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第5話 婚約破棄を繰り返す男-5-

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そして再びラウル様のお宅を訪れた。

「ミアさん、言われた通り、スタンリーに上司の婚約者がクロードの風景画をとても気に入ったので結婚祝いに差し上げることにしたと伝えましたよ」
「どうでしたか?」
「いつごろあげるのかしつこく聞かれました。売って欲しいとも言われましたが、もう約束をしたからと断りました」
「ありがとうございます。うまく餌に喰いついてくれるといいですけど」

あとはその時が来るのを待つだけだ。


その日、ラウル様のご両親とカーラ嬢には旅行に出かけていただいた。
使用人も最低限しかいない。
そして夜も更けたころ、静かで薄暗いサロンに人影が現れた。
用心深い足取りで、しかし迷うことなく『寒村メルローの情景』へと歩いてゆく。
絵を壁から外そうと額縁に手をかけた。

「何をなさっているんですか?」

突然声をかけられ、人影は驚いて慌てて絵から手を離す。

「家に入り込むための婚約だったんですね、マイケル・スタンリー様。いえ、ウイリアムズ様とお呼びしたほうがいいでしょうか」

スタンリー氏はがっくりと肩を落とし、立ちすくんでいた。
詰め寄ろうとするラウル様をアイザック様が止める。

「マイケル・スタンリー、勝手の他人の家に忍び込んで、絵画を持ち出そうとしたことについて、説明して欲しい」

スタンリー氏は観念したのか、質問されたことにぽつぽつ答えた。

予想通り、『寒村メルローの情景』はスタンリーの父親のコレクションで、なかでも一番大事にしていた絵画だった。
強盗に両親を殺されたマイケルは、母方の親族であるスタンリー家に引き取られ養子になった。
大人になり、せめてあの絵だけでも取り戻したいと思い、始めは地道に売られたルートを手繰ろうとした。
しかし、悪名高い画商と取引していることなど簡単には認めてくれないし、違法な手段で手に入れたものだと客も絵画を持っていることを隠そうとする。
それでもあきらめず、地道にサーバル画商と懇意にしている顧客を探り出した。
息子なら友人になって家に招待してもらうのは簡単だったが、相手が令嬢だと難しい。
令嬢と恋愛関係になり、結婚を申し込みたいから両親に会わせて欲しいと言えば屋敷に出入りできるようになる。
その家に絵がないか探す。絵がないとわかったら婚約破棄する。そして次の令嬢に近づく。
これが繰り返される婚約破棄の真相だった。



後日、再びラウル様がハワード家を訪ねてきた。

「ラウル様。その後はどうなりました?」
「絵を盗もうとしたり、カーラに嘘をついたりしたことは許せませんが、亡き父親の形見ですからね。事情が事情ですので、絵画はスタンリー氏に差し上げようということになりました」

寛大な処置だ。

「婚約は破棄することになりました。妹は諦めずに追いかけるそうですが、どうなることやら」

ラウル様はお手上げのポーズを作った。

利用され、婚約破棄で傷ついた令嬢たちの心を思うといたたまれないが、今はカーラ嬢の健闘を祈りたい。
きっと大丈夫。
恋する乙女は強くてたくましいのだ。
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