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21.疑惑があれば情報収集
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リチャードの寝室を出て2階に降りたサラは部屋の前で立ち止まったウォルターを部屋に引き摺り込んだ。
「あの香はいつも焚いておられるのですか!?」
「は、え?」
「公爵様です。公爵様が横になられる時ベッドから漂ってきた香の事です」
「ああ、強い匂いなので布類にはどうしても残ってしまいまして、お気に障られたのでしたらご容赦ください」
「そんな事を気しているのではなくて、あれを使わなければならないほど公爵様の容態がお悪いということでしょうか?」
「サラ様はご存じなのですか?」
「伊達に14年も祖母の介護をしてきたわけではありませんから、色々なお薬にも関わりましたし医師の方からお話も伺いました。素人ではありますがある程度の知識は持っていると思います」
(独特な苦味のあるあの匂いには覚えがある。お祖母様が最後に医師に願った薬の匂いのはず)
もう終わりにしたいと言った祖母に医師が処方したそれは鎮痛剤としても使われているが、量や使い方を間違えればけいれんや昏睡を引き起こす劇薬。
その香りは祖母の最後の顔と一緒にサラの記憶に焼きついていた。
「左様でございますか⋯⋯それほど長かったとは存じませんでした。旦那様は食事の取れないことが増え、最近はお薬を吐き戻してしまわれることもございます。その為、主治医からあの香を勧められたのでございます」
「と言う事は痛みがひどいのですね。日に何度くらい香を焚くのですか?」
「夜一回ですがひどく痛みを訴えておられる日にはもう一回。あれのお陰で少し身体を休めることができるようになられました」
「そう⋯⋯主治医から」
「あの香が何か?」
「私が話している事、話す事はあまり口外していただきたくはありませんが、あの香と普段飲んでおられるお薬を少し分けていただく事は可能でしょうか?」
「は? それは⋯⋯いや、ビクトール医師は長年公爵家の医師をしてこられた家の方ですからサラ様が心配されるような事はないと思います」
「来たばかりの私を信用しろとは言いません。ただの興味本位だと思っていただいても⋯⋯ビクトール医師のファミリーネームはキャンベルではありませんか?」
「その通りでございます」
「前公爵様はキャンベル家を信用しておられなかったはずです。前公爵様はグルーバー家の医師に相談しておられました」
「よくご存知ですね」
「公爵様やメアリーさんに視力障害や幻覚などのご様子はありませんか?」
困惑していたウォルターがパッとサラの顔を凝視した。
「⋯⋯⋯⋯旦那様は文字が見えにくいと仰られるようになられました。時折セドリック様が様子を見にこられていると呟かれる事もございます。メアリーもひどく目が霞むと申しております。
旦那様は体力が落ちておられるのでそのような症状も出ると聞いておりましたし、メアリーはもう年齢的に仕方ないのかと」
「何故グルーバー家ではなくキャンベル家の医師を使っておられるのでしょうか?」
「先代様が怪我で重体になられた時に近くにいたキャンベル家の医師が処置をしたのです。順調に回復しておられたのですがグルーバーの医師に変わった途端容態が急変してそのまま⋯⋯それ以降はキャンベル家が主治医になりました」
「前公爵様の最後にそのような事があったなんて全然知りませんでした。セドリック様も公爵様もビクトール医師が担当しておられるのですね」
「はい、グルーバー家は追放になりました。と申しましても、隣の子爵領ですしグルーバー家と同じエルフ族が多い領なのでとても喜んで受け入れられたと聞いております」
「あの頃、エルフ族の薬や教えていただいた治療法には本当に助けられました。他領に行かれたのならお話を聞く事はできないのですね」
「そうですね、奥様がお許しになられないでしょう」
(奥様が反対する? 前公爵様は奥様のことを可愛がっておられたから、奥様はグルーバー家を恨んでるって事?)
