レディとしての魅力を磨かなくては捨てられてしまいますわよ。何しろ今は嬢ですものねえ」

「あら、別に構いませんわ。特に問題があるとは思っておりませんの」

 自信があると言っているのか捨てられても構わないと思っていると言っているのか⋯⋯ライラのあやふやな返事にアビゲイルが言葉を詰まらせた。


(いつものように新しい方に変更になろうがそのまま婚約破棄になろうがどちらでも構わないもの。それよりも、興味を持たれる方が問題だわ)

 ライラを睨みつけていたアビゲイルが口を開きかけた時教室のドアが派手な音を立てて開いた。




「ライラ! リリアを虐めたのか!!」

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