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一回目 (過去)

80.初めての町と精霊達

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「夜の供って何ですか? 護衛とか接待みたいな?」

「ぶふっ、ある意味接待ではあるな。聖職者に薦めるのは一番まずい接待だと覚えておけば間違いないな」

 そんなものがあるのかと感心しながら歩いていると広場から流れてくる良い匂いに気が付いた。

「ナスタリア神父、美味しそうな匂いがしてますね」

「⋯⋯不快な態度をとってしまい申し訳ありません。食事をしてさっさと寝てしまいましょう」

「おう、聖騎士達は野営に慣れてるからな。飯は美味いぞ~」

「ナザエル枢機卿に振り回されて必要以上に野営させられてますからね」

「教会で机に齧り付いてるよりよっぽど楽しくて役に立つ」



 大きな肉が焼ける煙が立ち上り広場から近くの店や家に流れていく。

 夕食は炙ったチーズをパンに乗せスライスした肉やハムを乗せてパンで挟んで豪快に食べるらしい。
 巨大な鍋に作ったスープが出来上がる頃、チラチラと広場の周りに人が集まってきた。

 広場の入り口には大きな空の樽がふたつ並んでいる。


「母ちゃん、いいにおいだね!」

 甲高い子供の声が聞こえた。

「おにく!?」

 ローザリアが目で確認するとナスタリア神父が小さく頷いた。


「良かったら食べる?」

 ローザリアが恐る恐る声をかけると集まった人の中から子供が飛び出してきた。

「「たべたい!!」」

「家族の人に食べていいか聞いてきてくれるかな? いいよってなったらあそこの一番大きな男の人のとこに行ってね」

 ひときわ大きなナザエル枢機卿は今、肉を焼いていた聖騎士の近くにいる。彼を目印にすれば薄暗闇の中でも見間違う事はないだろう。


 親の許しを得た子供達が元気良く走ってきた。

「いいって言ってた」

「お姉ちゃんも一緒に食べる?」

「お姉ちゃんにはひとつ仕事をお願いするからその後で食べに行くよ」

 しゃがみ込んで子供の目線で説明したナスタリア神父の手を子供が掴んだ。

「なんのおしごとするの? セアラおてつだいするよ?」



 ナスタリア神父とローザリアは子供達にまとわりつかれながら広場入り口の樽の所にやって来た。

「お姉ちゃんはすごい特技があるんだ」

「とくぎってなに?」

「みんな喉乾いてないか?」

「いっつも、のどかわいてるよ~」


(ウンディーネ、よろしく! フロスティー、ちょっとだけ冷たくできる?)

【できるよ~】

【お手伝いー、まっかせてー】


 練習を続けるうちに名前を教えてくれた精霊も増えてきた。水のウンディーネ・光のレムル・風のシルフ・火のサラマンダー・地のノーム・氷のフロスティー・雷のドゥーク。

 空間の精霊の水色や無又は創造の精霊の白はかなり大きくなってきた。闇の精霊の黒も少し成長している気がする。



 ナスタリア神父が小さく頷いた。


《 フリギダリウム! 》

 ローザリアは詠唱も一般的な文言も使わず、精霊に教えられた言葉を唱える。あっという間に溢れそうなほどの水が樽に満ちていった。


「きゃあ、つめたーい」

「おいしー、おかわりしてもいいの?」

「お腹が痛くならないくらいにね」



「水の聖女様だ!」

「こっちを通るのはハズレ聖女様だろ?」

(ハズレ聖女⋯⋯私にぴったりかも)

 自己肯定感も薄く自尊心も低いローザリアは特に気にした様子もなく、取り合うようにして水を汲む人達をニコニコと眺めていた。


「聖女様、もっと水って出して頂けますか? 赤ん坊の汗疹が治らなくて」

「うちの婆さんの床ずれにもお願い!」

「うちも!」

「俺んちも頼む!」


 広場は大騒ぎになり子供達が怯えてしまった。

「お水は出せますから落ち着いて下さい。子供達が怯えてます!」



 何人かの親と一緒にジャスパーには子供達を引率してもらいナザエル枢機卿の元へ送り込んだ。

 持ち帰る水は常温で出し運べる者には自分達で運んでもらう、運べない家には聖騎士が運んで行った。



 ローザリアが何度も水を出していると町長が走ってやってきた。

「せっ、精霊師の方が水を出してると⋯⋯ありがとうございます。井戸にも水は出せますか? あとどのくらいならお願いできますでしょうか?」


「水を出しているのは精霊師ではなく様です」

「えっ? ロージリアン様はハズレ聖女で⋯⋯」

「町長、アンタ何言ってんだよ!! ハズレなんかじゃなくて本当の水の聖女様だよ! しーかーもー、お名前は! 地面に頭つけて謝んな!!」

 一番最初に『赤ん坊の汗疹が』と言っていた女性が持っていた桶を振り上げて怒鳴った。

「何回樽に水を出してくださったか。町長は今度来るのはハズレの方だから無視しろなんて言ってたけど、この大嘘つき!! お陰であたしら、お迎えもしないで知らん顔してたんだよ」

 床ずれのご婦人がヒートアップして町長の頭を掴んで一緒に土下座した。


「あの、やめて下さい。どっちが本物か分からないって王都でも言われていましたし、学園に行ってないのも本当なんです。
だから、心配になったり不安だったりしても当然なので」

「聖女様⋯⋯」

「それに、私⋯⋯」

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