【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
5 / 49

5.シェルバーン伯爵家のライラセンサー

しおりを挟む
「ライラ! 泣いていいのよ!! まさかこんなことになるなんて」

 戸惑うライラを抱きしめたミリアーナ・シェルバーン伯爵夫人の方が泣いている。

「ごめんね、この間からお母様はずっとこの調子なの」

 ミリセントがポケットから出したハンカチを手渡した後、母親の手を引いて屋敷に向かった。居間のソファに腰掛けた後もミリアーナはライラを抱きしめ涙を流した。

「ハーヴィーほど素晴らしい子は見たことがないわ。勿論ジェラルドもとてもいい子よ。でも、分かるでしょう? ハーヴィーには違った良さがあって。しかもライラとあんなに仲が良かったのに⋯⋯。わたくしはミリセントとライラの子供達が一緒に遊ぶのを見るのを楽しみにしてたの」

 滂沱の涙とはこういうことを言うのだなぁと冷静に考えていたライラだったが、ハーヴィーの為に泣く人を見たのが初めてだと気付いてショックを受けた。

(そう言えば私⋯⋯一度も泣いてない)

 ハーヴィーの事は大好きだった。初めて会った時から心の深いところで繋がっているような安心感があって、婚約者で親友で同士で⋯⋯家族だった。

(恋愛感情がどんなものなのかよく分からないけど、ずっと一緒にいたいし一緒にいられるのが嬉しいって思ってた)


 葬儀の時のぼんやりした記憶の中に、ビクトールは勿論の事ターンブリー侯爵夫妻が泣いていたイメージがない。

(たった一人の息子が亡くなったのに侯爵夫人が泣いてないわけないわよね)



「お母様、ライラと二人にしていただけませんか? そんなに泣いていたらライラがますます悲しくなってしまいますわ」

「そうね、本当にごめんなさい。わたくしが泣いたら戸惑ってしまうわよね。困った事があってもなくても⋯⋯いつでも相談してね」

「ありがとうございます。ミリセントにもミリアーナ様にも心から感謝しています。何かあったら遠慮なく相談させていただきますね」



 ミリアーナが居間を出て行くと肩を落としたミリセントが頭を下げた。

「ごめん、お母様は今日は夕方までお出かけするって仰ってたの。ライラセンサーが発動したのね」

 はぁっと溜息をついたミリセントは、ライラがシェルバーン伯爵家に遊びに来るのを察知する能力が年々強力になる母親に手を焼いている。
 ミリセントは歳の離れた弟と両親の4人家族。未だに人目を憚らず手を繋いで歩く仲の良すぎる両親はミリセントや弟へのスキンシップも激しい。

『大切な家族とコミュニケーションを取りたいと思うのは普通でしょう』

 
 親の愛情をお釣りが出るほどもらって育ったミリセントに比べ、一人っ子で両親とは一緒に食事をした事も殆どないライラ。誰かの悪口か金持ち自慢しか口にしない両親と顔を合わせるのは億劫なばかりで、たまに声をかけてきたと思ったら貴族令嬢として家の役にたてと言われるだけ。

 数年前までは乳母のマーサがいてくれたし今はマーサの娘のサラが専属侍女として仕えてくれている。何よりノアがいれば十分だと思っていると話したのが拙かったらしい。その日ミリアーナの中にライラセンサーが生まれた。

『それは虐待っていうのよ。ひとりぼっちの食事が当たり前だなんて! わたくし達では不足だと思うけれど一緒に食事やおしゃべりをしましょうね』

 顔を合わせるとハグされて頬を撫でられ、困った事はないかと聞かれるのはなんとも面映いが嬉しくもあり⋯⋯。

「気にかけていただいて感謝してる。ハグされるのも慣れてからは結構嬉しいし」



 ミリセントと2人でお茶を楽しんだ後、会わなかった2ヶ月の間にあった事を聞いた。卒業式後のプロムはハーヴィーの計画通りで大盛況だった事や期末試験の結果が思ったより良かった事。

