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38.強制捜査と勅令書の謎
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「酷いなぁ、こんな面白い案件を隠してるなんて」
楽しげに文句を言っているのはもちろんターニャ副団長。並んで座る第二騎士団団長グレッグ・モートンはこれ以上ないほど深く眉間に皺を寄せて書類を改めていた。
「これは、輸出禁止の銃・火薬・硫黄・硝石。しかも密売先が敵対しているシャルセント王国だなんて」
グレッグ団長は怒りで書類の端に皺がよりそうなほど手に力が入っている。
「貿易会社『Stare』が設立されて5年だっけ? プリンストンはそれより前に武器の密売をはじめてるのね」
楽しげな様子で現れたターニャ王女だが、密売していた品が分かった途端冷ややかな目付きに変わった。
「ええ、帳簿で見た限りでは10年以上前からです」
「こっちのは奴隷売買。ダベナント王国のギニアリアで銃・火薬を売り奴隷を購入。サン・ダマングスで奴隷を売って貴金属・粗糖等を購入か。とんでもないな」
「まだ侯爵達のサインの入った書類が見つかってないのですが、強制捜査に入れるくらいの証拠として使えますか? あ、こっちのは脱税関係です」
「よくこれだけ調べましたね。プリンストンだけでなくターンブリーの帳簿まである」
「ハーヴィーが残してくれました。ハーヴィーが最初に気付いて、それから2人で調べてきたんです」
淡々と説明するライラにグレッグ団長が心配そうな顔をした。
「ああ、これだけあれば十分だが。この後どうなるのか分かっていてこれを持ってこられたんですよね」
連絡先が書かれたらしいメモや受領書と領収書の控え。別名奴隷手形とも呼ばれる為替手形の振出人は、第二騎士団の内部資料にもある奴隷ファクターと呼ばれる現地在住の販売代理人の名前が書かれていた。
「はい、貿易会社と侯爵両家⋯⋯覚悟の上です。ハーヴィーと私は会社役員に名を連ねていますしそれぞれの家に関わるものとしても看過できないと考えました。それ相応の処罰も覚悟の上です。
私達が役員報酬として受け取った物は一切手をつけず銀行に預けてあります。これがハーヴィーのもので、こっちが私のものです」
「分かりました。一応お預かり致します」
「それからこの鍵がターンブリー侯爵家の秘密金庫の鍵で、場所の説明はこれです。プリンストンのはこれが⋯⋯」
ハーヴィーから預かったターンブリー侯爵家の隠し金庫の場所を書いた用紙と合鍵。プリンストン侯爵家の隠し金庫の場所を書いた用紙と合鍵を並べてテーブルの上においた。
「ここには侯爵達の隠している帳簿や証拠書類、現金などが全て入っています。侯爵家の裏帳簿も」
「ここまでお膳立てされた強制捜査って初めてじゃないかな?」
グレッグ団長が感心したような呆れたような声を出した。
「学生のした事ですから足りない物は多いと思いますが、よろしくお願いします」
頭を下げたライラにターニャが声をかけた。
「今日持ってきたのには意味があるの?」
「はい、あの。今日漸く婚約破棄に辿り着いたので」
「はい? あのバカと婚約破棄出来たの?」
「ビクトールが爵位簒奪の書類を紋章院に提出して受理されたと昨日連絡が来たので、彼がおかしな事をしてしまわないように、今日婚約破棄をして告発にきました」
ライラがざっくりと説明するとターニャ王女が柳眉を逆立ててテーブルを叩いた。
「なんて事を!」
積み上げられていた書類が崩れかけライラとグレッグ団長が慌てて支えた。
「あ、ごめん。アイツがここまでバカだとは思わなかった」
「書類を提出したのはモグリの弁護士でベン・モートンという名前で、私の雇っている調査員が後をつけています。
ビクトールが爵位簒奪をした事を知ったらターンブリー侯爵が書類を移動するかもしれませんし、ビクトールが貿易会社に乗り込んで金庫を荒らすかもしれないと思って」
「そうか、教えてくださって助かりました。直ぐに準備して強制捜査に入ります」
「あ、準備してる間にひとっ走り行ってくるわね。帰ってくるまでに準備よろしく~」
パラパラと捲った資料の中から何枚かの書類を抜き出し、バタバタと出ていくターニャの後ろ姿を見送ったグレッグ団長が溜息をついた。
「本来の命令系統だの仕事の手順だのがあるって気づいてくれればなあ」
ターニャが前回メイヨー公爵家で出した王印の押された勅令書の謎。
