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一回目 (過去)
97.魔法契約
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「そうか、まぁそうなるよな」
話を聞いたナザエル枢機卿の感想は実にあっさりとしていた。
「薬草の準備は進んでる。グレイソンの決定次第じゃ今日中に出発する」
「は!」
グレイソンが登山メンバーの変更を希望してきたら井戸の水に強い回復効果をつけて町を後にすればいい。
長居すれば揉め事が大きくなるばかり。ここに滞在している間中『水源地を回復させろ、メンバーを増やせ』とずっと言い続けるのが目に見えている。
(水を出して終わりにできるなら誰でも好きな奴を好きなだけ連れてくさ。だが、それじゃ終わらん気がする)
ナザエル枢機卿はムズムズする鼻の下をこしごしと擦って空を見上げた。
「準備ができた」
グレイソンが荷物を抱えた青年達を従えてやって来た。
「で、メンバー決めは終わったのか?」
「ああ、ワシひとり参加だ。アイツらは納得させたがそれなりの理由があるんだろうな」
「ああ、町の復興を祈る熱心な若者達が邪魔だと思う程度の理由がな」
「くそ! おやじ、やっぱりコイツらを⋯⋯」
「煩え! ワシの決定に従うんじゃなかったんか!!」
ぐっと言葉に詰まり冷ややかな態度で腕を組むナザエル枢機卿を睨んだ青年が怒鳴った。
「おやじに何かあったらお前らみんな生きてこの町を出られなくしてやる。覚えとけ!」
「ほう、ならお前らの大切なおやじが無事で水不足も解消したらどうする?
俺はこう見えても聖職者でなあ、命はいらんぞ」
ナザエル枢機卿の挑発を聞いて黙り込んだ青年達に『踏んだ場数が違いすぎる』とグレイソンは苦笑いを浮かべた。
「お前らの負けだな。さっさと荷物を置いて帰れ、見送りはいらん」
山裾までは馬車と騎馬で移動した。馬車から荷物を全て下ろし馬車と馬が帰って行くのを確認したナスタリア神父がグレイソンに向き直った。
「ここで魔法契約をお願いします」
「何だそれは」
「これから先水源地から帰ってくるまでに見聞きした事のうち、ナザエル枢機卿か私の許可のない事柄については一切他言無用にして頂きます。魔法契約をした場合、違反者には強いペナルティが課せられます。
最悪命を落とすことにもなりかねませんし、生涯契約に縛られます」
「それをしなかったらどうなる?」
「水源地に行かない。ただそれだけです」
グレイソンは首を捻った。そこまでして隠したい教会の秘密とは何だろう。
「⋯⋯わかった。背に腹は変えられん」
「では⋯⋯」
ナスタリア神父が手に持つ魔道具から魔法陣が現れた。グレイソンとナザエル枢機卿・ナスタリア神父が魔法陣の中で光に包まれ、3人の腕に契約の証が記された。
「すげえ、こんなん初めてみたぜ」
「ローザリア、頼んだぜ」
「はい。グレイソンさん、ここにある荷物ですぐに必要になるものはありますか?」
「いや、俺は大丈夫だ」
では⋯⋯と言いながらローザリアが荷物をアイテムボックスに入れていく。
「は? 荷物が⋯⋯アンタ、いったい」
「コイツが秘密の一つだ。現存する精霊師の中で異空間収納ができる奴は他にはいねえ」
「過去にもいません。ローザリア様がお使いになるのを見るまで空想の産物だと思われていましたから」
「⋯⋯教会ってのはすげえな。まさかこんな秘密があったなんてよお」
「これは教会も知りません。知っているのはここにいるメンバーだけだと思って下さい」
さっさと先に進もうと言って歩き出したナザエル枢機卿を慌てて追いかけたグレイソンが先頭に立った。
「教会が、教会に秘密にしとるだと?」
町の青年を連れてこなかったわけがようやくわかったつもりのグレイソンだった。
(そりゃ、メンバー増やせんわな)
草木の枯れた道は見晴らしだけはいいが乾いた空気は埃っぽく、踏み締めるたびに小石や土が転がる足元は用心していても滑って転びそうになる。
グレイソン・ナスタリア神父・ローザリア・ナザエル枢機卿・ジャスパー・ニールの順に並んで進んで行く。グレイソンは一番体力のないローザリアを振り返りながら登るスピードを調節している。
(こんな速さじゃ何日かかるか)
昼過ぎまで山道を登り食事と休憩のあとはまた延々坂道を登って行った。パンパンに張り詰めた足を引き摺っているのはローザリアひとり。目の前のナスタリア神父の足元を見ながら無心で登って行くが、躓くことが増えどうしてもスピードが落ちてしまう。
