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第9話 天才兄妹の本気
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ふもとで1泊し、早朝から登ることになった。
飛空ボートは登山するにはパワーが足りないので、ここに置いていく。
水や食料はバッグに詰め替え、それぞれ背負った。
ゴロゴロとした石だらけの山道をひたすら歩き、時には反り返るような岩崖をいくつもよじ登る。
もっとも運動神経抜群のイーライとルッカには少しも苦ではないようだ。
もしコーラルに翼がなかったら、この二人についていくのは無理だったろう。
「えいっ!」
岩陰から飛び出してきたサラマンダーを古木の杖で殴りつける。
サラマンダーはずりずりと後退すると素早く逃げていった。
「その杖ってそういう使い方するものなの?」
ルッカがからかう。
「もう、言わないでよ」
今朝、もう一度風使いの杖を試したが、やはり満足な結果は得られなかった。
そもそも風の魔法はサラマンダーの鋼鉄のように堅い皮膚とは相性が悪い。
この先に何がおこるかわからない状況を踏まえると、効果の薄い魔法を無駄打ちするよりは、魔力を温存するほうが得策だと思われる。
そう言っている間に後方からまた一匹飛びかかってきた。
イーライが腹めがけて掌底を打ちこむと、サラマンダーは衝撃で気絶した。
ひっくり返ったサラマンダーのしっぽをつかみ、ぐるぐる勢いよく振り回すと、そのまま遠くへ放り投げる。
「しかし、手ごたえのないやつらだな」
イーライはなぜか不満げだ。
「窃盗団やトレジャーハンターがこんな雑魚に喰われるか?」
ルッカも同じ気持ちのようだ。
数が多くてうっとうしいけど、一匹一匹はたいしたことない。
海千山千のお宝ハンターたちが簡単にやられるとは信じがたい。
さらに山道を登り、また崖を這い上がる。
幾度繰り返しただろうか、そろそろ中腹の古い噴火口に着くはずだ。
ふもとから見た感じでは窪んで平らになっているので少しは休めるかもしれない。
最後の岩を越えたときに目に入ってきたものは、噴火口を埋め尽くす無数のサラマンダーだった。
数百……いや、もっと多いかもしれない。
数えきれないほどの光る眼がこちらを見ていた。
「ったく、めんどうくせえ!いちいち相手してられっか!!」
キレ気味のイーライが力強くこぶしを突きあげる。
「火炎波紋!!」
地面から火柱が次々と上がると、炎は波紋のように広がり、数百匹のサラマンダーを一瞬で焼き尽くした。
コーラルはあっけにとられた。
魔法の授業は属性ごとの個別授業なので、イーライの本気の魔法を見るのは初めてだった。
「あーあ、そこまでやることないのに」
ルッカは焼け焦げて炭と化したサラマンダーをつま先でつついている。
「かわいそうだろ」
イーライの魔法の波動を敏感に感じ取ったのか、これ以降サラマンダーはぴたりと現れなくなった。
ここから先、山頂まではなだらかな道が続く。
少しは楽に進めそうだ。
左右を切り立った崖に挟まれた窪地に差し掛かった時、あたり一帯に漂う腐臭を感じた。
(なんだろう、このにおい)
耳を澄ますとシューシューと生き物の呼吸する音が聞こえる。
何かいる。
突如、斜め後ろの巨大な岩が飛び上がり、コーラルの上に落下してきた。
(潰される!)
思わず頭を覆い、しゃがみ込む。
「氷結の盾!」
コーラルを覆うように現れた氷の盾が、岩石を跳ね飛ばした。
「大丈夫?」
「うん、平気」
あれは岩石なんかじゃない。
瀝青でコーティングしたかのような黒くゴツゴツした表皮。
血のように赤い眼が爛々と光り、大きな口からは鋭い牙がのぞく。
おそらく、あれは、ファイヤードラゴン。
サラマンダーが百回脱皮を繰り返すと成るとも言われる幻の魔物だ。
まさかこんなところに生息しているなんて。
ファイヤードラゴンは起き上がると、こちらに向かってグォォォォッ!!!と吠えた。
口から飛び散った腐食性の体液が数滴、コーラルのショルダーバッグにかかり、ブスブスと音を立てながら革を溶かした。
宝さがしに来た人々を襲い、喰らったのはこいつなのだろう。
イーライは口の端を上げてニヤッと笑った。
「ルッカ、そろそろ本気だすぞ」
「了解」
「コーラル、動くなよ」
イーライがコーラルの前に立ち、ルッカは一歩前に進み出る。
いきり立つファイヤードラゴンが牙をむき出して突進してきた。
ルッカはさっと身をかわす。
「氷結短剣!」
すれ違いざま、ファイヤードラゴンののど元を氷の短剣が切り裂いた。
ぱっくりと開いた傷口から青い血がほとばしる。
のたうちまわりながらも、牙をむき、大きな口でルッカを嚙みくだこうと向かってくる。
「火炎砲撃!!!」
火球がファイヤードラゴンの頭部を吹っ飛ばした。
「油断すんな!」
「していませんって」
崖の上や洞窟から一匹、また一匹とファイヤードラゴンが姿を現した。
「先手必勝!いくよ!銀雪乱舞」
ルッカが呪文を唱える。
