【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との

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第五章

25.こんな感じで準備がはじまったから

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 少し時を遡り⋯⋯エリオットと忍び込んだアルムヘイルの王宮でエレーナが探したかったのは、かつて皇帝がマクベス王に送った書簡。

 エロイーズとランドルフを断罪する前に、帝国の意向を知るために送った書簡の返事は、マクベス達が毒で倒れた後に届いた。

『クレベルンが見つけて、俺にこっそり届けてくれたんだ。天が俺に味方してたって事だよなあ』

『あれを見るまでは、皇帝が俺達を見捨てる気だなんて思いもしなかったぜ』

『王位を奪うのは正解だったって事』


 酔ったランドルフは、時に嬉しそうに、時に悔しそうに⋯⋯王位簒奪を正当化したいのか、己の罪を誤魔化したいのか⋯⋯繰り返しジュリエッタの前で呟いていた。

『あれはいざって時の保険になると思わないか? ケネス第二皇子も同感だと言ってた』

『第二皇子の方が先見の明があるって事だよな。クレベルンや連合王国も味方だし』


 その他に見つけて持ち帰ったのは、第二皇子からの手紙が一番多い。

 計画の詳細や作戦の進捗状況、成果と問題点。第二皇子の目線で書かれている為かなり盛った部分はあるが、公国への侵略戦争や同盟についてかなり細かく書かれている。

 ビルワーツの鉱山の分割の割合や、それ以外の資産の取り分などを凡その資産を想定して、取り決めていた。

 エロイーズやランドルフ達へ借用書の写しを送っていたのは、マウントを取るためのような気がする。作戦の詳細や進捗状況を知らせる手紙を送ってきたのも、『甥よりも自分の方が全てを把握している』と伝えたかったから。



 大国に産まれたにも関わらず皇帝になれない第二皇子。ハントリー侯爵には国王が背後についており、セルビアスも連合王国の国王が共闘している。大して役に立たないランドルフは小国と言えど一国の王。

 皇帝に媚び諂いながら目を盗んで事をなさなければならない第二皇子は、屈辱を感じていた。

(どいつもこいつも、俺様の手助けなしには何もできない愚鈍のくせに⋯⋯。俺様が皇帝にさえなっていれば⋯⋯先に産まれただけの兄がのさばり、能無しが国王になってるなど、許せるものか!
我儘放題の妹を担ぎ上げておけば、ランドルフは気を許しクレベルン達も安心するからな)

 一度剥奪されたエロイーズの皇位継承権を復権させたのは、第二皇子派の者達。

 ランドルフにもクレベルンや連合王国にも、エロイーズの意に沿う事は帝国に恩を売れる事だと思わせた。

『皇帝は口には出さないが妹を気にかけている。妹もランドルフ達も、血を受け継ぐ者達だからな。
帝国の武力と資金力を意のままにできるのは、俺だけだと覚えておけ。貴様らの野望を叶える為に、一番必要な物を手にしているのは俺だからな』


 歪んだ劣等感を持つ叔父と、血の繋がりに胡座をかく甥の間には、大きな気持ちのズレがある。



 予想以上の成果を上げたエレーナは、盗んで⋯⋯拝借した手紙や書類を整理し、魔導具を使って写しを作った。

 大雑把で決断力のないランドルフは、捨てるべき手紙と、保管しておく手紙の区別をするのが面倒なのだろう。

 手紙や書類を無造作に予備室に放り込んでいたお陰で、予想以上の時間はかかったが、かなりの証拠が手に入ったのはありがたい。

(破棄しているとは思わなかったけど、あそこになかったら、次はどこを探せばいいのか考えつかなったから⋯⋯。エドワードの隠し持っている書類もいただきに行こうと思っていたけど、十分な証拠は集まったかも)



 

 アルムヘイルに潜入した2日後、エレーナは一人で公国の宮殿前に転移した。

(会っていただけるかしら)

 エレーナにとって第二の関門。最も重要な物をいただきに来た。

 アルムヘイルの時のように潜入する訳にはいかない理由があるエレーナは、堂々と正門へ向かい入り口を守る衛兵に声をかけた。

「エレーナ・オルシーニです。先触れは出しておりませんが、建国王アメリア様に謁見を願います」

 謁見が叶わなければ、捨てた親に会いに行って門前払いを喰らったと噂を流す予定。もし協力してもらえるなら、エレーナがアメリアを訪ねた事を、間者達に見せつけておきたい。

「国王陛下はお忙しく⋯⋯謁見の希望であればまずは文書にてご連絡下さい」

「生憎と時間がありませんの。すぐにお会いできないようであれば、押し入る覚悟だとお伝え下さいませ」

「なんと言われるか! オルシーニと言えばオーレリアの貴族。国同士の問題になりかねないお言葉だとお分かりか!」

 昔の公国の衛兵より、かなり質が上がったらしい。

「先ずは問い合わせていただけますでしょうか? エレーナ・オルシーニが建国王に謁見を願い、正門前で粘っていると。至急お時間をいただきたいのです」

 エレーナの剣幕に押された衛兵の一人が渋々確認に向かったが、残った衛兵は警戒を強めている。



(2回しか見たことがないけど、昔と同じで美しい宮殿だわ)

