【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との

文字の大きさ
22 / 48

22.初めてのガーデン・スクエア

 エリーが柳の木炭・木炭紙・カルトン木炭紙の下敷・イーゼルを準備し階下に降りるとバスケットや敷物を持ったメイドとマイラが玄関前で待っていた。

 つばの広い帽子を被りマイラとエリーは腕を組んで幾何学模様の石畳を歩きはじめた。左側にはタウンハウスが立ち並び右側には美しい装飾の施されたガーデン・スクエアの鉄柵。鍵を開け小道に足を踏み入れると、お昼前の日差しが木の葉の間からキラキラと輝き土と新緑の青臭い匂いが漂ってきた。

「初めてガーデン・スクエアに来た感想はいかが?」

「はい、窓から見える景色も素敵だったけどこうして近くに来ると凄く綺麗でいい匂いがします。王都の中でこんなに緑豊かなところがあるなんて吃驚です」

 小道の脇には様々な色合いの花が咲き乱れ、エリーはヒラヒラと舞う蝶に目を輝かせ木の上から覗く栗鼠を見つけては満面の笑みを浮かべた。
 木陰に置かれたベンチや芝生の上に座って談笑している人が数人いたので、マイラとエリーは会釈をしながら通り過ぎガーデン・スクエアをゆっくりと一回りした。

「どこかデッサンしたい場所は見つかった?」

「どうしよう、いっぱいありすぎて決められそうにありません。叔母様のお勧めの場所はありますか?」

「そうねえ・・目的によっても違うかしら」

 マイラは茶目っ気たっぷりの顔でエリーに笑いかけた。

「自分の為だったり練習だったりするなら好きな花のある場所とかだけど?」

 マイラの言葉にエリーは顔を真っ赤にして目を泳がせた。

「えっと、上手に描けたらお手紙に添えてみようかなぁとか・・でも、あまり得意じゃないから書き直しできるように木炭を持ってきたんです」

 2日前にマイケルから届いた手紙には灯台と船の絵が同封され、また一緒に見に行こうねと書いてあった。

「マイケルの描いてくれた灯台や船の絵は凄く上手だったからちょっと恥ずかしいんですけど、こんな素敵な場所にいますって伝えられたらいいなぁって思って」


 エリーの言葉を聞いてマイラが連れて行ってくれたのは木の陰からエリー達が住んでいるタウンハウスがチラチラと見え隠れしている場所だった。

「構図としてはちょっと難しいかもしれないけど」

「頑張ります。私が描きたいって思ってたイメージにピッタリだもの」


 人から少し離れたその場所でメイド達が毛布を敷き昼食の準備をしている間にイーゼルを立てておく。
 メイド達がテキパキと準備したのはまだほんのり温かさの残ったふかふかのパン・バター・ラズベリーのジャム・オレンジマーマレード・チーズ、一口サイズの鶏肉や魚のフリッター。
 デザートは数種類のタルトと冷たいブランマンジェ。

「大変! こんなに食べたら眠くなってしまいそう」

「料理人のカルトンに軽くでいいって言ったんだけど『エリー様の初めてのお出かけですから!』って張り切ってしまって」

「そんな風に言って貰えるなんてとってもありがたいです」


 領地でも王都でも家族に放置されていたエリーなのでごく僅かな使用人を除くとエリーの世話をしたり気遣ったりする者はいなかった。

「向こうにいる時はどうだったの?」

 少し心配そうな顔になったマイラにエリーはにっこりと笑って答えた。

「意地悪されたりはなかったです。自分の事は自分で出来ましたし、出来ない時は声をかければメイドが手伝ってくれましたから。
おやつや飲み物が欲しいなって思った時も厨房に行けばいつでも何かしら置いてありましたし」

「でも、ミリーには専属のメイドがいたんでしょう?」

「はい、ミリーは私より外交的って言うか手がかかるって言うか。1日に何度も着替えをしなくちゃいけなかったし、後探し物とか繕い物とか」

「聞いた話によるとエリーの荷物を運び出したらミリーのドレスやアクセサリーはちょっぴりしかなかったそうよ」

 それを聞いたエリーはクスクスと笑い出した。

「多分そうなんじゃないかと思いました。今頃はお父様やお母様に一杯買ってもらってるんじゃないかと思います」

「腹は立たないの?」

「全然! だって今は叔母様やお祖母様のお陰で私の方がうんと幸せだなって思うんです。叶えたい夢もあるし・・。
それに私がいなくなったからミリーにはもう代替え品がないでしょう? そうなるとミリーは今までより物を大切に扱わないといけなくなっちゃったんです。意地悪な考えだけどそれを考えると笑いが込み上げてくるんです」

 マイラはエリーの屈託のない笑い顔を覗き込んで今までの生活がエリーの心を歪めたり傷を作ったりしていないと分かり漸く安堵の吐息を漏らした。

「それを聞いたらお母様も喜ぶわ。ところで夢って?」
 
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 責任感の強いヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。

❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、すまない。カノンが…… 」 「大丈夫ですの? カノン様は。」 「本当にすまない。ルミナス。」 ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものようにすまなそうな顔をして彼女に謝った。 「お兄様、ゴホッゴホッ! ルミナス様、ゴホッ! さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」 カノンは血を吐いた。