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5.宝飾店にようこそ
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「社交界でのイーサンの評判を復活させるためだろうな」
「復活? アイツの評判なんて復活するわけねえじゃん」
「サラは学園時代成績優秀者で表彰されたこともあるし侯爵家の長女だし。
真面な女性と結婚して爵位を継ぐ予定のイーサンが社交界に華々しく舞い戻るってストーリーだろ? 激甘の母親の考えそうな事だよ」
「離婚歴のある女性はあの母親のお眼鏡にはかなわなそうだし、年齢的に私しか残ってなかった可能性もあるし。
行き遅れが公爵家に嫁げるんだから感謝して平伏しなさいって思ってるんじゃないかなあ」
呑気に説明するサラを見てギルバートが眉間に皺を寄せた。
「お前さぁ、学生時代から評判いいんだぜ。今だってパーティーにでりゃ『サラはどうしてる?』ってしょっちゅう聞かれるしよお」
「謎の女サラちゃんだもの。お茶会もパーティーも出てこなくて、放課後もあっという間にいなくなる。美人なのに誰の誘いにも乗らないし⋯⋯私達だって商会で関わらなかったら何にも知らないままだったと思うわ」
「モーガン侯爵家の奴等はサラのことを褒めちぎるから家に問題があるなんて誰も知らない。アイツら徹底してるからな」
「路上でサラが古着を売ってるのを知った時はビックリしたもの。あれを知ってからお茶会でビクトリア達がサラを褒める度に扇子が壊れたわ」
「それは申し訳ない。弁償する代わりにはならないけどメリッサの大好きな捺染布でドレスを仕立ててプレゼントするね」
ビクトリア達はいつも『サラは病気の祖母が心配で離れない優しい子』『人見知りだからお茶会に誘えなくて寂しい』『家族思いの慎ましやかな子』だと言っていた。
縁談がくれば病気の祖母のそばにいたいから今はまだ考えられないと言っていると断り、条件の良い縁談にはビクトリアを勧めていた。
「多分だけどビクトリアが参戦してくる可能性もあるから、どの道あっという間に終わるはず」
「ビクトリアが!?」
「あー、ありそうだよなぁ。例の婚約破棄みたいにビクトリアを腕にぶら下げてさあ」
ライリーが妙に嬉しそうに口元を隠した。
「取り敢えず、そう言う事なんで。イーサン達が無理を言ってきてもいつも通りの対応でお願い。金額とか納期とかに文句を言ってくるようなら証人か証拠を残して貰えると助かる」
「オッケー」
「いいぞ」
「わわ、わかりました」
「了解」
それぞれの仕事に戻ったメンバーはイーサン達が来るのを手ぐすね引いて待っていた。
『どんな騒ぎを起こすか⋯⋯精々派手にやってとっとと婚約解消しやがれ』
全員の心に同じ言葉が浮かんだのは言うまでもない。
午後、ローゼン商会の本店にイーサンとアリーシャが乗り込んできた。
「ねえねえ、これとか良くない?」
「おお、良いじゃん。可愛いアリーシャにはそれくらい大きな宝石が似合うよ」
「ふふっ、イーサンったら褒めてばっかなんだからぁ」
口から砂糖を垂れ流ししそうな会話を大声でするイーサン達は周りから冷たい目を向けられていることに気付かず、ショーケースの中の指輪の品定めをしていた。
いつもなら裏の事務所にいるギルバートが店頭に出てきた。
「ギルバートさん、どうされましたか?」
高級なアクセサリーが並ぶ優雅な店の雰囲気にそぐわないからと言っているギルバートが店舗に足を踏み入れたので、非常事態だと理解したジークが声をかけてきた。
「アイツらの言動に注意してくれ。対応はジークに任せるが必ず誰かを後ろに控えさせとけよ。絶対に目を離すな」
「分かりました」
ジークはこのフロアの責任者になって一番警戒を強めた。入り口に立つ警備員に目配せし、フレッドという名の商会員を連れてイーサン達の元に歩いて行った。
「婚約指輪とぉ結婚指輪も買うんでしょお?」
「勿論だよ、半年しかないからどんどん準備しないと間に合わないからな」
「失礼致します。何かお探しでしょうか?」
「ん、ああ。取り敢えず婚約指輪と結婚指輪だな。他にも気に入ったものがあれば買ってやるから出してこい」
「畏まりました。ご予算やお好きな宝石などをお聞かせいただくことはできますでしょうか?」
「アタシ、ダイヤモンドがいい! それとルビーね、アタシの髪にはルビーが超似合うんだ~」
「それにエメラルドだな。俺の目の色に似た最上級のやつ」
店の奥からサラが出てきてギルバートの横に並んだのを見たジークが一瞬動きを止めた。
