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一回目 (過去)
83.精霊王の声に導かれて
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【水の源へ】
「あの、この井戸の水の源ってどこになりますか?」
「あそこの山じゃよ。前は山の麓に川もあった」
「この爺さんは以前はあの山で木樵をしてたんで、だから間違いないと思います」
【山に雨を】
石碑から離れると精霊王の言葉は短くなる気がするが何か理由があるのだろうか。
「ナスタリア神父、山に行きましょう」
「分かりました。詳しい話は馬車でお願いします」
ローザリアが精霊と話せる事を知っているのはナスタリア神父・ナザエル枢機卿・ニールの3人だけ。
精霊王や精霊から聞いた話をする時は用心しないといけない。
山までは馬車で1時間以上かかると聞いて朝食後に出発することにした。火を起こしてスープを作りパンやチーズとハムの簡単な食事を準備していると町の人が差し入れを持って来てくれた。
「うちで自慢のパンケーキです」
「うちはガレットを作ってきた。余ったらおやつにでも食べて下さいな」
料理はメンバー全員で分けていただいたが、どれも作りたてで美味しかった。
馬車に乗り込んで山に向かおうとすると、先ほどの木樵の老人が急足でやって来た。
「山に行くなら儂を連れてけ。山の事なら儂が一番よく知っとる」
「爺ちゃん、迷惑になるからやめろってば!!」
木樵の息子が必死に止めているが木樵は耳を貸さないでナザエル枢機卿を睨みつけていた。
「⋯⋯爺さんは馬に乗れるか?」
「当たり前じゃろうが。乗れんでどうする!」
「なら直ぐに準備する。うちの馬はみな気性が荒いぞ。腰を抜かすなよ」
「ふん、ジジイを舐めるなよ」
ナザエル枢機卿の迫力にも怯まない木樵の爺さんが節だらけの親指を立ててサムズアップした。
山に向かう途中で洗濯をする人や店の前を掃く人達が笑顔で手を振ってくれた。
「いってらっしゃい、お気をつけて」
「ありがとう、行ってきます」
行ってきますと言えたのが嬉しかったローザリアはいつまでも窓から外を覗いていた。
馬車の中はいつもと同じでローザリアとナスタリア神父の2人、密談するには都合がいい。
「精霊王がこのままでは井戸は直ぐに元通りになるって教えてくれました」
「それで水源地に行こうと仰ったのですね」
「はい、水の源で雨を降らそうと言ってくれて」
「では、水量に気をつけて下さい。長い間乾燥していた土は直ぐには水を吸い込みません。急に土砂降りになると土砂崩れを起こします」
「山が崩れるんですか?」
「その通りです。弱い雨が地面にしっかり染み込んだらある程度の雨も大丈夫になります」
「はじめはゆっくりで、様子を見ながら水の量を増やすんですね。山に染み込んだ水だけで井戸に貯まるものなんでしょうか」
「確か川があると言う話でしたね。川の上流に池かなにかがあったのかもしれません。それがあれば後は少量の雨が降り続くだけで何とかなるでしょう。
山の様子は木樵の爺さんに聞いてみましょう」
山の麓に着いたが木樵の爺さんに言われなければ川がどこにあるのか分からなかった。
「すんごい浅い川じゃったからのう、分からんでも仕方ないわい。じゃが、澄んだ綺麗な水でのう。儂らの命水じゃったんじゃ」
木樵の爺さんは物心ついた頃から父親に連れられてこの山に来ていた。父親も木樵だったので季節によっては山小屋に泊まり込み、気が付いた時は自分も木樵になっていたと皺だらけの顔で笑った。
「この山が死にかけとるのが辛うての。死ぬなら一緒がええ」
水不足での山の暮らしを心配した息子に絆されて山を降りたはしたが、できる事なら帰りたかったと呟いた。
「爺さん、このまま山に置いてけとか言うなよ。年寄りを馬に括り付ける趣味はないからな」
「わかっとるわ! 水の精霊様に迷惑はかけやせん!! 山に挨拶に行くだけじゃ」
細い目をさらに細めて嬉しそうに景色を見ていた爺さんだったが、川の上流に行きたいと言うと表情を一変させた。
「この川の上流? あそこはダメじゃ、山の神さんが怒ってしまう。誰も入っちゃならん!」
【行くでしょ?】
【行くよねー】
(もしかして、そこって)
【そのとーり】
「爺さん、そこに連れてってください」
「絶対に迷惑はかけませんから」
「言うたじゃろが、行ったらいかんて!」
誰が何度頼んでも爺さんは首を縦に振らない。
「水不足が解消できてもか? 爺さんにはわかってるだろ? 井戸に水を溜めても大して役に立たねえって」
「あんなもんは、いっときで終わりよ。もうこの国は終いじゃて。山の神さんを怒らせんでもええ、静かぁに終わりゃええんじゃ」
(このままじゃ埒があかないけど私に言える?)
