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アルスター侯爵家

121.炎を纏うフェニックスには

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 ルカがゆっくりとフェニックスを木箱の中に移動する。結界の中のフェニックスが暴れる度にルカが結界のひび割れを修復し、時間をかけて木箱の中にフェニックスを納めた。

「いち・に・さん!」

 ルカが結界を解いた瞬間ミリアが【ウォーターボール】を木箱の中に打ち込み、ジョージが蓋をした直後に結界の護符を貼った。

「これで本当にいけるか?」

「分かんないけど水に閉じ込められてれば火を消せなくても威力は減るはず。ロビンの護符を破るのは無理だと思うし」

「ロビンの護符はラファエルとウリエルのお墨付きだしな」

 水が漏れないよう補強した木箱には大量の結界の護符が貼られている。

「しかし水責めとはエゲツない事を考えたな」

「大丈夫。だってフェニックスは不死だもの」


 ルカとミリアが護衛する中、ジョージは木箱をゆっくりと厩舎の中に移動した。

「ジョージ、度胸あるな。中にフェニックスが入ってるんだぜ?」

「ここ数日で随分と肝が据わりました。今お屋敷におられるのは、神・神獣・精霊・妖精・ニュンペー・ハーフエルフ。この先大概の事では驚かないのではないかと存じます」

「・・また人間の方が少ねえじゃねえか」

 はぁっと溜息をついたルカは2人の姿を見て顔を顰めた。

「とっとと屋敷に戻ってそのけったくその悪い格好を元に戻そうぜ」

「背が高いといろんなものが見えて「ちびすけ! てめえは子供のままでいいんだよ! ヘルメースに色目使われんだろうが」」

 残念なものを見るようなジョージの目線に気付かないルカがミリアに怒鳴った。




 屋敷に戻り幻術を解いてもらったミリアとルカは居間の座り心地の悪いソファでお茶を飲んでいた。

「さて、奴はいつ動くと思う?」

「なあ、アンタは用無しなんだから部屋に引っ込んでてくんねえか?」

 ミリアの隣に堂々と腰掛けたヘルメースがイライラした顔のルカに片眉を吊り上げた。

「どーしてもここにいたいんなら、お前が座るのは俺の隣だ。人間界では女性の隣には座んねえんだよ」

「レディなら兎も角、チビみたいなお子様なら問題ないだろ?」

 溜息をついたミリアがお茶のカップを持って一人用の椅子に移動した。


「奴が動くのは明日辺りか?」

「私も同意見。様子見に行ったはずのフェニックスが日が変わっても帰って来なかったら流石に動くと思う。夜は・・多分ないと思うけどどうだろう。でも、本当にいいの?」

「ああ、エレノアの許可はとってるから問題ねえ」

「いつ頃はじめる?」

「早い方が良くねえか? 運が良いことに夏だし天気も良い」

「じゃあルカさんに任せる」






(どう言うことだ? 奴は一体どこに行った)

 宿の中でのんびりと報告を待っていたベルフェゴールは夜になってもフェニックスが帰って来ない事に腹を立てていた。

(偵察に行っただけでこれ程時間がかかるなど)

 数日前カリストーが狩りに出かけたまま帰らず、翌日の夜にはマイアとヘルメースが所在を絶った。その次の日にはフェニックスがレヴィアタンを追いかけて帰って来ない。

(愚かなレヴィアタンがフェニックスに勝てるとは思えんが)


 夜が明け空に鮮やかなビーナスベルトが広がりはじめた。

(まだ帰ってこん! 何と面倒な・・ワシの手を煩わせた責任は重いぞ)


 チラホラと村人が動きはじめいくつかの家の煙突からは薄く煙が上がっていた。井戸の周りでは女が水汲みの順番待ちをしており、寝起きの男がベルフェゴールの姿を見て絶句した。

(ふん、男も女も煩わしい。そろそろ終わりにしてもよかろうと思うておったのに・・)


 内心の不満を包み隠し妖艶な姿をしたベルフェゴールは張り付く視線を無視してスタスタと歩き出した。

(歩くのは面倒じゃがこれ程見られていてはのう・・)

 ベルフェゴールは村の外れ近くで男に声をかけ馬車で領主館まで送らせた。
 この世のものとも思えない美女に声をかけられた男は舞い上がり、帰りも送りたいと言い出したがそれをやんわりと断ったベルフェゴールは男のことなど忘れ領主館に向かった。

(ん? ワシでも見えん場所がある)


 ベルフェゴールが首を傾げてさらに詳しく調べようとした時屋敷の裏によく見知った人の気配を感じた。

(そう言えば奴もここ数日来ておらんな)

(邪魔だとしか思っておらなんだ故忘れておったが、カリストーがいなくなった頃からか?)


 後ろでは馬車に乗った村人が未練がましくベルフェゴールの後ろ姿を見ているので、当然のような顔をして屋敷の脇を周る道を歩きはじめた。

(やれ面倒くさい)


 これほど歩いたのは一体いつぶりかと考えるのも面倒なベルフェゴールは厩舎の先に縄でぐるぐる巻きにされた侯爵を見つけた。

(なんじゃ、あれは)

 猿轡を咬まされ肩から足先までビッシリと縄が巻かれている。ベルフェゴールの姿を見つけた侯爵が芋虫のように身体を蠢かし『うーうー』と必死で訴えかけていた。

(ワシに助けろとでも? そんな面倒な事をするわけがなかろう)


 ベルフェゴールは辺りを見回しフェニックスの気配を探した。屋敷の中以外にも複数の場所はあったが、一々調べるのも面倒だと溜息をついたベルフェゴールは侯爵の元に近付いた。

「最近お見かけしないと思ったら、随分変わった遊びをしておられるのね」

(うっ、くっせえ。コイツ漏らしてやがる)


 侯爵に触るのが嫌になったベルフェゴールは手の一振りで猿轡を消し去った。

「たっ、助けてくれ!」

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