勅令書には執行命令や委任命令のほか独立命令や緊急命令などがある。王印と共に国務大臣の印も必要となる為、本来なら発行にはかなりの時間がかかる。
「ところが、あの跳ねっ返りの王女様ときたら、取り敢えずの説明ができる資料さえあれば陛下が何をしておられる最中だろうと国務大臣がどんな状況だろうと気にせず印をもらってくるんだ。
メイヨー公爵家の時なんて『この後横領の証拠が届くから』の一言で勅令書をもぎ取ってきた」
「は?」
『だってライラが証拠書類を持ってくるって言ったなら持ってくる。あの子は有言実行の子だって知ってるから、さっさと印を押して!』
信用されているのは嬉しいなどと言う問題を超えている。
「それで役に立つ書類がなかったら⋯⋯」
青褪めたライラが呆然としている前でグレッグ団長は騎士に指示を出しはじめた。
「時間がないから急ぐぞ。強制捜査の箇所は3箇所、同時に行う。全員に招集をかけろ」
「はい!」
走り出した騎士をぼんやりと見つめ、後ろを振り返った。
「ノア、ターニャ王女はやっぱり危険だわ」
「同感です」
苦笑いを浮かべたノアはターニャのターゲットがデレクで良かったと胸を撫で下ろした。
集められた騎士が3つのグループに分けられ、各グループの隊長が集められた。強制捜査の場所を聞いた時点で隊長達の顔が青褪めた。
「今回はターンブリーとプリンストン、両侯爵家の家人と全ての使用人を逮捕・勾留し屋敷の保全を行う。屋敷内の捜索・差押・検証については明日以降となるため立ち入り禁止。
貿易会社『Stare』も全役員逮捕・勾留の上、社屋は立ち入⋯⋯⋯⋯」
雪崩れ込む第二騎士団員に慌てふためく貿易会社『Stare』とふたつの侯爵家。喚く侯爵や侯爵夫人、逃げ出そうとする使用人達。拘束された役員達は呆然とし社員達は明日からの生活を思い床に座り込んだと言う。
王都中が騒然となった強制捜査は両侯爵家が所有する全ての屋敷、会社が所有する本社・商館・船等々。
全ての家屋の捜査が終わるまでに2ヶ月近くかかったという。
ターンブリー侯爵家は侯爵・夫人・ビクトールと同時にサルーン男爵令嬢も逮捕され、ビクトールの母親も任意同行された。
プリンストン侯爵家は侯爵と夫人が逮捕され、領地の屋敷にいた庶子2人とその母親は任意同行された。
犯罪に関与していた役員や社員も次々と摘発されていった。
脱税・武器の密売・奴隷売買関与以外に違法薬物の密輸まで発覚し捜査対象は広がる一方で未だ収束の目処は立っていない。
楽しげに文句を言っているのはもちろんターニャ副団長。並んで座る第二騎士団団長グレッグ・モートンはこれ以上ないほど深く眉間に皺を寄せて書類を改めていた。
「これは、輸出禁止の銃・火薬・硫黄・硝石。しかも密売先が敵対しているシャルセント王国だなんて」
グレッグ団長は怒りで書類の端に皺がよりそうなほど手に力が入っている。
「貿易会社『Stare』が設立されて5年だっけ? プリンストンはそれより前に武器の密売をはじめてるのね」
楽しげな様子で現れたターニャ王女だが、密売していた品が分かった途端冷ややかな目付きに変わった。
「ええ、帳簿で見た限りでは10年以上前からです」
「こっちのは奴隷売買。ダベナント王国のギニアリアで銃・火薬を売り奴隷を購入。サン・ダマングスで奴隷を売って貴金属・粗糖等を購入か。とんでもないな」
「まだ侯爵達のサインの入った書類が見つかってないのですが、強制捜査に入れるくらいの証拠として使えますか? あ、こっちのは脱税関係です」
「よくこれだけ調べましたね。プリンストンだけでなくターンブリーの帳簿まである」
「ハーヴィーが残してくれました。ハーヴィーが最初に気付いて、それから2人で調べてきたんです」
淡々と説明するライラにグレッグ団長が心配そうな顔をした。
「ああ、これだけあれば十分だが。この後どうなるのか分かっていてこれを持ってこられたんですよね」
連絡先が書かれたらしいメモや受領書と領収書の控え。別名奴隷手形とも呼ばれる為替手形の振出人は、第二騎士団の内部資料にもある奴隷ファクターと呼ばれる現地在住の販売代理人の名前が書かれていた。
「はい、貿易会社と侯爵両家⋯⋯覚悟の上です。ハーヴィーと私は会社役員に名を連ねていますしそれぞれの家に関わるものとしても看過できないと考えました。それ相応の処罰も覚悟の上です。
私達が役員報酬として受け取った物は一切手をつけず銀行に預けてあります。これがハーヴィーのもので、こっちが私のものです」
「分かりました。一応お預かり致します」
