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20.物語の展開は期待しないでね
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「執事のウォルターさんは良い人そうですね」
運ばれてきたお茶を飲みながらシエナと二人でソファに座り部屋をぐるっと見回したサラがにっこりと笑った。
「使用人もきちんとしてそうだし安心したわ」
「掃除もできてますし、荷物の片付けも丁寧で安心しました」
ウォルターが退出した後一番にクローゼットを急襲したシエナも笑みを浮かべている。
「あのイーサン様のご実家ですしねえ、どんな扱いをされるか不安でしたから」
「シエナの場合不安と言うより戦闘モードだった気がするけど?」
朝宿を引き払う頃からシエナの目つきが鋭くなっていたのに気付いていたサラがシエナを揶揄った。
「へへ、バレてました? こう言う時って送った荷物が減ってたり、屋根裏部屋に案内されたりするじゃないですか。使用人も慇懃無礼な嫌な奴で無視とか嫌味とか言ってくるとか」
狼の血が強く出ているシエナは少し喧嘩っ早いところがある。エスメラルダが勝手な言い分を垂れ流している時にもサラの背後から迫力満点の気配が流れてきていた。
「それって、本の読みすぎ。普通はあり得ないでしょう? モーガン侯爵家では可愛がられていた長女で、イーサンの名誉回復の為に呼ばれた『期待の嫁』って言う触れ込みなんだから」
「期待ねえ。エスメラルダ様の態度は予想通りでしたけど?」
鼻面に皺を寄せたシエナの口元には人族より少し鋭い牙が見えた。
「嫁姑バトル勃発を期待してるなら諦めてね。そんなに長居するつもりはないから」
「でも、今夜が過ぎたら⋯⋯」
「イーサンは今頃二人だけの結婚式をしてるんだと思うし、夜は『真実の愛』を確かめ合うからこのまま会うこともないんじゃないかな。
今夜の為に新品のトランプを持ってきたの。シエナの持久力に期待してるからよろしくね」
「持久力には自信があります。なんなら顎の力も」
「ふふっ、顎はそこにあるおやつに使ってもらうくらいで十分。穏便にさっさと撤収しないと仕事が溜まって大変なことになりそうだもの」
コンコンとノックの音がして『ウォルターです』と執事の声がした。慌てて立ち上がったシエナが頬張っていたおやつを飲み込んでドアを開けると、ウォルターが静かに入ってきた。
「旦那様から『お待ちしております』との伝言をお預かりいたしました」
「ありがとう、ではこのまま案内していただけるかしら?」
「はい、旦那様のお部屋は3階にございます」
部屋を出て階段を登りこの館の主寝室らしい部屋の前に立った。
「あの、あまり驚かれませんようにお願いいたします」
「そんなに⋯⋯いえ、わかりました。教えてくれてありがとう」
小さく頭を下げたウォルターがドアをノックすると中からドアが開き年配の女性が顔を出した。
「旦那様のお世話をしておりますメアリーと申します」
「サラと言います。よろしくお願いします」
「ではこちらへどうぞ」
レースのカーテンがかけられた部屋は思いの外明るく部屋の中央に置かれたベッドの上には真っ白な髪の男性がクッションにもたれて座っていた。少し近付くと痩せこけた頬や真っ赤に充血した目をしているのが見えた。
「わざわざ呼び立ててすまない。今日から貴女の義父になったリチャード・ボクスです」
礼をする代わりに伸ばされた手は骨張ってシミが浮かび僅かに震えている。ベッドの下に跪きその手を両手でそっと包み込んだサラはリチャードを見上げた。
「サラと申します。ご挨拶の機会を下さいました事、こころよりお礼申し上げます」
「家族になったのだからサラと呼んでも良いかな? サラの事は亡くなった父上から聞いていたんだ。こんな形で会えるとは思ってもいなかったが、会えて嬉しいよ」
「ありがとうございます。前公爵様には色々とご尽力いただきましたのにお礼に伺う事もせず、不義理を働いておりました事をお詫び申し上げます」
「サラが気にする事など何もないよ。2年前までお祖母様の介護をしていたのも知っている。父上が手紙を見せてくれたこともあったから、初めて会う気がしないね。
セドリックもサラの事を話してくれた事があって、良い出会いがあったと言っていた」
「とても素晴らしい方でした。公爵様と雰囲気が似ておられますね」
「旦那様」
