【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
11 / 49

11. 貿易会社『Stare』

しおりを挟む
「こっちはダブリン公爵家のパーティーに参加したんだ。プリンストン派のファイフ伯爵の親戚のコーク伯爵にリークしてもらっておいた。あの2人はプライベートでもよく会ってるらしいから話は伝わってると思うよ」

 ジェラルドは父親に頼んでビクトールの悪評とターンブリー侯爵の財政への不安を煽ってもらった。

『優秀な嫡男がいたのに残っているのがアレではターンブリー侯爵家は心配ですな』

「コーク伯爵は父上が味方だと思ったらしくてブリックス子爵から聞いた話とかを教えてくれたらしい」



「お母様はアレイグル侯爵家のパーティーでターンブリー侯爵派のクルセルド伯爵夫人に話しておいたって」

『先日こんな噂を聞きましたのよ。悪影響が出ないうちにお調べになられた方がよろしいかと思いまして』



「ありがとう、これで取り敢えず第一歩だわ」

「ライラの事だから次の手も考えてるんでしょう?」

「うん、会社の方の調べを進めるつもりなの」

「会社!? もしかして腐ったパンって言ってたアレのことかい?」

「そう、それもタイミングを合わせて片付けるのが一番良いと思ってるの」


 両家が立ち上げた貿易会社『Stare』はは綿織物・絹織物・陶磁器などを輸出し香辛料や砂糖やお茶を輸入、各地の産物・商品の中継貿易でも利益を上げている事になっている。

(でもそれ以外にもっと利益を出してる秘密の売買。あれを早く何とかしなくちゃ)




 ハーヴィーがターンブリー侯爵家の資産の増え方に疑問を抱いたのがはじまりだった。

『貿易会社は確かに黒字経営だけど⋯⋯それだけにしては羽ぶりが良すぎるんだ。我が家は借金まみれだったのにって』

 ハーヴィーが2年生になったばかりの頃⋯⋯父親の執務室で偶々見つけてしまった裏帳簿に書かれていた数字と意味不明な記号の羅列。


『貿易会社が莫大な利益を上げているのは知ってる。我が家の収入は領地から上がる利益と役員報酬だけど、正直に言うと領地経営は赤字ギリギリなのを見栄を張って申告してたんだ。
貿易会社の設立にあたってプリンストン侯爵家から無利子で借りた借金が返済できたから、その分余裕ができたのかもと思ったりもしたんだけど。やっぱりそれだけじゃないらしい』

 その頃既に領地経営を任されていたハーヴィーは、将来の為に貿易会社の経営も勉強したいと言って学業の合間に会社に出入りする許可を得た。

 それから数ヶ月かけて少しずつ会社のあちこちを調べ回り、不審な船の運行記録に辿り着いた。

 その記録は当たり前のようにその他の運航記録と一緒に綴じ込んであり、意識してみていなければ気がつかなかっただろうと言っていた。

 季節や天候によって時折定期航路を離れて運行する船団があるのは普通だが、積荷が極端に少ない上に必ず決まった港に停泊しているのだと言う。

『季節による海流の変化に合わせているわけでもないしそこに商館を設立してもいないのに必ず同じ港に停泊するなんて絶対に何かあると思うんだ。
しかも普段は行きも帰りも荷物をギリギリまで満載しているのに、その港に停泊する船団だけは荷物が少ないなんてあり得ない。
途中で必ず停泊する港での取引の記録自体ないんだ』

『計上していない裏取引があるのは間違いなさそうね』

『ああ、以前見た裏帳簿をもう一度見る事ができれば何か分かるかもしれないんだけど、父上の執務室は常に鍵がかかっているし立ち入り禁止だと言われているから。
あの日は本当に珍しい事だったんだ』

 その日、侯爵夫人が在宅しているにも関わらずビクトールの母親が急に屋敷に押しかけてきたと言う。

『自分の商会でトラブルがあって急に大金が必要になったから、父上に援助して欲しいって押しかけてきたんだ。
ビクトールを引き取った後は手切れ金を払って縁を切ったって母上には話していたから父上は慌てたみたいで、鍵をかけ忘れた上にドアが半開きになってたから入り込めたんだ』



「会社か⋯⋯そうなると本格的に大人の力が必要じゃないかな。父上はいくらでも手伝うと言って下さったし、それにその」

 今回の噂のリークにも親の協力を願ったジェラルドが提案の途中で口籠もってしまった。

「うちの両親も手伝いたいって言ってるの。それにほら⋯⋯」

 言いにくそうにするジェラルドの脇腹をツンツンと突き、顔を覗き込んだミリセント。


「あの、実は⋯⋯ハーヴィーから頼まれている事もあるし」

「⋯⋯え?」

 意外な名前が出てきてライラは驚いた。ライラの気持ちを考慮してかハーヴィーの名前を口にしなかったジェラルドが⋯⋯。



「ライラに話しにくかったからってわけじゃないんだ。ハーヴィーと約束してたと言うか⋯⋯。
ライラはハーヴィーが亡くなった時の事とかって何か覚えてる?」

 ジェラルドが目を逸らしたまま言いにくそうにライラに聞いてきた。

「⋯⋯ハーヴィーの最後について誰かと話す勇気はまだなくて誰とも、その話したことはなくて」


「ほら、だからまだ早いって言っただろ?」

 ジェラルドが八つ当たりのようにミリセントにきつい言葉を使った。

「でもね、多分だけどとっても大切な事だと思うからライラは知るべきなの。もしこれがジェラルドと私の事だとしたら辛くても早く知りたいって思うんじゃないかって」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ライラ、その。無理はしなくて良いから少しだけ⋯⋯少しだけ話して良いかな」

 ジェラルドが口籠る様子を見てライラは俯いた。ジェラルドが何を話したいと思っているのか想像もつかないが聞くのがとても恐ろしい。

(それでも聞きたい気も⋯⋯聞かなくてはいけない気もする。2人で調べていたことに関係する何かかもしれないし)


「お嬢様、無理はなさらないで下さい。時間はまだいくらでもあるんですから。取り敢えず婚約者問題の目処が立ってからでも良くないですか?」

 ハーヴィーが亡くなった直後のライラの様子を知っているノアはジェラルドを睨みつけた。

(元気そうに見えてるだけなのに⋯⋯お嬢様はあれ以来剣に見向きもされないし馬にもお乗りにならない。ハーヴィー様との思い出にできる限り関わらないようにされてるんだ。
薄く皮が張ったばかりの傷口に指を突き刺すような行為はやめてくれ!)


「ノアの気持ちはすごくよくわかる。俺だって出来ればまだこんな事は話したくないんだ」

「で、でも話した方がいいと思ったんですよね」

「あ、うん。えっと、先ずはビクトールがあれ程愚かだと思ってなかったっていう話からなんだけど、父上から聞いた話で⋯⋯」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。 父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。 そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。 本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない! これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。 8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

処理中です...