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ハツキ剣を持つ・・・が挫折する

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 「奥の方に誰か倒れているぞ」


 バルザックが男に近寄った。


 「こいつは『殺死隊』の1人ビーストテイマーのブラオだ」

 「そしたら天井に突き刺さっている魔獣は、ブラオにテイムされているってことだな」

 「そうね。あの黒い魔獣は英雄ランクの黒狐王だと思うわ。まだ死んでいないようだから気をつけないとね」

 「私が倒すよん」


 ショコラは短剣に魔力を注ぎ大剣に変化させる。


 「カーちん、私を投げるよん」


 建物の高さは30mほどある。



 「わかったぜ」


 カーネリアンはショコラをヒョッいっと片手で担ぎ上げて、砲丸投げのように力強く黒狐王に目掛けて投げつける。ショコラは大剣を両手でガッチリと握りしめて、一直線に黒狐王の腹部に目掛けて飛んでいく。

 『グサリ』


 大剣は黒狐王の腹部に刺さり死んでしまった。ショコラは黒狐王を突き刺したまま、屋根から黒狐王を外して床に放り投げ、黒狐王の体をクッションにして一緒に床に落下した。

 
 『ドスン』


 「おやつ代ゲットよん!」

 「ショコラ!黒狐王の毛皮と魔石は共に英雄ランクよ。勝手にギルドに売り捌いたら次はお小遣いカットだけじゃ済まされないわよ」

 「よんよんよん」


 ショコラは涙が今にも溢れ出しそうになっていた。


 「シェーネ、今はそんなことよりもブラオをどうすべきか考えるべきだ」

 「そうね。今は気を失っているようだけど目を覚ますと面倒かもね」

 「しかし、ブラオはなんで気を失っていたのだ」

 「簡単なことよ。黒狐王は英雄ランクの魔獣、ブラオではテイムするのは不可能なはずよ。どのような条件で黒狐王をテイムしていたかわからないけど、おやつの匂いに暴走した黒狐王に魔力を多量に奪われて、魔力の枯渇で気を失ったと考えられるわ」

 「そうだったのか。それなら丸一日は目を覚ます心配はなさそうだな」

 「いえ、万が一にも目を覚ます可能性は捨てきれないから、しっかりと拘束しておかないと、いつどこからテイムした魔獣が襲ってくるかもしれないわ」

 「そうだな。しかし、こんな大物を捕まえることができるなんて、ラッキーだったな。王都に連行して、今度こそ、『赤朽葉の爪』のアジトを突き止めるぞ」


 『青天の霹靂』はブラオを拘束して王都へ戻ることにした。



 「やっと王都へ着いたわよ!」


 私はたくさん道に迷ったが無事に王都へ戻ることができてホットしていた。王都に着いた時には日も暮れていて、私は宿屋に泊まってゆっくりすることにした。


 次の日、プリンツも元気になっていたので、私はブランシュに会うためにお城へ向かった。


 「今日もブランシュ王女殿下に会いに来てくれたのですね」


 お城の門番に冒険者証を見せると、ノアールが私を迎えに来てくれた。


 「はい。今日はブランシュちゃんに大事なお話ができたので、来ちゃいました」


 「ハツキさんなら、いつでも大歓迎だとブランシュ王女殿下は申しておりますので問題はありません。今はブランシュ王女殿下は剣の稽古をしていますので、稽古場に案内します」


 剣を両手で握りしめ、光り輝く汗をかきながら、一心不乱で剣を素振りしているブランシュの姿が見えた。私は美しい剣裁きに心を奪われていた。


 「私も剣の練習をしてみようかな」

 「ブランシュ王女殿下、ハツキさんがお越しになっています」



 ブランシュは、剣を振るうのをやめて私の方を見た。



 「ハツキちゃん、今日も来てくれてとても嬉しいわ。でも、日課の素振り1000回がまだ終わっていないのよ。もう少し待ってくれるかしら」

 「急に押しかけてごめんね。私のことは気にしないで頑張ってね」

 

 ブランシュは素振りの続きを始めた。


 「ハツキさんも剣の稽古をしたいのでしょうか?」

 「はい。ブランシュちゃんの剣を振っている姿がカッコ良かったので、私もやってみたいと思いました」

 「剣は魔力剣といって、魔力を剣に流し込まないとただの棒と同じで、全く切ることができません。魔力を流し込むことによって剣に磨きがかかって切れ味が増すのです。そして、切れ味だけでなく大きさも変化することができます。しかし、魔力がなくても剣を振るうことはできますので、一度やってみますか?」

 「はい」


 私はノアールに剣を渡された。


 「こちらに銀できた的がありますので、剣で的を叩いてください」


 稽古場の片隅には、銀でできた兵士の模型が置かれていた。初心者はこの模型を剣で叩くことによって剣の楽しさを学ぶ。素振りだけではつまらないからである。

 私は剣を両手でしっかりと握りしめる。通常なら握りしめた手から魔力を放出して、剣の形状を変えたり切れ味を調整する。私はゆっくりと剣を頭上に振り上げる。そして、剣の重みを利用して剣を一気に振り落とす。


 「あれ?外れちゃったかな」


 兵士の模型は一ミリも動くことなく剣にぶつかった音も出ない。


 「ハツキさん、剣の振りは良かったと思いますよ。でも力み過ぎて的に当たっていませんよ」


 ノワールは目を擦って自分の目を疑った。私の剣の振りが早くて何も見えなかったのである。しかし、私が振り落とした剣は地面スレスレで止まっているが、兵士の模型にはカスリもしなかったので、そのようなアドバイスをしたのである。


 「次こそはちゃんと当てるぞ!」


 私は間髪入れずに何度も何度も剣を振るが、兵士の模型には全く当たらずに空を切るのであった。


 「やっぱり私には剣は向いていないのかしら」

 「そのようですね」


 ノアールは、私が剣を持ったまま棒立ちしているように見えていた。しかし、それは私の動きが早過ぎて見えていなかったのである。


 「ハツキちゃん。練習は終わったわよ」


 素振りを終えたブランシュが私のところへやってきた。


 「剣って難しいですね」

 「ハツキちゃんも剣の練習をしていたのね」

 「はい。でも、全然的に当たらなくて」

 「魔力がないと剣も重いし制御も難しいからね。でもね、筋力をつければその辺りは補えるはずよ。ハツキちゃんは毎日筋トレはしてるかな?」

 「筋トレは苦手なの」


 私は腹筋を1回するのがやっとである。そのほかの筋トレも苦手で実技試験はかなりやばいのであった。


 「誰にも苦手なことはあるはずよ。でも、それを乗り越えることが大切なのよ」

 「そうですね。頑張ります」

 「さすがハツキちゃんね。何事も諦めない心を持っていて素敵だわ」

 「いえいえ、そんなことありませんよ」

 「ハツキちゃん、今日は何か私に用事があったのよね。私の部屋でゆっくりと聞かせてもらうわね」


 私はブランシュに連れられて部屋に向かった。私たちがいなくなった稽古場で何か崩れるような音がした。その音の正体は、綺麗に切り刻まれた兵士の模型であった。


 

 



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