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24.サイラスとミリーの手紙
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エリーが居間に入った時にマイラが読んでいた手紙はサイラスからの物だったらしい。
「要約するとね、来年のロンダール王国学園の入学試験までエリーの事を宜しくって書いてあったから心配する事はないわ」
青褪めて顔を硬らせていたエリーはアリシアの言葉にほおーっと大きな息をした。
サイラスの手紙にはエリーの家出は元々アリシア達が画策したのだろうが寛大な心で許すと同時に、今年はもう学園に入学出来ないので1年だけはエリーの勝手を許すと言う横柄な言葉が綴られていた。
アリシア達がエリーだけを甘やかすのは不公平でフレディやミリーにも同様の恩恵を施すべきだとも書かれておりアリシアは思わず鼻を鳴らしてしまった。
「よっ、良かったです。お父様の・・使いの者がリューゼルに乗り込んできたらどうしようって心配だったんです」
「来年になってもサイラスの元へエリーを戻すつもりはないの。パドラスにしろ別の学校にしろエリーの今後についてサイラス達には関わらせないわ」
「そうそう、ミリーからの手紙もあったけど見る?」
マイラから渡されたミリーの手紙にはさっさと帰ってきて勉強を手伝えと書いてあり、エリーは『やっぱり』と思いながら苦笑いを浮かべた。
「授業がはじまった途端課題やテストが一杯あるそうで、フレディは当てにならないから呑気に遊んでないで帰って来て手伝えって」
「呆れた子ね。入学早々それじゃあ進級出来ないんじゃないかしら。ロンダール王国学園で進級出来なかったらいい笑いものになるわよ」
「あそこは下駄を履かせてくれるから大丈夫」
アリシアの言葉の意味がわからずエリーは首を傾げた。
「フレディが進級出来ているのは寄付金のおかげって事」
マイラの言葉に驚いたエリーはポカンと口を開けマイラを凝視した。
「落第したり退学になると貴族として将来的に大きな問題になるから寄付金を増額するの。入学試験についても同じ、今の学長になってからはあの学園にそういう子女が結構いるのよ」
勉強嫌いのフレディが無事に進級出来ているのはそれなりに頑張っているのだろうと思っていた裏にそんなカラクリがあったなんてとエリーはガックリと肩を落とした。
「ロンダール王国の今の国王は日和見主義なところがあるから官僚に不正が蔓延っているの。それも近々粛清されそうだけど」
「えっ? 争いが起きるとかですか?」
「そこまでにはならないと思うわ。内緒の話だけど先王の弟君とモブレー公爵様が動いてるようで、上手くいけば王宮内の膿を一掃できるわ」
「モブレー公爵領は国の財源の大半を握っているから、上手くいくんじゃないかしら。今まで独立するって仰らなかったのが不思議なくらいよね」
「モブレー公爵様は公明正大な方だけどまだお若い方だから時期を待っておられたんじゃないかと思うわ」
10日後パドラス附属学園の入学試験が行われエリーは好成績で合格することができた。アリシアとマイラが開いたお祝いのパーティーには近隣の親しい婦人や子女も参加し、その中にエリーと同学年でパドラス附属学園に入学する子息が2人もいたのはアリシア達の計らいだったのだろう。
エリーは寮に入るための準備の傍らサロニカの王都の観光や食べ歩きをマイラと共に楽しみ、ランブリュー侯爵夫人のサロンにも一度だけ参加させてもらった。
「本当は参加できる年齢には達していないのだけど、夫人が入学前に是非って仰って下さったのよ」
アリシアの言葉にガチガチに緊張したエリーは新しいドレスとアクセサリーを身につけてランブリュー夫人のタウンハウス前に降り立った。
「おっ叔母様、右手と右足が一緒に動きそう。緊張で馬鹿なこと話したらどうしよう」
震える手で掴んだ帽子のつばが皺だらけになっている。
「エリーったら。普通の人からしたらシリルさんやケビンさんと話す方が緊張すると思うわよ」
「えっ? 何でですか?」
「だって安全な蚊帳の中で過ごしている貴族の子供が最強の傭兵と対面したらどうなると思う? そう言うところもお母様そっくり、度胸があるのか怖いもの知らずなのか。
あの2人に比べたら貴族の枠組みの中で暮らしてる人達の扱いなんてとっても簡単でしょ」
シリルの容貌やシリルとケビンの過去の仕事を思い出したエリーは『あー、確かにそうかも』と思う反面貴族のルールの方が絶対怖いと思った。大きく深呼吸して胸元の指輪をドレスの上からそっと押さえた。
「うん、ヨーソロー!」
「ん?」
「直進します」
