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アルスター侯爵家
112.カリストー
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後方からカリストーの左太腿に矢が突き刺さった直後、左方向から氷の刃がカリストーの肩の近くを突き抜けた。
(ヤバい!)
近くには姿を隠せるほど大きな木はない。カリストーは矢尻を叩き割り突き刺さっていた矢を力任せに引き抜き右側の草むらに転がり込んだ。
ミリアとルカは洞穴が見える高い木の上でカリストーを待ち受けていた。
「位置取りに気をつけろよ。俺の腕は当てになんねえからな」
「カリストーで練習しておけばヘルメースで役に立つわ」
「おう、ちびすけは妙なとこでポジティブだよな」
「ローデリアを出た時はまだ上手く使いこなせなくて護符を乱発したの。転移先も大まかにしか設定できなかったから、『モンストルム』の森を抜けるまでは大変だった」
「そこって結構強力な魔物が出るんだろ?」
「うん、珍しい薬草もいっぱいで冒険者になりたての頃は毎日行ってた。ルカさんとかヴァンとか喜びそう。兄さん達の話では他と違った生態系らしくて慣れてない冒険者は手こずるんだって。そういうの好きでしょう?」
「あー、ワクワクが止まんねえってやつだろうな。ヴァンも喜びそうだな」
ルカがニヤッと笑ってミリアを見た。
「ジョージさん上手くカリストーを誘い出せてるかな?」
「ジョージなら大丈夫だ。アイツの能面は筋金入りだからな。子供の頃、ジョージが無表情で詰め寄ってくるのがすっげえ怖かったんだ」
「皇帝陛下とはちょうど真逆の怖さね」
「アレは別格だからな。常識がねえどころか非常識を楽しんで・・来た!」
ミリアには分からなかったがルカがカリストーの気配を察知したらしい。
「もう一回確認だ。洞穴に逃げ込まれる前に足止めする」
「うん、ルカさんにバフをかけたらカリストーの背後に転移して矢を打つ」
「そいつで動きが止まったところで俺が【アイスエッジ】だな。後はカリストーの動き次第だが俺が失敗したら頼む」
「うん、任された。チャンスがあったらカリストーにデバフかけるけど、グレイソンのバフやデバフほど強力じゃないから気を付けて」
「アイツはそれが本職だからな」
草むらに逃げ込んだカリストーは少しずつ後退しながら敵の位置を把握しようとしていた。
(つけられてたとは思えないけど矢はほぼ真後ろからだった。氷の刃は木の上からだったから敵は最低でも2人)
カリストーがいる位置は風上になるので得意の鼻は役に立たない。
(あの長さの矢が貫通するほどの威力なら相当近くにいた筈なのに気づかないなんて)
先ずは射手を探す事にして少しずつ山を降りながら目を凝らした。
(くそ、逆光でよく見えない。一気に下がるか?)
カリストーが中腰のままジグザグに走り太い木の影に隠れようとした時広い範囲にバリバリと大きな音を立てて雷が落ちた。
「がっ!」
バサバサと音を立てて鳥が一斉に飛び立ち、焼け焦げた木と草の異様な匂いが漂った。肩と背中に雷を受けたカリストーが痛みでしゃがみ込み持っていた弓を取り落とした時、風の刃がカリストーを切り刻み弓を弾き飛ばした。
(いた! 子供? くそ、弓はどこだ?)
ミリアを睨みつけたカリストーが上体を起こし両手を握り締めた。カリストーのたおやかで真っ白い腕が黒い毛皮で覆われ、湾曲した両手には長い鉤爪が伸びはじめた。小さい目玉をギョロギョロとさせ大きな口を開けておぞましい唸り声を上げた。
『グゥオーン』
カリストーは白い歯と大きな顎を見せびらかすように顔を突き出しワンドを構えたミリア目掛けて走り出した。腐倒木を踏み割り突進するカリストーの周りでは落ち葉や枯れ枝がガサガサと音を立てて飛び散って行く。
(ルカが後ろに回り込むはず!)
