騎士様に愛されたい聖女は砂漠を行く ~わがまま王子の求婚はお断り!推しを求めてどこまでも~

きのと

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第31話 ちょっとの油断は何倍にもなって跳ね返ってくる

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いよいよ国境を越えた。

さらさらと流れる砂の海は終わり、ゴツゴツとした岩が増えてきた。
まだ、大地が若く、活発に活動していたはるか昔、ここら一帯には噴火したさいの火山弾が大量に落下した。
赤茶色の岩峰郡がいくつも並び、高い壁に挟まれた通路のようになっている。
古代では、こういった場所は人間のいい隠れ家になっていて、たくさんの暮らしがあった。
岩には数千年前に描かれた動物や人間の絵がいくつも残っている。
私たちは天然の迷路を迷わぬように進んでいく。


そこを抜けると、いよいよトライフ山脈だ。
一気に景色が変わる。
灰色の岩と石と、緑の世界。
山頂は西の大陸で唯一雪が降る。大量の雪解け水が岩にしみ込み、草木を育んでいるのだ。

ゴロゴロとした岩で覆われた山肌は、遠目からは魚のうろこのように見える。
赤ん坊の頭くらいの大きさの石を踏みしめながら、道なき道を一歩ずつ慎重に登っていく。
特に斜面の横断は丁寧に進む。踏み外したら、何十メートルも滑落しかねない。

山の中腹まで登ると、勾配が急に緩やかになった。
この辺りには、山岳民族の村がいくつか点在している。
わずかな土地を耕し、ヒツジやヤギなどの家畜を育てて自給自足の生活を送っているが、経済的にはとても貧しい。
しかし、国を持たない彼らは支配されない代わりに、どんなに困窮しようが支援の手が差し伸べられることはないのだ。

王子は文句も言わずに黙々とついてきているが、さすがにキツそうだ。
完全に暗くなる前に休める場所を探した。
標高が高くなるにつれ気温も下がる。しっかり暖をとれるよう薪も多めに集めなくては。

その時、武装した集団に取り囲まれた。
刀身の湾曲した短剣を振り回して襲ってくる。
私もサリッドも剣を抜いて応戦した。
ただ、場所が狭く、木の枝などの障害物も多いので、長い剣では思い切り攻撃することができない。
敵は動きが明らかに素人で、一人一人は雑魚だが、とにかく数が多い。
一瞬のスキを突かれて、王子が武装集団に捕まってしまった。
後ろから羽交い締めされ、短剣の刃をのど元に当てている。

「てめえら! こいつを殺されたくなければ剣を捨てろ」

私とサリッドは従うしかなかった。
男たちは王子を無理やり馬に乗せると、走り去っていった。

どうしよう、王子が誘拐されてしまった。
逃げ遅れた下っぱらしき雑魚をとっ捕まえて胸倉をつかみ上げる。

「奴らはどこに行ったの!! 王子をどうするつもり? 言いなさい!!!」

こちらの怒りにビビったのか、雑魚はぺらぺら喋りだした。

数年前から洞窟に住みついたヌシに捧げる生贄にするのだという。
人をひとり喰らえば消化のために数ヶ月はじっとしているから、その間は村の安全が守られる。
だいたいは、村人の中から病気で働けなくなった者や年寄りを差し出しているが、時には旅人を捕まえて献上している。

雑魚を逃がさないようにロープで手首を縛り上げると、その洞窟まで案内させた。
垂直に切り立った崖には大小いくつもの穴があり、裂け目からは地下水が湧き、小さな山上湖を作っている。


物陰に身を潜めていると、数人の男たちが大きな檻を担いでやってきた。
中には王子が詰め込まれていた。
男たちは檻を置くと、全速力で引き返していった。

生贄というよりは、生餌かしら。

バカ王子には、国にいたころは姉妹揃って迷惑かけられたし、現在進行形でサリッドとの二人旅を邪魔されているし、顔を見るとムカつくことも多いが、さすがに魔獣に喰われては欲しくない。

「ハリソン殿下! 今、行きます!」
「サリッド、レイシー、助けてくれ!」
「すぐに出してあげるから待ってて!」

檻を思い切り蹴り飛ばす。木製の粗末な作りだったので、簡単に壊すことができた。

「痛いじゃないか! もうちょっと優しく壊せないのか!」
「贅沢言わないの」
「殿下、こちらへ! お急ぎください」

サリッドが王子をガードしながら、全力疾走でそこから離れ、岩陰に身を隠す。

ずるずると何かを引きずるような音とともに、一番大きな穴から四つ足の平べったい魔獣がはい出してきた。
ねっとりとした土色の皮膚、水かきのついた脚、小さな黒目、何もかも飲み込むような大きく開いた口。
アースリザードだ。
普通は川の周辺に生息しており、魚を主食としている。体長はせいぜい1メートル程度。
パワーはあるが愚鈍で、人が襲われることはまずない。

目の前にいるのは10メートルはあるだろうか、大木のようにまるまると太っている。
テカい、とにかくデカい。
この辺りはカタバーン大渓谷と近く瘴気が濃くなっている。その影響で魔獣が巨大化かつ凶暴化しているのかもしれない。

フシューフシューと鼻息も荒く、壊れた檻に近づき、においを嗅いでいる。
前肢で檻を粉々に踏み潰すと、ドスンドスンと足音を立てながら周辺を歩き始めた。
たしかに巨体だから迫力はある。あれを野放しにしておいたら、またどこかの旅人が誘拐されかねない。

「王子はここを離れないで」

私は飛び出した。
思い切り助走をつけて跳ね上がると、レイピアを振り下ろし、後方からアースリザードの腹部の皮膚を切り裂く。
裂け目からどろりとした体液と血液の混ざったものが流れ出した。
動きが止まった。
続くサリッドが、頭部を狙い、剣を突き立てる。正確に眉間を貫き、魔獣は絶命した。

牙も毒も持ち合わせていない、もともと脆弱な種族が濃厚な瘴気を浴びてたまたまバカでかくなっただけだ。
あの連中だって力を合わせたら簡単に倒せただろうに、見た目だけでビビッて生贄を捧げていたなんて馬鹿げている。


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