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第16話 過去を捨てた老人-6- 【最終話】
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再び診療所を訪れた。
「まだ御用ですか?知っていることはすべてお話ししましたよ」
町医者は露骨に不快な表情をして見せた。
「いえ、もう一つだけ教えていただきたいことがあるのです。簡単な質問です。15794という数字に心あたりは?」
明らかな動揺が走った。
「いや、知らない!」
「もしドクターがご存じないのなら、マリーという女性に聞かなければなりません」
「そ、それだけはやめてくれ!!お願いします、お願い……します」
「ダニエル・スミスは、あなたの父親なのですね」
「親などと思ったことはないですがね。あんな獣の、人面獣心な男の血を引いているとわかったときの絶望がわかるのか!!」
怒りをにじませながら壁を殴りつける。
「あなた方はもう何もかも知っているのですね」
「だいたいの事情は掴んでいるつもりです。でも出来たらあなたから聞かせて欲しいのです」
ドクターは淡々と語り始めた。
「私は自分が養子だということは幼いころから知っていました。18歳の時、産みの母親が生きていることを知り、養父母に内緒で会いにいったのです。母は私を一目見るなり泣き叫びガタガタ震え出しました。
そして、その夜、自殺を図りました。幸い、発見が早く助かりましたが、言葉が喋れなくなってしまいました。
そこで初めて自分の出自を知ったのです。手配書の似顔絵をみて愕然としました。母親を暴行した男と自分がそっくりだったからです。
もう2度と産みの母親を傷つけることがないように、私はトルーパー地方を離れました」
ドクターはデスクの引き出しからチェーンのついたちいさな金属の板を取り出した。
認識票は鉄製で、識別番号や名前、所属部隊などが彫られている。
「母が最後に暴行されたときに、あいつはこれを落としていったそうです。いつか恨みを晴らそうとずっと持っていたそうです。だから、せめて息子として母の望みを叶えたかった」
ドクターは長い溜息をついた。
「診察したときに焼き印と識別番号をみて復讐を決意しました。あの男も、かつての自分と同じ顔をした私を見て察したようです。私が短剣を振りかざした時もまるで抵抗しませんでした」
しばし黙った後、ふっきれたような晴れやかな笑顔を見せた。
「復讐のためとはいえ、医者が人命を奪ってしまったことを後悔していました。あなた方が来てくれて決心がつきました。これから自首します」
帰宅してからも、アイザック様は遠い目をして、何かを考えこんでいるようだった。
今回の事件は戦場を知る騎士として、思うところのあったのだろうか。
第8旅団も発足当時はどこの隊よりも勇敢で清廉潔白だったという。
何が原因で悪逆無道な行いに至ったのかは裁判記録を熟読してもわからなかった。
ソファに座ったまま動かないアイザック様の前に立ち、彼の頭を胸に抱き寄せる。
「ひとりになりたいかと思いますが、せめて私はいつでもあなたのそばにいることだけはお伝えしたくて」
「君には助けられてばかりだな」
「何を言っているんですか。あなたに必要とされることがどれだけ私を幸せにしているかご存じないのですか?」
「ミア……」
立ち上がり、私を肩に担ぎ上げた。
「えっ?ちょっ」
そしてそっとベッドの中央に降ろす。
アイザック様も向かい合って座る。
「今、君が欲しい。やはり、結婚式が終わるまでお預けか?」
そんな目で見つめられてNOと言えるわけがない。
彼の首に腕を回し強く抱きしめる。そして耳元でささやく。
「私もあなたが欲しいです」
そのままベッドにふたり倒れこむ。
覆いかぶさってくる身体の重みが気持ちいい。
「婚姻の誓いでは女神に怒られそうだな」
「ふふ。大丈夫、私は嘘の専門家ですよ。女神さまだって騙してみせます」
転生した私に「観察者」スキルを与えるような女神だ。人間の浅知恵などお見通しだろう。