【頑張れー】
「あの、この井戸の水の源ってどこになりますか?」
「あそこの山じゃよ。前は山の麓に川もあった」
「この爺さんは以前はあの山で木樵をしてたんで、だから間違いないと思います」
【山に雨を】
石碑から離れると精霊王の言葉は短くなる気がするが何か理由があるのだろうか。
「ナスタリア神父、山に行きましょう」
「分かりました。詳しい話は馬車でお願いします」
ローザリアが精霊と話せる事を知っているのはナスタリア神父・ナザエル枢機卿・ニールの3人だけ。
精霊王や精霊から聞いた話をする時は用心しないといけない。
山までは馬車で1時間以上かかると聞いて朝食後に出発することにした。火を起こしてスープを作りパンやチーズとハムの簡単な食事を準備していると町の人が差し入れを持って来てくれた。
「うちで自慢のパンケーキです」
「うちはガレットを作ってきた。余ったらおやつにでも食べて下さいな」
料理はメンバー全員で分けていただいたが、どれも作りたてで美味しかった。
馬車に乗り込んで山に向かおうとすると、先ほどの木樵の老人が急足でやって来た。
「山に行くなら儂を連れてけ。山の事なら儂が一番よく知っとる」
「爺ちゃん、迷惑になるからやめろってば!!」
木樵の息子が必死に止めているが木樵は耳を貸さないでナザエル枢機卿を睨みつけていた。
「⋯⋯爺さんは馬に乗れるか?」
「当たり前じゃろうが。乗れんでどうする!」
「なら直ぐに準備する。うちの馬はみな気性が荒いぞ。腰を抜かすなよ」
「ふん、ジジイを舐めるなよ」
ナザエル枢機卿の迫力にも怯まない木樵の爺さんが節だらけの親指を立ててサムズアップした。
山に向かう途中で洗濯をする人や店の前を掃く人達が笑顔で手を振ってくれた。
「いってらっしゃい、お気をつけて」
「ありがとう、行ってきます」
行ってきますと言えたのが嬉しかったローザリアはいつまでも窓から外を覗いていた。
馬車の中はいつもと同じでローザリアとナスタリア神父の2人、密談するには都合がいい。
「精霊王がこのままでは井戸は直ぐに元通りになるって教えてくれました」
「それで水源地に行こうと仰ったのですね」
「はい、水の源で雨を降らそうと言ってくれて」
「では、水量に気をつけて下さい。長い間乾燥していた土は直ぐには水を吸い込みません。急に土砂降りになると土砂崩れを起こします」
「山が崩れるんですか?」
「その通りです。弱い雨が地面にしっかり染み込んだらある程度の雨も大丈夫になります」
「はじめはゆっくりで、様子を見ながら水の量を増やすんですね。山に染み込んだ水だけで井戸に貯まるものなんでしょうか」
「確か川があると言う話でしたね。川の上流に池かなにかがあったのかもしれません。それがあれば後は少量の雨が降り続くだけで何とかなるでしょう。
山の様子は木樵の爺さんに聞いてみましょう」
山の麓に着いたが木樵の爺さんに言われなければ川がどこにあるのか分からなかった。
「すんごい浅い川じゃったからのう、分からんでも仕方ないわい。じゃが、澄んだ綺麗な水でのう。儂らの命水じゃったんじゃ」
木樵の爺さんは物心ついた頃から父親に連れられてこの山に来ていた。父親も木樵だったので季節によっては山小屋に泊まり込み、気が付いた時は自分も木樵になっていたと皺だらけの顔で笑った。
「この山が死にかけとるのが辛うての。死ぬなら一緒がええ」
水不足での山の暮らしを心配した息子に絆されて山を降りたはしたが、できる事なら帰りたかったと呟いた。
「爺さん、このまま山に置いてけとか言うなよ。年寄りを馬に括り付ける趣味はないからな」
「わかっとるわ! 水の精霊様に迷惑はかけやせん!! 山に挨拶に行くだけじゃ」
細い目をさらに細めて嬉しそうに景色を見ていた爺さんだったが、川の上流に行きたいと言うと表情を一変させた。
「この川の上流? あそこはダメじゃ、山の神さんが怒ってしまう。誰も入っちゃならん!」
【行くでしょ?】
【行くよねー】
(もしかして、そこって)
【そのとーり】
「爺さん、そこに連れてってください」
「絶対に迷惑はかけませんから」
「言うたじゃろが、行ったらいかんて!」
誰が何度頼んでも爺さんは首を縦に振らない。
「水不足が解消できてもか? 爺さんにはわかってるだろ? 井戸に水を溜めても大して役に立たねえって」
「あんなもんは、いっときで終わりよ。もうこの国は終いじゃて。山の神さんを怒らせんでもええ、静かぁに終わりゃええんじゃ」
(このままじゃ埒があかないけど私に言える?)
【頑張れー】
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