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一回目 (過去)

54.学園生達の心

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「気にかかっていることがあるようですね」

「はい。学園生の方達の言葉が気になってしまって。あの時、精霊達は私の周りに現れました。それから溜池一面に飛び出していって大量の水が精霊師と学園生の手から生み出されました。だから皆さんが精霊を呼んだのは私だと仰いました。
でも、さっきの話ではリリアーナの力だと。もしそうならそれはそれで良いとも思えるんですが、精霊王はリリアーナには水の加護はないって仰っておられましたし」

 テーブルに紅茶を置きお菓子を薦めながらナスタリア神父が話しはじめた。


「簡単な仕掛けです。オーレアンから帰ってきた学園生達は帰ってきた足でそのまま離宮に集められました。慰労が目的とされていますが恐らくは洗脳・誘導のための時間稼ぎでしょう」

 学園にも通っていない女性が偉業を成し遂げ、学園での成績を認められて派遣されたはずの彼等は何の役にも立たなかった。
 選ばれた時にはさぞ鼻が高かっただろう学園生達は役立たずだったと言われ恥をかくかもしれない。
 加護の力の強い者が権力を持つ弱肉強食の学園内での立ち位置の不安や、就職先を決める為の成績への影響。

「上手くいけば就職でかなり有利になると胸算用していた者は多かったでしょう。本人だけでなく親兄弟の期待も背負っていたはずですから、そこを突けば簡単に洗脳できたと思います」

「私ではなくリリアーナの主導だったと言えば学園生のプライドも守られて言い訳もできるという事でしょうか?」

「ええ、リリアーナ様は学園生ですし特別扱いされていましたから。彼女の主導で自分達も協力し達成した事にすれば大義名分がたちます」

 学園での面目も立ち家族の前でも堂々としていられる。

「学園生以外が役立ったなんてあり得ない、優秀な君達がいたからこそ成功した。就職でも有利になると言えば自分を誤魔化してでもそれに倣うでしょう。弱い人間の心を操るのはとても簡単なんです」

「⋯⋯」
「恐らくは公爵夫妻とランブリー団長当たりの差金でしょうが、彼等にそれほどの知恵があるとは思えません。誰が計画したのか⋯⋯離宮ということは⋯⋯」

 腕を組み目を細めて宙を睨んだナスタリア神父は口を歪め物思いに耽った。





ー 少し時は遡り ー


 学園生を離宮に引率したランブリー団長は宮廷料理人が作った豪華な料理を並べ生徒達を食堂に集めた。その隣には繊細な刺繍とレースの目立つドレスを着た女性。

『皆さん、本当にお疲れ様でした。暫くはここでゆっくりと心と身体を休めて下さいね』

 旅の疲れに加え自分の力で成果を出せず帰還したと落ち込んでいた学園生達は目の前の料理を見ながら俯いていた。

『わたくしはここにいる皆さんが本当の功労者だと知っております。陛下の御前で讃えられ褒賞をいただくべき方々が王宮に呼ばれなかったのが残念でなりません。
ですから、わたくしからのもてなしで少しでも元気になって下さいませ』

 その日以来、毎食豪華な食事を饗され暇な時間にはその女性が全員に声をかけてくれた。

『皆さんのお力で成し遂げた事に決まっておりますわ』

『おかしな話だと思われません? わたくしは誰かのちょとした勘違いではないかと思っておりますのよ。それかそのように見えただけなのかも』

『元々実力を認められていたものが主導し、皆様がお力を発揮された結果としか思えませんの』

『貴方達の成果が正しく認められればこのような食事を毎日いただくことなど簡単ですわ。瑣末事さまつごとは使用人に任せ崇高なるお仕事をなされる。それだけの力をお持ちの方ばかりですもの』

『間違いは正しませんとね。力のない者を褒め称えるなどこの国の為になりませんわ』


 何人ものメイドに至れり尽くせりで世話をされ豪華な食事を味わいながら耳に優しい言葉ばかりを囁かれる。
 アレは勘違いだった、勘違いだったと学園生達が言いはじめるのはあっという間だった。

 学園生達は強い加護を戴いた時からずっと褒められ賞賛と羨望の的だった。自分達は平凡も失敗もあり得ない選ばれし者だという認識が記憶を歪めていった。

『学園に通う事さえ許されなかった者が何かできたなんてあり得ない。一番強い加護を持っているリリアーナ様の主導で私達が力を発現させたんだ!』



 こっそりとほくそ笑んだ女性は仕事が終わったと、誰にも何も言わず離宮を後にした。

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