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アンヴィル
5.ジョンバーグ伯爵
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「は?」
「湯浴みですわ」
「あの、初めていらした館で湯浴み? あの、えっ?」
「昨日、こちらの領地に参りましたの。
何でも新しく開墾する畑の為に、水の使用を制限されておられるとか。
領主館なら湯浴みできるだけのお水があるのではないかと思いまして」
「待って下さい。確かに農地の開墾はしましたが、水の制限など」
「今度、井戸の使用にも見張りを立てるとか。
色々お話を聞かせて頂きたかったのですが、まずは身綺麗にしませんと。
恥ずかしくて身の置き所もございませんわ」
「・・何が起きてるのか、教えて頂けませんか?」
「私は他所者ですから、どうぞ領民の方々からお聞きになって下さいまし」
「分かりました。行きましょう」
リディアの馬車に同乗し、町へやってきたジョンバーグ伯爵は唖然としている。
「人が歩いてない。店・・」
伯爵はふらふらと、一軒の店に入って行った。
「りょっ領主様!」
「これはどう言う事なんだい? 店に何にも置いてない・・。
去年も今年も豊作で、領地は潤ってるって」
「・・」
店を出て隣の店に入っても、やはり何も置いていない。
「領主様!」
年配の男が走ってきた。息を切らして膝に手をついている。
「どう言う事なんだ? 人が誰も歩いてない」
「水です。川をご覧になって下さい」
男が先導し、一行は川に辿り着いた。
「なっ何で? 今年は渇水じゃないだろ?
ロレンヌ川は、例年通りだって報告を受けてる」
「新しい堰が出来て、農地以外の水が制限されとるんです」
「何で? 何でそんな事を?」
「ワシらには分かりません。何でも新しい開墾地に送る水の為だと聞いとります」
「誰がそんな事を」
「新しい代官様が、御布令をお出しになりましたです」
話を聞いていた伯爵は、突然屋敷に向けて走り出した。
「領主様! 馬車の方が早いですー」
リディアが後ろから大声で叫ぶが、伯爵は物凄い勢いで来た道を走って行く。
「どうしよう、私達も走った方が良いのかしら?」
「無茶な事を、途中で倒れてしまいますよ」
「そうよね。そうだわ」
くるっと振り返り、呆然とした顔で領主の後ろ姿を見ていた男に声をかける。
「ご一緒しません? 領主様が、後からあなたを探すんじゃないかと思いますの」
リディア達は、男を乗せて領主館に向かった。
途中で、走っている伯爵を見つけた。
「伯爵様、乗って下さいな。その方が早いと思います」
5人の大人を乗せた馬車が領主館に辿り着いた途端、伯爵が飛び出した。
「ジョージ! 出てこい!」
伯爵が叫んでいる。
領主館のドアが開き、丸眼鏡をかけた若い男が出てきた。
「伯爵様凄い、全然息を切らしてなかったわ」
「湯浴みですわ」
「あの、初めていらした館で湯浴み? あの、えっ?」
「昨日、こちらの領地に参りましたの。
何でも新しく開墾する畑の為に、水の使用を制限されておられるとか。
領主館なら湯浴みできるだけのお水があるのではないかと思いまして」
「待って下さい。確かに農地の開墾はしましたが、水の制限など」
「今度、井戸の使用にも見張りを立てるとか。
色々お話を聞かせて頂きたかったのですが、まずは身綺麗にしませんと。
恥ずかしくて身の置き所もございませんわ」
「・・何が起きてるのか、教えて頂けませんか?」
「私は他所者ですから、どうぞ領民の方々からお聞きになって下さいまし」
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リディアの馬車に同乗し、町へやってきたジョンバーグ伯爵は唖然としている。
「人が歩いてない。店・・」
伯爵はふらふらと、一軒の店に入って行った。
「りょっ領主様!」
「これはどう言う事なんだい? 店に何にも置いてない・・。
去年も今年も豊作で、領地は潤ってるって」
「・・」
店を出て隣の店に入っても、やはり何も置いていない。
「領主様!」
年配の男が走ってきた。息を切らして膝に手をついている。
「どう言う事なんだ? 人が誰も歩いてない」
「水です。川をご覧になって下さい」
男が先導し、一行は川に辿り着いた。
「なっ何で? 今年は渇水じゃないだろ?
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「新しい堰が出来て、農地以外の水が制限されとるんです」
「何で? 何でそんな事を?」
「ワシらには分かりません。何でも新しい開墾地に送る水の為だと聞いとります」
「誰がそんな事を」
「新しい代官様が、御布令をお出しになりましたです」
話を聞いていた伯爵は、突然屋敷に向けて走り出した。
「領主様! 馬車の方が早いですー」
リディアが後ろから大声で叫ぶが、伯爵は物凄い勢いで来た道を走って行く。
「どうしよう、私達も走った方が良いのかしら?」
「無茶な事を、途中で倒れてしまいますよ」
「そうよね。そうだわ」
くるっと振り返り、呆然とした顔で領主の後ろ姿を見ていた男に声をかける。
「ご一緒しません? 領主様が、後からあなたを探すんじゃないかと思いますの」
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途中で、走っている伯爵を見つけた。
「伯爵様、乗って下さいな。その方が早いと思います」
5人の大人を乗せた馬車が領主館に辿り着いた途端、伯爵が飛び出した。
「ジョージ! 出てこい!」
伯爵が叫んでいる。
領主館のドアが開き、丸眼鏡をかけた若い男が出てきた。
「伯爵様凄い、全然息を切らしてなかったわ」
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