スノードームの雪のように、大量の氷の粒が舞い降り、ファイヤードラゴンにまとわりつき、四肢を凍らせ、体躯の自由を奪う。
「氷結の矢」
狙いを定め一匹ずつ正確に氷の矢で眉間を射貫き、次々と倒していった。
「ちっ、おいしいところ持っていきやがって」
不満げな兄に対して、
「ごめん、ごめん」
妹は手をひらひら振りながら、少しも悪びれていない口調で謝る。
「だって、まだ終わりじゃないし」
「ああ、真打が残っているな」
前方の一番大きな洞窟から地響きのような唸り声が聞こえてくる。
さらにふたまわりは大きいファイヤードラゴンが姿を現した。
この群れのボスなのだろう、怒りに燃える眼が溶岩のように赤くたぎっている。
轟く咆哮とともに吹き出された強く激しい炎が3人を襲った。
「危ない!氷結の壁!!」
氷の壁で炎を遮る。
「くっ……!!!」
しかし炎の勢いは強く、ルッカも押され気味だ。
「炎VS炎か、面白いな!!」
受けて立つと言わんばかりに、イーライがボスドラゴンの前に仁王立ちになった。
「いくぜ、灼熱息吹!!」
放たれた炎は真正面からぶつかると、ファイヤードラゴンの吐く炎を押し戻した。
イーライが畳みかける。
「よしっ、紅蓮の焔!!!」
紅蓮の炎は双頭の火蛇に姿を変え、鎌首を持ち上げた。
そして地面をまっすぐに駆けると、ファイヤードラゴンに絡みつき全身をきつく締め上げた。
身をよじり、呪縛から逃れようともがくが、ますます縛められてゆく。
やがて、鋼の体が焦げ始めた。
炎から生まれしドラゴンすら焼き尽くす業火。
ギャウウウウ!!と断末魔の叫びをあげる。
「これで終わりだ!!煉獄の鉄拳!!!!」
全体重を乗せた拳が撃ち込まれると、ファイヤードラゴンは前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
(なんてすごい……)
これが魔法学校創立以来の天才と言われた兄妹の実力なのか。
あまりに衝撃的な光景に、しゃがみこんだまま立てなくなったコーラルにイーライが手を差し出す。
「ほら、いくぞ」
飛空ボートは登山するにはパワーが足りないので、ここに置いていく。
水や食料はバッグに詰め替え、それぞれ背負った。
ゴロゴロとした石だらけの山道をひたすら歩き、時には反り返るような岩崖をいくつもよじ登る。
もっとも運動神経抜群のイーライとルッカには少しも苦ではないようだ。
もしコーラルに翼がなかったら、この二人についていくのは無理だったろう。
「えいっ!」
岩陰から飛び出してきたサラマンダーを古木の杖で殴りつける。
サラマンダーはずりずりと後退すると素早く逃げていった。
「その杖ってそういう使い方するものなの?」
ルッカがからかう。
「もう、言わないでよ」
今朝、もう一度風使いの杖を試したが、やはり満足な結果は得られなかった。
そもそも風の魔法はサラマンダーの鋼鉄のように堅い皮膚とは相性が悪い。
この先に何がおこるかわからない状況を踏まえると、効果の薄い魔法を無駄打ちするよりは、魔力を温存するほうが得策だと思われる。
そう言っている間に後方からまた一匹飛びかかってきた。
イーライが腹めがけて掌底を打ちこむと、サラマンダーは衝撃で気絶した。
ひっくり返ったサラマンダーのしっぽをつかみ、ぐるぐる勢いよく振り回すと、そのまま遠くへ放り投げる。
「しかし、手ごたえのないやつらだな」
イーライはなぜか不満げだ。
「窃盗団やトレジャーハンターがこんな雑魚に喰われるか?」
ルッカも同じ気持ちのようだ。
数が多くてうっとうしいけど、一匹一匹はたいしたことない。
海千山千のお宝ハンターたちが簡単にやられるとは信じがたい。
さらに山道を登り、また崖を這い上がる。
幾度繰り返しただろうか、そろそろ中腹の古い噴火口に着くはずだ。
ふもとから見た感じでは窪んで平らになっているので少しは休めるかもしれない。
最後の岩を越えたときに目に入ってきたものは、噴火口を埋め尽くす無数のサラマンダーだった。
数百……いや、もっと多いかもしれない。
数えきれないほどの光る眼がこちらを見ていた。
「ったく、めんどうくせえ!いちいち相手してられっか!!」
キレ気味のイーライが力強くこぶしを突きあげる。
「火炎波紋!!」
地面から火柱が次々と上がると、炎は波紋のように広がり、数百匹のサラマンダーを一瞬で焼き尽くした。
コーラルはあっけにとられた。
魔法の授業は属性ごとの個別授業なので、イーライの本気の魔法を見るのは初めてだった。
「あーあ、そこまでやることないのに」
ルッカは焼け焦げて炭と化したサラマンダーをつま先でつついている。
「かわいそうだろ」
イーライの魔法の波動を敏感に感じ取ったのか、これ以降サラマンダーはぴたりと現れなくなった。
ここから先、山頂まではなだらかな道が続く。
少しは楽に進めそうだ。
左右を切り立った崖に挟まれた窪地に差し掛かった時、あたり一帯に漂う腐臭を感じた。
(なんだろう、このにおい)
耳を澄ますとシューシューと生き物の呼吸する音が聞こえる。
何かいる。
突如、斜め後ろの巨大な岩が飛び上がり、コーラルの上に落下してきた。
(潰される!)