でもね、彼を心から愛する気持ちに偽りはないから、許してくれるよね、女神様。
「まだ御用ですか?知っていることはすべてお話ししましたよ」
町医者は露骨に不快な表情をして見せた。
「いえ、もう一つだけ教えていただきたいことがあるのです。簡単な質問です。15794という数字に心あたりは?」
明らかな動揺が走った。
「いや、知らない!」
「もしドクターがご存じないのなら、マリーという女性に聞かなければなりません」
「そ、それだけはやめてくれ!!お願いします、お願い……します」
「ダニエル・スミスは、あなたの父親なのですね」
「親などと思ったことはないですがね。あんな獣の、人面獣心な男の血を引いているとわかったときの絶望がわかるのか!!」
怒りをにじませながら壁を殴りつける。
「あなた方はもう何もかも知っているのですね」
「だいたいの事情は掴んでいるつもりです。でも出来たらあなたから聞かせて欲しいのです」
ドクターは淡々と語り始めた。
「私は自分が養子だということは幼いころから知っていました。18歳の時、産みの母親が生きていることを知り、養父母に内緒で会いにいったのです。母は私を一目見るなり泣き叫びガタガタ震え出しました。
そして、その夜、自殺を図りました。幸い、発見が早く助かりましたが、言葉が喋れなくなってしまいました。
そこで初めて自分の出自を知ったのです。手配書の似顔絵をみて愕然としました。母親を暴行した男と自分がそっくりだったからです。
もう2度と産みの母親を傷つけることがないように、私はトルーパー地方を離れました」
ドクターはデスクの引き出しからチェーンのついたちいさな金属の板を取り出した。
認識票は鉄製で、識別番号や名前、所属部隊などが彫られている。
「母が最後に暴行されたときに、あいつはこれを落としていったそうです。いつか恨みを晴らそうとずっと持っていたそうです。だから、せめて息子として母の望みを叶えたかった」
ドクターは長い溜息をついた。
「診察したときに焼き印と識別番号をみて復讐を決意しました。あの男も、かつての自分と同じ顔をした私を見て察したようです。私が短剣を振りかざした時もまるで抵抗しませんでした」
しばし黙った後、ふっきれたような晴れやかな笑顔を見せた。
「復讐のためとはいえ、医者が人命を奪ってしまったことを後悔していました。あなた方が来てくれて決心がつきました。これから自首します」
帰宅してからも、アイザック様は遠い目をして、何かを考えこんでいるようだった。
今回の事件は戦場を知る騎士として、思うところのあったのだろうか。
第8旅団も発足当時はどこの隊よりも勇敢で清廉潔白だったという。
何が原因で悪逆無道な行いに至ったのかは裁判記録を熟読してもわからなかった。
ソファに座ったまま動かないアイザック様の前に立ち、彼の頭を胸に抱き寄せる。
「ひとりになりたいかと思いますが、せめて私はいつでもあなたのそばにいることだけはお伝えしたくて」
「君には助けられてばかりだな」
「何を言っているんですか。あなたに必要とされることがどれだけ私を幸せにしているかご存じないのですか?」
「ミア……」
立ち上がり、私を肩に担ぎ上げた。
「えっ?ちょっ」
そしてそっとベッドの中央に降ろす。
アイザック様も向かい合って座る。
「今、君が欲しい。やはり、結婚式が終わるまでお預けか?」
そんな目で見つめられてNOと言えるわけがない。
彼の首に腕を回し強く抱きしめる。そして耳元でささやく。
「私もあなたが欲しいです」
そのままベッドにふたり倒れこむ。
覆いかぶさってくる身体の重みが気持ちいい。
「婚姻の誓いでは女神に怒られそうだな」
「ふふ。大丈夫、私は嘘の専門家ですよ。女神さまだって騙してみせます」
転生した私に「観察者」スキルを与えるような女神だ。人間の浅知恵などお見通しだろう。
でもね、彼を心から愛する気持ちに偽りはないから、許してくれるよね、女神様。
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