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英雄ランク魔獣 黒狐王

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 「プリンツちゃんには大人の苦味はまだ早かったのね。どうしようかしら?このままプリンツちゃんを放っておけないわ。そうだわ!病院に連れて行けべいいのよ」


 私は回復魔法などは使えないので、地面に倒れこんだプリンツを助けるため、プリンツを背負って全速力で走って病院を探しに行った。


 「どこにも病院なんてないわ」


 地図もなく闇雲に走っていた私は、病院を見つけられずに人気のない森の奥まで進んでいた。


 「あ!あんなところに建物があるわ」


 私は森の中に大きな建物を発見した。建物の周りには小さな家が立ち並んでいた。


 「ここは小さな集落のようね。中心にある大きな建物は病院かしら」


 私は迷うことなく大きな建物に向かった。


 「あれ?扉が開かないわ。もしかして、時間外で閉まっているのかしら?」
 『えい!』


 私はプリンツのことが心配だったので、扉を蹴飛ばして強引に開けてしまった。


 「急患なのです!すぐに治療をしてください!」

 
 建物の中に入ると、そこは体育館のような何もない広い大きな空間だった。そして、建物の奥には5mほどの黒い狐の魔獣が、私の蹴った扉にぶつかって血を流して倒れ込んでいた。

 
 「嘘だろ・・・黒狐王が死んだのか?」


 黒狐王とは英雄ランクの魔獣であり、真っ黒の毛並みの狐の魔獣である。黒狐王は火炎魔法を得意とし、黒狐王の発する『黒炎火』は火炎竜王の『燃え盛る炎』と匹敵する威力を持っている。また、黒狐王の動きは素早く人間の目で黒狐王の動きを捉えるのは難しい。そんな強敵である黒狐王をテイムしているのが『殺死隊』の一人であるブラオであった。

 ブラオは魔獣をテイムできる魔法を得意とする数少ないビーストテイマーである。ビーストテイマーは、自分の魔力を魔獣に供給することで魔獣をテイムすることができる。しかし、自分より格上の魔獣をテイムするには膨大な魔力が必要になるために、禁じ手として『魔力奴隷』契約を行って、自分の一生分の魔力を渡すことによって、格上の魔獣と契約することができるが、魔力量が0になるのは死に等しいので、『魔力奴隷』契約をする者などいない。

 ブラオが自分よりも格上の黒狐王をテイムすることができたのは、特殊な契約方法を結んだからである。ブラオは自分の魔力でなく別の人物の魔力を黒狐王に差し出す契約を結ぶことによって、テイム契約を結んだのである。ブラオは、週に1度人間を2名黒狐王に差し出す約束を交わしていた。もちろんのこの約束を破ればブラオは契約違反となり死を持って弁済をしないといけないのであった。


 「グルルルル!グルルルル!」


 黒狐王は死んではいなかった。赤く染まった体をゆっくりと起き上がらせて私の方を睨んでいる。


 「ごめんさない。狐ちゃんが居てるなんて知らなかったのよ」


 私が頭を下げると同時に黒狐王は私に向かって飛びかかってきた。黒狐王は私が頭を下げたので目標物を失って私の頭の上を通過した。しかし、私の頭を通過した瞬間に私が頭を上げたので、私のヘッドバットを喰らって黒狐王は建物の天井に突き刺さった。


 「あれ?狐ちゃんどこへ行ったのかしら」


 私はさっきまで目の前にいたはずの狐がいなくなったので困惑していた。


 「幻で見てたのかな?そうだ!それよりもここは病院じゃなかったのかしら?」


 私は周りを見渡すと、建物の隅の方に一人の男性がいることに気がついた。


 「すいません!ここは病院じゃないのかしら?」

 「うわわあああ、うああああ」


 ブラオは私にビビってしまって、まとも喋ることができない。


 「プリンツちゃんの調子がおかしいの。回復魔法をかけて欲しいのよ」


 私は背負っていたプリンツを下ろしてブラオの目の前に置いた。


 「グギャーーー」


 ブラオは恐ろしさのあまりに気を失ってしまった。私は大事なことを忘れていたのである。プリンツは黒の怪物と恐れられるヴォルフ族である。ブラオはヴォルフ族すら倒した冒険者だと勘違いして、恐ろしくなって気を失ったのである。


 「あ!そうだったわ。プリンツちゃんを等身大のまま見せたのは失敗だったわね」


 私もブラオが失神した理由に気が付いた。


 「ハツキ・・・お姉ちゃん。僕はもう大丈夫だよ」


 プリンツはブラオの悲鳴によって目を覚ましたのである。


 「本当に大丈夫なの?」

 「まだ自力では動けないけど心配ないよ」

 「プリンツちゃん、私のポケットに入ってゆっくりと休んでね」


 プリンツは小型サイズになり私のポケットに入って眠りについた。


 「さて、帰り道はわからないけど適当に帰りましょ」


 私は建物を出て森の中を駆けていく。
 

 私が建物を去ってから数分後。


 「シェーネ。建物と扉が壊れているぞ」

 「本当だわ。私たちがおやつを食べている間に何が起こったのかしら」

 「おやつの香りに釣られて扉をこじ開けたよん」

 「俺もショコラの意見に賛成だ。建物天井を見ればみんなも納得がいくはずだ」

 「建物天井から魔獣の頭らしきものが見えるわよ」

 「ショコラのおやつが欲しくて天井から出ようとして失敗したのだろう」

 「でも、それなら扉が破壊されていることが説明がつかないわ」

 「シェーネ、あの魔獣の頭から推測される大きさはどれくらいだ」

 「そうね。あの頭の大きさからだと4、5mといったところね」

 「そうだな。そしたら、あの建物扉の大きさはどれくらいだ」

 「2m50cmほどかしら・・・あ!そういことなのね」

 「そうだ、あの魔獣は、扉を破壊して出ようとしたが出ることができきなかった。だから、天窓を突き破って外に出ようとしたが、失敗したと判断するの正解だろう」

 「さすがカーネリアンね。あなたの観察眼には恐れ入ったわ」

 「どうする。このまま建物の中に潜入するか」

 「そうね。魔獣が戦闘不能になった今がチャンスだと思うわ」


 『青天の霹靂』は建物の中に入ることにした。
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