(もっと頑張らなくちゃ)
話を聞いたナザエル枢機卿の感想は実にあっさりとしていた。
「薬草の準備は進んでる。グレイソンの決定次第じゃ今日中に出発する」
「は!」
グレイソンが登山メンバーの変更を希望してきたら井戸の水に強い回復効果をつけて町を後にすればいい。
長居すれば揉め事が大きくなるばかり。ここに滞在している間中『水源地を回復させろ、メンバーを増やせ』とずっと言い続けるのが目に見えている。
(水を出して終わりにできるなら誰でも好きな奴を好きなだけ連れてくさ。だが、それじゃ終わらん気がする)
ナザエル枢機卿はムズムズする鼻の下をこしごしと擦って空を見上げた。
「準備ができた」
グレイソンが荷物を抱えた青年達を従えてやって来た。
「で、メンバー決めは終わったのか?」
「ああ、ワシひとり参加だ。アイツらは納得させたがそれなりの理由があるんだろうな」
「ああ、町の復興を祈る熱心な若者達が邪魔だと思う程度の理由がな」
「くそ! おやじ、やっぱりコイツらを⋯⋯」
「煩え! ワシの決定に従うんじゃなかったんか!!」
ぐっと言葉に詰まり冷ややかな態度で腕を組むナザエル枢機卿を睨んだ青年が怒鳴った。
「おやじに何かあったらお前らみんな生きてこの町を出られなくしてやる。覚えとけ!」
「ほう、ならお前らの大切なおやじが無事で水不足も解消したらどうする?
俺はこう見えても聖職者でなあ、命はいらんぞ」
ナザエル枢機卿の挑発を聞いて黙り込んだ青年達に『踏んだ場数が違いすぎる』とグレイソンは苦笑いを浮かべた。
「お前らの負けだな。さっさと荷物を置いて帰れ、見送りはいらん」
山裾までは馬車と騎馬で移動した。馬車から荷物を全て下ろし馬車と馬が帰って行くのを確認したナスタリア神父がグレイソンに向き直った。
「ここで魔法契約をお願いします」
「何だそれは」
「これから先水源地から帰ってくるまでに見聞きした事のうち、ナザエル枢機卿か私の許可のない事柄については一切他言無用にして頂きます。魔法契約をした場合、違反者には強いペナルティが課せられます。
最悪命を落とすことにもなりかねませんし、生涯契約に縛られます」
「それをしなかったらどうなる?」
「水源地に行かない。ただそれだけです」
グレイソンは首を捻った。そこまでして隠したい教会の秘密とは何だろう。
「⋯⋯わかった。背に腹は変えられん」
「では⋯⋯」
ナスタリア神父が手に持つ魔道具から魔法陣が現れた。グレイソンとナザエル枢機卿・ナスタリア神父が魔法陣の中で光に包まれ、3人の腕に契約の証が記された。
「すげえ、こんなん初めてみたぜ」
「ローザリア、頼んだぜ」
「はい。グレイソンさん、ここにある荷物ですぐに必要になるものはありますか?」
「いや、俺は大丈夫だ」
では⋯⋯と言いながらローザリアが荷物をアイテムボックスに入れていく。
「は? 荷物が⋯⋯アンタ、いったい」
「コイツが秘密の一つだ。現存する精霊師の中で異空間収納ができる奴は他にはいねえ」
「過去にもいません。ローザリア様がお使いになるのを見るまで空想の産物だと思われていましたから」
「⋯⋯教会ってのはすげえな。まさかこんな秘密があったなんてよお」
「これは教会も知りません。知っているのはここにいるメンバーだけだと思って下さい」
さっさと先に進もうと言って歩き出したナザエル枢機卿を慌てて追いかけたグレイソンが先頭に立った。
「教会が、教会に秘密にしとるだと?」
町の青年を連れてこなかったわけがようやくわかったつもりのグレイソンだった。
(そりゃ、メンバー増やせんわな)
草木の枯れた道は見晴らしだけはいいが乾いた空気は埃っぽく、踏み締めるたびに小石や土が転がる足元は用心していても滑って転びそうになる。
グレイソン・ナスタリア神父・ローザリア・ナザエル枢機卿・ジャスパー・ニールの順に並んで進んで行く。グレイソンは一番体力のないローザリアを振り返りながら登るスピードを調節している。
(こんな速さじゃ何日かかるか)
昼過ぎまで山道を登り食事と休憩のあとはまた延々坂道を登って行った。パンパンに張り詰めた足を引き摺っているのはローザリアひとり。目の前のナスタリア神父の足元を見ながら無心で登って行くが、躓くことが増えどうしてもスピードが落ちてしまう。
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