アリシアとマイラが笑いエリーは胸を張って笑顔を浮かべた。
「要約するとね、来年のロンダール王国学園の入学試験までエリーの事を宜しくって書いてあったから心配する事はないわ」
青褪めて顔を硬らせていたエリーはアリシアの言葉にほおーっと大きな息をした。
サイラスの手紙にはエリーの家出は元々アリシア達が画策したのだろうが寛大な心で許すと同時に、今年はもう学園に入学出来ないので1年だけはエリーの勝手を許すと言う横柄な言葉が綴られていた。
アリシア達がエリーだけを甘やかすのは不公平でフレディやミリーにも同様の恩恵を施すべきだとも書かれておりアリシアは思わず鼻を鳴らしてしまった。
「よっ、良かったです。お父様の・・使いの者がリューゼルに乗り込んできたらどうしようって心配だったんです」
「来年になってもサイラスの元へエリーを戻すつもりはないの。パドラスにしろ別の学校にしろエリーの今後についてサイラス達には関わらせないわ」
「そうそう、ミリーからの手紙もあったけど見る?」
マイラから渡されたミリーの手紙にはさっさと帰ってきて勉強を手伝えと書いてあり、エリーは『やっぱり』と思いながら苦笑いを浮かべた。
「授業がはじまった途端課題やテストが一杯あるそうで、フレディは当てにならないから呑気に遊んでないで帰って来て手伝えって」
「呆れた子ね。入学早々それじゃあ進級出来ないんじゃないかしら。ロンダール王国学園で進級出来なかったらいい笑いものになるわよ」
「あそこは下駄を履かせてくれるから大丈夫」
アリシアの言葉の意味がわからずエリーは首を傾げた。
「フレディが進級出来ているのは寄付金のおかげって事」
マイラの言葉に驚いたエリーはポカンと口を開けマイラを凝視した。
「落第したり退学になると貴族として将来的に大きな問題になるから寄付金を増額するの。入学試験についても同じ、今の学長になってからはあの学園にそういう子女が結構いるのよ」
勉強嫌いのフレディが無事に進級出来ているのはそれなりに頑張っているのだろうと思っていた裏にそんなカラクリがあったなんてとエリーはガックリと肩を落とした。
「ロンダール王国の今の国王は日和見主義なところがあるから官僚に不正が蔓延っているの。それも近々粛清されそうだけど」
「えっ? 争いが起きるとかですか?」
「そこまでにはならないと思うわ。内緒の話だけど先王の弟君とモブレー公爵様が動いてるようで、上手くいけば王宮内の膿を一掃できるわ」
「モブレー公爵領は国の財源の大半を握っているから、上手くいくんじゃないかしら。今まで独立するって仰らなかったのが不思議なくらいよね」
「モブレー公爵様は公明正大な方だけどまだお若い方だから時期を待っておられたんじゃないかと思うわ」
10日後パドラス附属学園の入学試験が行われエリーは好成績で合格することができた。アリシアとマイラが開いたお祝いのパーティーには近隣の親しい婦人や子女も参加し、その中にエリーと同学年でパドラス附属学園に入学する子息が2人もいたのはアリシア達の計らいだったのだろう。
エリーは寮に入るための準備の傍らサロニカの王都の観光や食べ歩きをマイラと共に楽しみ、ランブリュー侯爵夫人のサロンにも一度だけ参加させてもらった。
「本当は参加できる年齢には達していないのだけど、夫人が入学前に是非って仰って下さったのよ」
アリシアの言葉にガチガチに緊張したエリーは新しいドレスとアクセサリーを身につけてランブリュー夫人のタウンハウス前に降り立った。
「おっ叔母様、右手と右足が一緒に動きそう。緊張で馬鹿なこと話したらどうしよう」
震える手で掴んだ帽子のつばが皺だらけになっている。
「エリーったら。普通の人からしたらシリルさんやケビンさんと話す方が緊張すると思うわよ」
「えっ? 何でですか?」
「だって安全な蚊帳の中で過ごしている貴族の子供が最強の傭兵と対面したらどうなると思う? そう言うところもお母様そっくり、度胸があるのか怖いもの知らずなのか。
あの2人に比べたら貴族の枠組みの中で暮らしてる人達の扱いなんてとっても簡単でしょ」
シリルの容貌やシリルとケビンの過去の仕事を思い出したエリーは『あー、確かにそうかも』と思う反面貴族のルールの方が絶対怖いと思った。大きく深呼吸して胸元の指輪をドレスの上からそっと押さえた。
「うん、ヨーソロー!」
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「直進します」
アリシアとマイラが笑いエリーは胸を張って笑顔を浮かべた。
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