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22.初めてのガーデン・スクエア
エリーが柳の木炭・木炭紙・カルトン・イーゼルを準備し階下に降りるとバスケットや敷物を持ったメイドとマイラが玄関前で待っていた。
つばの広い帽子を被りマイラとエリーは腕を組んで幾何学模様の石畳を歩きはじめた。左側にはタウンハウスが立ち並び右側には美しい装飾の施されたガーデン・スクエアの鉄柵。鍵を開け小道に足を踏み入れると、お昼前の日差しが木の葉の間からキラキラと輝き土と新緑の青臭い匂いが漂ってきた。
「初めてガーデン・スクエアに来た感想はいかが?」
「はい、窓から見える景色も素敵だったけどこうして近くに来ると凄く綺麗でいい匂いがします。王都の中でこんなに緑豊かなところがあるなんて吃驚です」
小道の脇には様々な色合いの花が咲き乱れ、エリーはヒラヒラと舞う蝶に目を輝かせ木の上から覗く栗鼠を見つけては満面の笑みを浮かべた。
木陰に置かれたベンチや芝生の上に座って談笑している人が数人いたので、マイラとエリーは会釈をしながら通り過ぎガーデン・スクエアをゆっくりと一回りした。
「どこかデッサンしたい場所は見つかった?」
「どうしよう、いっぱいありすぎて決められそうにありません。叔母様のお勧めの場所はありますか?」
「そうねえ・・目的によっても違うかしら」
マイラは茶目っ気たっぷりの顔でエリーに笑いかけた。
「自分の為だったり練習だったりするなら好きな花のある場所とかだけど?」
マイラの言葉にエリーは顔を真っ赤にして目を泳がせた。
「えっと、上手に描けたらお手紙に添えてみようかなぁとか・・でも、あまり得意じゃないから書き直しできるように木炭を持ってきたんです」
2日前にマイケルから届いた手紙には灯台と船の絵が同封され、また一緒に見に行こうねと書いてあった。
「マイケルの描いてくれた灯台や船の絵は凄く上手だったからちょっと恥ずかしいんですけど、こんな素敵な場所にいますって伝えられたらいいなぁって思って」
エリーの言葉を聞いてマイラが連れて行ってくれたのは木の陰からエリー達が住んでいるタウンハウスがチラチラと見え隠れしている場所だった。
「構図としてはちょっと難しいかもしれないけど」
「頑張ります。私が描きたいって思ってたイメージにピッタリだもの」
人から少し離れたその場所でメイド達が毛布を敷き昼食の準備をしている間にイーゼルを立てておく。
メイド達がテキパキと準備したのはまだほんのり温かさの残ったふかふかのパン・バター・ラズベリーのジャム・オレンジマーマレード・チーズ、一口サイズの鶏肉や魚のフリッター。
デザートは数種類のタルトと冷たいブランマンジェ。
「大変! こんなに食べたら眠くなってしまいそう」
「料理人のカルトンに軽くでいいって言ったんだけど『エリー様の初めてのお出かけですから!』って張り切ってしまって」
「そんな風に言って貰えるなんてとってもありがたいです」
領地でも王都でも家族に放置されていたエリーなのでごく僅かな使用人を除くとエリーの世話をしたり気遣ったりする者はいなかった。
「向こうにいる時はどうだったの?」
少し心配そうな顔になったマイラにエリーはにっこりと笑って答えた。
「意地悪されたりはなかったです。自分の事は自分で出来ましたし、出来ない時は声をかければメイドが手伝ってくれましたから。
おやつや飲み物が欲しいなって思った時も厨房に行けばいつでも何かしら置いてありましたし」
「でも、ミリーには専属のメイドがいたんでしょう?」
「はい、ミリーは私より外交的って言うか手がかかるって言うか。1日に何度も着替えをしなくちゃいけなかったし、後探し物とか繕い物とか」
「聞いた話によるとエリーの荷物を運び出したらミリーのドレスやアクセサリーはちょっぴりしかなかったそうよ」
それを聞いたエリーはクスクスと笑い出した。
「多分そうなんじゃないかと思いました。今頃はお父様やお母様に一杯買ってもらってるんじゃないかと思います」
「腹は立たないの?」
「全然! だって今は叔母様やお祖母様のお陰で私の方がうんと幸せだなって思うんです。叶えたい夢もあるし・・。
それに私がいなくなったからミリーにはもう代替え品がないでしょう? そうなるとミリーは今までより物を大切に扱わないといけなくなっちゃったんです。意地悪な考えだけどそれを考えると笑いが込み上げてくるんです」
マイラはエリーの屈託のない笑い顔を覗き込んで今までの生活がエリーの心を歪めたり傷を作ったりしていないと分かり漸く安堵の吐息を漏らした。
