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一回目 (過去)
86.枢機卿は精霊殺しか?
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「いえ、次に行く町の情報を確認していました。今回の件から考えて先発隊を編成して水源探しを先行させるのはどうかと思い、調整できないか調べていました」
「人数的に難しくねえか?」
「その通りなんです。隊を分けるのも教会からこれ以上人を呼ぶのも厳しそうです。でも、なんとか出来れば早期解決にかなり有効だと思いますし」
教会から精霊師を呼ぶにしても二心のない者を選ばなくてはならない。妨害工作でもされれば逆に無駄な時間が増えるだけになる。
食事が運ばれてくるのを横目に見ながらナスタリアは書類を片付けた。
大勢で押しかけて料理が届くのをただ座って待っているのが申し訳なくてローザリアはソワソワしていた。
「ローザリア様、駄目ですよ」
「でも」
「ローザリア様が動けば周りが気を遣います。どうしても気になるならあそこに座っているジャスパーに『座ってないで働け』と声をかけて下さい」
「こんな大人数の食事の準備や配膳は大変ですし、私なら色々手伝えますし」
「この町は財源不足ですから稼ぎ時なんです。手の空いている人が集まっているようですから仕事を取ってはいけません。宿代も食事代も払うので町の臨時収入になります」
旅行客も行商人も減り閑古鳥が鳴いていた宿や酒場にとっては一晩限りの客でもありがたい。
「そうか、気がつきませんでした」
偉くなったねと言うように自然にローザリアの頭を撫でたナスタリア神父の変化を見てナザエル枢機卿が目を丸くした。
「何があった?」
「遠慮しても揶揄われるだけだと知ったので」
開き直ったナスタリア神父がエールをゴクゴクと飲み干した。
「照れてたくせに?」
ゴフッ! ゲホッゲホッ!!
「なっ、なにを⋯⋯ゲホッ」
咳き込んで慌てるナスタリア神父に、してやったりとナザエル枢機卿が笑いを堪えていた。
「今回の結果報告が王宮に上がる前にローザリア様の身辺警護を増やさなくてはなりません」
「だなぁ、クソ公爵やバカ王太子が何をしでかすかわからん。それなのに下手に人を増やしたらそいつらの監視もしなきゃならなくなる」
領主・町長・村長は今回の派遣で結果報告するよう義務付けられている為、雨を降らせたことは王宮に報告が上がる。
「爺さんと話したが山の池の話もそこで何を見たかも秘密にしてもらった。こっちは石碑の話を公にしたくねえし、爺さんは池のことを知られたくないんでちょうど良かった」
「彼等にも言ってありますか?」
ナスタリア神父が言った彼等とは山に護衛についてきた者達。ニールは石碑の存在は知っているが見たことはない。その他の護衛は見たことも聞いたこともなかった。
「ああ、話がほんの少しでも漏れたらタマを潰してやると言っておいたから大丈夫だろう」
「ナザエル枢機卿なら瞬殺するかと思いました」
「この旅が終わった後ならその方が楽かもな」
チビチビと果実水を飲んでいたローザリアは見当外れなことを考えてひとり青褪めていた。
(ナザエル枢機卿は精霊殺し?)
「ローザリア様、違いますから。ナザエル枢機卿が外道でも精霊の光のタマは潰しません」
ナスタリア神父はローザリアの頭の中が見えはじめたらしい。
食事が終わって部屋に戻ろうとしたローザリアは宿の外に置いてあるベンチに木樵の爺さんが座っているのに気がついた。
「こんばんは」
「ああ、こんばんは。儂の名前はドルフ。アンタさんのお陰でいい雨が降っとる」
「ドルフさんのお陰です。山の事教えてもらったからできたんです」
「儂は昔ヤンチャでなぁ、言いつけを破っては池に遊びに行っとった。泳いだり昼寝したり仕事をサボるにゃちょうどええ場所じゃとしか思うとらんかった」
「空気も澄んでて綺麗な池でした」
「⋯⋯暑い日じゃったからあの日も池で水浴びをしようと山を登って。池の近くで毒蛇に噛まれたんじゃ。あんときゃもう終わった思うたのう」
毒がまわり身体が痺れはじめた。
「儂はここに泳ぎに来たんじゃ、毒で死ぬんじゃのうて溺れしんじゃる! 毒蛇の奴に勝たせるのは業腹じゃ言うて池に飛び込んだのよ」
にかっと笑いながら持っていた巻きタバコを口にした。
「次に気がついた時にゃ池の縁に寝転んどった。あれから二度と池では泳いどらん」
ドルフが彼の祖父から聞いた話では、山にはむかし立派な祠があると言い伝えられていたと言う。神聖な祠には近づいてはいけないと言われており、祈りを捧げる時は山裾から行う決まりになっていた。
大きな地震が起きて山が崩れた時も、人は言い伝えを守り誰も山には登らなかった。