「それからこの鍵がターンブリー侯爵家の秘密金庫の鍵で、場所の説明はこれです。プリンストンのはこれが⋯⋯」
ハーヴィーから預かったターンブリー侯爵家の隠し金庫の場所を書いた用紙と合鍵。プリンストン侯爵家の隠し金庫の場所を書いた用紙と合鍵を並べてテーブルの上においた。
「ここには侯爵達の隠している帳簿や証拠書類、現金などが全て入っています。侯爵家の裏帳簿も」
「ここまでお膳立てされた強制捜査って初めてじゃないかな?」
グレッグ団長が感心したような呆れたような声を出した。
「学生のした事ですから足りない物は多いと思いますが、よろしくお願いします」
頭を下げたライラにターニャが声をかけた。
「今日持ってきたのには意味があるの?」
「はい、あの。今日漸く婚約破棄に辿り着いたので」
「はい? あのバカと婚約破棄出来たの?」
「ビクトールが爵位簒奪の書類を紋章院に提出して受理されたと昨日連絡が来たので、彼がおかしな事をしてしまわないように、今日婚約破棄をして告発にきました」
ライラがざっくりと説明するとターニャ王女が柳眉を逆立ててテーブルを叩いた。
「なんて事を!」
積み上げられていた書類が崩れかけライラとグレッグ団長が慌てて支えた。
「あ、ごめん。アイツがここまでバカだとは思わなかった」
「書類を提出したのはモグリの弁護士でベン・モートンという名前で、私の雇っている調査員が後をつけています。
ビクトールが爵位簒奪をした事を知ったらターンブリー侯爵が書類を移動するかもしれませんし、ビクトールが貿易会社に乗り込んで金庫を荒らすかもしれないと思って」
「そうか、教えてくださって助かりました。直ぐに準備して強制捜査に入ります」
「あ、準備してる間にひとっ走り行ってくるわね。帰ってくるまでに準備よろしく~」
パラパラと捲った資料の中から何枚かの書類を抜き出し、バタバタと出ていくターニャの後ろ姿を見送ったグレッグ団長が溜息をついた。
「本来の命令系統だの仕事の手順だのがあるって気づいてくれればなあ」
ターニャが前回メイヨー公爵家で出した王印の押された勅令書の謎。
勅令書には執行命令や委任命令のほか独立命令や緊急命令などがある。王印と共に国務大臣の印も必要となる為、本来なら発行にはかなりの時間がかかる。
「ところが、あの跳ねっ返りの王女様ときたら、取り敢えずの説明ができる資料さえあれば陛下が何をしておられる最中だろうと国務大臣がどんな状況だろうと気にせず印をもらってくるんだ。
メイヨー公爵家の時なんて『この後横領の証拠が届くから』の一言で勅令書をもぎ取ってきた」
「は?」
『だってライラが証拠書類を持ってくるって言ったなら持ってくる。あの子は有言実行の子だって知ってるから、さっさと印を押して!』
信用されているのは嬉しいなどと言う問題を超えている。
「それで役に立つ書類がなかったら⋯⋯」
青褪めたライラが呆然としている前でグレッグ団長は騎士に指示を出しはじめた。
「時間がないから急ぐぞ。強制捜査の箇所は3箇所、同時に行う。全員に招集をかけろ」
「はい!」
走り出した騎士をぼんやりと見つめ、後ろを振り返った。
「ノア、ターニャ王女はやっぱり危険だわ」
「同感です」
苦笑いを浮かべたノアはターニャのターゲットがデレクで良かったと胸を撫で下ろした。
集められた騎士が3つのグループに分けられ、各グループの隊長が集められた。強制捜査の場所を聞いた時点で隊長達の顔が青褪めた。
「今回はターンブリーとプリンストン、両侯爵家の家人と全ての使用人を逮捕・勾留し屋敷の保全を行う。屋敷内の捜索・差押・検証については明日以降となるため立ち入り禁止。
貿易会社『Stare』も全役員逮捕・勾留の上、社屋は立ち入⋯⋯⋯⋯」
雪崩れ込む第二騎士団員に慌てふためく貿易会社『Stare』とふたつの侯爵家。喚く侯爵や侯爵夫人、逃げ出そうとする使用人達。拘束された役員達は呆然とし社員達は明日からの生活を思い床に座り込んだと言う。
王都中が騒然となった強制捜査は両侯爵家が所有する全ての屋敷、会社が所有する本社・商館・船等々。
全ての家屋の捜査が終わるまでに2ヶ月近くかかったという。
ターンブリー侯爵家は侯爵・夫人・ビクトールと同時にサルーン男爵令嬢も逮捕され、ビクトールの母親も任意同行された。
プリンストン侯爵家は侯爵と夫人が逮捕され、領地の屋敷にいた庶子2人とその母親は任意同行された。
犯罪に関与していた役員や社員も次々と摘発されていった。
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