「ああ、今日はとても気分がいいからもう少し話していたかったが⋯⋯鬼軍曹の指示に従わないと苦い薬を追加されてしまうんだ。
また会いにきてくれるかな?」
「はい、お声をかけていただきましたら飛んでまいります」
メアリーの手を借りて横になったリチャードはそのまま目を瞑り眠りについたようだった。
香が焚かれた名残りなのか、ベッドから薬効の強い香草の匂いが漂って来た。
運ばれてきたお茶を飲みながらシエナと二人でソファに座り部屋をぐるっと見回したサラがにっこりと笑った。
「使用人もきちんとしてそうだし安心したわ」
「掃除もできてますし、荷物の片付けも丁寧で安心しました」
ウォルターが退出した後一番にクローゼットを急襲したシエナも笑みを浮かべている。
「あのイーサン様のご実家ですしねえ、どんな扱いをされるか不安でしたから」
「シエナの場合不安と言うより戦闘モードだった気がするけど?」
朝宿を引き払う頃からシエナの目つきが鋭くなっていたのに気付いていたサラがシエナを揶揄った。
「へへ、バレてました? こう言う時って送った荷物が減ってたり、屋根裏部屋に案内されたりするじゃないですか。使用人も慇懃無礼な嫌な奴で無視とか嫌味とか言ってくるとか」
狼の血が強く出ているシエナは少し喧嘩っ早いところがある。エスメラルダが勝手な言い分を垂れ流している時にもサラの背後から迫力満点の気配が流れてきていた。
「それって、本の読みすぎ。普通はあり得ないでしょう? モーガン侯爵家では可愛がられていた長女で、イーサンの名誉回復の為に呼ばれた『期待の嫁』って言う触れ込みなんだから」
「期待ねえ。エスメラルダ様の態度は予想通りでしたけど?」
鼻面に皺を寄せたシエナの口元には人族より少し鋭い牙が見えた。
「嫁姑バトル勃発を期待してるなら諦めてね。そんなに長居するつもりはないから」
「でも、今夜が過ぎたら⋯⋯」
「イーサンは今頃二人だけの結婚式をしてるんだと思うし、夜は『真実の愛』を確かめ合うからこのまま会うこともないんじゃないかな。
今夜の為に新品のトランプを持ってきたの。シエナの持久力に期待してるからよろしくね」
「持久力には自信があります。なんなら顎の力も」
「ふふっ、顎はそこにあるおやつに使ってもらうくらいで十分。穏便にさっさと撤収しないと仕事が溜まって大変なことになりそうだもの」
コンコンとノックの音がして『ウォルターです』と執事の声がした。慌てて立ち上がったシエナが頬張っていたおやつを飲み込んでドアを開けると、ウォルターが静かに入ってきた。
「旦那様から『お待ちしております』との伝言をお預かりいたしました」
「ありがとう、ではこのまま案内していただけるかしら?」
「はい、旦那様のお部屋は3階にございます」
部屋を出て階段を登りこの館の主寝室らしい部屋の前に立った。
「あの、あまり驚かれませんようにお願いいたします」
「そんなに⋯⋯いえ、わかりました。教えてくれてありがとう」
小さく頭を下げたウォルターがドアをノックすると中からドアが開き年配の女性が顔を出した。
「旦那様のお世話をしておりますメアリーと申します」
「サラと言います。よろしくお願いします」
「ではこちらへどうぞ」
レースのカーテンがかけられた部屋は思いの外明るく部屋の中央に置かれたベッドの上には真っ白な髪の男性がクッションにもたれて座っていた。少し近付くと痩せこけた頬や真っ赤に充血した目をしているのが見えた。
「わざわざ呼び立ててすまない。今日から貴女の義父になったリチャード・ボクスです」
礼をする代わりに伸ばされた手は骨張ってシミが浮かび僅かに震えている。ベッドの下に跪きその手を両手でそっと包み込んだサラはリチャードを見上げた。
「サラと申します。ご挨拶の機会を下さいました事、こころよりお礼申し上げます」
「家族になったのだからサラと呼んでも良いかな? サラの事は亡くなった父上から聞いていたんだ。こんな形で会えるとは思ってもいなかったが、会えて嬉しいよ」
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また会いにきてくれるかな?」
「はい、お声をかけていただきましたら飛んでまいります」
メアリーの手を借りて横になったリチャードはそのまま目を瞑り眠りについたようだった。
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