 しばらく待っていると泡を食ったジョーンズが走ってきた。

「エ、エレーナ様!」

「お久しぶりですね、ジョーンズ。いえ、ジョーンズ宰相。とても急いでいるのですが、内密に面会したいと思っております。アメリア様へ取り次いでいただけますでしょうか」

「も、勿論でございます。謝罪せねばならないことがありすぎるほどありますが⋯⋯アメリア様には連絡を入れてございますので、先ずはアメリア様の執務室にご案内致します」

 状況が分からず、首を傾げた衛兵の横を通り過ぎ、エレーナはジョーンズの後に続いた。



 昔と同じ長い廊下を歩き、階段を登り⋯⋯ドアをノックしたジョーンズは、応答を待たずにドアを開けた。

「陛下、失礼致します。先程ご連絡を致しました、お客様がお見えでございます」

「お通しして」

 初めて直に聞くアメリアの声は、思ったよりも低く掠れていた。陽の光を背にしたアメリアの表情は見えないが、結い上げた髪が金色に輝いて、後光が差しているように見える。

「お忙しいと存じつつ、先触れもなく参りました事をお詫び致しますと同時に、謁見の願いを叶えてくださり、こころよりお礼申し上げます。
オーレリアより参りました、エレーナ・オルシーニでございます」

 深く腰を落とした最上級のカーテシーをしたのは、他国の王に対する敬意の現れ⋯⋯親子の初対面の場には思えない。

「オルシーニ嬢、頭を上げてちょうだい。ジョーンズ、お茶の準備をしたら人払いを」

「畏まりました」



 ソファに向かい合って座り、お茶を前に無言で目を伏せたアメリアは、エレーナの記憶の中よりかなり⋯⋯予想以上に歳をとっていた。

 緩く結い上げた髪は少し艶がなく感じられ、口元の深い皺は苦痛を耐えているように見える。

「⋯⋯先ずは話を聞きましょう。オルシーニ嬢がここに来られるのは、余程の事情があるからだとしか思えませんからね。わたくしからの話はその後にしましょう」

「ありがとうございます。今日は陛下にお願いがあって参りました。かの戦いの際、陛下が手に入れられた、とある手紙をいただきとうございます」

「⋯⋯アレがどんな意味を持っているか知っていて、それでも欲しいと?」

「はい、あの手紙の重要性は存じております。特定の条件下で使えば国を揺るがすほどの騒ぎを巻き起こし、持っていると知られれば命の危険があります」

「アレは⋯⋯アレは譲れない。申し訳ないとは思うけれど、わたくしにとって最重要とも言える物だから」

「失礼を承知で申し上げますが、アメリア様では有効にお使いになる事は出来ないでしょう。少なくとも時間がかかりすぎ、敵に隙を見せることになりかねません」

「わかっているわ。でも、やるしかないの」

「アルムヘイル王家はわたくしが潰します。その他の3カ国も含めて。その為の駒を全て揃えて、乗り込むつもりでおります」

「危険すぎるわ、絶対にダメ⋯⋯エレーナが乗り込むなんて」

「勝算のない戦いと、中途半端は嫌悪しております。やるなら徹底的に、確実に仕留めます。その為に、アメリア様のお持ちの手紙が必要なのです。他にも証拠は揃いはじめておりますが、あの手紙はクレベルンとハントリーを追い詰める決定打になりますから」

「詳しく聞かせてくれるかしら。危険がないと分かるまでは渡せないから」

「エドワードの婚約が内定しましたので、盛大なパーティーが開かれるのは確実です。オーレリア国王には間違いなく招待状が届きますので、わたくしはそのパーティーに同行させていただきます」

 事をしでかすなら公の場⋯⋯他国の王や高官が集まった場所でなくては効果が薄いのに、アルムヘイルと国交を断絶している公国には招待状は届かない。

「オーレリア国王陛下もご存じなのね」

「はい、徹底的に叩き潰せと、人や物など多くの協力をしてくださっています」

 ランドルフの予備室から手に入れた書類の数々は、それだけでも犯行を公にできる程の⋯⋯ 公にするだけならば、十分な量と質を兼ね備えている。

「そこにアメリア様がお持ちのハントリー侯爵の自筆の指示書と、托卵の鑑定結果が揃えば⋯⋯間違いなく叩き潰せます」

「でも、托卵の鑑定結果はどさくさに紛れてなくなってしまってるの。ずっと探しているのだけど⋯⋯」

 意識が回復したアメリアはずっと鑑定結果を探していた。命のある間に、中途半端にしてしまった過去の遺恨を全て潰す為に。

 エレーナに謝るには、それが必要だとアメリアは思いこんでいた。

「まだ、わたくしの推測でしかありませんが、お持ちの方は特定しております。ほぼ間違いないと思っておりますし、アメリア様ではその方から書類を譲っていただく事はできないと思います」

「な、なぜ!?」

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