「何年か前に旅の奴が調子に乗って山に登ったがあん時も大地震が起きて大騒ぎになった。じゃから、町の奴らは誰も山には登らん」
「人数的に難しくねえか?」
「その通りなんです。隊を分けるのも教会からこれ以上人を呼ぶのも厳しそうです。でも、なんとか出来れば早期解決にかなり有効だと思いますし」
教会から精霊師を呼ぶにしても二心のない者を選ばなくてはならない。妨害工作でもされれば逆に無駄な時間が増えるだけになる。
食事が運ばれてくるのを横目に見ながらナスタリアは書類を片付けた。
大勢で押しかけて料理が届くのをただ座って待っているのが申し訳なくてローザリアはソワソワしていた。
「ローザリア様、駄目ですよ」
「でも」
「ローザリア様が動けば周りが気を遣います。どうしても気になるならあそこに座っているジャスパーに『座ってないで働け』と声をかけて下さい」
「こんな大人数の食事の準備や配膳は大変ですし、私なら色々手伝えますし」
「この町は財源不足ですから稼ぎ時なんです。手の空いている人が集まっているようですから仕事を取ってはいけません。宿代も食事代も払うので町の臨時収入になります」
旅行客も行商人も減り閑古鳥が鳴いていた宿や酒場にとっては一晩限りの客でもありがたい。
「そうか、気がつきませんでした」
偉くなったねと言うように自然にローザリアの頭を撫でたナスタリア神父の変化を見てナザエル枢機卿が目を丸くした。
「何があった?」
「遠慮しても揶揄われるだけだと知ったので」
開き直ったナスタリア神父がエールをゴクゴクと飲み干した。
「照れてたくせに?」
ゴフッ! ゲホッゲホッ!!
「なっ、なにを⋯⋯ゲホッ」
咳き込んで慌てるナスタリア神父に、してやったりとナザエル枢機卿が笑いを堪えていた。
「今回の結果報告が王宮に上がる前にローザリア様の身辺警護を増やさなくてはなりません」
「だなぁ、クソ公爵やバカ王太子が何をしでかすかわからん。それなのに下手に人を増やしたらそいつらの監視もしなきゃならなくなる」
領主・町長・村長は今回の派遣で結果報告するよう義務付けられている為、雨を降らせたことは王宮に報告が上がる。
「爺さんと話したが山の池の話もそこで何を見たかも秘密にしてもらった。こっちは石碑の話を公にしたくねえし、爺さんは池のことを知られたくないんでちょうど良かった」
「彼等にも言ってありますか?」
ナスタリア神父が言った彼等とは山に護衛についてきた者達。ニールは石碑の存在は知っているが見たことはない。その他の護衛は見たことも聞いたこともなかった。
「ああ、話がほんの少しでも漏れたらタマを潰してやると言っておいたから大丈夫だろう」
「ナザエル枢機卿なら瞬殺するかと思いました」
「この旅が終わった後ならその方が楽かもな」
チビチビと果実水を飲んでいたローザリアは見当外れなことを考えてひとり青褪めていた。
(ナザエル枢機卿は精霊殺し?)
「ローザリア様、違いますから。ナザエル枢機卿が外道でも精霊の光のタマは潰しません」
ナスタリア神父はローザリアの頭の中が見えはじめたらしい。
食事が終わって部屋に戻ろうとしたローザリアは宿の外に置いてあるベンチに木樵の爺さんが座っているのに気がついた。
「こんばんは」
「ああ、こんばんは。儂の名前はドルフ。アンタさんのお陰でいい雨が降っとる」
「ドルフさんのお陰です。山の事教えてもらったからできたんです」
「儂は昔ヤンチャでなぁ、言いつけを破っては池に遊びに行っとった。泳いだり昼寝したり仕事をサボるにゃちょうどええ場所じゃとしか思うとらんかった」
「空気も澄んでて綺麗な池でした」
「⋯⋯暑い日じゃったからあの日も池で水浴びをしようと山を登って。池の近くで毒蛇に噛まれたんじゃ。あんときゃもう終わった思うたのう」
毒がまわり身体が痺れはじめた。
「儂はここに泳ぎに来たんじゃ、毒で死ぬんじゃのうて溺れしんじゃる! 毒蛇の奴に勝たせるのは業腹じゃ言うて池に飛び込んだのよ」
にかっと笑いながら持っていた巻きタバコを口にした。
「次に気がついた時にゃ池の縁に寝転んどった。あれから二度と池では泳いどらん」
ドルフが彼の祖父から聞いた話では、山にはむかし立派な祠があると言い伝えられていたと言う。神聖な祠には近づいてはいけないと言われており、祈りを捧げる時は山裾から行う決まりになっていた。
大きな地震が起きて山が崩れた時も、人は言い伝えを守り誰も山には登らなかった。
「何年か前に旅の奴が調子に乗って山に登ったがあん時も大地震が起きて大騒ぎになった。じゃから、町の奴らは誰も山には登らん」
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