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第12話 エリオット殿下の依頼

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「ケーシー、あれを」

打ち合わせのデーブルで、側近が鞄から取り出したのは、特大サイズのエメラルドの原石だった。
大きさもさることながら色も美しい。

「これは……」

マシューは息を飲んでいた。

「カットしてみないとわからないが、おそらくゴタ・デ・アセイテですね」

エメラルドの最高級ランクの中でも、さらに希少価値があると言われるものだ。
海外視察に出かけたときに買い付けたものだという。

「実はもうすぐ国王夫妻の結婚記念日なのです。それで、このエメラルドを加工して、兄のライアスと僕で記念品を贈ろうとなったのです」

国王ではなく、兄弟の父上、母上として祝いたい。
国事行事にでるときの装身具ではなく、プライベートで身に着けられるようなものにしたい。
王宮にも出入りの宝石商はたくさんいるが、いまひとつ決め手に欠ける。

「そんな時、王都で大流行しているジュエリーのうわさを聞いたのです。とても不思議な加工をされていると聞き、どうしても直に見てみたくなりまして、オーナーにご無理申し上げた次第です」

エリオットは店を見回す。

「若い女性向けのカジュアルなアクセアリーが売れていると聞きましたが、高級品も素晴らしい商品ばかりだ。ぜひ、こちらでお願いしたいと思います」
「ありがとうございます。エメラルドは工房長が責任もってカットいたしますわ。デザインはブリエ・フルールを手掛けている、こちらのアビゲイルが担当させていただきます」
「よろしくお願いします」

緊張した面持ちで頭を下げる。

「あなたはアビーと呼ばれていますが、フルールが本名ではないのですか?」
「はい、フルールはデザインのためだけの名前です。本名はアビゲイル・ボーフォートと申します、殿下」
「では、僕もアビーと呼んでいいですか」
「は、はい」
「あなたの魔法のおかげでたくさんの女性たちが恋愛成就しているんでしょうね」
「いいえ。殿下。私の魔法は女の子たちの背中をちょっと押してあげているに過ぎません。ほんの少し自信が持てたらそれだけで女の子は変われます。恋を叶えているのは彼女たち自身なんです」

エリオットは嬉しそうに頷いている。

「なるほど、あなたがどんな方かわかった気がします」
「え?」
「次の打ち合わせでお会いできるのを楽しみにしていますね」



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