思わず頭を覆い、しゃがみ込む。
「氷結の盾!」
コーラルを覆うように現れた氷の盾が、岩石を跳ね飛ばした。
「大丈夫?」
「うん、平気」
あれは岩石なんかじゃない。
瀝青でコーティングしたかのような黒くゴツゴツした表皮。
血のように赤い眼が爛々と光り、大きな口からは鋭い牙がのぞく。
おそらく、あれは、ファイヤードラゴン。
サラマンダーが百回脱皮を繰り返すと成るとも言われる幻の魔物だ。
まさかこんなところに生息しているなんて。
ファイヤードラゴンは起き上がると、こちらに向かってグォォォォッ!!!と吠えた。
口から飛び散った腐食性の体液が数滴、コーラルのショルダーバッグにかかり、ブスブスと音を立てながら革を溶かした。
宝さがしに来た人々を襲い、喰らったのはこいつなのだろう。
イーライは口の端を上げてニヤッと笑った。
「ルッカ、そろそろ本気だすぞ」
「了解」
「コーラル、動くなよ」
イーライがコーラルの前に立ち、ルッカは一歩前に進み出る。
いきり立つファイヤードラゴンが牙をむき出して突進してきた。
ルッカはさっと身をかわす。
「氷結短剣!」
すれ違いざま、ファイヤードラゴンののど元を氷の短剣が切り裂いた。
ぱっくりと開いた傷口から青い血がほとばしる。
のたうちまわりながらも、牙をむき、大きな口でルッカを嚙みくだこうと向かってくる。
「火炎砲撃!!!」
火球がファイヤードラゴンの頭部を吹っ飛ばした。
「油断すんな!」
「していませんって」
崖の上や洞窟から一匹、また一匹とファイヤードラゴンが姿を現した。
「先手必勝!いくよ!銀雪乱舞」
ルッカが呪文を唱える。
スノードームの雪のように、大量の氷の粒が舞い降り、ファイヤードラゴンにまとわりつき、四肢を凍らせ、体躯の自由を奪う。
「氷結の矢」
狙いを定め一匹ずつ正確に氷の矢で眉間を射貫き、次々と倒していった。
「ちっ、おいしいところ持っていきやがって」
不満げな兄に対して、
「ごめん、ごめん」
妹は手をひらひら振りながら、少しも悪びれていない口調で謝る。
「だって、まだ終わりじゃないし」
「ああ、真打が残っているな」
前方の一番大きな洞窟から地響きのような唸り声が聞こえてくる。
さらにふたまわりは大きいファイヤードラゴンが姿を現した。
この群れのボスなのだろう、怒りに燃える眼が溶岩のように赤くたぎっている。
轟く咆哮とともに吹き出された強く激しい炎が3人を襲った。
「危ない!氷結の壁!!」
氷の壁で炎を遮る。
「くっ……!!!」
しかし炎の勢いは強く、ルッカも押され気味だ。
「炎VS炎か、面白いな!!」
受けて立つと言わんばかりに、イーライがボスドラゴンの前に仁王立ちになった。
「いくぜ、灼熱息吹!!」
放たれた炎は真正面からぶつかると、ファイヤードラゴンの吐く炎を押し戻した。
イーライが畳みかける。
「よしっ、紅蓮の焔!!!」
紅蓮の炎は双頭の火蛇に姿を変え、鎌首を持ち上げた。
そして地面をまっすぐに駆けると、ファイヤードラゴンに絡みつき全身をきつく締め上げた。
身をよじり、呪縛から逃れようともがくが、ますます縛められてゆく。
やがて、鋼の体が焦げ始めた。
炎から生まれしドラゴンすら焼き尽くす業火。
ギャウウウウ!!と断末魔の叫びをあげる。
「これで終わりだ!!煉獄の鉄拳!!!!」
全体重を乗せた拳が撃ち込まれると、ファイヤードラゴンは前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。
(なんてすごい……)
これが魔法学校創立以来の天才と言われた兄妹の実力なのか。
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