ギリギリまで待ちミリアはカリストーの顔を目掛けて【デバフ】続けて【ウォーターボール】
目を瞑り怯んだカリストーの後ろからルカが炎を纏わせたクレイモアで切り掛かかると、硬い毛皮の焼け焦げた臭いと共に血が噴き出した。
咆哮をあげながら振り返ったカリストーは牙を剥き出し鋭い爪でルカに襲い掛かった。ミリアはルカに【バフ】を重ね掛けしカリストーにも【デバフ】を重ねる。
カリストーの爪を左に避けて躱したルカが剣を切り上げカリストーの腹を抉った。叫び声を上げたカリストーの腕が伸びルカが体制を崩しかけた。
ミリアがカリストーの背の傷を狙い【アイスエッジ】
仁王立ちになったカリストーが『ギャオー』と苦しげな声を上げた。体制を立て直したルカがカリストーの左手を切り落とすと、カリストーは雄叫びを上げながら蹲りルカを睨みつけた。
『ガルゥ・・グッグルッ・・許さガゥ・・腕が・・絶対に許さない!」
獣の吠え声が次第にガラガラの低い人間の言葉に変わっていき、黒い毛皮は血糊のついた肌に変わり目の醒めるような金色の髪の美しい人間体に戻っていった。
「あっ!」「大変!」
ミリアはマントを脱ぎカリストーに着せかけ切り落とされた腕に大急ぎでポーションを振りかけた。太腿の傷にもポーションをかける。
「血は戻らないけど痛みはすぐ引くはずです」
「殺せ! 弓が引けねば生きている意味などない」
歯を食いしばり悔し涙を流すカリストーは血と汗と泥に塗れていても内面から輝くような可憐な美しさを保っていた。
「まだへーラーに恨み晴らせてないのに良いんですか?」
「なっ!」
「何のことだ、私は・・」
「この村で恨み晴らせてますか?」
ミリアの問いかけにカリストーが目を逸らした。
「ベルフェゴールの誘いはカリストーさんの願いを叶えられてますか?」
(ヤバい!)
近くには姿を隠せるほど大きな木はない。カリストーは矢尻を叩き割り突き刺さっていた矢を力任せに引き抜き右側の草むらに転がり込んだ。
ミリアとルカは洞穴が見える高い木の上でカリストーを待ち受けていた。
「位置取りに気をつけろよ。俺の腕は当てになんねえからな」
「カリストーで練習しておけばヘルメースで役に立つわ」
「おう、ちびすけは妙なとこでポジティブだよな」
「ローデリアを出た時はまだ上手く使いこなせなくて護符を乱発したの。転移先も大まかにしか設定できなかったから、『モンストルム』の森を抜けるまでは大変だった」
「そこって結構強力な魔物が出るんだろ?」
「うん、珍しい薬草もいっぱいで冒険者になりたての頃は毎日行ってた。ルカさんとかヴァンとか喜びそう。兄さん達の話では他と違った生態系らしくて慣れてない冒険者は手こずるんだって。そういうの好きでしょう?」
「あー、ワクワクが止まんねえってやつだろうな。ヴァンも喜びそうだな」
ルカがニヤッと笑ってミリアを見た。
「ジョージさん上手くカリストーを誘い出せてるかな?」
「ジョージなら大丈夫だ。アイツの能面は筋金入りだからな。子供の頃、ジョージが無表情で詰め寄ってくるのがすっげえ怖かったんだ」
「皇帝陛下とはちょうど真逆の怖さね」
「アレは別格だからな。常識がねえどころか非常識を楽しんで・・来た!」
ミリアには分からなかったがルカがカリストーの気配を察知したらしい。
「もう一回確認だ。洞穴に逃げ込まれる前に足止めする」
「うん、ルカさんにバフをかけたらカリストーの背後に転移して矢を打つ」
「そいつで動きが止まったところで俺が【アイスエッジ】だな。後はカリストーの動き次第だが俺が失敗したら頼む」
「うん、任された。チャンスがあったらカリストーにデバフかけるけど、グレイソンのバフやデバフほど強力じゃないから気を付けて」
「アイツはそれが本職だからな」
草むらに逃げ込んだカリストーは少しずつ後退しながら敵の位置を把握しようとしていた。
(つけられてたとは思えないけど矢はほぼ真後ろからだった。氷の刃は木の上からだったから敵は最低でも2人)
カリストーがいる位置は風上になるので得意の鼻は役に立たない。
(あの長さの矢が貫通するほどの威力なら相当近くにいた筈なのに気づかないなんて)
先ずは射手を探す事にして少しずつ山を降りながら目を凝らした。
(くそ、逆光でよく見えない。一気に下がるか?)
