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第26話 かりそめの夫婦の終わり【最終話】
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「エリーゼ」
カルヴィンは妻を呼び寄せる。
このままノアを行かせてしまっていいのかと訊きたかったが、今のエリーゼの穏やかで澄み切った瞳を見たら、それは愚問だとすぐに気が付いた。
「ありがとうございました。旦那さまがしてくださったことにどうお返ししたらいいのかわかりません」
「それなら、僕からもお願いをしてもいいかな」
「ええ。わたしに出来ることことがあるならなんでも」
「契約結婚をやめたいんだ。家族のように仲良く暮らすのではなく、本当の夫婦になりたい」
「旦那さま…」
「その、旦那さまもやめて、名前で呼んで欲しい」
カルヴィンはエリーゼの手を取りキスを落とす。
「エリーゼ・リサーナ・ボークラーク、生涯をかけて君を守り大切にすると誓う。だからどうか、僕の望みを叶えてくれないか?」
エリーゼの菫色の瞳から大粒のしずくが零れ落ちる。しかし、今日の涙はきれいな喜びの輝きだった。
「はい、わたしも命ある限り、カルヴィン、あなたを愛し続けると誓います」
――――五年後
執務室の前の廊下がバタバタと騒がしくなった。
「パパ!」
勢いよく扉が開くと、二人の子供が子犬のように転がり込んできた。
「ロイ様、リリィ様、いけません!」
追いかけてきたベビーシッターの手をすり抜けてきたらしい。二歳を過ぎてからすっかり走るのも早くなった。
「旦那様、申し訳ございません」
「そろそろ休憩しようかと思っていたところだ。かまわないよ」
カルヴィンは仕事の手を止める。
先ほどまで庭で遊んでいたのか、子供たちの髪や服には落ち葉や芝生がたくさんついていた。汚れるのも気にせず、カルヴィンは我が子らを抱き上げる。
すっかり重たくなった。ふたり同時に抱っこできるのもそろそろ限界かもしれない。子供の成長とは嬉しいものだが、たまに寂しい気持ちになることもある。
三年前、奇跡的にエリーゼは妊娠し、男女の双子を授かることができた。
カルヴィンと同じ、茶色の髪と瞳。鼻筋の通った顔立ちはどちらかというとエリーゼ譲りのようだ。自分に似た子供というものがこんなに可愛いものだとは思わなかったが、エリーゼに似ているところを見つけるともっと愛おしく感じられる。
「ママがね、おやつだって」
「パパもいっしょにたべるの!」
秘書たちには適当に休むように伝え、暴れる双子を担ぎ上げるようにしてダイニングへ向かった。
テーブルに並んだ焼き菓子に歓喜の声を上げる子供たちをシッターと侍女に預け、席に着かせる。
「まあ、カルヴィン、まるであなたがお庭で遊んできたみたいよ」
エリーゼはクスクス笑いながら、子供たちから移った芝を払ってくれた。カルヴィンは屈みこんで妻の頬にキスを落とす。
「ありがとう」
家族を信じられなくなった自分が、家族に囲まれて幸せを感じる日が来るとは不思議なものだと思う。
おやつを待ちきれず、子供たちが騒ぎ出す。
「では食べようか」
大きな手で双子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
カルヴィンは妻を呼び寄せる。
このままノアを行かせてしまっていいのかと訊きたかったが、今のエリーゼの穏やかで澄み切った瞳を見たら、それは愚問だとすぐに気が付いた。
「ありがとうございました。旦那さまがしてくださったことにどうお返ししたらいいのかわかりません」
「それなら、僕からもお願いをしてもいいかな」
「ええ。わたしに出来ることことがあるならなんでも」
「契約結婚をやめたいんだ。家族のように仲良く暮らすのではなく、本当の夫婦になりたい」
「旦那さま…」
「その、旦那さまもやめて、名前で呼んで欲しい」
カルヴィンはエリーゼの手を取りキスを落とす。
「エリーゼ・リサーナ・ボークラーク、生涯をかけて君を守り大切にすると誓う。だからどうか、僕の望みを叶えてくれないか?」
エリーゼの菫色の瞳から大粒のしずくが零れ落ちる。しかし、今日の涙はきれいな喜びの輝きだった。
「はい、わたしも命ある限り、カルヴィン、あなたを愛し続けると誓います」
――――五年後
執務室の前の廊下がバタバタと騒がしくなった。
「パパ!」
勢いよく扉が開くと、二人の子供が子犬のように転がり込んできた。
「ロイ様、リリィ様、いけません!」
追いかけてきたベビーシッターの手をすり抜けてきたらしい。二歳を過ぎてからすっかり走るのも早くなった。
「旦那様、申し訳ございません」
「そろそろ休憩しようかと思っていたところだ。かまわないよ」
カルヴィンは仕事の手を止める。
先ほどまで庭で遊んでいたのか、子供たちの髪や服には落ち葉や芝生がたくさんついていた。汚れるのも気にせず、カルヴィンは我が子らを抱き上げる。
すっかり重たくなった。ふたり同時に抱っこできるのもそろそろ限界かもしれない。子供の成長とは嬉しいものだが、たまに寂しい気持ちになることもある。
三年前、奇跡的にエリーゼは妊娠し、男女の双子を授かることができた。
カルヴィンと同じ、茶色の髪と瞳。鼻筋の通った顔立ちはどちらかというとエリーゼ譲りのようだ。自分に似た子供というものがこんなに可愛いものだとは思わなかったが、エリーゼに似ているところを見つけるともっと愛おしく感じられる。
「ママがね、おやつだって」
「パパもいっしょにたべるの!」
秘書たちには適当に休むように伝え、暴れる双子を担ぎ上げるようにしてダイニングへ向かった。
テーブルに並んだ焼き菓子に歓喜の声を上げる子供たちをシッターと侍女に預け、席に着かせる。
「まあ、カルヴィン、まるであなたがお庭で遊んできたみたいよ」
エリーゼはクスクス笑いながら、子供たちから移った芝を払ってくれた。カルヴィンは屈みこんで妻の頬にキスを落とす。
「ありがとう」
家族を信じられなくなった自分が、家族に囲まれて幸せを感じる日が来るとは不思議なものだと思う。
おやつを待ちきれず、子供たちが騒ぎ出す。
「では食べようか」
大きな手で双子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
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