【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

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4.意外に早かった冤罪と隙間家具

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(このパターンが定番だと知っていても、いざとなるとムカつくわね。それにしても昨日の今日でコレだなんて随分と早すぎるわ⋯⋯それだけリリアが焦りはじめてるってことかしら?)

「おい、なんとか言ったらどうだ!?」

 他クラスへの入室は禁止されているがビクトールには関係ないらしく、ドシドシとライラの座っている席までやって来て『バン!』と大きな音を立てて机に手をついた。

 乱暴な行動など見慣れていない令嬢達が怯えて『ひっ!』と声を上げた。

(嫌だわ、脂ぎったお顔が近すぎてキモい)

 思わず仰け反りそうになったライラは椅子ごと後ろに下がってビクトールと距離を空けた。

「何の事を仰ってるのか分かりかねます。わたくしがいつ・何をしたと?」

「リリアに暴言を吐いたそうではないか? か弱いレディを脅すなんて何を考えているんだ!」

「いつのことか存じ上げませんが、お会いしていない方に暴言を吐く事など出来ません」

「えー、嘘つくなんて酷い! 集会がはじまる前に言ったじゃないですかぁ」

「そうだ! 元平民のくせに学園に来るなと言ったそうだな」

「申しておりません。リリア嬢の妄言か人違いのどちらかですわ」



「ライラ様の仰る通りです。朝、侯爵家を出発してから集会がはじまるまでずっとお側に控えておりましたから間違いありません!」

 少し焦った様子のノアが教室の入り口で叫んだ。ライラのそばに駆けつけたいが教室に入る資格がないので内心地団駄を踏んでいるのがよく分かる。

 ノアは成績だけで言えば余裕でAクラスだが、家が一代限りの騎士爵なのでBクラスに所属している。



「使用人の言うことなど信用できん! リリアはさっき泣いていたんだぞ!!」

(うーん、このまま婚約破棄って叫んでくれるかしら? あ、でもまだ報告書が届いていないから叫ばれても役に立たない可能性の方が高いわ)

「証拠はございますかしら? 公平な証人か証拠を見せていただかなくては反論のしようもございませんわ」

 眉間に皺を寄せて威圧しているノアの周りには人だかりができているが、その中にふわふわとした特徴のあるピンクブロンドが揺れているのが見えた。

「あら? イライザ様も見学にいらしたのかしら」

 慌てて振り返ったビクトールの腕にリリアがしなだれかかったが、気付いてもらった事が嬉しかったのか少し頬を染めたイライザがいそいそと教室に入ってきた。

(ここにもルールを気にしない方が⋯⋯類友かしら)


「ビクトール、今日は一緒に帰るお約束してたからお迎えに来たのよ。お義母様とみんなでお食事をするんでしょう?」

「あ、ああ。その前にちょっとをする必要があったんだ。直ぐに行くから馬車のところで待っていてくれ」

「一人でなんて寂しいからここで待っててもいい?」

 上目遣いで見上げる儚げな様子の美少女に鼻の下を伸ばしたビクトールに気付いたリリアが口を尖らせた。

「えー、ひどーい。ビクトールったらあたしのこと置いてくつもりなのぉ?」

(おやおや、三角関係勃発ね。イライザが参戦したってことはそろそろリリアはお払い箱になるのかしら)



「ミリセント、ノアも来たことだし帰りましょうか」

「え、ええ。勿論そうしましょう」

 鞄を持ってさっさと教室を後にするライラの後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。

「今日は許してやるが二度と馬鹿げた事をするな! 今度やったらただじゃおかんからな!!」

 クラスメイトだけに謝罪の気持ちを込めて頭を下げてノアと3人で廊下を歩き階段に向かう。騒ぎを聞きつけて興味津々でやって来た生徒達にライラが優雅に会釈をすると全員が赤い顔をして目を逸らした。




 馬車に乗り込んで生徒達の目から逃れようやくホッと息をついた。

「初日から凄かったわね。明日から噂で大騒ぎなんじゃないかしら。冤罪をかけられないように、ライラから離れないようにしてあげるわね」

「ありがとう、そうしてもらえると助かるかも。それにしても⋯⋯昨日見た様子ではとても親密そうだったのに何かあったのかしら。リリアさんの今までのパターンから考えると、わたくしの悪評を立てはじめるのはもう少し先だと思っていたわ」

「イライザ様の様子からしてビクトール様が次の候補を物色しはじめられたのかもしれませんね」

 イライザはいつもビクトールの恋愛遊戯を応援している風を装っている。


 ビクトールが恋人と上手くいっている時は⋯⋯。
『私はビクトールの幼馴染だもの。大切な幼馴染の恋を応援するのは当然のことよ』

 ビクトールが恋人に飽きた時は⋯⋯。
『可哀想なビクトール! あの人はあなたに相応しくなかったのね。ビクトールほど素敵な人はいないって知ってる。だから、もっと素敵な人が見つかるわ。なんでも私に相談してね』


 ビクトールが恋人と一緒にいる時にはマウントを取らず、別れそうになった時と次が決まるまでだけ積極的に甘えるのがイライザのパターン。

「まるで『隙間家具』みたいだけど、これが結構上手くいってるのが面白いのよね。浮気者の彼氏を許す心優しい女性って言うのを狙ってるんだと思うわ」

 ハーヴィーがいた頃はビクトールの事は大して気にも留めていなかった。同い年でもクラスが違って関わる事はなかったし、将来義弟になるといってもまだ随分と先の話だし。

『浮気者で金遣いが荒いのが悩みではあるんだけど、私がビクトールに何か言うと機嫌が悪くなるんだ。だから、私達が結婚したら別に暮らすようにするからって父上が仰ってる。悪い子じゃないんだけど中々難しくて⋯⋯気にしないでいてくれると助かる』

「それが、まさかの婚約者なんて。お父様にお聞きした時、頭をガツンと殴られたのかと思ったわ」



「3人ともCクラスですから信用出来る人がいないか探してみます」

「ええ、今まで放置していた分Cクラスの情報が不足しているのよね」

「それってCクラスで新しいロマンス発生ってこと?」

 イライザの『擬似儚げ美少女』とは違う天然物のミリセントが首を傾げるととんでもない迫力の可愛らしさが爆裂する。

「はあ、ジェラルドがミリセントを屋敷に閉じ込めたいって言う気持ちがとっても分かるわ。目の毒だからノアは直視しちゃダメよ」

「俺は大丈夫です。免疫もできてますし」

 何の免疫をどこでつけたのか⋯⋯聞くのが怖い。

(ノアの歳なら恋人とかいたり、結婚するって言いだしてもおかしくないものね)



 シェルバーン伯爵家に着くとミリセントそっくりの伯爵夫人がライラに飛びついた。

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