カリストーが中腰のままジグザグに走り太い木の影に隠れようとした時広い範囲にバリバリと大きな音を立てて雷が落ちた。
「がっ!」
バサバサと音を立てて鳥が一斉に飛び立ち、焼け焦げた木と草の異様な匂いが漂った。肩と背中に雷を受けたカリストーが痛みでしゃがみ込み持っていた弓を取り落とした時、風の刃がカリストーを切り刻み弓を弾き飛ばした。
(いた! 子供? くそ、弓はどこだ?)
ミリアを睨みつけたカリストーが上体を起こし両手を握り締めた。カリストーのたおやかで真っ白い腕が黒い毛皮で覆われ、湾曲した両手には長い鉤爪が伸びはじめた。小さい目玉をギョロギョロとさせ大きな口を開けておぞましい唸り声を上げた。
『グゥオーン』
カリストーは白い歯と大きな顎を見せびらかすように顔を突き出しワンドを構えたミリア目掛けて走り出した。腐倒木を踏み割り突進するカリストーの周りでは落ち葉や枯れ枝がガサガサと音を立てて飛び散って行く。
(ルカが後ろに回り込むはず!)
ギリギリまで待ちミリアはカリストーの顔を目掛けて【デバフ】続けて【ウォーターボール】
目を瞑り怯んだカリストーの後ろからルカが炎を纏わせたクレイモアで切り掛かかると、硬い毛皮の焼け焦げた臭いと共に血が噴き出した。
咆哮をあげながら振り返ったカリストーは牙を剥き出し鋭い爪でルカに襲い掛かった。ミリアはルカに【バフ】を重ね掛けしカリストーにも【デバフ】を重ねる。
カリストーの爪を左に避けて躱したルカが剣を切り上げカリストーの腹を抉った。叫び声を上げたカリストーの腕が伸びルカが体制を崩しかけた。
ミリアがカリストーの背の傷を狙い【アイスエッジ】
仁王立ちになったカリストーが『ギャオー』と苦しげな声を上げた。体制を立て直したルカがカリストーの左手を切り落とすと、カリストーは雄叫びを上げながら蹲りルカを睨みつけた。
『ガルゥ・・グッグルッ・・許さガゥ・・腕が・・絶対に許さない!」
獣の吠え声が次第にガラガラの低い人間の言葉に変わっていき、黒い毛皮は血糊のついた肌に変わり目の醒めるような金色の髪の美しい人間体に戻っていった。
「あっ!」「大変!」
ミリアはマントを脱ぎカリストーに着せかけ切り落とされた腕に大急ぎでポーションを振りかけた。太腿の傷にもポーションをかける。
「血は戻らないけど痛みはすぐ引くはずです」
「殺せ! 弓が引けねば生きている意味などない」
歯を食いしばり悔し涙を流すカリストーは血と汗と泥に塗れていても内面から輝くような可憐な美しさを保っていた。
「まだへーラーに恨み晴らせてないのに良いんですか?」
「なっ!」
「何のことだ、私は・・」
「この村で恨み晴らせてますか?」
ミリアの問いかけにカリストーが目を逸らした。
「ベルフェゴールの誘いはカリストーさんの願いを叶えられてますか?」
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