「それを聞いたらお母様も喜ぶわ。ところで夢って?」
つばの広い帽子を被りマイラとエリーは腕を組んで幾何学模様の石畳を歩きはじめた。左側にはタウンハウスが立ち並び右側には美しい装飾の施されたガーデン・スクエアの鉄柵。鍵を開け小道に足を踏み入れると、お昼前の日差しが木の葉の間からキラキラと輝き土と新緑の青臭い匂いが漂ってきた。
「初めてガーデン・スクエアに来た感想はいかが?」
「はい、窓から見える景色も素敵だったけどこうして近くに来ると凄く綺麗でいい匂いがします。王都の中でこんなに緑豊かなところがあるなんて吃驚です」
小道の脇には様々な色合いの花が咲き乱れ、エリーはヒラヒラと舞う蝶に目を輝かせ木の上から覗く栗鼠を見つけては満面の笑みを浮かべた。
木陰に置かれたベンチや芝生の上に座って談笑している人が数人いたので、マイラとエリーは会釈をしながら通り過ぎガーデン・スクエアをゆっくりと一回りした。
「どこかデッサンしたい場所は見つかった?」
「どうしよう、いっぱいありすぎて決められそうにありません。叔母様のお勧めの場所はありますか?」
「そうねえ・・目的によっても違うかしら」
マイラは茶目っ気たっぷりの顔でエリーに笑いかけた。
「自分の為だったり練習だったりするなら好きな花のある場所とかだけど?」
マイラの言葉にエリーは顔を真っ赤にして目を泳がせた。
「えっと、上手に描けたらお手紙に添えてみようかなぁとか・・でも、あまり得意じゃないから書き直しできるように木炭を持ってきたんです」
2日前にマイケルから届いた手紙には灯台と船の絵が同封され、また一緒に見に行こうねと書いてあった。
「マイケルの描いてくれた灯台や船の絵は凄く上手だったからちょっと恥ずかしいんですけど、こんな素敵な場所にいますって伝えられたらいいなぁって思って」
エリーの言葉を聞いてマイラが連れて行ってくれたのは木の陰からエリー達が住んでいるタウンハウスがチラチラと見え隠れしている場所だった。
「構図としてはちょっと難しいかもしれないけど」
「頑張ります。私が描きたいって思ってたイメージにピッタリだもの」
人から少し離れたその場所でメイド達が毛布を敷き昼食の準備をしている間にイーゼルを立てておく。
メイド達がテキパキと準備したのはまだほんのり温かさの残ったふかふかのパン・バター・ラズベリーのジャム・オレンジマーマレード・チーズ、一口サイズの鶏肉や魚のフリッター。
デザートは数種類のタルトと冷たいブランマンジェ。
「大変! こんなに食べたら眠くなってしまいそう」
「料理人のカルトンに軽くでいいって言ったんだけど『エリー様の初めてのお出かけですから!』って張り切ってしまって」
「そんな風に言って貰えるなんてとってもありがたいです」
領地でも王都でも家族に放置されていたエリーなのでごく僅かな使用人を除くとエリーの世話をしたり気遣ったりする者はいなかった。
「向こうにいる時はどうだったの?」
少し心配そうな顔になったマイラにエリーはにっこりと笑って答えた。
「意地悪されたりはなかったです。自分の事は自分で出来ましたし、出来ない時は声をかければメイドが手伝ってくれましたから。
おやつや飲み物が欲しいなって思った時も厨房に行けばいつでも何かしら置いてありましたし」
「でも、ミリーには専属のメイドがいたんでしょう?」
「はい、ミリーは私より外交的って言うか手がかかるって言うか。1日に何度も着替えをしなくちゃいけなかったし、後探し物とか繕い物とか」
「聞いた話によるとエリーの荷物を運び出したらミリーのドレスやアクセサリーはちょっぴりしかなかったそうよ」
それを聞いたエリーはクスクスと笑い出した。
「多分そうなんじゃないかと思いました。今頃はお父様やお母様に一杯買ってもらってるんじゃないかと思います」
「腹は立たないの?」
「全然! だって今は叔母様やお祖母様のお陰で私の方がうんと幸せだなって思うんです。叶えたい夢もあるし・・。
それに私がいなくなったからミリーにはもう代替え品がないでしょう? そうなるとミリーは今までより物を大切に扱わないといけなくなっちゃったんです。意地悪な考えだけどそれを考えると笑いが込み上げてくるんです」
マイラはエリーの屈託のない笑い顔を覗き込んで今までの生活がエリーの心を歪めたり傷を作ったりしていないと分かり漸く安堵の吐息を漏らした。
「それを聞いたらお母様も喜ぶわ。ところで夢って?」
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