 ライラが婚約破棄に向けてアレコレ調査している最中だと話すとミリセントが満面の笑みを浮かべた。

「やっぱりビクトールとは婚約破棄するのね! あんな人にライラは勿体ないもの。2人が婚約させられたって聞いた時は頭に血が上りすぎて息が止まるかと思ったわ」

「ビクトールが婚約破棄だって騒いでも今のままじゃ上手くいかないと思うから準備中なの。多分だけど現状ではビクトールが何をしても廃嫡にさえならないと思うのよね」

「そうか⋯⋯他に兄弟いないものね」

「うちも私しかいないでしょう? ビクトールが何を言おうと無理矢理婚姻をさせて2人の子供に侯爵家を継がせるとか言い出すと思うの」

「ねえ、前から思ってたんだけどライラが家を出たらプリンストン侯爵家はどうするおつもりなのかしら」

「実はね、お父様には12歳と8歳の男の子の庶子がおられるの」

「じゃあ!!」

「お母様が怖いのか今のところ公にはしていないけど、お父様が王都の屋敷に連れてくる機会を狙ってるのは知ってるの」

 2人の庶子は母親違いだが領地にある屋敷で一緒に育てられている。優秀な方に侯爵家を継がせると言われているので熱心に勉強するのは良い事だが足の引っ張り合いも酷いらしい。

 プリンストン侯爵は王都に別の愛人を囲っており庶子達の母親には関心がないらしいが、息子が後継に選ばれれば寵愛も戻ってくるはずだと息巻いている。

「昔の愛人とその子供を同じ屋敷に住まわせてるだけでもあり得ないのに、後継に選ばれた方だけ籍に入れるって言ってるそうなの。残った方は親子共々追い出すっていうのよ、本当に悪趣味で吐き気がするわ」

「プリンストン侯爵らしいって言ったら気を悪くする?」

「いいえ、私も同じ事を思ってるもの。今はまだ何もできていないけど、出来るだけ早くあの子達の環境を変えてあげたいと思ってるの。毎日、資産家の後継になるか路頭に迷うかの二択を迫られる生活なんて心が壊れちゃうわ」

「成人だと言っても私達はまだ学生だもの。出来ることなんて限られてるわよねぇ」


 この国は15歳で成人となる。ライラとハーヴィーは既に貿易会社の役員の一人になっていたがビクトールは素行の悪さが影響しているのか未だに役員にはなっていない。

「念には念を入れなきゃいけないから、各役員の家にビクトールの性格や普段の行動の噂を流すつもり。役員会の決議でビクトールをハーヴィーの後釜にされたら厄介だもの」

 ターンブリー侯爵は一日も早くビクトールの役員就任を受け入れさせようと金をばら撒いているが、ビクトールの噂と一緒にターンブリー侯爵家の資金状況をほんの少しだけ追加してリークすれば当面は大丈夫だと踏んでいる。

「ビクトールを役員にしたら仕事もしていないのに報酬をもっと寄越せって会社に怒鳴り込んでくるし、ターンブリー侯爵家は散財しすぎて火の車ですよって」

「お母様にもお願いしてみようかしら。お茶会でその話が流れれば⋯⋯」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。 父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。 そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。 本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない! これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。 8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

【完結】婚約破棄と言われても個人の意思では出来ません

狸田 真 (たぬきだ まこと)
恋愛
【あらすじ】  第一王子ヴィルヘルムに婚約破棄を宣言された公爵令嬢クリスチナ。しかし、2人の婚約は国のため、人民のためにする政略結婚を目的としたもの。  個人の意思で婚約破棄は出来ませんよ? 【楽しみ方】  笑い有り、ラブロマンス有りの勘違いコメディ作品です。ボケキャラが多数登場しますので、是非、突っ込みを入れながらお楽しみ下さい。感想欄でもお待ちしております! 突っ込み以外の真面目な感想や一言感想などもお気軽にお寄せ下さい。 【注意事項】  安心安全健全をモットーに、子供でも読める作品を目指しておりますが、物語の後半で、大人のロマンスが描写される予定です。直接的な表現は省き、詩的な表現に変換しておりますが、苦手な方はご注意頂ければと思います。  また、愛の伝道師・狸田真は、感想欄のお返事が初対面でも親友みたいな馴れ馴れしいコメントになる事がございます。ご容赦頂けると幸いです。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

処理中です...