騎士様に愛されたい聖女は砂漠を行く ~わがまま王子の求婚はお断り!推しを求めてどこまでも~

きのと

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第37話 ふたつのプロポーズ

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潮風にコルトレーン王国の国旗がはためく。漆黒の船体の王族専用の船が港に停泊していた。
ハリソン王子が国に戻ることになり、私とサリッドはラタキア港に見送りに来ている。

「見送りが私たちだけなの?」
「ああ。ディルイーヤの使者たちも来てくれるといったが断わった」
「どうして? そんなの寂しいじゃない」
「いや。余にはそなたたちがいてくれたら十分だ。サリッド、そなたにも世話になった。心から礼を言う」
「畏れ入ります、殿下」

海鳥たちがクークーと鳴いている。

「人民のために生きるということが少しわかった気がする。旅で学んだことはかならず国政に活かしてみせる」
「今の王子なら、きっとできるわよ」
「そなたの期待に沿えるかはわからないが、やれることは全てやってみるつもりだ」

晴れやかで迷いのない瞳。うん、ちょっとはマシな顔つきになったかな。

「レイシー、ひとつ頼みがある」

王子が手招きする。

「何よ?」

近づくと、ハリソン王子は私の手を取った。

「レイシー・ボールドウィン、余と結婚して欲しい」
「はっ?」
「余のわがままで言っているのではない。国家の将来を考えたからこその判断だ。そなたは王妃の器だ。人民のために王族として祖国を導かないか。
コルトレーン王国をより発展させ、すべての人民が幸せに暮らせる、そんな国にするためにそなたの力を貸して欲しい。一緒に帰ろう」
「えっと……」

あまりに意外な申し出に私は言葉を失ってしまった。

「それとも、レイシー、そなたにはコルトレーンの民に尽くす以上に、この西の大陸に残る意味があるというのか」

私には、ある。

でも……。
振り向いて、何も言わずにサリッドを見た。
あなたには?
私が留まる意味はある?

「レイシー、行かないでくれ。旅が終わっても、この先ずっと一緒にいてほしい」

サリッドは力強くそういった。

「王子、ごめん。私、帰れない」
「ああ、わかっている」

王子は笑いながら私の手を離した。

「サリッドと喧嘩したらいつでも知らせてくれ。すぐに迎えの船を向かわせるからな」

手を振ると、船に乗り込んでいった。

「ありがとう! 元気でね!」

消えていく背中に声をかけた。




「サリッド!」

彼に向って、私は手を伸ばす。
サリッドは私を抱きとめると、これまでにないくらい強く抱きしめてきた。

「ね、ねえ、サリッド? 苦しいってば」

ようやく腕を緩めてくれた。

「どうしたの?」
「君を引き留めてしまってよかったのか、自信が持てないんだ。君を帰したくないっていうのは俺の身勝手なんじゃないかって」

彼は私にコルトレーンそこくを捨てさせてしまうことに心を痛めている。
今は比較的平和だが、もし世界情勢が不安定になり、どこかの国が戦争でも始めたら、私は二度と中央大陸に戻れなくなることも十分に考えられるからだ。

「サリッド、私はコルトレーンでもディルイーヤでもどちらでもいい。あなたがいる国で暮したいのよ」
「レイシー……」
「今更言うまでもないけど、私はあなたが大好きなの。好きで好きでたまらないの。あなたの隣こそが、私のいるべき場所なの」

サリッドは私の髪をなでる。頬に触れ、唇をなぞる。

「アシール砂漠で初めて君を見たとき、本当に天上から女神が降りてきたのかと思った」
「え?」
「一目ぼれって本当にあるんだって思った。あの瞬間からずっと君に夢中なんだ」
「サリッド、本当に?」
「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだけど」

私は自分でも気づかないうちに涙を流していたらしい。
やだな、サリッドのことになるとすぐに涙がでてしまう。

「レイシー、俺と結婚してくれる? 君を一生、大事にすると約束する」
「ええ。私は一生、あなたを愛し続けるわ。絶対に離れないから」

ああ、愛してるって気持ちを言葉にできるって、こんなにも満たされるんだ。

「君が生まれ育った国もいつか行ってみたいな」
「そうね、あなたに見て欲しいわ。王族はあんなのだけど、それ以外はとてもいいところよ。」


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