「畏まりました。宜しければそちらのソファにお掛けになってお待ち下さいませ」
「復活? アイツの評判なんて復活するわけねえじゃん」
「サラは学園時代成績優秀者で表彰されたこともあるし侯爵家の長女だし。
真面な女性と結婚して爵位を継ぐ予定のイーサンが社交界に華々しく舞い戻るってストーリーだろ? 激甘の母親の考えそうな事だよ」
「離婚歴のある女性はあの母親のお眼鏡にはかなわなそうだし、年齢的に私しか残ってなかった可能性もあるし。
行き遅れが公爵家に嫁げるんだから感謝して平伏しなさいって思ってるんじゃないかなあ」
呑気に説明するサラを見てギルバートが眉間に皺を寄せた。
「お前さぁ、学生時代から評判いいんだぜ。今だってパーティーにでりゃ『サラはどうしてる?』ってしょっちゅう聞かれるしよお」
「謎の女サラちゃんだもの。お茶会もパーティーも出てこなくて、放課後もあっという間にいなくなる。美人なのに誰の誘いにも乗らないし⋯⋯私達だって商会で関わらなかったら何にも知らないままだったと思うわ」
「モーガン侯爵家の奴等はサラのことを褒めちぎるから家に問題があるなんて誰も知らない。アイツら徹底してるからな」
「路上でサラが古着を売ってるのを知った時はビックリしたもの。あれを知ってからお茶会でビクトリア達がサラを褒める度に扇子が壊れたわ」
「それは申し訳ない。弁償する代わりにはならないけどメリッサの大好きな捺染布でドレスを仕立ててプレゼントするね」
ビクトリア達はいつも『サラは病気の祖母が心配で離れない優しい子』『人見知りだからお茶会に誘えなくて寂しい』『家族思いの慎ましやかな子』だと言っていた。
縁談がくれば病気の祖母のそばにいたいから今はまだ考えられないと言っていると断り、条件の良い縁談にはビクトリアを勧めていた。
「多分だけどビクトリアが参戦してくる可能性もあるから、どの道あっという間に終わるはず」
「ビクトリアが!?」
「あー、ありそうだよなぁ。例の婚約破棄みたいにビクトリアを腕にぶら下げてさあ」
ライリーが妙に嬉しそうに口元を隠した。
「取り敢えず、そう言う事なんで。イーサン達が無理を言ってきてもいつも通りの対応でお願い。金額とか納期とかに文句を言ってくるようなら証人か証拠を残して貰えると助かる」
「オッケー」
「いいぞ」
「わわ、わかりました」
「了解」
それぞれの仕事に戻ったメンバーはイーサン達が来るのを手ぐすね引いて待っていた。
『どんな騒ぎを起こすか⋯⋯精々派手にやってとっとと婚約解消しやがれ』
全員の心に同じ言葉が浮かんだのは言うまでもない。
午後、ローゼン商会の本店にイーサンとアリーシャが乗り込んできた。
「ねえねえ、これとか良くない?」
「おお、良いじゃん。可愛いアリーシャにはそれくらい大きな宝石が似合うよ」
「ふふっ、イーサンったら褒めてばっかなんだからぁ」
口から砂糖を垂れ流ししそうな会話を大声でするイーサン達は周りから冷たい目を向けられていることに気付かず、ショーケースの中の指輪の品定めをしていた。
いつもなら裏の事務所にいるギルバートが店頭に出てきた。
「ギルバートさん、どうされましたか?」
高級なアクセサリーが並ぶ優雅な店の雰囲気にそぐわないからと言っているギルバートが店舗に足を踏み入れたので、非常事態だと理解したジークが声をかけてきた。
「アイツらの言動に注意してくれ。対応はジークに任せるが必ず誰かを後ろに控えさせとけよ。絶対に目を離すな」
「分かりました」
ジークはこのフロアの責任者になって一番警戒を強めた。入り口に立つ警備員に目配せし、フレッドという名の商会員を連れてイーサン達の元に歩いて行った。
「婚約指輪とぉ結婚指輪も買うんでしょお?」
「勿論だよ、半年しかないからどんどん準備しないと間に合わないからな」
「失礼致します。何かお探しでしょうか?」
「ん、ああ。取り敢えず婚約指輪と結婚指輪だな。他にも気に入ったものがあれば買ってやるから出してこい」
「畏まりました。ご予算やお好きな宝石などをお聞かせいただくことはできますでしょうか?」
「アタシ、ダイヤモンドがいい! それとルビーね、アタシの髪にはルビーが超似合うんだ~」
「それにエメラルドだな。俺の目の色に似た最上級のやつ」
店の奥からサラが出てきてギルバートの横に並んだのを見たジークが一瞬動きを止めた。
「畏まりました。宜しければそちらのソファにお掛けになってお待ち下さいませ」
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