「長々とお話を聞かせてくれてありがとう。この後出かけなくてはならないから昼食はいらないわ」
「婚姻届でしたらわたくしがお預かりいたしますが?」
「いえ、以前この街にローゼン商会が店を買ったのを知ってるかしら。そこの状況を調べて報告書を送ることになってるから一緒に送ってしまうつもりなの」
「⋯⋯では、よろしくお願い致します」
「あの香はいつも焚いておられるのですか!?」
「は、え?」
「公爵様です。公爵様が横になられる時ベッドから漂ってきた香の事です」
「ああ、強い匂いなので布類にはどうしても残ってしまいまして、お気に障られたのでしたらご容赦ください」
「そんな事を気しているのではなくて、あれを使わなければならないほど公爵様の容態がお悪いということでしょうか?」
「サラ様はご存じなのですか?」
「伊達に14年も祖母の介護をしてきたわけではありませんから、色々なお薬にも関わりましたし医師の方からお話も伺いました。素人ではありますがある程度の知識は持っていると思います」
(独特な苦味のあるあの匂いには覚えがある。お祖母様が最後に医師に願った薬の匂いのはず)
もう終わりにしたいと言った祖母に医師が処方したそれは鎮痛剤としても使われているが、量や使い方を間違えればけいれんや昏睡を引き起こす劇薬。
その香りは祖母の最後の顔と一緒にサラの記憶に焼きついていた。
「左様でございますか⋯⋯それほど長かったとは存じませんでした。旦那様は食事の取れないことが増え、最近はお薬を吐き戻してしまわれることもございます。その為、主治医からあの香を勧められたのでございます」
「と言う事は痛みがひどいのですね。日に何度くらい香を焚くのですか?」
「夜一回ですがひどく痛みを訴えておられる日にはもう一回。あれのお陰で少し身体を休めることができるようになられました」
「そう⋯⋯主治医から」
「あの香が何か?」
「私が話している事、話す事はあまり口外していただきたくはありませんが、あの香と普段飲んでおられるお薬を少し分けていただく事は可能でしょうか?」
「は? それは⋯⋯いや、ビクトール医師は長年公爵家の医師をしてこられた家の方ですからサラ様が心配されるような事はないと思います」
「来たばかりの私を信用しろとは言いません。ただの興味本位だと思っていただいても⋯⋯ビクトール医師のファミリーネームはキャンベルではありませんか?」
「その通りでございます」
「前公爵様はキャンベル家を信用しておられなかったはずです。前公爵様はグルーバー家の医師に相談しておられました」
「よくご存知ですね」
「公爵様やメアリーさんに視力障害や幻覚などのご様子はありませんか?」
困惑していたウォルターがパッとサラの顔を凝視した。
「⋯⋯⋯⋯旦那様は文字が見えにくいと仰られるようになられました。時折セドリック様が様子を見にこられていると呟かれる事もございます。メアリーもひどく目が霞むと申しております。
旦那様は体力が落ちておられるのでそのような症状も出ると聞いておりましたし、メアリーはもう年齢的に仕方ないのかと」
「何故グルーバー家ではなくキャンベル家の医師を使っておられるのでしょうか?」
「先代様が怪我で重体になられた時に近くにいたキャンベル家の医師が処置をしたのです。順調に回復しておられたのですがグルーバーの医師に変わった途端容態が急変してそのまま⋯⋯それ以降はキャンベル家が主治医になりました」
「前公爵様の最後にそのような事があったなんて全然知りませんでした。セドリック様も公爵様もビクトール医師が担当しておられるのですね」
「はい、グルーバー家は追放になりました。と申しましても、隣の子爵領ですしグルーバー家と同じエルフ族が多い領なのでとても喜んで受け入れられたと聞いております」
「あの頃、エルフ族の薬や教えていただいた治療法には本当に助けられました。他領に行かれたのならお話を聞く事はできないのですね」
「そうですね、奥様がお許しになられないでしょう」
(奥様が反対する? 前公爵様は奥様のことを可愛がっておられたから、奥様はグルーバー家を恨んでるって事?)
「長々とお話を聞かせてくれてありがとう。この後出かけなくてはならないから昼食はいらないわ」
「婚姻届でしたらわたくしがお預かりいたしますが?」
「いえ、以前この街にローゼン商会が店を買ったのを知ってるかしら。そこの状況を調べて報告書を送ることになってるから一緒に送ってしまうつもりなの」
「⋯⋯では、よろしくお願い致します」
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